テーマ : 防災対策

南海トラフ巨大地震対策 「臨時情報」周知強化に意欲 気象庁・大林正典長官インタビュー【詳報「一問一答」あり】

 気象庁の大林正典長官(60)が20日までに静岡新聞社の取材に応じ、南海トラフ巨大地震の発生可能性が高まった際に発表する「臨時情報」の認知度向上への情報発信を強化する考えを示した。「地方気象台も加わり、自治体の防災訓練やイベントを機会に普及を図っていく」と述べた。

南海トラフ巨大地震の対策を語る大林正典長官=気象庁
南海トラフ巨大地震の対策を語る大林正典長官=気象庁

 臨時情報の運用は2019年に始まって以来、発表事例はない。県が3月に発表したアンケートの結果によると、臨時情報を知る県民は24%にとどまり、周知が課題になっている。
 大林氏は水害や土砂災害の避難情報と比較し「臨時情報はめったに出されることはなく、経験として認知されていくのは難しい」と指摘。関東大震災から100年の節目となる今年を防災意識を高める好機と捉え、内閣府などと2月に開催した巨大地震対策オンライン講演会を例に「臨時情報を知ってもらう取り組みを続ける」と強調した。
 南海トラフ沿いの巨大地震は100~150年周期で発生するとされる。来年には昭和東南海地震(1944年)の発生から80年を迎えるため「切迫度は増していると考えられる」と警鐘を鳴らし、「津波からの避難や食料の備蓄といった備えを常に確認してほしい」と県民に呼びかけた。
 2022年12月に故障が見つかった東南海ケーブル式常時海底地震観測システムの復旧を急ぐ考えも示し、「水深数十メートルの地点に損傷箇所があるとみられ、修復方法を検討している」と現状を説明した。
 気象庁出身者や気象予報士が天候予測や防災対応を自治体に助言する「気象防災アドバイザー」の養成や利用促進にも注力し、大雨対応などで自治体の判断をサポートするとした。
 大林氏は大気海洋部長や気象防災監などを歴任し、1月に長官に就任した。
 (東京支社・柿田史雄、関本豪)

詳報 一問一答
 気象庁の大林正典長官は20日までの静岡新聞社の取材に対し、予想される南海トラフ巨大地震への対応や自治体の防災力強化に向けた支援などについて考えを述べた。主なやりとりは次の通り。
 ―南海トラフ巨大地震の現状認識は。
 「過去100~150年程度の周期で巨大地震が起きている。今後30年以内に70~80%の確率で発生するとされている。来年には昭和東南海地震の発生から80年を迎え、切迫度は増している。毎月、専門家を交えて開く南海トラフ沿いの地震に関する評価検討会では、現時点で発生可能性が通常より高まっている兆候は見られていないが、いつ発生してもおかしくない」
 ―巨大地震の発生可能性が高まっている際に気象庁が発表する臨時情報の認知度向上にどう取り組むか。
 「臨時情報はめったに出されることはなく、経験として認知されていくのは難しい。知ってもらうための取り組みを続ける。例えば、2月に内閣府などと巨大地震対策オンライン講演会を実施し、約600人が参加した。今年は関東大震災の発生から100年を迎え、防災の話題が報道される機会も増える。静岡地方気象台でも、市町の防災訓練や行事に積極的に参加して説明していく」
 ―現状で臨時情報が出されたら、国民はどう受け止めると思うか。
 「臨時情報をただ発表するだけで、国民に理解してもらうのは難しい。記者会見で、国民にどのような対応を取ってもらいたいのかをしっかり説明する必要がある。専門家との連携や記者会見での対応といった訓練は定期的に行っている」
 ―2022年12月に障害が見つかった東南海ケーブル式常時海底地震観測システム復旧の見通しは。
 「損傷箇所が水深数十メートル地点にあり、修復方法を急ぎ検討している。まだ時間がかかりそうだ。そこの地点の地震が検知できないので、緊急地震速報に最大13秒程度の遅れが生じる。早期に復旧させたい。西側には防災科学技術研究所の海底地震計のネットワークがあるので、津波警報が遅れるようなことはない」
 ―自治体の防災対応を気象庁はどう支援するか。
「自治体が避難情報の発令を判断するにあたり、気象台長と首長が日頃から顔の見える関係を築けていれば、ホットラインで助言できる。担当者同士の大雨対応のシミュレーションも定期的に実施し、防災のレベルを上げていく」
「自治体の防災の啓発や助言を担う気象防災アドバイザーの養成にも力を入れている。研修を受けて防災実務の知識を得た気象予報士や気象庁の元職員にアドバイザーを委嘱している。静岡県内では伊豆市と函南町が導入している。現状は地域間で人数に差があるので、各都道府県に最低5人ずつはアドバイザーがいるように養成を進めたい」
 ―防災について県民に関心を持ってほしい点は。
 「もともと地震防災の意識が高い地域だと思っている。巨大地震の切迫性が数十年前から叫ばれ、ある意味慣れている部分もあるかもしれない。食料の備蓄や地震津波からの避難といった備えを日頃から確認してほしい。ハザードマップを見たり、近所の危険箇所を家族と話し合ったりするのも重要。住んでいる地域のリスクを知らないと、避難行動に移せない」

 おおばやし・まさのり 1985年に入庁。大気海洋部長、気象防災監などを歴任し、1月から現職。神奈川県出身。

 <メモ>南海トラフ地震臨時情報 南海トラフ沿いでマグニチュード(M)6・8以上の地震発生など異常な現象が観測されたり、地震発生の可能性が高まっていると評価されたりした場合に気象庁が発表する。調査中、巨大地震注意、巨大地震警戒、掲載終了の4種類がある。地震の規模に応じて、1週間の事前避難や避難準備といった防災対応が求められる。

いい茶0

防災対策の記事一覧

他の追っかけを読む
地域再生大賞