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【提言・減災】研究進む地震の仕組み 加藤尚之/東京大地震研究所教授

 9月1日で大正関東地震(関東大震災)から100年が経過する。大正関東地震は、南海トラフ巨大地震と同じように日本列島の下に沈み込むフィリピン海プレートの境界面で発生したと考えられている。南海トラフ沿いでは、1944年の東南海地震や46年の南海地震からは約80年がたっている。政府の地震調査研究推進本部によると、今後30年間にマグニチュード(M)8クラスの巨大地震が発生する確率は70~80%。一方、大正関東地震が発生した相模トラフ沿いでは、だいぶ低いとの評価だ。

加藤尚之 東京大地震研究所教授
加藤尚之 東京大地震研究所教授

 同じプレートの沈み込みによって発生する現象にもかかわらず、なぜ発生確率の評価が違ってくるのか。フィリピン海プレートが日本列島の下に沈み込む速さ(プレートの運動速度)が場所によって違うことが要因の一つだ。運動速度は相模トラフ沿いで年間約3センチに対して、南海トラフ沿いは年間約6センチと倍になる。巨大地震が発生するときの断層のすべり量を6メートルだとすると、すべるまでにかかる時間は計算上、相模トラフ沿いは200年、南海トラフ沿いは100年と推定される。南海トラフ沿いでは巨大地震がより切迫していることが分かる。
 断層のすべり量やプレートの運動速度から次の地震について考察できるようになったのは、50年ほど前から。地球を覆うプレートの運動によって地震や火山が起きる「プレートテクトニクス」の理論や地震の断層モデルの研究が進展したためだ。
 地震発生のメカニズムの研究も進んでいる。普段、断層面は摩擦でくっついて止まっているが、断層にかかる力が摩擦に打ち勝つと断層が破壊されて地震が発生する。摩擦の研究に基づいて巨大地震がどのように繰り返されているか、地震の規模はどうなるか、なども分かってきた。ただ、巨大地震は繰り返すといっても毎回同じではなく、過去の地震のデータが十分にあるわけではない。地震の予測には、ある程度の不確実さが含まれていることを理解して備えることが重要だ。

 かとう・なおゆき 東北大助手、産業技術総合研究所主任研究員などを経て現職。気象庁「南海トラフ沿いの地震に関する評価検討会」の委員を務める。岩石の破壊や摩擦の理解に基づき、地震発生のメカニズムを研究している。60歳。

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