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空き家、倒壊で避難救助妨げに 能登地震で危険浮き彫り 静岡県内も増加

 建物被害が5万8千棟に上る能登半島地震では、一定数の空き家の倒壊が見られた。空き家は直接的な人的被害にはならない場合もあるが、倒壊で避難路がふさがれて逃げ遅れの原因になり得る。救出、救助の妨げや火災の延焼につながる懸念もある。静岡県内でも人口減少や高齢化で空き家は増加傾向にあり、防災の観点からの対策が急務の課題。ただ、所有者の問題意識の希薄さなどから、停滞しているのが現状だ。
2次災害を防ぐために建物の応急危険度判定を行う県職員=1月中旬、石川県穴水町(写真部・小糸恵介)
 震度6強を観測した石川県穴水町。1月中旬、静岡県の応援職員が応急危険度判定を行った。同町で危険と判断された建物は全体の約4割。県建築安全推進課の担当者は「壊れたり、朽ちたりして管理不全の空き家とみられる建物が散見していた」と振り返る。
 「危険」判定された建物が58%に上った珠洲市では、2018年時点の空き家率は20・7%。市は実態調査で1229戸の空き家のうち、約3割が適切に管理されていないと確認した。23年5月の地震後、市は倒壊の危険がある空き家の所有者に公費解体の案内を出したが、「放置されたままの空き家もある」(同市)。地震で倒壊した空き家は精査中だが、一定数は被害を受けたとみている。
静岡県内の空き家数と空き家率の推移
 静岡県内の空き家率は18年時点で16・4%。03年から約3ポイント上昇した。空き家には賃貸や別荘も含まれ、全てが危険な訳ではない。だが、特に対策が必要とされる特定空き家を含む「その他の住宅」は、15年間で約4万9千戸から約8万8千戸に増加している。
 空き家率が35・7%の伊豆市は19年度の実態調査で、問題がある空き家が357戸判明した。下田市は15~16年度の調査で、1437戸の空き家を確認。うち6割弱が1981年より前に建てられていた。市の担当者はアンケート結果などを踏まえ、「空き家対策の必要性について所有者の理解度が高いとは言えない」と指摘する。
 国は昨年12月、空き家対策特別措置法を改正。管理不全の空き家所有者に対し、固定資産税の減免解除が可能になった。ただ、伊豆市の担当者は「相続されていない空き家はそもそも課税の対象外」とし、効果は限定的と見る。下田市は24~25年度に市内の空き家を再調査する方針で、担当者は「法改正により、対策に関する所有者の努力義務が条文に明記された。管理責任があることをしっかりと周知したい」と話す。
 (社会部・中川琳)
除却に公費 議論を
 福和伸夫・名古屋大名誉教授(建築耐震工学)の話 空き家は倒壊した場合に直接、人命への影響がないことから耐震化率の算定に含まれておらず、耐震化の実態が分からなくなっている。耐震化率を公表する際は空き家率を併記したり、空き家を含んだ耐震化率を参考値として発表したりすべきだ。管理を放置している所有者に対しては固定資産税の減免解除にとどまらず、罰則を設ける必要がある。老朽化した空き家は、防災だけでなく防犯上も課題だ。まちづくりの視点で、使える空き家は補強して活用する一方、除却が必要な場合には公費を使ってでも対応しなければならない。抜本的な対策へ国民的な議論が欠かせない。

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