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【提言・減災】新種の地震現象の発見 小原一成/東京大地震研究所教授

 現在、某テレビ局の連続ドラマでは日本の植物学の父と言われている植物学者の人生を描いている。その中で筆者が特に面白いと思うのは、新種の植物を発見する過程である。野山を駆け回ってあらゆる植物を観察し、これはと思ったら持ち帰って慎重に標本にする。既往の文献と丹念に比較検討して、新種かどうかを見極める。それが新種であることが分かった時の喜びはとても共感できる。新種の植物の発見は、地震学の世界では新しい地震波や地震現象の発見に相当するであろう。

小原一成氏
小原一成氏

 地震波には、最初に到達する縦波(P波)と2番目に来る振幅の大きな横波(S波)があることは学校で教わったかもしれない。しかし、実際に地震波を観測すると他の波の存在に気づくことがある。また、P波やS波の現れ方や波形全体の特徴は地震によってさまざまで、それぞれ個性的である。
 今から23年前、筆者は茨城県つくば市の研究所で日本全国数百カ所の観測点の波形を毎日眺めていた。ふと、見慣れない不思議な波形に目が留まった。普通の地震よりも揺れ方がゆっくりで、P波もS波もよく分からず、振幅が弱いのに継続時間が異常に長い。地震というよりは微動と呼ぶにふさわしかった。車両などの人為的なノイズにも似ていたが、ノイズと違って近隣の観測点にもその振動が届いていた。P波やS波による通常の震源決定手法が使えないため、新たな手法を開発して震源を決めたところ、南海トラフ巨大地震想定震源域の北限に沿って帯状に分布することが分かったのである。
 この新たに発見された地震現象は「深部低周波微動」と呼ばれる。発見当初は微動が隣接する巨大地震の前触れではないかと内心ビクビクしていた。のちに微動は、プレート同士がゆっくりずれるスロースリップ(ゆっくり滑り)と共に周期的に起きる定常的な現象であることが分かった。今後は深部低周波微動を含むスロー地震全体の活動様式をより正確に把握し、スロー地震と巨大地震との関連性を解き明かす必要がある。

 おばら・かずしげ 防災科学技術研究所を経て、2010年5月より東京大地震研究所教授。20年6月より日本地震学会会長。気象庁「南海トラフ沿いの地震に関する評価検討会」の委員を務める。専門は観測地震学。世界で初めて深部低周波微動を発見した。63歳。

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