テーマ : 防災対策

富士山火山基本計画で対策追加 教育、福祉の現場に戸惑い 「逃げ遅れゼロ」へ入所者輸送、避難先確保

 静岡、山梨、神奈川の3県などでつくる富士山火山防災対策協議会が29日に示した富士山火山避難基本計画は「逃げ遅れゼロ」を目指すため、対象エリア内の高齢者施設や病院、学校での避難対策が追加された。入所者の輸送手段や避難先確保、休校措置、引き渡しなどの検討が求められる。「人員確保が課題」「学校の事情に応じた助言を」-。山麓の福祉施設や学校からは戸惑いと地元自治体に支援を求める声が目立った。

富士山火山避難基本計画の策定を受け、校内の防災計画書を見直す教諭=富士宮市の大宮小
富士山火山避難基本計画の策定を受け、校内の防災計画書を見直す教諭=富士宮市の大宮小
藤井敏嗣氏
藤井敏嗣氏
富士山火山避難基本計画の策定を受け、校内の防災計画書を見直す教諭=富士宮市の大宮小
藤井敏嗣氏

 溶岩流が3時間以内に到達する第3次避難対象エリアに市街地の大部分が含まれる富士宮市。避難確保計画の作成が見込まれる施設も多い。中心部に位置する市立大宮小の水村裕子校長は児童の引き渡しについて「溶岩流の到達時間によっては、最後まで保護者が到着するのを待つか、教職員が一緒に避難するか現場で判断しなければならないだろう」と見据える。不安を抱く保護者が多いことも予想され、「学校が詳しく説明できる知識を持たなければならない。市は計画の土台を早めに示し、各校の事情に応じたアドバイスをしてほしい」と求めた。
 同市北部地域の高齢者施設の男性施設長は「ネックなのは避難時の車両と人員確保」と強調する。検討はすでに始めているが、「避難には地域住民の力を借りたい。行政に音頭を取ってもらいたい」と注文した。
 市危機管理局の担当者は「対象施設の選定は県と基準をすり合わせ、施設が計画を作るためのベースを早期に示したい」とした。
 御殿場市や裾野市で社会福祉施設や児童福祉関連施設などを展開する社会福祉法人「富岳会」で4月から安全部顧問に就く東海養一さん(62)は「グループ内や行政との連携に加え、周辺の事業所との協力体制も必要になるのでは」と見る。
 御殿場市は2023年度内の避難促進施設の指定を目指す。「避難対象エリアの条件だけでなく関係者の避難に要する時間も考え、施設側と意見交換しながら決定する」とした。小山町の担当者も「入所などの利用形態も考慮する必要があるだろう」と述べた。

富士山火山広域避難計画検討委 藤井敏嗣委員長 避難、要支援者に配慮
 今回の避難計画は2021年3月に改定された富士山ハザードマップに対応して、これまでの「富士山火山広域避難計画」に必要な改定を行った。今後、各市町村が地域特性に応じた避難計画を策定するための指針となり、「富士山火山避難基本計画」という名称にした。
 ハザードマップ改定で被害がより早く、より遠くまで達する可能性があることが示されたことを受け、逃げ遅れゼロを目指すためにはどのような避難方法が適切かということを念頭に作業に当たった。命を守るための避難を最優先するが、避難によって地域社会が受けるダメージを少なくすることも目指し、噴火現象ごとの特性に応じた避難開始時期などを検討した。
 車による一斉避難は交通渋滞による避難困難を引き起こすことが明白で、現象に応じて避難方法の原則を考え直した。居住地域での溶岩流の流下速度は遅く、流下方向に対して垂直に移動すれば短距離避難でリスクを避けられる。このため噴火位置が確定した後で想定される流路から効率よく徒歩避難する方法を原則とした。車が欠かせない避難行動要支援者が道路という避難のための資源を有効に活用するためでもある。一方、火砕流や大きな噴石など、噴火が始まってからでは逃れられない現象は、該当領域から事前避難することにしている。
 夏には多くの登山者がいることから、リスクを避けるために火山解説情報(臨時)が出された段階で下山を指示し、観光客にも早期に帰宅を呼びかけることにした。これらの方策も、要支援者や住民の避難と重ならないようにするためである。
 ほかにも避難対策として、新たに学校の休校措置を設定するなどいくつか改定事項がある。詳しくは基本計画を見ていただきたい。住民の皆さんにはこの機会に、住んでいる場所や通学路や通勤路にどのようなリスクが考えられるのかを改めてハザードマップで確かめた上で、避難基本計画を学んでほしい。

いい茶0

防災対策の記事一覧

他の追っかけを読む
地域再生大賞