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【提言・減災】地形に見る地震の痕跡 古村孝志/東京大地震研究所所長・教授

 2024年1月1日に能登半島北部で起きたマグニチュード(M)7・6の地震では、およそ150キロにわたって断層がずれ動き、輪島や珠洲で最大4メートル地面が隆起した。海底が露出した港は船が着岸できず、漁港の機能が失われる事態となった。地震直後に輪島や珠洲の津波計が振り切れ計測できなくなったのも、海岸線が隆起して検潮所が干上がってしまったためだ。

古村孝志氏
古村孝志氏

 能登半島には、過去に繰り返し起きた大地震による隆起でできたと考えられる海岸段丘が少なくとも3段確認できる。そして、今回の地震で新たに4段目が形成されたことになる。
 地震による断層のずれ動きは、M7級の地震では2メートル程度だが、M8級では6メートル、M9級では20メートルにもなる。断層の向きや傾斜により大小するが、断層の近くでは、これに相当する隆起・沈降が発生し、これが海底下であれば津波が起きる。陸地に近い場所で起きた能登半島地震では、強い揺れ、地面の隆起・沈降、そして津波がほぼ同時に起きたと考えられる。
 同じ問題は、駿河湾から静岡県の内陸部を震源域とする東海地震、あるいは南海トラフ地震でも起きる。1854年の安政東海地震では、御前崎は1メートル隆起し、相良港や清水港が使えなくなった。浜名湖の北側は沈降し、田畑が湖に沈んだ。富士川の河口付近では流路が変わり、蒲原は農地が増えたが、川の東岸では水害が多発するようになった。東海道の難所であった薩タ(さった)峠の麓の海岸は陸地となり、現在は国道1号、東名高速道、東海道本線が通る交通の要所となっている。
 大地震の影響は土地の歴史として残り、人々の生活を変えてきた。地形に刻まれた地震の痕跡は、繰り返す大地震を振り返り、日頃の備えを考える機会となろう。

 ふるむら・たかし 北海道教育大助教授などを経て、2008年4月より東京大地震研究所教授。23年4月に所長就任。専門は地震学。観測データ解析とコンピューターシミュレーションから大地震の強い揺れと津波の成因を研究。60歳。

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