テーマ : 防災対策

「どう避難」支店ごとに 静岡県内金融機関が災害対策 立地に応じ対応整理

 大規模地震や風水害に備え、県内金融機関で支店ごとの災害リスクを踏まえた避難マニュアルを作成する動きが広がりつつある。初動対応をまとめた既存のマニュアルとは別に、立地ごとに避難場所や避難方法、必要な備蓄などを具体的に整理。最大の災害リスクを認識することで、災害を「自分ごと」として捉えてもらい、従業員の防災意識向上や安全な避難につなげる。

津波からの避難を考える長坂典秋支店長(右)ら=2月上旬、静岡市清水区の静岡銀行蒲原支店
津波からの避難を考える長坂典秋支店長(右)ら=2月上旬、静岡市清水区の静岡銀行蒲原支店
企業防災の重要性を訴える活動を続ける田村孝行さん(左)と妻弘美さん=2月中旬、宮城県女川町
企業防災の重要性を訴える活動を続ける田村孝行さん(左)と妻弘美さん=2月中旬、宮城県女川町
津波からの避難を考える長坂典秋支店長(右)ら=2月上旬、静岡市清水区の静岡銀行蒲原支店
企業防災の重要性を訴える活動を続ける田村孝行さん(左)と妻弘美さん=2月中旬、宮城県女川町

 「1次避難先は支店の屋上か、徒歩5分の指定避難所か」。2月上旬、静岡市清水区の静岡銀行蒲原支店で長坂典秋支店長と同支店マネジャーの計4人が集まり、ハザードマップを広げながら津波避難について話し合った。高さや到達時間に加え、避難を開始するタイミング、安全な退避場所、ルートなどをまとめた。
 同行は災害時の行動基準を定めた非常事態対策要綱がすでにある。今回は「従業員とお客さまを守る命のマニュアル」と題し、180の支店や拠点がそれぞれ作成した。総務グループの八鍬晴康グループ長は「支店ごとに危険が違う。危機意識を高めるには、行員が手を動かして考え、共有することが大事」と狙いを語る。
 浜松いわた信用金庫は2014年、地震防災応急計画を改定し、津波被害の恐れがある8店舗は個別の対応を取る旨を記載した。想定される被害状況に合わせ、高台などへの避難訓練や、救命胴衣、パンクしない自転車の整備などを進めている。「南海トラフ地震臨時情報」への対応も追加。新居支店では「巨大地震警戒」などの情報が出た場合、キャッシュコーナーを閉鎖するとしている。
 静岡県の従業員50人以上の企業の事業継続計画(BCP)策定率は64・5%。49人以下では3割にとどまり、本県全体では企業の災害対策は十分とはいえない。日本弁護士連合会災害復興支援委員会副委員長の永野海弁護士は「地域と密接にかかわる企業の備えは地域全体の備えにもつながる」と強調する。「まずは最大のリスクに絞って具体的でシンプルな行動原則を決め、訓練を徹底してほしい」と呼びかける。
 
 企業防災の波及期待 宮城・七十七銀 犠牲行員遺族
 東日本大震災による津波で長男健太さん=当時(25)=を亡くし、企業防災をテーマに全国で講演会活動を続ける田村孝行さん(62)と妻弘美さん(60)は、静岡県内での企業の取り組みについて、「命を最優先に守る組織づくりが他の企業にも波及してほしい」と期待を寄せた。
 健太さんが当時勤務していた宮城県女川町の七十七銀行は徒歩3分の距離に高台があったが、そこに迅速に避難する態勢にはなっていなかった。地震発生時に外出していた支店長が戻って高さ10メートルの支店屋上に避難するよう指示を出し、13人が屋上にとどまった。津波は支店をのみ込み、12人が犠牲、8人が行方不明となっている。
 田村さんは訓練や避難の徹底、的確な判断ができる態勢などを挙げ、「人命が守られてこそ、事業が再開できる」と訴えた。

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