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自然壊し大災害「人災」 吉田明夫/静岡大防災総合センター客員教授【提言・減災】

 今年の夏、友人から届く便りのほとんどは、暑いですねという言葉から始まっていました。暑かったのは日本だけでなく、国連の世界気象機関によれば、今年6月~8月の世界の平均気温は観測史上最高を記録したそうです。今夏の日本の暑さの要因として赤道域の海洋やその上空の大気の状態との関わりが気象庁によって推定されていますが、気がかりなのは、60年に1度といわれる今夏のようなまれな高温は地球が温暖化していなければ生じなかったと、気候モデルの専門家が指摘していることです。

吉田明夫氏
吉田明夫氏

 地球温暖化が進むと、猛暑や豪雨に見舞われる回数が増える一方で、乾燥地帯では大干ばつや山火事が頻発するというシミュレーション結果も報告されています。一般に、猛暑、豪雨、干ばつなどは自然災害とみなされます。しかし、もし、それらを引き起こしている原因が人間の活動だったとしたら、それは自然災害でなく人災というべきではないでしょうか。
 地震については、さすがに地球温暖化との関わりが言われることはありません。しかし、古来、繁栄していた都市が地震によって壊滅的な被害に遭ったとき、人間のおごりを戒めるために神罰が下ったという風説がしばしばちまたで語られます。筆者はそうした見方にくみしませんが、ただ「人間は文明が進んでいろいろな造営物を作って自然の暴威を封じ込めたつもりになっていると、自然がいったん暴れ出した時、その被害は激烈の度合いを増す」という寺田寅彦の言葉を、特に福島原発事故の後、噛[か]みしめています。人間の営為が地震の被害を甚大なものにするとしたら、震災にも人災の意味合いが含まれると言って過言ではないでしょう。
 これまで人類は自然環境を改変し、生物多様性を壊してまでも、経済発展を目指してきました。その営為が人類の存続にも関わる取り返しのつかない大災害を引き起こす恐れのあることがはっきりしてきた今、宮沢賢治が「本当の幸いとは何だろう」と問いかけたように、私たちにとって本当に大事なものは何かを考えてみたいと思います。

 よしだ・あきお 1974年気象庁に入庁し、地震予知情報課長、気象研究所地震火山研究部長、東京管区気象台長などを歴任した。2008年~15年度、地震防災対策強化地域判定会委員。浜松市出身。78歳。

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