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地震なしの津波警戒を 藤井敏嗣/東京大名誉教授【提言・減災】

 今月9日、突然、太平洋沿岸に津波注意報が発せられた。「小笠原近くの鳥島近海での地震により津波が発生したと思われる」という、なんとも奇妙な発信が気象庁からあった。地震ではあるがマグニチュードも震源も決めることはできないというのである。

藤井敏嗣氏
藤井敏嗣氏

 同様の事象が2018年12月にインドネシアで起こった。地震が起こらないのに、津波がスマトラ島とジャワ島の沿岸部を襲い、数百人の犠牲者が発生した。津波の原因は小さな火山島で噴火の最中に山体の一部が崩壊し、海中に土砂がなだれ込んだことである。土砂流入に伴う、わずかな地震動は捉えられたが、津波を発生させるような地震ではなかった。このため津波警報は発せられないまま、津波災害が起こったのである。
 同じような津波の例は、わが国でも過去にいくつもある。1640年の北海道駒ケ岳の噴火の際に斜面崩壊が起こって土砂が内浦湾に流入して津波が発生し、対岸の登別や伊達を中心に700人以上が犠牲となった。1741年には渡島大島火山で噴火中の斜面崩壊で土砂が海中になだれ込んで津波が起こり、対岸の渡島半島で1500人以上が亡くなった。
 いずれも海の近くの火山が崩れ、海中になだれ込んだ土砂のために津波が発生した例であるが、海底での火山噴火や海底崖[がい]の一部崩壊で土砂移動が起こると、大きな地震が起こらなくても津波が発生することがある。
 気象庁は今回、地震については把握できなかったものの、潮位計によって津波が観測されたため、津波注意報を出した。潮位計は海岸に設置されているので、注意報が出た時にはすでに津波が到達していた地域もある。海岸近くにいるときに地震が感じられなくても津波注意報や警報が出たら、即座に高い位置に避難することを心がけたい。

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