オピニオン・コラムの記事一覧
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時論(12月10日)この違和感「いつぶり」だろう
「中2ぶり」「高校卒業ぶり」。 そう畳みかけられ、引っかかった。最近見たテレビドラマの話。気になって、インターネット配信で見直した。「高校卒業以来○年ぶり」ではないのか。目くじら立てるほどでもないのだが、違和感は拭えない。 「会うのは『いつぶり』だろう」。毎日新聞校閲センターの「校閲記者も迷う日本語表現」(毎日新聞出版)に、「いつぶり」の正誤や使用についての調査結果がある。おかしいと判断した人が3分の2を占めたが、一方で使うという人も半数を超えたという。正しくないと分かっていながら、つい使っているということだろう。 新明解国語辞典第8版は「ぶり」について、〈経過した時間を表す語につき、
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社説(12月10日)子どもの視力低下 学校と家庭 連携で防げ
子どもたちの視力低下に歯止めがかからない。先月結果が発表された文部科学省の2022年度の学校保健統計調査で、裸眼視力が1・0未満の割合は小中高生ともに過去最多だった。同省は「スマートフォンやデジタル端末を使う時間が増えたため」とする。教育現場でデジタル教科書の導入も進む中、学校と家庭の連携で子どもたちの目を守る必要がある。 視力1・0未満の割合は小学生37・88%、中学生61・23%、高校生71・56%。調査を始めた1979年度の1・0未満は、小学生17・91%、中学生35・19%、高校生53・02%だった。それぞれ40年余りで約20ポイント増加する見過ごせない事態だ。 デジタル教科書に
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大自在(12月10日)またアレか
本欄も写真やイラストが使えればいいと、たびたび思う。ひと言で伝えるのが難しいモノやコトは少なくない。名前があっても案外知られていない。 例えば「猫車」。工事現場で見る手押しの一輪車のことである。「手押し車」で分かるだろうか。「一輪車」では、子どもたちが遊ぶ車輪が一つの自転車と誤解されかねない。伝わるよう文脈を工夫しようか、くどくても丁寧に書こうかと悩む。 猫が通るような細い「猫足場」を通り抜けるからだとか、ひっくり返すと体を丸めた猫のように見えるからとか、猫車の語源は諸説あるようだ。ちなみに、猫の口元の膨らみには「ウィスカーパッド」という名がある。ウィスカー(ひげ)に「肩パッド」のパッド
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大自在(12月9日)真珠湾攻撃
真珠湾攻撃からきのうで82年。日本が戦争の悲劇を忘れないのは二度と繰り返さないためだと伝えているのとは違い、米国の「リメンバー・パールハーバー」は、いかに国防が大切かを伝えるスローガンと聞く。 米国は軍事拠点として早くから真珠湾に目を付けていた。ハワイ王国最後の王女を描いた映画「プリンセス・カイウラニ」は、米国の支援でクーデターを図った米系政治家ロリン・サーストンにこう言わせている。「ハワイを得た者が太平洋を支配する」。 1887年、サーストン率いる秘密結社が起草した新憲法をカラカウア王に認めさせて王権を奪い、さらに米布互恵条約に真珠湾の独占使用権を盛り込ませた。豊かな漁場だった真珠湾は
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記者コラム「清流」 どうもおかしい
川勝平太知事の言動と県政運営を約10年間、ウオッチしてきた。歯に衣(きぬ)着せぬ知事の物言いは良くも悪くも話題に事欠かない。全国学力テストの結果を踏まえた校長名公表や副教材問題、リニア中央新幹線工事に伴う大井川流量減少問題など、是々非々で報道してきたつもりだ。 ところが、熱海土石流の県行政文書不適切開示問題に関しては、知事の様子がどうもおかしい。開示担当職員の説明をうのみにし、調査が不十分なまま職員が隠蔽(いんぺい)していないと決めつけてしまった。これまでの対応と異なる。 行政組織内で知事は役人を率いるトップであるとともに、県民による選挙で送り込まれた唯一の県民代表とも言える。もう一度、
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社説(12月9日)子どもの死因究明 予防策構築につなげよ
こども家庭庁は、子どもの死因を医師や警察、行政機関などで検証し、防ぐことができた死の予防策構築につなげる「チャイルド・デス・レビュー(CDR)」制度の導入を目指している。2022年度までの3年間に厚生労働省のモデル事業に参加した9道府県を対象に実施した共同通信の調査で、複数の県が死因究明の結果、防ぐことができた事例を確認し、予防策に反映できたと回答した。大切な子どもの命を守るため、制度化を急ぎたい。 モデル事業には北海道、京都府と福島、群馬、山梨、三重、滋賀、香川、高知の各県が取り組んだ。医師、警察のほか保育施設、学校、児童相談所などと連携して子どもの既往歴や家族背景、死亡の経緯などを分析
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記者コラム「清流」 「でしょ」の意味
久しぶりに会った大学の友人に「『でしょ』ってまだ使ってる」と聞かれた。なぜそんなことを質問するのかと不思議に感じたが、話を聞いていくうちに、自分の顔が青ざめていくのが分かった。 取材の相手に確認をする時、上司の話に相づちを打つ時。「ですよね」という意味で「でしょ」を使っていた。故郷の徳島では、それを敬語だと思っていたからだ。そういえば、静岡の大学で陸上部に入部したころ。道具を片付ける位置を「ここでしょ」と先輩に確認した時、「生意気だな」と言われたことがあった。 ネットで「でしょ」と検索すると「関西 敬語」という言葉が続く。関西では敬語との認識があるが、静岡では親しい間柄で使う「ため口」に
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記者コラム「清流」 1人1玉
袋井市に住み始め、数カ月がたった。袋井に来てからずっとたくらんでいたぜいたくを先日、ようやく行動に移した。クラウンメロン1玉独り占めだ。 県外出身であるため、記憶の限りではクラウンメロンを味わうのは初。底が少し柔らかくなってから数時間冷やして食した。歯がいらないと思うほどの柔らかい実をかむと、口いっぱいに果汁があふれた。これまで食べてきたメロンをはるかにしのぐ絶品。さすがに多いかと心配していたが、あっさり1玉を平らげた。 11月には厳格な検疫をクリアしてタイに60玉が輸出された。現在は輸出のたびにタイの検査官を招待した検査が必要で、継続は難しい状況という。実体験に基づくと今回だけでは60
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大自在(12月8日)横浜毎日新聞
新聞文化の継承と発展を目的として2000年に開設された日本新聞博物館(ニュースパーク)は横浜市中区にある。日本新聞協会が運営し、新聞に関わるさまざまな資料を展示している。来館者が記者になって取材や紙面製作を疑似体験するコーナーも設けられている。 手前みそだが、1階吹き抜けロビーに展示されたオフセット輪転機は静岡新聞が1979年に導入し、97年まで稼働させた実物。訪れた人に新聞の歴史を知ってもらうための一助になっているとすればうれしい。 横浜が同館の開設地に選ばれたのは、日刊新聞発祥の地だからだ。日本初の日刊新聞とされる横浜毎日新聞の創刊は、旧暦の明治3年12月8日(新暦の1871年)のこ
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記者コラム「清流」 思い込みが命取り
久しぶりに訪れた祖父母の家。固定電話上に詐欺への注意を呼びかけるポップアップが貼り付けてあった。それを見て気付く。祖父母だって高齢者なのに「詐欺に気を付けて」なんて言ったことなかった、と。 高齢者が詐欺被害に遭う事件の話は、嫌というほど聞いている。どうしたら被害を防げる? 「自分は大丈夫」という思い込みの壁をどう越えていく? 地域で防犯に携わる人たちと頭をひねっている。それなのに。 次の被害者を出さないために、一人でも多くの人に読んでもらえる記事を書くことが自分の役目だと思ってきたが、私にも祖父母がいるではないか。 自分や、自分の家族は大丈夫。その思い込みが命取りだと改めて自身に言い聞
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記者コラム「清流」 市町駅伝の魅力とは
4年ぶりに通常開催に戻った2日の第24回市町対抗駅伝。浜松市北部の4連覇や、同市南部とのワンツーフィニッシュを想定しながら、浜松総局代表記者として静岡市内の会場に乗り込んだが、いずれも残念な結果に終わった。 それでも郷土の代表選手が走る大会は、本筋から外れたところでも数え切れないほどのドラマが起きる。前立腺がんの手術を受けた袋井市の6区の高橋俊明選手は、術後初めて選手として駿河路を駆け抜けた。掛川市の8区の山田芽実選手と9区の幸芽選手は、姉妹で励まし合ってたすきをつないだ。 区間2位と力走した御前崎市のアンカー植田航生選手(19)は、仲間や沿道からの励ましに「チーム一丸で戦えた」と胸を張
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社説(12月8日)ガザ南部にも侵攻 戦闘休止へ全力尽くせ
パレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム組織ハマスと侵攻するイスラエル軍の戦闘が再開された。カタールや米国、エジプトの仲介で戦闘休止が実現したが、7日間で終了。ガザには再び激しい砲爆撃が戻ってしまった。 加えてイスラエル軍はこれまでのガザ北部に加え、南部への侵攻も開始した。既に南部主要都市ハンユニスを包囲して攻め立てているという。南部には多くの住民が戦闘を避けるために避難している。そこに戦車など圧倒的な軍事力を持つイスラエル軍が攻め込めば、もはや住民の逃げ場がなくなってしまう。 このままでは、さらに多数の命が失われるのは避けられない。まずはイスラエルに自制を求めたい。ハマス軍事部門の壊
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記者コラム「清流」 観光担う若者ガイド
清水町の沼津商高に今年新設された「観光コミュニケーションコース」の2年生が、同町の姉妹都市カナダ・スコーミッシュ市の市長らの観光ガイドを務めた。初めての実践の舞台で、町一番の観光名所・柿田川公園を英語で案内した。 この日も、園内には散策する人が続々と訪れていた。しかし、誰かがうっかり気がつかなかったのだろうか。パンフレットが1冊落ちていた。「拾っておこうかな」と思った瞬間、前方を歩いていた生徒がすっと拾い上げた。 生徒のしぐさは自然で素早かった。後ろにいた市長は、落ちていることに気づかなかったかもしれない。ただ名所を紹介するだけでなく、その場の魅力を最大限に「引き出す」。そんな若者ガイド
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大自在(12月7日)サポーター
J1昇格を懸けたプレーオフ決勝。東京・国立競技場は必勝を疑わない清水サポーターがアウェー側スタンドを埋め尽くし、東京Vを圧倒した。 しかし、試合は土壇場で同点に追い付かれ、失意の結果に。競技場横のホープ軒の背脂ラーメンがずっしりと胃にもたれた。 清水は来季もJ2で戦う。だが、サポーターがクラブを見限ることはないだろう。厳しい目線で批判すべきは批判しながら、どんな苦境でも励まし合い、支え続ける。それがサポーターと呼ばれる所以[ゆえん]だし、清水の歴史そのものだ。 たまたま同じ日に都内で公演した英ロックバンド「オアシス」の元ギタリストのノエル・ギャラガーさんは、イングランドのマンチェスター
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記者コラム「清流」 元ヅカオタとして
「ヅカオタ」だった。小学生の頃に連れて行ってもらった東京・日比谷の宝塚劇場はきらびやかで、「社交場」みたいな香りがした。 ファンクラブの入り方を教えてもらった。おそろいのジャンパーを着てお茶会なるものに参加し、スターと写真に納まった。公演が終われば時間が許す限り劇場の外に並び「出待ち」をしてお見送りをした。 ブランクを経て「オタク」ではなく一ファンとして、撮りためた作品を見始めた。子育てが落ち着いたら本拠地で観劇することをよりどころにしていた。その宝塚歌劇団がいま、団員の転落死で揺れている。 黒えんび服の男役がずらりと並ぶ大階段、情熱たぎるデュエットダンス、トップだけに許される大きな羽
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記者コラム「清流」 呼び捨てと人権
何年か前から社内で後輩の名前を呼び捨てにするのをやめた。年下の同僚が増え、無用な威圧感を与えることもない、と改めた。もっとも、私にそんな威厳はないかもしれないが…。 「過去の体験から呼び捨てされるのを嫌がる子供やや親もいる。これは『人権』の話です」。園児虐待事件後、裾野市の私立さくら保育園で職員研修に携わる子ども総合研究所の新保庄三さんが、同市の保育士らへの研修で語った。名前の呼ばれ方は個人の尊厳に関わる事柄という視点を欠いていたと恥じた。 芸能事務所の性加害や、過重労働の問題も「人権意識の低さが根底にある」と新保さんは手厳しい。それでも「事例ごと考えながら、学ぶ姿勢が大切
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記者コラム「清流」 図書館
思考が整理できない時や心を落ち着かせたい時に訪れる場所がある。図書館だ。何げなく手に取った書籍でもページをめくると新たな言葉や考え方と出合い、気づきを与えてくれることもある。まさに知識の宝庫と言ってよい。 しかし、近年は本離れが急速に進んでいる。地域からは書店が姿を消し、図書館の利用者減少は全国的な流れという。 どうすれば図書館に足を運んでもらえるか。先日、御前崎市立図書館アスパルで開催された県舞台芸術センターの出張劇場を見た。館内の空間を活用した試みで普段は見慣れない働き世代や子どもの姿もあった。新たな価値を創出する考えは今後の図書館運営のヒントになり得ると感じた。 図書館は本を貸し
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社説(12月7日)自民党の裏金疑惑 真相解明で済ませるな
もともと抜け道が多いと問題視されている制度だが、そのルールさえも守らない上、裏金づくりに励んでいたとすれば言語道断だ。 自民党の最大派閥・安倍派(清和政策研究会)が政治資金パーティー券の販売ノルマを超えた売り上げを政治資金収支報告書に記載せず、売り上げた所属議員に還流させていた疑惑が浮上した。事実なら報告書の信頼性を根底から揺るがす行為で、東京地検特捜部が政治資金規正法違反の疑いで捜査している。二階派(志師会)でも超過分が派閥の報告書に記載されていなかったとみられていて、問題が広がる可能性もある。 岸田文雄内閣の支持率は危険水域とされる30%を割り込んだ状況だ。今回の問題が岸田政権と自民
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大自在(12月6日)和食
独身放送作家のヒロインが一緒に暮らすひと回り以上年上で既婚の会社経営者と頂き物の鮒[ふな]ずしを茶漬けにしようとしている。熱いご飯に数切れのせて花がつお、揉[も]みのり、いりたて白ごま、少しの塩、醤油[しょうゆ]をかける。 続いてわさびを少々、細く切った青じそを乱れ散らし、とろろ昆布をひとつまみ。熱い焙[ほう]じ茶をかけ、ふたをしてしばらく蒸らす。田辺聖子さんの小説「蝶花嬉遊図」(1980年)の一場面。 〈さらさらと夢中で食べて、食べてるあいだは、生きてるか死んでるか、わからないというような美味〉。これぞ和食の神髄と思わせる描写だ。2013年12月の「和食」ユネスコ無形文化遺産登録から1
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記者コラム「清流」 趣味持つ人は格好良い
「格好良い」という言葉が文字通り当てはまる人たちとの出会いが、このところ続いている。その多くは自分とほぼ同じ世代だ。 二輪車ツーリングの取材で話を聞いた浜松市の50代女性ライダー。驚いたことに、オートバイの免許を取ったばかりだとか。「若い時に断念したことをやってみよう」。そう思い立って挑戦し、仲間と走りを楽しんでいる。バイクウエアに身を包んでマシンを操る姿が、輝いて見えた。 他にも、趣味として新しいことを始めた人が目立つ。年齢を重ねて暮らしにゆとりができたことや、新型コロナウイルス禍で在宅時間が増えたことが契機になっているようだ。 仕事や日常生活を離れて好きなことに打ち込む。実に格好良
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社説(12月6日)核禁止条約会議 日本不参加ありえない
人類の終末までの残り時間をカウントする「終末時計」は、今年1月から残り90秒となった。昨年から10秒減って1947年の発表開始以来、最も短くなったとされる。 人類の終末を決定づける最大の原因は間違いなく核戦争だ。そしてロシアのウクライナ侵攻によって、そのリスクは格段に増している。ロシアのプーチン大統領は核兵器を脅迫に使い、ロシア軍に占領されたウクライナの原発は非常に不安定な状態にある。 国際情勢の緊張が高まる中で核兵器禁止条約の第2回締約国会議が米国・ニューヨークの国連本部で開かれ、改めて「禁止と廃絶に取り組む」との決意を示した政治宣言を採択した。高まる核リスクに危機感を表明し、核廃絶は
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伊東の新図書館計画 市民納得の施設創出を【東部 記者コラム 湧水】
伊東市が新たに市街地に建設を目指す図書館は、工事の入札不調により、規模縮小に向けた方針転換を余儀なくされている。全国的に影響を及ぼす建築コストの高騰が同市の大型事業にも波及した形だ。一部の市民からは図書館の在り方について再考を求める声も上がっている。 計画では当初、今年7月の着工を見込んでいたが、5月の開札で予定価格を超過して不調に終わった。市は要因として、資材価格や人手不足による労務費の高騰▽事業者が利益率の高い工事を選別できる「超売り手市場」が背景にあると分析する。 現在の伊東図書館は生涯学習センターと同居する。1980年11月に開館し、老朽化が進む。図書館部分の延べ床面積は954平
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記者コラム「清流」 ビュフェ・リバイバル
近年、フランスの画家ベルナール・ビュフェ(1928~99年)の再評価が進んでいる。11月25日に開館50周年を迎えた長泉町のベルナール・ビュフェ美術館で開幕した「偉才の行方」展も、リバイバルを意識した構成になっている。 例えば、娼婦をモデルに黒く鋭い輪郭線で描いたとされる「狂女」は、派手な化粧と青白い顔で、やせこけている。以前は「なぜグロテスクに誇張するのか」と疑問だったが、自らの美容整形の過程を発信する若い女性の投稿がSNSで流れてくるようになった今見直すと、感覚的に理解できるようになっていた。 ビュフェは、ピエロやサーカスも数多く描いたが、どこか哀愁を漂わせていた。SNSで自虐とユー
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記者コラム「清流」 親しんだ場所を記録に
浜松市内の中学校美術部が制作した風景画の「秋の写生コンクール」表彰式が11月下旬に行われた。最優秀作品は、中区の八幡中2年の殿村桃花さんが描いた浜松球場だった。球場や周辺の木々、青空を秋らしく爽やかに表現していたことが評価された。ただ、個人的には題材を浜松球場に選んだ理由が印象的だった。 殿村さんは高校生の兄が野球を続けていて、応援のために何度も球場に足を運んでいる。一方、球場のある四ツ池公園運動施設は併設する陸上競技場に特化する方針で、球場は解体される。殿村さんは取材に「なくなってしまう場所だから、記録に残しておきたかった」と語ってくれた。 浜松球場が野球をする人だけでなく子どもも含む
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大自在(12月5日)忘年会シーズン
先週末、先輩の家に招かれ、宴会に参加した。人が集まった中で酒を酌み交わすのはほぼ4年ぶりで、戸惑いもあった。新型コロナウイルスの感染症法の位置付けが5類に移行したとはいえ、まだ緊張感はある。 忘年会のシーズンである。東京商工リサーチが10月、約4700社を調査したところ、今年の忘年会を実施予定の企業は約54%。半数にとどまったが、前年同時期の約38%からは大きく伸びた。 機会が増えることで、改めて飲み過ぎには注意したい。厚生労働省の検討会がこのほど、酒量や休肝日の設定など飲酒に伴う健康障害防止のガイドライン案をまとめた。 コロナ下で家飲みが続き、酒量が増えたという人もいるだろう。箱買い
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記者コラム「清流」 家族を思う
富士市出身で戦場カメラマンとして活動する渡部陽一さんは、紛争地に向かう時、必ずポケットに入れておく物がある。毎年正月に撮る家族写真。初対面の人に見せると会話が弾むという。 世界を飛び回る生活をして気づいたのは、厳しい環境で暮らす人でも一日に何度も親やきょうだいに電話をかけていること。「こうありたいと思う家族にたくさん出会った」といい、国内でも海外でも家族に毎日電話し、取材先では自筆で手紙を書くようにしていると教えてもらった。 「みんな家族が大好きなんですよねぇ」。渡部さんの一言を、日々紙面に載る戦地の写真を見て思い出す。泣き叫ぶ人、生まれたばかりの赤ちゃん、眼光鋭い兵士―。写っている人の
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記者コラム「清流」 移住の決め手
松崎支局に異動してから「移住者」という言葉を聞く機会が増えた。別の地域ではあまり耳にしなかったので気になった。観光客は多いが、住民の流動が緩やかで多くは昔からの顔なじみ。そんな地域柄が表れているフレーズだと思う。 移住者と話すと、住民の人柄に引かれて選んだという人も多い。先日、松崎町の飲食店でランチを食べ終わると、サービスでデザートを提供してくれた。「試しに作っただけだからお代はいらないよ」と店主の男性。ちょっとしたことかもしれないがうれしかった。 過疎地において移住促進は人口減対策の一つだろう。幸い、伊豆は観光地という強みがあり、旅行が訪れるきっかけになる。移住先に選ばれるには滞在期間
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記者コラム「清流」 引き継がれる“思い出”
昔ながらの黒や赤だけでなく、水色やピンク、茶色など、所狭しと並んだ色とりどりのランドセル。磐田ライオンズクラブが初開催した不要ランドセルのプレゼント会では、目を輝かせてお気に入りを探す子どもたちがほほ笑ましかった。 小学校を卒業した子どもからランドセルを集め、来年度の新入学児童らに贈る取り組み。卒業後は全く使わなくなるのに、捨てるに忍びない。そんなランドセルに“第二の人生”を与えた。最近はランドセルカバーを使う児童が多いからか、どれもきれいな状態だった。 わが子や孫に新品を贈りたい気持ちも分かる。一方で、思い出の品を“後輩”に託す習慣もあっ
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社説(12月5日)技能実習見直し 定着と共生につなげよ
内外で「人権侵害」と批判が絶えない外国人技能実習制度に代わる新たな制度の創設に向け、政府の有識者会議が最終報告をまとめた。職場の「転籍」を可能にしたり、受け入れ先の企業に対する監督・指導を徹底したりすることなどを提言した。 会議ではまず、一つの職場で1年以上働いたら、一定の技能や日本語能力を条件に同じ産業分野で転籍できるようにすることが決まった。だが地方から賃金の高い都市部に人材が流出しかねないと中小企業や自民党が反発。業界側の要望があれば最長2年まで認めないことも可能にする修正案を検討した上、報告書には「必要な経過措置を検討する」と記述した。 昨年末現在、実習生は在留外国人の約1割の3
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大自在(12月4日)オウムバザー
興味半分や見学気分で訪れた人もいた。富士宮市のオウム真理教富士山総本部では1996年12月に開催された教団所有の備品の販売会。「オウムバザー」とも呼ばれた。東京地裁から破産宣告を受けた教団の財産の売上金を、地下鉄サリン事件などの被害者の賠償に充当する目的だった。 主催者は破産管財人。信者が去った総本部に電化製品、ワープロ、工具、事務用品などが並び、一般の来場者が買い求めた。「目玉商品」としてラジカセが山積みされていた光景が記憶に残っている。 地下鉄サリン事件から9カ月後の95年12月、宗教法人法に基づく教団の解散命令が決定し、教団資産の管理は清算人に委ねられた。その後、破産が決まり、財産
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社説(12月4日)被害心情の伝達 加害者更生につなげよ
犯罪の被害者や遺族の心情を刑務所、少年院の職員が聞き取り、収容中の加害者に伝える「被害者等心情聴取・伝達制度」が今月から始まった。加害者が自ら起こした事件の被害と真正面から向き合い、心から反省することで更生につなげる狙いがある。 刑法犯の摘発は初犯、再犯とも減少しているが、初犯の減少幅の方が大きいため、再犯者率は上昇傾向にある。新たな取り組みで、どのような成果が表れるのかは予想できないが、再犯防止に結びつくような運用に努めてほしい。 全国の刑務所や少年院に新設された「被害者担当官」が希望する被害者から心情を聞き取り、書面にまとめて加害者に読み聞かせる。希望する被害者には加害者の反応や発言
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社説(12月3日)地域防災の日 共助と自助 備え徹底を
3日は静岡県「地域防災の日」。県は毎年11月を「地震防災強化月間」と定め、続く12月第1日曜日を地域防災の日としている。同日を中心に県内各地の自主防災組織が地域防災訓練を繰り広げ、共助と自助の備えを確かめる。 新型コロナウイルス感染症の流行によって、これまで住民参加型の訓練実施が難しかった。ことし5月、感染症法上の位置づけが「5類」に移行したことに伴って社会経済活動が本格化し、自主防災組織の活動もコロナ前と同様に行えるようになった。 コロナ下で十分できなかった地域での助け合いを確認してほしい。自主防災組織によっては、訓練を実施できないまま担当者が交代してきた場合もあろう。避難所の運営体制
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時論(12月3日)博物館に見た文化政策の貧困
国立科学博物館(東京・上野)が新型コロナ流行などによる資金繰り悪化を受けて行ったクラウドファンディング(CF)は、約5万7千人から約9億2千万円が集まった。金額と支援者数は、国内CFでは過去最多だったという。 オリジナルの図鑑や普段入れない収蔵庫ツアーなど返礼品の魅力はあったにせよ、多くの人が科博に関心を寄せ、当面の危機を回避したことは大きな成果だ。だが、ここで浮き彫りになった国立の施設でさえ財政的に窮地に陥り、市民の支援に頼らざるを得ない現実は、国の文化政策の貧困さを改めて露呈させたと言える。 1877年創立の科博は約500万点に上る標本や資料を収集、保存する、日本で最も歴史のある博物
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大自在(12月3日)市町対抗駅伝
ようやく本来の駅伝らしい風景が戻ってきた。きのう静岡市内で開かれた県市町対抗駅伝。スタート地点の県庁周辺やゴールが設けられた草薙陸上競技場への入場制限、沿道応援の自粛要請などがなくなり、4年ぶりの通常開催となった。 市街地を駆け抜ける選手たちに、各市町の応援団やコース沿いの住民らが盛んに声援を送り、太鼓やラッパを使ったにぎやかな応援も繰り広げられた。新型コロナウイルス禍の収束で感染拡大前の生活が戻りつつあることを改めて実感した。 大会は市の部で4連覇を目指した浜松市北部に、御殿場市が逆転で競り勝ち、栄冠を手にした。こちらも4年ぶり。町の部は長泉町が11年ぶりの優勝を果たした。「市町代表」
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大自在(12月2日)三木卓さん
静岡市出身の詩人で作家の三木卓さんが亡くなった。88歳。代表作の詩集「わがキディ・ランド」や芥川賞を受賞した小説「鶸[ひわ]」など優れた作品を世に送り出し、翻訳や随筆、評論などでも活躍した。 本紙も寄稿やインタビューをたびたび掲載した。2008年から月1回連載している「鎌倉だより」は、亡くなる直前まで執筆していただいたことになる。感謝の念に堪えない。ご冥福を祈りたい。 筆者が三木さんの作品を初めて読んだのは高校の教科書でだった。短編集「はるかな町」に収められた「介添人」。三木さんの高校時代の話だ。同級生に手紙で告白したものの、返事を聞くのが怖くてたまらない友人に頼まれて、呼び出した場所ま
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社説(12月2日)オスプレイ墜落 政府は積極的に関与を
米空軍輸送機CV22オスプレイが鹿児島県・屋久島沖に墜落した。搭乗員は8人。1人の死亡が1日現在で確認され、海上保安庁や自衛隊が行方不明となった搭乗員の捜索活動を行っている。まずは早期の発見と救助を祈りたい。 オスプレイの国内事故で死者が出たのは初めて。CV22は米空軍仕様で特殊部隊が搭乗して任務に当たる。米海兵隊仕様のMV22の夜間飛行能力を強化し、地形追従装置なども備える。基本性能が同じV22は自衛隊も導入した。 オスプレイは米軍が導入した初期は事故が相次いで安全性が懸念された。「ウィドウメーカー(未亡人製造機)」とやゆされたこともあった。最近では飛行時間が伸びている割には事故報道が
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記者コラム「清流」 一市民として応援
全国高校サッカー選手権県大会で3年連続決勝に駒を進めた藤枝東高は、全国屈指の強豪・静岡学園高に惜敗し、“三度目の正直”とはならなかった。応援に行きたかったが、その日は出勤日。原稿を書きながらテレビで戦況を見守った。 近年は私立校の優勝が目立つ。同校も7年間、全国選手権の舞台から遠ざかっていた。一方で、取材先では日頃から同校のサッカーが話題になる。それほど、市民の期待は大きいのだと実感している。 「2番ではだめ。1番にならないと変わらない」。敗戦後の鷲巣延圭監督の言葉だ。OBとして伝統校の使命と重圧を知っている監督だからこそ、重く響く。同校は来年、創立100周年を迎
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記者コラム「清流」 村人の当たり前
「村の人たちが皆で、あんな一生懸命に」のせりふが心に残る。明治期に和歌山県でトルコ軍艦が沈没した事故を映画化した「海難1890」。海辺の村が総出で乗組員の救助に当たる姿が胸を打つ作品だ。名もなき漁民たちの行動は今もトルコの教科書で取り上げられているという。 重なる場面は多いだろうと思う。江戸時代末、富士市沖に漂着したロシア軍艦ディアナ号の救出劇。市内に保管されている錨(いかり)の移設を記念した講演では、食べ物や着る物、仮の住まいを用意した地元村民の活動が語られた。 錨は公園から広い駐車場を備えた公会堂へと展示の場所を変え、歴史遺産を守り伝える環境は前進した。映画との違いがあっても、村人の
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記者コラム「清流」 被災後を支える存在
浜松市内で建物被害を伴う土砂災害が多発し、2人が死傷した6月の豪雨災害から半年を迎えた。復旧や生活再建がどれほど進んだのか調べようと、準半壊の認定を受けた北区引佐町の女性宅に足を運んだ。 被害を受けた寝室は畳を外してベニヤ板を貼っただけの状態。崩れた斜面も私有地のため、被災翌日にブルーシートが掛けられてから手つかずのままだった。再崩落の危険と隣り合わせで生活を続けていた事実に言葉を失った。 女性は不安や悩みを吐露しつつも、災害ボランティアへの感謝の言葉を繰り返した。ボランティア団体や地元学生、建設業者などの協力で流入した土砂は迅速に撤去できたという。スマホケースに名刺を入れて肌身離さず持
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大自在(12月1日)紙とデジタル
この文章を紙面で読んでくれている人もいれば、スマホ画面でという人もいるだろう。紙面ではこの定位置にあるから自然に目に入る。ちょっと読んでみようかという気にもなってもらえる。「ちょい読み」と言われたり、お通しに例えられたりする。 一方、アプリ「静岡新聞DIGITAL[デジタル]」では指先でスマホ画面をたたいたり(タップ)滑らせたり(スワイプ)して到達してもらう。紙面とはずいぶん“待遇”が違うと思ったこともある。それだけに、わざわざ読みに来てくれる方に感謝している。 紙とデジタル媒体ではニュースの届き方も探し方も違う。縦書き、横書きだけでなく、見出しや写真などレイアウ
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社説(12月1日)万博の国費負担 経費全体の提示 早期に
2025年開催の大阪・関西万博の開催費用は最終的にどこまで拡大し、国費はどれほど投入されるのか。当初想定の1・9倍に膨らんだ会場整備費とは別に、国費約837億円が必要になることが新たに明らかになった。 数字が小出しされ、経費の全体像が見通せない。最初のうちは経費を小さく見せておき、実際にはもっと大きかったと欺いたように見えても仕方がない。東京五輪の際にも同じような経緯をたどった。どうして大型イベントはこうなるのか。まるで底なし沼のようで物価高騰に苦しんでいる国民は納得できまい。 11月30日で開幕まで500日となり、入場チケットの前売り販売も始まった。エネルギー価格の上昇や円安などの影響
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記者コラム「清流」 警備業界も積極的発信
大規模イベント会場を狙ったテロ行為などを想定し、県警と県警備業協会が行った初の連携訓練での一場面。「手荷物検査にご協力いただきたい。どうか冷静に」「なんで見せなきゃなんねーんだ。権限あんのか」 アフターコロナで今後もイベントは次々復活するだけに、こうした場面にいつ遭遇してもおかしくない。静岡市葵区の歩行者天国では乗用車が突っ込む殺人未遂事件が起きた。訓練では検査依頼を来場者役が拒否すると、警備員は一定の距離を保ち、丁寧な言葉遣いで協力を求め続けた。取材を通じ、業界が各種対処で常に危険と隣り合わせであることを改めて感じた。 アイドルのコンサート会場などでは協力は見事と聞く。全関係者の地道な
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記者コラム「清流」 手紙の良さを実感
先日、取材中に高齢女性から手紙をいただいた。宛先が書かれていない封筒から、手書きの便箋やお気に入りの記事?の切り抜きが飛び出ていた。支局の郵便ポストに入れようと足を運ばれた際、姿を見かけて手渡してくれたのだろう。 便りには新聞を楽しみにされている思いがつづられていた。さらに読んだ紙面で千羽鶴を折り上げ、物干しざおに装飾して交流センターに飾っているという。機会を見つけて伺うと、糸を通した複数の鶴がつらら状につるされていた。「健康で楽しい生活ができますように」と、七夕のササ飾りをイメージしたそうだ。 スマホでのやりとりが主流となり、手紙を書いたり受け取ったりする機会は減った。だからこそ活字の
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記者コラム「清流」 紙の魅力 再認識しよう
特種東海製紙が主催したペーパーアートの全国公募展。最終審査には全応募作402点の中から1次審査を通過した187点のまさに百花繚乱(りょうらん)の作品が並び、多種多様の紙を使った出来栄えに「これはすごい」と感嘆した。 紙幣、切符、書類、本、そして新聞。デジタル化の進展で、日常生活の中で紙と触れ合う機会は減っている。存在感が薄れつつある中、出品者の「紙は素材の中でも安価で雑に扱う人がいる。しかし、紙を生産する過程では、さまざまな努力と技術とエネルギーが使われている」とのコメントが鋭く胸に突き刺さった。 長泉町本宿の特種東海製紙Pamで12月7日から2月29日まで、入賞作品展が入場無料で開かれ
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大自在(11月30日)奥さん死去20年
ワールドカップ(W杯)でなかなか勝てなかったかつての日本ラグビー。世界の強豪との実力差がまだ大きかった頃から、それでも「W杯を日本でやりましょう」と声を上げていた官僚がいた。外務省の故奥克彦さんである。 奥さんが国連政策課長になった2000年、早稲田大ラグビー部の先輩にあたる森喜朗氏が首相に就いた。森氏の記憶によれば、奥さんは首相官邸によく顔を出しW杯招致を訴えたという。 2人のやりとりはノンフィクション作家の松瀬学さんが書いた評伝「日本を想い、イラクを翔けた ラガー外交官・奥克彦の生涯」(新潮社)に詳しい。森氏は後に日本ラグビー協会会長に就任し、W杯日本招致委員会の会長にもなる。09年
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社説(11月30日)シラスウナギ流通 新ルールの実効上げよ
ウナギの養殖種苗にする稚魚(シラスウナギ)の漁と流通のルールが2024年漁期(23年冬~24年春)から大きく変わる。静岡県内で採捕した稚魚は県内で養殖する決まりだったが、12月からは県外業者にも販売できるようになり、仕入れ競争で県内養殖業者が稚魚を必要量調達できない事態も考えられる。 不正排除を目指す新ルールによって新たな不正が生まれないよう、国や都府県は指導取り締まりを徹底し、実効を上げなければならない。商慣習の変化に戸惑いはないか、行政は現場の声を聴き、必要なら支援策を講じてほしい。 食卓に上がるウナギはほぼ全て養殖だが、全て天然の稚魚を育てたものだ。ニホンウナギはグアム島近くでふ化
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記者コラム「清流」 「赤石」が指すものは
「みどりのなかにくっきりと太陽みたいな赤石がいつでも優しく微笑(わら)ってる」。川根本町の本川根小校歌の冒頭だ。歌詞にある「赤石」とは同町北部にそびえる赤石山脈のことを指している。 校歌に地域の山や川の名称が入るのはお決まりで、同町では「赤石」や「大井川」が採用される。長く地域の人に親しまれてきた赤石山脈だが、「南アルプス」という新たな名称が根付くにつれ、赤石山脈という名称は影に隠れてしまった印象がある。「赤石」と聞けば、同山脈を構成する赤石岳の方をイメージする人も多いのではないか。 赤石岳は静岡市葵区にあり、同町から「くっきり」と見ることは到底できない。来年度、町内の小中学校の再編で2
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記者コラム「清流」 旅の学び
休暇を利用してフランス・パリを旅した。学生だった5年前に訪れて以来の花の都。華やかな雰囲気はそのままで歩いているだけで楽しい街だが、変化を感じた面もある。 例えば火災に見舞われたノートルダム大聖堂は改修が続いていて、美術館はコロナ禍の影響か事前予約を推奨しているようだった。店では来年に控えた五輪のグッズが販売されていた。なかでも印象的だったのは、電飾で彩られたクリスマスツリーの真横で、国旗を掲げてデモをしている人たちの姿だ。金曜日の夜に響く、息の合ったかけ声は切実だった。 知っていたはずのことも実際に触れると一気に自分事になり理解も深まる。旅を通し、記者として多くの現場に足を運ぶべきだと
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記者コラム「清流」 移動する美術館
「気ままに絵に触れて感性を高めてほしい」―。アクリル板を再利用したアート作品の制作に携わる伊豆の国市のすし店「だるま」の女将(おかみ)山田敏江さんは意義を語る。保育園や施設への貸し出しから始まった企画は、伊豆市が作品を借りて市内の園を巡回展示するまでに大きくなった。 美術館に行っても基本的には作品に触ることができず、一定の距離を置いているため間近で見ることはできない。今回のアートはそれらの課題を払拭。園児は作品を持ち上げたり踏んづけたりもできて遊ぶ。私もどんな手触りなんだろうと触ってしまった。 世界的に若年層の美術館への関心が減少する中、このような取り組みは子どもたちの将来の幅を広げるに
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大自在(11月29日)脇見運転
車の脇見運転は重大な交通事故につながる危険な行為だ。つい景色に目が行った、車内の落とし物を拾おうとした、スマホに気を取られた―などに起因する。 路線バスの運転手が自社の車両と擦れ違う際、手を上げてあいさつする行為。脇見や片手運転につながるとして業界団体が長年禁止しているが、静岡など9都府県で実施した覆面調査の結果、約半数の運転手で確認された。 調査のきっかけとなった2021年に北九州市で発生した死亡事故では、バス運転手が対向車線を走る自社バスを注視し続け、前方の自転車に追突した。聞き取りに、運転手は「普段から顔見知りの運転手に会釈していた。2、3秒間視線を向けた」と話した。 時速40キ
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社説(11月29日)国立大学に合議体 法成立前に懸念解消を
大規模国立大に運営方針を決める合議体の設置を義務づける国立大学法人法改正案が衆院を通過し、参院に送られた。大学の自治や学問の自由を脅かしかねないとして、各地の大学教員らが強い懸念を表明している。 改正案は当初、10兆円規模の大学ファンドから支援が受けられる「国際卓越研究大学」のガバナンス強化の仕組みとして議論されてきた。法案の提出段階で、対象となる学校法人の範囲を根拠なく拡大した格好だ。10月末の閣議決定で初めて公表され、大学関係者は「寝耳に水」と首をかしげた。範囲拡大の理由についての説明が不足していると言わざるを得ない。「大学の運営に国が関与を強める結果になるのでは」との疑念を払拭する必
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記者コラム「清流」 監督記者会見は勝負
Jリーグの試合後に必ず行われる両チーム監督の記者会見は、人間味があふれてなかなか興味深い。数分間という短い時間で何を語るのか。機微に触れる表現で試合を振り返る外国人監督がいれば、判定への不満を言い連ねるベテラン指揮官もいてさまざまだ。 普段、監督との距離が近い練習後の囲み取材とは異なり、記者会見は真剣勝負の色合いが強い。通り一遍の話で終わるか、核心に迫る言葉を引き出せるか、記者の力量が試される場だと思っている。 日本代表コーチから転身1年目でJ1昇格に導いたジュビロ磐田の横内昭展監督は日頃穏やかな表情で、心の奥底までのぞけることは少ない。だが試合後の会見で感情の起伏を見せることがある。鋭
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記者コラム「清流」 歓喜の瞬間
輪になって抱き締め合う選手やスタッフ、歓声を上げるサポーター。ジュビロ磐田のJ1昇格が決まった今季最終戦。試合終了のホイッスルとともにスタジアムは歓喜の渦に包まれた。 カメラマンとして選手たちの戦いを間近で見てきたが、写してきたのは喜びばかりではなかった。失点してうなだれる選手、シュートを決めきれず悔しがる表情、ときには熱くなりもみ合う場面も。苦しい1年だっただけに、最後に捉えたのが歓喜の瞬間であったことがうれしい。 自身を振り返ってもたくさんの失敗があった。シュートへの反応が遅れたり、ピントが甘かったり、反省ばかり。さらに苛烈な戦いになる来季。選手らに負けないよう研さんを積み、最高の一
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記者コラム「清流」 登録はスタート
世界かんがい施設遺産に登録された富士宮市の北山用水。新しい通水設備のすぐ先には年季の入った柵があり、全長約8キロをたどる間に修繕を繰り返した440年の歴史が感じられる。 暮らしを支える水路の管理は5人の住民が担っている。五つの区間に分けて定期的にごみを取り除く。簡単に詰まってしまうため、ポイ捨てはもちろん、落ち葉や刈った草を水路に流されると設備への負荷は大きい。遺産登録を受けて県内外から視察に来ることも想定される。繁茂する雑草対策も喫緊の課題だ。 水路の存続には地元住民の理解が欠かせない。5人は学校で出張授業を行うなど周知に力を入れる。「この機を逃すものか」と、記念行事の計画も温めている
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大自在(11月28日)ベルギーで見た革新的技術
ベルギーの首都ブリュッセルは15~16世紀、毛織物業の中継地として繁栄したと、国連教育科学文化機関(ユネスコ)のホームページにある。世界で最も美しい広場とされる「グランプラス」があり、広場を含めた中心部は石畳が敷かれていた。雨の日やスーツケースを引っ張る旅行者にはつらさもあるが世界遺産の地、欧州らしい歴史を感じた。 欧州連合(EU)本部も置かれる街で開催された新聞製作技術に関する企業説明会に参加した。日本と同様「新聞離れ」は顕著で、デジタルへのシフトが進んでいた。 記事や写真を取り込み紙面ごとに割り付けると、一瞬にして40ページほどの紙面がモニター上に仕上がった。紙面製作の担当者がデジタ
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社説(11月28日)「大麻グミ」 被害防止へ規制強化を
大麻に似た成分を含むグミを食べた人が体調を崩し相次いで救急搬送された問題で、厚生労働省は製品から検出された合成化合物HHCH(ヘキサヒドロカンナビヘキソール)を医薬品医療機器法に基づく指定薬物に指定した。12月2日から所持や使用、流通が禁止される。 HHCHは幻覚や意識障害を引き起こす大麻の成分と構造が似ているが、規制対象外だった。厚労省は類似構造の成分をまとめて禁止する包括指定も検討している。規制や啓発を強化し、健康被害を防がなければならない。 「大麻グミ」は店舗やインターネットで販売され、同様の製品を販売しているとみられる静岡市の店舗も、東海北陸厚生局麻薬取締部の立ち入り検査を受けた
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記者コラム「清流」 カツオの価値 再認識
自分たちが過ごす町には名物名産がある。食べ物、風景、伝統技能…。ただ日常的に接しているといつしか当たり前になってしまう。その価値が判然としなくなり、いつしか発信することを忘れてしまう。「宝の持ち腐れ」になることを防ぐには、名物名産を客観視する機会を設けることだと思う。 焼津で全国カツオまつりサミットが開かれた。初日の講演では、鹿児島県、宮崎県、宮城県、西伊豆町といった全国のカツオどころが現状への危機感を訴えた。少子高齢化に伴う担い手不足、魚食離れによる需要減。直面する課題の打開に向けて、どこの町もカツオの価値を見直し、外へ発信する取り組みをしていた。他県の事例を知る機会は貴重
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記者コラム「清流」 野生鳥獣との共生
1日の野生イノシシとニホンジカ対象の銃、わな猟解禁を皮切りに狩猟シーズンが本格化した。各地の猟友会員が山に入り、捕獲、狩猟に奮闘している。 野生鳥獣による農林業被害が問題視されるようになって久しい。浜松市天竜区の農家の男性は「防護柵設置などの対策はしているが、自然の力にはかなわない」と不安を隠さない。 鳥獣被害が増える中、ジビエ(野生鳥獣肉)を使った料理を販売したり、獣の皮を用いたかばんや雑貨を作ったりする取り組みが広がっている。消費の場が増えることで社会の関心が高まる期待がある。野生鳥獣の生息域拡大の理由は天敵不在や地球温暖化に求めることはできるが、戦後の大規模な人工林造成や耕作放棄地
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記者コラム「清流」 富裕層ツアーでの恩恵
薄暮の三嶋大社に響く優美な音色に、取材を忘れて引き込まれた。訪日富裕層向け実証ツアーで催された雅楽師東儀秀樹さんの演奏。一般参拝者も幻想的なステージに浸っていた。 三島市観光協会が観光庁の補助事業を活用して実施した。三島商工会議所も別の実証ツアーを行い、清流で知られる桜川に設置した川床でウナギを焼いて食べる体験などを用意した。 補助金で賄った経費を考えると、実際の参加費は相当高額になるらしい。ただ、他では味わえない特別な体験にはいずれも商機があると見込んでいる。 おこぼれにあずかった形の東儀さんのステージは、心に残る経験だった。富裕層に特別な体験を提供しつつ、一般市民にも恩恵をもたらす
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大自在(11月27日)角界のプリンス
ウルフと言えば元横綱千代の富士。元横綱輪島なら蔵前の星。函南町出身の雑学系ライター、杉村喜光さんの「異名・ニックネーム辞典」(三省堂)で由来を知ると、クスッとしたり、なるほどと感心したり。異名を持つ大相撲力士は多い。 秋場所に続き九州場所も千秋楽まで優勝争いに絡み、土俵を盛り上げた熱海富士(熱海市出身)。師匠の伊勢ケ浜親方(元横綱旭富士)は青森県出身で、相手の力をかわす体の柔らかさから「津軽なまこ」と呼ばれた。旭富士の師匠だった大島親方(元大関旭国)は食い下がったら離れない「ピラニア」とも、技能賞6回の巧みな取り口に「相撲博士」とも。 10月の全日本力士選士権。露払いに熱海富士、太刀持ち
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社説(11月27日)五輪巡る馳氏発言 真相の究明が不可欠だ
石川県の馳浩知事が東京都内で行った講演の中で、2013年に開催が決定した東京五輪の招致活動に際し、開催地決定の投票権を持つ国際オリンピック委員会(IOC)の委員に内閣官房報償費(機密費)を使って贈答品を渡したと発言した。馳氏は自民党の東京五輪招致推進本部長を務めていて、当時の安倍晋三首相から「五輪招致は必ず勝ち取れ」「金はいくらでも出す。官房機密費もあるから」などと指示されたという。 馳氏はその日のうちに発言を全面撤回し、翌日には「事実誤認だった」と謝罪した。しかし、発言が事実なら「贈与」を禁じたIOCの倫理規定に違反する可能性が極めて高い。さらに故人である安倍氏の発言に言及したにもかかわ
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大自在(11月26日)伊集院さんの言葉
24日に亡くなった直木賞作家の伊集院静さんは、肘を痛めて退部するまでは立教大野球部でプレーした。米大リーグ、ヤンキースなどで活躍した松井秀喜さんと交流するなど野球に関する文章も多い。 だが、エンゼルスからフリーエージェント(FA)になっている大谷翔平選手には手厳しい。投打二刀流について「褒め言葉ではない」と最後まで懐疑的だった。 大谷選手がけがで戦列を離れた9月。日本人初の本塁打王を確実にしていたにもかかわらず、伊集院さんは週刊誌に「行儀、躾[しつけ]の悪い野球をする」「自分のことだけ考えて生きている」と書いたそうだ。3月のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)優勝で日本中に歓喜を
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時論(11月26日)「中央日本」縦ラインに目を
身近なだけに、食べ物の東西比較は興味深い。ウナギの調理しかり、雑煮しかり。そば・うどんの「きつね」「たぬき」はややこしく、大阪で「きつね」を注文するときつねうどんが出てくるから、きつねそばが食べたければ「たぬき」と頼むそうだ。揚げ玉を載せるのは「ハイカラ」。 同じメーカーのカップそば・うどんも、東と西で粉末スープの味付けが違うと聞いたこともある。 静岡、山梨、長野、新潟の知事が集まった「中央日本4県サミット」で、川勝平太知事がそばで連携しようと提案した。生産量全国2位、人口10万人当たりのそば店数が1位とされる長野県を差し置いてというのは杞憂[きゆう]のようだ。 土肥金山(伊豆市)と佐
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社説(11月26日)杉田氏の差別発言 自民の良識が問われる
自民党の杉田水脈[みお]衆院議員による、アイヌ民族や在日コリアンに対する差別的な発言が続いている。9月から10月にかけて札幌、大阪の法務局が杉田氏の過去のフェイスブックへの投稿を人権侵犯と認定したにもかかわらず、本人は11月に入りX(旧ツイッター)への投稿で法務省の認定制度そのものを批判し、自身を正当化した。アイヌ文化振興事業の関係者をやゆした発言も波紋を呼んでいる。 こうした言動に対し、所属する自民党の対応が極めて鈍い。岸田文雄首相(党総裁)は2022年8月の第2次岸田改造内閣で杉田氏を総務政務官に任命し、23年9月の党人事では環境部会長代理に起用した。 過去には性的少数者や女性に対す
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【提言・減災】首都直下ガス 対策急務 長尾年恭/静岡県立大客員教授
今年は関東大震災から100年という節目の年だった。この地震で旧陸軍被服廠[ひふくしょう]跡では3万8千人を超える犠牲が出たが、その主因は火災旋風の発生というのが定説である。ところが、この火災で東京市(当時)内のあちこちで洋釘などの鉄製品が溶解した。鉄の融点は1500度を超えており、木材では最高でも1200度程度までしか到達しない事から、なぜ鉄が溶けているのかは謎であった。 近年、信州大学の榎本祐嗣名誉教授が南関東ガス田由来のメタン火焔[かえん]の噴出が火災旋風発生の大きな原因であったという激甚火災を裏付ける資料や証言を多数発見した。1855年の安政江戸地震は、発生が夜中だったため大地の割れ
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大自在(11月25日)ブラックフライデー
高校時代はバブル景気直前で、衣料のデザイナーズブランドが隆盛だった。年2回の割引セールが楽しみだったが、小遣いではたいしたものが買えず、社会人になったら思い切り買い物がしたいと思ったものだ。ただ、実際に就職した後は興味を失ってセールに行くこともなくなった。 時代とともにセールのありようも変わっているようだ。街では、きのうの「ブラックフライデー」に合わせた商戦が繰り広げられた。今月中旬から月末ごろまでをセール期間にしている商業施設や小売店もある。 もともとは米国で1960年代に定着した。祝日の「感謝祭」(11月の第4木曜)の翌日で休暇になることが多く、買い物客で混雑するため小売店が1年で最
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社説(11月25日)ガザ「戦闘休止」 合意の完全履行果たせ
パレスチナ自治区ガザ北部に侵攻しているイスラエルとガザを実効支配するイスラム組織ハマスは、戦闘の4日間休止に合意し、24日から実施期間に入った。 合意では、ハマスもイスラエルから拉致して人質としている女性や子ども50人を解放する。さらにイスラエルは拘留しているパレスチナ人の未成年者ら150人を釈放していく。ハマスが引き続き人質を10人解放するごとに、追加で1日ずつ戦闘を休止することも表明している。 10月7日にハマスが越境テロ攻撃を仕掛けて1カ月半が経過した。イスラエルの報復攻撃を受けたガザ側の死者は21日で1万4100人を超えたとされる。イスラエル側の死者も約1200人に上る。4日間の
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記者コラム「清流」 終わりに響く音
「クワアアアアアア」。ハロウィーンが近づく10月下旬、悲鳴を絞り出したような鳥の鳴き声が繁華街の空に響いた。あまりの不気味さに新約聖書のヨハネの黙示録(アポカリプス)で世界の終わりを告げるとされる音「アポカリプティックサウンド」を連想した。 街はコロナ禍以降、何かがおかしい。仮装を楽しむハロウィーンでも悪乗りする若者が増えた気がする。ホストクラブで大学生が亡くなる傷害致死事件や美人局(つつもたせ)強盗など若者の凶悪事件も相次ぎ、体感治安の悪化を感じる。 あの異様な鳥の声は現代への黙示録か、時代の変化が生んだひずみに響く誰かの悲鳴か。理想を追う“仮装”ばかりで現実感
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記者コラム「清流」 最後の晴れ舞台
御殿場高吹奏楽部の演奏会が御殿場プレミアム・アウトレットで開かれた。3年生3人にとって同部での最後の晴れ舞台。多くの来場者から温かい拍手を受けて、笑顔で卒部を迎えた。 3人は新型コロナ禍の真っ最中に入学した。観客の前で奏でる機会はほとんどなかったという。それだけに喜びはひとしおだったようだ。施設側の計らいも光るよい企画だったと思う。 御殿場市、裾野市、小山町の広域連携研究会による高校生を対象とした調査では、部活動をはじめとした地域での体験や経験が地域愛と深く結びつき、「住み続けたい」という思いを喚起する可能性が示された。新型コロナが影を落とす生徒たちの部活動の思い出に輝く1ページが加わっ
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記者コラム「清流」 名前を知る前に
「はじめまして、今日はよろしくお願いします」―。相手の目を見ると同時に1枚の紙を両手で手渡す。 名刺交換は自分を知ってもらうための玄関口で、自分もまた相手を知る入り口になる。「すてきな名前ですね」「こんな遠いところから来たんですか」など会話が弾む瞬間から取材は始まっている。 先日、とある男性から受け取ったのは明るい生き物が描かれた名刺。寒さで手がかじかんでいることを忘れさせ、心がホッとした。名前より先に男性の人となりが分かったような気がした。その後男性はほほ笑みながら紙を裏返し、名前を知ることができた。 まずは名前を知ってから―。と思っていたが、その前にもその人を知るヒントがあると気づ
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大自在(11月24日)鷹狩り
最初の「肉食禁止令」は675年に出されたと日本書紀は記述する。仏教思想もあって、日本では明治の文明開化まで表向き獣肉を食べなかった。ウサギを1羽、2羽と数えるゆえんとされるが、異説もある。 一方、上流社会では鳥や魚はよく食べられていた。美味な「三鳥五魚」のさばき方が室町時代の文書に伝わる。三鳥はキジ、ツル、ガン。野鳥は四本脚の肉より上品な食材とされた。ちなみに五魚とはコイ、タイ、マナガツオ、スズキ、フナ。 野鳥は鷹[たか]狩りの獲物だった。徳川家康の鷹狩り好きはよく知られる。健康維持や所領巡視のためだけでなく、鷹や獲物の贈答による支配システム維持を図ったとされる。 鷹狩りが江戸幕府の年
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社説(11月24日)ミャンマー情勢 日本は停戦呼びかけを
ミャンマー北東部シャン州などで国軍と少数民族武装勢力の戦闘が激化している。2021年2月に国軍がクーデターで権力を掌握して以降、抵抗勢力との衝突は続いているが、これまでにない規模となっている。軍事政権は、軍が事態に効果的に対応しなければミャンマーは分裂すると強い危機感を示す。戦闘が全土に拡大する恐れがあり、何よりも民間人を含む犠牲者の増大が危惧される。 国際社会、とりわけ欧米諸国の関心は、ロシアに侵攻されたウクライナと、イスラエルと戦闘状態にあるパレスチナ自治区ガザ地区に集中している。だが、多くの国民が人道的な危機に直面しているミャンマーの情勢も極めて深刻な状況だ。 シャン州は中国と境を
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記者コラム「清流」 弁論に集う若者
先日初めて静岡市清水区で行われた第68回全国青年弁論大会を拝聴し今も余韻に浸っている自分がいる。SNS全盛の時代に40人の全国から集まった若者たちが肉声で自分の意見を述べる場はぜいたくに感じた。 参加者にはいわゆるZ世代も多い。世代の隔絶などの文脈で語られることもある彼らが、原稿を見ずに手ぶりを交えて7分間、多様性や性、不登校の友人、資本主義などのテーマについてまっすぐな目で語る。スマホを見る時間を惜しみ、自宅や電車の中などでも繰り返し練習したのだろう。 都内の大学では近年弁論部の部員が以前より増えているそうだ。9時間に及んだ大会の終わりには、会場内に連帯感が生まれていたように思う。リア
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記者コラム「清流」 あるべき自然界の姿に
秋が深まり季節物の取材が増えると同時に、野生動物の出現も増えた。さわやかな香りが漂うネギ畑や、甘く熟した果物を見て腹をすかすのは人間だけではない。 10月下旬、沼津市と伊豆の国市の境付近にクマのような動物の目撃情報が入り現場に向かった。山に囲まれた道路の脇には木の実が散乱していた。数分ばかり歩くと民家があり、色鮮やかなオレンジ色に染まった柿農園の景色が広がっていた。野生動物にもおいしそうに見えるだろう。 本当にクマが出現したかは定かでないが、山奥の食べ物が尽きれば人里に出てきて当然だ。クマを殺す前に、本来の生息地で何が起きているのか、何をするべきか、どうすれば共存できるかしっかりと考えた
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記者コラム「清流」 バルの出会いを堪能
浜松市中心市街地の飲食店を巡りながら酒や自慢の逸品を楽しむ「浜松城下町バル 秋の陣」に参加した。もちろん、仕事ではなくプライベートで。10年来の知人と3500円で購入した電子チケット3枚で3店舗を回り、普段とは違う浜松の夜を満喫した。 このような飲み歩きイベントの魅力はなんといっても「出会い」。新たな店の発見もさることながら人との触れ合いがたまらない。 実行委は今回、拠点施設での振る舞い酒を久々に復活した。100円のビール以外の酒は全て無料。イベント出発前の立ち寄り先としての位置づけだが、実行委メンバーや別の参加者との会話が弾み、おかわりの回数とともに、時間はどんどん過ぎていった。 新
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社説(11月23日)北朝鮮「衛星」発射 緊張緩和へ圧力強めよ
北朝鮮が「軍事偵察衛星」を21日深夜に打ち上げ、地球の周回軌道への投入に成功したと発表した。本当に機能するかは確認されていないが、弾道ミサイルの発射実験を繰り返して蓄積した技術が活用されたのは確実で、日本を含む東アジアの安全保障にとって重大な脅威だ。国連安全保障理事会の決議に違反しており、強い非難に値する。 とはいえ、国際的非難を無視し、国民の経済的苦境や過酷な人権状況を顧みずに軍事的緊張を高めて軍備増強に走る金正恩[キムジョンウン]朝鮮労働党総書記に対し、有効な抑止の手だてが見いだせないのも事実だ。日本は米国や韓国と連携を強化して不測の事態に備えるとともに、影響力のある中国を巻き込んで事
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大自在(11月22日)月と万博
今夏、インドの無人探査機が史上初めて月の南極付近に降り立った。月面着陸は米国、旧ソ連、中国に次ぐ4カ国目。 世界で初めて月面に至った米国は「アルテミス計画」で2025年の再着陸を目指す。中国も30年までに初の有人着陸を実現し、月面探査を行う計画を発表した。9月には宇宙航空研究開発機構(JAXA)開発の小型探査機が打ち上げられた。来年1~2月頃、月面着陸に挑むと聞く。 近年、各国が月面探査の動きを活発化させている。背景には、月の南極付近に水が氷の状態で存在する可能性が浮上したとの事情があるようだ。水は、人が長期滞在するための飲料や酸素、燃料用の水素の原料になる。 人類史上、初めて有人月面
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記者コラム「清流」 戦後78年の涙
秋晴れの下、島田市川根町の公園で戦没者慰霊祭があった。園内の忠魂碑には太平洋戦争などで亡くなった人々の名前と年齢が刻まれている。20代が多く、戦地に赴き24歳で終戦を迎えた祖父の姿が浮かんだ。 亡くなって20年になるが、子どもの頃、戦時中の話を尋ねたことを覚えている。「なぜ戦争をしたのか」との孫の問いに、「そういう時代だった」と答えた言葉にどんな思いが込められていたのか。今も時折思い出して考える。 自らも親になり、今なお世界で続く戦争の悲惨さを子どもにどう伝えていけばいいのか。悩むことがある。慰霊祭は涙を流す人々の姿があった。戦後78年が過ぎても遺族の悲しみが消えることはない。改めて強く
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記者コラム「清流」 愛鷹を青く染めよう
どちらのホームゲームか分からなかった。10月に沼津市の愛鷹広域公園多目的競技場で行われたサッカーJ3の沼津と松本山雅の一戦。客席の専用エリアを埋め尽くした松本山雅サポーターの大声援が終始スタジアムを支配した。J1に所属したこともある松本山雅はJ3屈指の人気チーム―。そう理解していても沼津サポーターとして熱量の差は悔しかった。選手も同じ気持ちではなかったか。 沼津は来季のJ2ライセンスを受けた。昇格実現後5年以内に屋根付き観客席8000席を備えるという条件付き。もちろん条件を満たすのは必須だが、目指すべきは立派なスタジアムではなく満員のスタジアムだ。 松本山雅戦は3―1で快勝。得点シーンで
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記者コラム「清流」 山に人が住む意味
高さ約20メートルの木が「ミシミシ」と音を立てながら、「ドシン」と地面にゆっくり倒れた。迫力ある光景に鳥肌が立った。 浜松市天竜区水窪町で10月半ば、林業の仕組みや木材加工の行程を学ぶツアーがあった。建築業者や一般客約30人が足を運んだ。 ツアーを通して山と都会が非常に密接している事実を知った。山を放置すると土砂崩れが起こりやすくなり、川に大量の土砂が流れこんで都会の災害リスクも高まるという。木を適度に切り、森の過密を防ぐ間伐の仕組みも興味深かった。 浜松市の中心部に人がますます集中する今、中山間地域に人が住み、山を守る大切さを痛感する。「山に人が住んでいないと、山は荒れるんだよ」。今
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社説(11月22日)映画助成巡る判決 表現の自由 守る議論を
文化庁所管の独立行政法人「日本芸術文化振興会(芸文振)」が俳優の薬物事件を理由に出演映画への助成金を取り消したのは違法だとして、製作会社が交付を求めた訴訟の上告審判決で、最高裁は「不交付は違法」とする判断を示した。不交付は「適法」とした二審判決を破棄し、原告の逆転勝訴が確定した。4人の裁判官が全員一致で下した結論で、芸術作品への公的助成金の在り方を巡る最高裁の初判断となった。 判決は、今回のように「公益」が害されることを理由に広く交付が拒否されると、助成を必要とする者の表現行為に「萎縮的な影響が及ぶ可能性がある」と指摘。そうした事態は芸術家らの自主性や創造性を損なうもので、憲法が保障する表
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大自在(11月21日)野球しようぜ!
米大リーグ、エンゼルスの大谷翔平選手が日本ハム最後の年となった2017年。山本由伸投手が高卒でオリックスに入団した。 山本投手は新人時代、日本ハム戦に1試合だけ登板している。大谷選手に安打を許したが、三振も奪うなど才能の一端をのぞかせた。大谷選手は渡米前、「今年対戦した投手で一番よかった」と語ったそうだ。 投打「二刀流」で2度目のアメリカン・リーグMVPを受賞した大谷選手と、3年連続沢村賞に輝いた山本投手。2人がどのチームに行くのかは、大リーグの今オフ最大の話題。山本投手の契約交渉がいよいよ始まる。 1年目のオフに当時DeNAの筒香嘉智選手らと行った合同トレーニングを機に投球フォームを
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社説(11月21日)ガザ地上戦 病院への攻撃許されぬ
パレスチナ自治区ガザ北部に侵攻したイスラエル軍が地区最大規模のシファ病院に突入した。病院の地下に大規模なトンネル構造があり、イスラム組織ハマスの作戦本部になっているというのがイスラエル側の主張だ。 多数の非戦闘員がいる市街地での戦闘も避けるべきなのに、病人や負傷者だけでなく避難住民も身を寄せている病院を戦場にすることは、人道上も国際法上もあってはならない。イスラエル軍は掃討作戦を即時停止して撤収すべきだ。これ以上の人道危機を防ぐために国際社会は連携して圧力をかける必要がある。 18日にシファ病院を訪れた世界保健機関(WHO)などの国連要員は、「デス・ゾーン(死の区域)」と表現、状況は「絶
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記者コラム「清流」 駿河屋の意気込み
静岡市葵区の旧静岡マルイ跡に10月、駿河屋新本店がオープンした。初日は平日にもかかわらず、県内外から集まった300人ほどが早朝から列を作る盛況ぶり。老若男女がホビーの世界に浸る様子が見られた。 豊富な品ぞろえに加え、鉄道模型ジオラマやラジコンカーの走行を試せるスペースなどの体験スペースが話題になった。来店客同士が商品情報を交換するといった交流も生まれているという。同社が目指す「新しい観光地化」への船出は、ひとまず順調のようだ。 地元に向けても、商店街のハロウィーンイベントに参加して子どもを楽しませたり、全国の店舗で大道芸ワールドカップを周知したりと中心街活性化への意欲が伝わる。人を呼び込
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記者コラム「清流」 避難行動のマッチング
5年前の西日本豪雨では、避難に手助けが必要な高齢者や障害のある人が多く犠牲になった。隣家に移動できたら、2階に上がれたら―。富士市のスマホ用アプリ「防災ふじ」はこの教訓から生まれた。 アプリは避難に手を貸す協力者と要支援者を結びつけるマッチング機能を備えている。自力で避難できない人が周囲の不特定多数に自分の居場所を発信し、付近にいる人がスマホで感知し駆けつける。支援に特段の知識や技術は不要だ。 災害時に有用に機能するかどうかは、事前に登録する協力者をどれだけ募れるかに懸かっている。全国初との触れ込みにまず目が止まったが、登録者数の動向にも注目している。ちなみにアプリはもちろんこの他の防災
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記者コラム「清流」 児童の研究 将来期待
夏休みの自由研究などの成果を披露する「小中学生理科研究プレゼンテーションコンテスト」を取材した。各賞に輝いた研究テーマの着眼点や発想力に感服したが、中でも最優秀賞となった小5男児の「カラスが熱中症にならない秘密」は、取材前からタイトルが気になっていた。確かに、黒いカラスは熱の吸収量が他の生物と違うはずだ。 カラスの巣を見つけた男児は「夏休み中、自転車でカラスを追いかけ回していた」と徹底的に観察した。顕微鏡でカラスと他の鳥の羽を比較したり、サーモグラフィーカメラで羽の温度を調べたりしたという。 導き出したのは、羽をばたつかせる行動が体内の熱を逃がすことにつながっているとの結論だった。羽によ
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大自在(11月20日)富士山なぜ青く
「富士山を描いてみて」と色鉛筆を渡されたら何色を使うか。何色に見えているかという問いだ。筆者も長年の疑問だった。 焼津市東益津小6年の佐藤花音[かのん]さんが周囲に尋ねると、青という答えが多かった。そこから始めた自由研究は、空気中の微粒子に光が衝突して空が青く見える「レイリー散乱」に学びを深め、児童生徒の優れた自然科学研究を奨励する第39回山崎賞を受賞した。 富士山がいち早く青く描かれたのは、江戸時代後期の天保2(1831)年ごろから版行された浮世絵師葛飾北斎の「富嶽[ふがく]三十六景」だという。輸入化学顔料の「ベロ藍」(プルシャンブルー)が人々を驚かせた。ベルリン生まれの藍色なのでそう
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社説(11月20日)大手中間が純益増 地域経済にも好循環を
静岡県内に拠点を置く上場企業の2023年9月中間決算は、為替の円安基調を追い風にした自動車関連の好業績が全体を押し上げた。 静岡新聞社が金融機関などを除く31社を集計した結果、最終的なもうけを示す純利益の合計は前年同期比35・1%増。24年3月期通期の業績予想の上方修正も相次いだ。各社は成長継続に不可欠な人材や設備への投資に加え、関係企業との取引を適正化する姿勢も一段と強め、地域経済に好循環を創出する後押しをしなければならない。 自動車関連を中心とする製造業22社の売上高は14・4%、純利益は37・6%それぞれ伸長した。半導体不足の緩和で新車の増産に注力するスズキなど国内完成車メーカー各
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大自在(11月19日)世界トイレの日
きょうは「世界トイレの日」。2001年のこの日、シンガポールを起点に非営利組織の世界トイレ機関が設立された。13年には国連総会で国際デーと決まり、公衆衛生への関心を喚起している。 地球全体では3人にひとりがトイレのない生活をし、1日に1300人以上の子どもが不衛生な水などによる下痢性疾患で死亡している。17ある国連の持続可能な開発目標(SDGs)の6番目が「安全な水とトイレを世界中に」。 国連児童基金(ユニセフ)の報告に、アフリカの女子の10人にひとりが「トイレがない」という理由から、生理中は学校を休んだり退学したりしてしまうとある。生命や尊厳を脅かすトイレ問題は深刻だ。 日本のトイレ
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社説(11月19日)献血者の確保 若者の協力が不可欠だ
若者の献血者数が減っている。厚生労働省と日本赤十字社によると、2022年度に献血した30代以下の若年層は167万人で、12年度の251万人と比べ3分の2まで減少した。ここ10年の献血者数は500万人前後で推移している。若年層の減少分を40代以上がカバーしているのが実情だ。 若者の献血者が減っているのは少子化の影響が大きい。献血で集められた血液は大半が50歳以上の医療に使われている現状を踏まえると、少子高齢化がさらに進めば、血液の安定供給に支障を来す恐れがある。 若い時に献血を体験した人の多くがその後も定期的に協力するという調査結果もある。今年、献血500回を達成して民間団体から表彰された
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時論(11月19日)大谷がまだ超えていないもの
投打の「二刀流」で活躍する米大リーグ、エンゼルスの大谷翔平選手が、2年ぶりにアメリカン・リーグの最優秀選手(MVP)に選ばれた。MVPは1911年に制定され、全米野球記者協会の投票で選ばれる現在の形になったのは31年から。23年にはヤンキースを初のワールドシリーズ制覇に導いたベーブ・ルースが受賞している。 ルースは27年の60発など本塁打王に12度輝いた。しかし、MVPは1度だけで、受賞回数では大谷選手が上回った。これは、ルースが活躍していた当時、ア・リーグではMVPは1度しか受賞できなかったことによる。もちろん、時代背景や今と昔では野球の違いも当然ある。2桁勝利2桁本塁打を含め、2人を比
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大自在(11月18日)敦煌
「敦煌と聞いてすぐに何かのイメージが思い浮かぶ人は、日中関係の幸せな時代を知る人だ」(榎本泰子著「『敦煌』と日本人」)。当欄筆者はその1人。文学シンポジウム「井上靖と敦煌」の開催を知り、会場の伊豆市湯ケ島に先日足を運んだ。 中国西域を舞台にした歴史小説「敦煌」は、湯ケ島で少年期を過ごした井上靖の代表作。伊豆市と現地の敦煌市をオンラインで結び、パネリストは文豪のエピソードやシルクロード都市の様子を語り合った。 小説発表の1959年当時、敦煌は辺土だったが、現在は年間1500万人が訪れる観光地という。生涯27回訪中した井上靖が、敦煌を初めて訪れたのは小説発表から約20年後の78年。現地を見ず
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記者コラム「清流」 自分に優しい目 向けて
この夏、静岡市内の結婚式場で乳がんの治療を経験した人にウエディングドレスを着てもらうイベントがあり、20代の助産師の女性に出会った。ヘアメークの間、闘病の体験を聞かせてもらった。 治療が一段落した後の落ち込みが一番激しかったこと、大学院の休学を経て助産師になる夢をかなえたこと、「恋愛はもう無理」と思っていたが、最近、結婚したこと―。芯の強さと明るい人柄に引かれたこともあり、再度、取材をお願いし、「ピンクリボン月間」(10月)に合わせた特集記事を書いた。 「自分に優しい目を向けてほしいと伝えたい」と女性。自分の体や心に関心を持ち、変化に敏感になることが、病気の早期発見にもつながる。「自分を
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記者コラム「清流」 悠久の時を感じる場所
日本で最初に築造当時の姿に復元された五色塚古墳(神戸市)を見に行ったことがある。墳丘に立って周辺の住宅街と海峡を交互に眺めた。斜面は無数の葺石(ふきいし)で覆われ、堀の芝生も鮮やかだった。 復元工事を終えた掛川市の吉岡大塚古墳を見学して、古墳の魅力を再確認した。規模は五色塚古墳の3分の1にも満たないが、たたずまいに存在感があり、周囲の茶畑との対比も美しい。連続する人の営みに思いを巡らせた。想像をかき立てる力は五色塚古墳に引けを取らないと思う。 高天神城など中世以降の歴史資源に恵まれ、関連イベントが多い掛川市。古代の古墳の復元整備完了は、文化財を活用した観光振興の新機軸になる。1500年以
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社説(11月18日)市販薬の過剰摂取 危険周知し背景に目を
薬局やインターネットで手軽に買える風邪薬やせき止めなどの市販薬を、気分を上向かせたり不安を紛らわせたりするなど、目的外で過剰摂取する人が若者を中心に増えている。健康被害や命を落とす危険性を周知し、乱用を防がなければならない。生きづらさからの逃避目的があるとみられ、背景に目を向け支援の手を差し伸べる必要がある。 国立精神・神経医療研究センターの調査によると、全国の精神科で薬物依存症の治療を受けた10代の患者が使っていた主な薬物は、2014年は48%が危険ドラッグだったが、20年には市販薬が過半数となり、22年には65%を占めた。10代の若者が関心を持つ薬物が世代交代した形だ。 危険ドラッグ
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記者コラム「清流」 大自然に囲まれて
好きなミュージシャンの「インスピレーションを得るために山の中のスタジオで曲作りした」なんて話を聞くと、本当にそんな効果が? といつも思っていたが、ようやく謎が解けた。 南伊豆町でシンガー・ソングライター白井貴子さんによる林業体験会が開かれた。会場は何と白井さんが所有する山林。定期的に訪れてキャンプをしているそうで、この場所で生まれた曲もあるそう。「大自然の中にいるとね、普段とは違う感情になって曲が生まれるのよ~」と気さくに教えてくれた。確かに素人考えでもそんな気になってくるから不思議。 南伊豆で生まれた曲を当地で演奏するライブがあったら、なんてすてきでしょう。ビッグネームに恐れ多いが、そ
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大自在(11月17日)犯罪とは
犯罪とは何か。40年間愛用する国語辞典には「法律に違反する行為」とある。刑法はじめ法律に定められた罰則がある行為と言い換えられるだろうか。それでは、どんな行為が犯罪とされるのか。絶対悪の殺人や窃盗は間違いなく犯罪であろう。しかし、国によって犯罪か否か異なる行為もある。 真っ先に思いつくのは多くの国で合法化されているカジノ。日本では競馬や競艇といった公営ギャンブル以外の賭け事は刑法で禁止されていたが、政府が掲げる「観光立国」実現のスローガンの下、国外からの誘客などを目的に地域を限定して解禁された。 もう一つは一般ドライバーが自家用車を使って有料で客を乗せる行為。米国、中国、東南アジアなどで
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社説(11月17日)補正予算13兆円超 借金頼みが止まらない
経済対策の裏付けとなる政府の補正予算案が決定した。相変わらずの借金頼みだ。 歳出は13兆1992億円に上るものの、歳入に計上した税収の増加分は1710億円しかなく、全体の7割近くを占める8兆8750億円は国債の増発で手当てする。 日本の財政状態が深刻だと言われて久しいが、さらに借金を増やして状況を悪化させる岸田文雄首相の財政への危機感はどうなっているのだろうか。補正予算案は20日、臨時国会に提出される。国会で厳格な審議を求めたい。 経済対策の眼目は、国民を苦しめる物価高対策だったはず。確かに低所得世帯に7万円を給付する1兆592億円を盛り込み、ガソリンなどの燃油と電気・都市ガス代の抑制
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時論(11月17日)沼津市議会、改革は意識から
沼津市議会が、開かれた議会へ改革案を示した。一般質問の日程明確化や委員会のネット中継などが柱。本会議における市議の「市有地のタケノコを採って売った」との“自白”から、異例の再懲罰処分に発展するなど騒動となった9月定例会がきっかけだ。 同定例会に対し、施策審議より処分をどうするかに時間は費やされたと市民の見方は厳しい。沼津市議会はこれまでも一部議員の言動が問題視され、懲罰処分を受けたのは複数人に上る。市民の負託を受けた「選良」の自覚を再認識する必要がある。各議員の意識改革が先決だ。 沼津市議会を取材して2年。以前から疑問の連続だった。議長や委員長の制止を無視して大声
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記者コラム「清流」 「野生の勘」を磨く
「マグロでも捕まえるように犯人を取り押さえていた」。4月、岸田文雄首相の遊説中に爆発物が投げ込まれた事件で容疑者確保に協力した漁師がいた。テレビで漁師を見た衝撃を富士宮市の墨汁画家伊藤千史さんはそう、振り返った。 伊藤さんはこの漁師をモデルに犯人に向かって力強く手を伸ばす勇敢な姿を作品「野生の勘」に描いた。静岡市内で開いた自身の個展でメイン作品に位置づけた。この作品の向かいには観音様の手が小さな脳を挟んでいる様子で電脳空間を表現した作品「人脳」を並べた。便利さは人間が本来持つ感覚を鈍らせてしまっていないか、問いかけた。 「波と闘い、魚を捕らえる漁師の野生の勘は、首相の警護官をもしのぐ力強
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記者コラム「清流」 魅力を育てたい
「魅力」という言葉の意味を調べると、人の心を引きつけて夢中にさせる力-とある。先日、御前崎市の池新田高1年生が「シアワセミライ会議」と題し、自分たちで考えた地域活性化策を提言した。同校と市の連携事業で地域の魅力を発見し、課題解決力を養うことが狙いだった。 生徒は人口減少が進む現状などを踏まえ「カフェ経営で観光客を呼びたい」「海をSNSで情報発信したい」などと意見を発表。ある生徒からはこんな言葉も聞いた。「物事の発想次第でまちは良くなりそう」。生まれ育った地元の魅力に気づき、まちづくりのイメージを膨らませていた。ただ、市の実情に目を向ければ税収や産業経済は落ち込み、閉塞感が漂う。若者の希望や
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大自在(11月16日)岸田文雄内閣
「六甲おろし」といえば、兵庫県の六甲山から吹き下ろす風のことだが、プロ野球阪神タイガースの応援歌としての知名度の方が高いだろう。阪神が38年ぶりに日本一となり、全国各地にファンの歌声が響き渡った。 同じ「おろし」でも、こちらは政党の生き残りをかけた生臭いものになるかもしれない。岸田文雄内閣の支持率が政権発足後の最低水準に落ち込んでいる。来年秋の自民党総裁選での再選を目指す岸田首相だが、党内から「岸田降ろし」の動きが出かねない状況だ。 少し前には岸田氏再選は確実とみられていた。ところが、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)と党の議員との関係やマイナンバーカード問題、政務三役の不祥事などで支持
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記者コラム「清流」 ヒジャブとアジア大会
2014年に韓国・仁川で開催されたアジア大会を取材した際、中東の女子選手が頭を覆う布「ヒジャブ」をかぶって競技に臨む姿が印象的だった。 戒律の厳しいイスラム圏では、スポーツへの女性進出が遅れがちとされる。当時の彼女たちも感情を押し殺してプレーしているように映った。だが今秋、中国・杭州で行われたアジア大会では、ヒジャブ姿の選手が力強く動き、雄たけびを上げる光景を目にした。個人差かもしれないが、9年の時を経て何かが変わっている気がした。 「アジアのオリンピック」は次回で20回目。競技数は五輪を上回り、開催地の負担は増す。存続の危機や大会の意義が問われる時が来るかもしれない。ただ、この大会が今
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記者コラム「清流」 レア要素満載ガチャ
富士宮市のご当地「宮ガチャ」がアツい。あらゆるイベント会場でガチャ台を見かけるようになった。しかもどれも中身が違う。 市が公認として発表してまだ半年もたっていないが、すでに19種類が企画され、作られた絵柄は1100を超える。イベント限定品を次々に打ち出すことで、利用者を飽きさせないようにしているのだそう。その時その場所でしか手に入らない景品は良い記念になる。「次の新作はね-」と会うたびに意気揚々と教えてくれる市担当者には脱帽させられる。 ガチャ台の前には行列ができる。一回に全ての運を掛けるも良し。財力に物を言わせるも良し。楽しみ方はさまざまだが、カプセルを開けるワクワクはいつも変わらない
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記者コラム「清流」 記憶に残る日
初めてプロ野球の試合を観戦した日のことを今でも覚えている。当時5歳。家族に連れられて訪れたドーム球場の大きさ、間近で見たスター選手のオーラ、試合中に電光掲示板に映し出されたこと…全てが良い思い出で、スポーツ観戦にはまるきっかけになった。 先日、三遠ネオフェニックスの試合を観戦した。バスケにはほぼ触れたことがない。自分でも楽しめるのか。不安はすぐ吹き飛んだ。試合のスピード感や迫力にすっかり魅了された。加えてこの日はネオフェニックスが浜松で2季ぶりに勝利を挙げた日。終了のブザーが鳴った時の盛り上がりが鮮明に残っている。 会場では小さい子ども連れの姿も見かけた。躍動する選手の姿は
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社説(11月16日)財務副大臣の辞任 納税者への説得力欠く
過去に固定資産税などを滞納していたことが明るみに出た神田憲次財務副大臣(衆院愛知5区)が辞任した。岸田文雄首相による事実上の更迭だ。9月に行われた内閣改造で任命された政務三役の不祥事による辞任はこれで3人目。報道各社の世論調査では、岸田内閣の支持率は一昨年10月の政権発足以降の最低水準に落ち込んでいて、神田氏の辞任が政権にさらなる打撃となるのは必至だ。 岸田氏は神田氏辞任を受けて「任命責任は重く受け止めている」と述べたが、口先だけの反省は国民に響くまい。政権への視線は一層厳しくなると覚悟すべきだ。既に10月の衆参2補欠選挙や最近の地方選挙で自民党が苦戦し、支持率低迷の影響が出始めている。こ
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大自在(11月23日)仲子姫伝説
伊豆半島南端の石廊崎にも近い南伊豆町二条。かつて庄屋だった旧家に京から女官が流されてきたという「仲子姫伝説」が残る。伝説にまつわる資料や遺物があると聞いて訪ねた。 江戸時代初め、宮廷で公家や女官が密通して処罰された「猪熊事件」が起きた。事件に連座して新島(東京都)に配流されたのが中院[なかのいん]仲子。宮廷では権典侍[ごんてんじ]を務め、配流時は16歳だった。 伝説では仲子と侍女は新島に向かう途中、船が難破して石廊崎に漂着。そのまま二条の庄屋鈴木家の庇護[ひご]を受けることになった。事件から14年後、仲子は許されて京に戻ることになったが、その際に侍女が亡くなった悲話も伝えられる。 仲子
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大自在(11月15日)番付表
最下段の序ノ口力士の文字は、2ミリもない。大相撲九州場所の番付表を手に取った。肉眼で探すのも大変だが、西序ノ口14枚目のところに安青錦[あおにしき]。その上に片仮名で出身地が書いてある。 19歳の安青錦は、十両獅司に次いで2人目のウクライナ出身。ロシアによるウクライナ侵攻後の昨年4月に日本に避難してきた。国際大会で知り合った関西大相撲部主将(当時)の山中新大[あらた]さんを頼って避難生活と稽古を続け、安治川部屋に入門した。 元関脇安美錦の安治川親方は、伊勢ケ浜部屋の部屋付き時代には翠富士(焼津市出身)や熱海富士(熱海市出身)らを鍛えた。早稲田大学大学院でも学び、異文化交流で相撲の魅力を発
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記者コラム「清流」 勝手に受け取った激励
最近、取材先で懐かしい顔に会う機会が続いた。自分が営業職だったころ、夜通しイベント設営に励んだ社内外の仲間や、良くも悪くも社会人としての生きざまを学んだ入社時の先輩など、現在は新たな世界へ転職した方々だ。互いに以前と違う立場での近況報告は新鮮だった。 培ってきた経験や年齢などを考え、転身にはさぞ勇気がいっただろうと想像し、決断に至った経緯に耳を傾ける。伝わってきたのは手探りで進む不安以上に、新境地にかける熱意と希望だった。力強い口調とポジティブな視線が、さりげなく自分の背中を押してくれた気がした。「おまえも頑張れよ」と。 勝手に受け取ったエールを励みに、自分も記者職ととして何事にも好奇心
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戦後78年 戦争体験伝承 残された時間多くない【東部 記者コラム 湧水】
「被爆者の方たちはどんどん亡くなっています。今を生きる世代が、どのように継承していくべきか。残された時間は多くありません」-。今夏、戦争関連の取材で滞在した広島市で、原爆投下前の白黒写真のカラー化を通じて記憶の継承活動に取り組む東京大4年の庭田杏珠さん(21)が言葉を紡いだ。 被爆者の平均年齢は85歳を超えた。当地「ヒロシマ」ですら戦争、被爆体験の伝承が課題になっている。ならば、本県においても戦争体験の伝承が曲がり角に差しかかっているのは言うまでもない。 広島市では、自身の体験を語る「被爆体験証言者」に加え、証言者から研修を受けて講話する「被爆体験伝承者」養成制度を設けている。こうした取
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記者コラム「清流」 クルマの未来は…
都内で開かれた「ジャパンモビリティショー」は自動車産業が変革期にある中、モビリティという表現で間口を広げて刷新した。完成車や構成部品だけでなく「空飛ぶクルマ」や電動小型モビリティなど、移動のあり方が従来の乗り物に限らない社会の到来を確かに予感させた。 ショーを通じて「誰もが移動を快適に楽しめる」ことに価値を置いた展示が目立った。2035年を想定したコンセプト車は自動運転で走行し、車内ではジェスチャーや言葉による画面操作が行われる。両手を使わずに体の重心で動く次世代モビリティもあった。 過去最大の出展数の中、初参加という企業は構想や投入技術を熱っぽく説明してくれた。近い将来、展示体験した技
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記者コラム「清流」 税と選挙
沼津市の高校で開かれた税と選挙に関する教室。「富裕層への所得増税で所得の再分配を」「消費増税で助け合う社会を」「小さな政府で財政縮小を」-。これらの主張をする3人の架空の候補者から生徒が議員を選ぶ模擬投票が行われた。 投票の結果は8対2対6で所得増税を訴えた候補が勝利した。公約に若者世代への再分配を加えたのが、勝因だったのだろうか。 減税か、給付か。国会で論戦が繰り広げられている。物価高に苦しむ庶民としては、減税や給付はありがたいが、一方で高齢者福祉に少子化対策と必要な支出ばかりの日本の財政は大丈夫か-というのが、多くの国民の思いだろう。 「税金の使い方を決めるのが議員」。教室はこう結
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社説(11月15日)沼津市の新貨物駅 まちづくりに知恵絞れ
沼津市のJR沼津駅付近の鉄道高架事業に伴い、市西部の原地区に移転する新貨物ターミナルの本体工事が始まった。完工見通しは2027年度末。市とJR貨物は連携協定に基づき、新貨物ターミナルを核とした地域経済再生への道筋を探る。国のモーダルシフト推進と、海上輸送との連携が可能となる田子の浦港(富士市)の存在は追い風だ。事業主体の静岡県を交え、県東部の新たなまちづくりにつなげなくてはならない。 国は、運送業界の働き方が変わることで生じる「2024年問題」や慢性的なトラック運転手不足に対応するため「物流革新緊急パッケージ」をまとめた。対策を講じなければ、輸送力が24年度に14%(ドライバー14万人に相
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大自在(11月14日)洋上風力発電
海面に並び立つ白い支柱の先端で、ブレードと呼ばれる巨大な羽根がゆっくりと回転している。沿岸に洋上風力発電の風車20基が設置された秋田県の能代港。秋田港の13基とともに1月、国内で初めて商業運転を開始した。発電量は計140メガワット。一般家庭13万世帯の消費電力に相当する。 事業会社は秋田県内の企業7社を含む13社で構成し、総事業費は1千億円。まだ黎明[れいめい]期で建設や維持のコストは高いが、岡垣啓司社長は「遠くない将来、陸上より低コストで発電できる。国内の主力電源になることも夢ではない」と力を込める。 冬場を中心とする強風は飛砂や地吹雪、火災をもたらす悩みの種でしかなかった。地元の能代
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社説(11月14日)コロナ融資返済難 支援継続し経営再建へ
新型コロナウイルス感染拡大で打撃を受けた中小企業支援策として政府系金融機関が実施した実質無利子・無担保融資(ゼロゼロ融資)などを会計検査院が調べたところ、2022年度末時点で計697億円が回収見込みのない損失として処理されていた。回収不能となりそうな債権も1兆円を超える。 元本返済を最大5年間据え置くなど異例の手厚い措置で積み上がった融資が今、次々と返済時期を迎えている。ところが返済の負担に物価高騰や人手不足が重なり、先の見えない企業が多い。コロナ後の経営再生に向け、政府や自治体は支援の継続と拡充に本腰を入れる必要がある。 静岡県信用保証協会によると、廃業などで返済を肩代わりした代位弁済
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記者コラム「清流」 異文化交流 貴重な時間
米カリフォルニア州マリーナ市と今夏に友好都市提携を結んだ伊豆の国市は10月、交流活動の第1弾として高校生同士のオンラインミーティングを開いた。伊豆の国市の参加生徒は初めは緊張気味ながらも、会話を交わすうちに次第に打ち解けて盛り上がった。 ダンスを踊ったマリーナ市の生徒に、盆踊りの振りを披露する場面も。分からない英語があっても、市職員の力を借りて身ぶり手ぶりとともに伝えた。会話がうまくいくと子どもたちからは笑顔が見られた。終了後に話を聞くと、大学に進んでも英語を勉強したいという意見もあった。 多様性を培うためにも海外の文化を学ぶことや外国人との出会いは必要だ。子どもたちにとっては将来の視野
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記者コラム「清流」 未来の利害考え協議を
最近、静岡大と浜松医科大の運営法人統合・大学再編の取材に携わっている。以前から静大の超小型人工衛星やAI関連を追ってきた身としては、再編協議に関わる教授の「未来のステークホルダー(利害関係者)のことを考えるべき」との指摘は理解できる。 運営法人を統合し、浜松地区と静岡地区の大学に再編する「1法人2大学」方式が2019年の合意案。一方で静大の日詰一幸学長らは、静大と浜医大を1大学に統合して静岡と浜松に2校を置く「1大学2校案」を正式案にしようとした。ただ、10月の役員会では先送りになった。 迷走しているようにも映る。将来、優秀な学生だけでなく先駆的な研究を専門にする学者からも静大が選ばれな
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視座(11月13日)国民向いた政権運営を 岸田内閣の支持率最低に
岸田文雄首相が年内の衆院解散・総選挙を断念した。経済対策に専念するとし、財源を裏付けるための2023年度補正予算の成立と盛り込んだ施策の実行を優先させる意向を示した。ただ、それを額面通りに受け取ることはできない。物価高対策として定額減税策を打ち出した岸田氏だったが、報道各社の世論調査で内閣支持率は軒並み下落して一昨年10月の政権発足以来の最低水準となっている。これにより「いつ解散しても与党勝利は確実」との楽観論が揺らいだためというのが、実際のところだろう。 政権浮揚を目指して9月に実施した内閣再改造は閣僚に女性を積極登用した一方で、副大臣・政務官には1人も起用しなかった。掲げている「女性活
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【D自在】「駿河湾の宝石」サクラエビ
モルガナイトという宝石がある。淡いピンクで、鉱物としてはエメラルドやアクアマリンと同じ「緑柱石(ベリル)」。米宝飾大手ティファニーの上級技師クンツ博士が発見し、博士の友人で顧客の金融王J・P・モルガンにちなんで1910年に命名された。 「駿河湾の宝石」と呼ばれるサクラエビの秋漁が始まった。初日(1日)の水揚げは約1トンと低調だったが、まだ高い水温の影響らしい。国内では駿河湾でしか漁がされないサクラエビの群れが偶然漁獲されたのが1894(明治27)年。人類の前に姿を現したのはモルガナイトとほぼ同じ頃ということになろう。 4月の誕生石「モルガナイト」(全国宝石卸商協同組合ホームページより)
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時論(11月12日)みんなで子どもを支えないか
子どもだけの留守番などを放置による虐待と定める埼玉県虐待禁止条例の改正案が同県議会に提出されたものの、子育て世代などから「負担が大きくなる」との批判が殺到し、提出した自民党埼玉県議団は撤回に追い込まれた。 滋賀県では東近江市長が「フリースクールは国家の根幹を崩してしまうことになりかねない」「不登校の大半の責任が親にある」などと発言し、批判の声が広がった。 いずれも実態把握や配慮を欠く内容で、批判は当然と言える。今回の改正案や発言から見えるのは、子育ての責任についての、家庭への過度な押し付けだ。日常的に大変な思いをしている保護者や子どもたちを、さらに追い詰めることになるという想像力は働かな
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社説(11月12日)海自セクハラ処分 国民の信頼を裏切るな
海上自衛隊で起きた女性隊員へのセクハラ行為を巡って上司が不適切な対応をしていた問題で、海自はセクハラ行為の加害者とその上司ら3人を停職の懲戒処分にした。 女性隊員がセクハラ被害に遭ったのは昨年8~12月。元自衛官の五ノ井里奈さんが性被害を訴え、ハラスメント撲滅に向けて全自衛隊を対象とした「特別防衛監察」の最中だった。事案を知った上司は面会を拒否していた女性隊員を加害者に会わせ、加害者から直接謝罪を受けさせた。その後女性隊員は退職した。 隊員のセクハラ体質の根深さは深刻だ。無理解で無神経な上司が引き起こした「二次被害」もあきれるしかない。自衛隊の組織全体に徹底した意識改革が求められる。
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大自在(11月12日)国立印刷局静岡工場80周年
第2次世界大戦のさなか、ナチス・ドイツは敵である英国の経済を混乱させようとポンド紙幣の偽造作戦を実行した。指揮官の名から「ベルンハルト作戦」と呼ばれる。 首都ベルリン近郊の強制収容所に秘密工場を造り、ドイツ各地から集めた製紙や印刷のユダヤ人技術者を製造に従事させた。精巧な作りで武器調達やスパイ活動に使われ、偽札流通のうわさが広がるとポンドの価値は急落した。 2007年、偽造に携わった印刷工の証言に基づき製作された映画「ヒトラーの贋札[にせさつ]」が公開された。協力を拒めば命はないが、作戦の成功はナチスを利して同胞を苦しめることになる―。技術者の苦悩も描かれている。 先日、静岡市駿河
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大自在(11月11日)黒と白
立冬を過ぎたのに、富士山は夏の装いだ。11月に入ってからの高温で、この季節らしい雪帽子が見られない。10日の降水と山頂付近の気温低下に積雪の期待がかかる。朝刊を手にした読者は、どんな姿を見ているだろう。 2011年に静岡県が選出した「富士山百人一首」を見たら、4分の1が白化粧を詠んでいた。「雪の富士」は万葉の昔から絵になるのだ。日本語と中国語で詩を作る中国出身の田原[でんげん]さんは約20年前の「富士山」で、季節の境目をこう表現した。「秋が過ぎ去った後 それは/厳然と一個の雪山の風景を現した」 その田原さんも参加する「しずおか連詩の会」が、佳境を迎える。今日が3日間の創作最終日。富士の裾
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社説(11月11日)空飛ぶクルマ 新産業の先進地目指せ
東京ビッグサイト(東京都)で11月上旬まで開かれていた車の展示会「ジャパンモビリティショー」は、最新技術を備えた次世代電気自動車(EV)とともに、人や荷物を乗せて空を移動する「空飛ぶクルマ」が注目を集めた。メーカー各社が技術を競い合い、安全で利便性の高い移動手段が実現することを期待したい。 「東京モーターショー」の名称を今回から変更し、「未来のモビリティー(移動手段)」の姿を国内外の企業が発表した。静岡県に本社のあるスズキは電動SUV(スポーツ用多目的車)、軽商用EVバンなどとともに協業する愛知県のスカイドライブの空飛ぶクルマの模型を展示した。 スズキは2022年にスカイ社と空飛ぶクルマ
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記者コラム「清流」 日常風景に外国人
コンビニに立ち寄ると、外国人の店員をよく見かける。日本語は堪能、あいさつや接遇もスムーズ。特に不便さを感じたこともなく、そんな店内が日常の風景となっている。 かつて「雇用の調整弁」ともされた外国人労働者。2008年のリーマン・ショックでは炊き出しの食事を提供する派遣村が各地に設けられ、当時勤務した浜松市でも職を失った大勢のブラジル人が列を作ったのを覚えている。あれから15年が過ぎ、今や外国人なしでは成り立たないのが日本の現状だろう。 コロナ禍で生産年齢人口を減らしたわけでもないのに、深刻な人手不足が広がる。円安で母国の家族への仕送りが目減りする逆風も吹く中、外国人は日本の労働市場をどう見
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記者コラム「清流」 クマ出没 人間の責任は
富士宮支局に勤務していた十数年前、取材で富士山に登ったのを機に山登りを楽しむようになった。惰眠をむさぼらずに早起きし、木漏れ日の中で歩を進めていると、爽快な気分を味わうことができる一方、登山道脇の「クマ出没注意」との立て看板には背筋が寒くなってくる。 幸いにも自分はまだクマに遭遇した経験はないが、今秋は県東部をはじめ、全国各地で出没情報が相次いでいる。活動範囲が広がっているのか、山中だけでなく、人里に近い場所でも目撃が増えているという。 人を襲う危険性がある野生動物への最大限の警戒は必要だ。ただ、クマが広範囲で目撃されるようになった背景には、温暖化によるエサ不足や山里の荒廃が指摘されてい
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記者コラム「清流」 子どもから学ぶこと
小学生時代の夏休み。終盤になり、親のサポートを受けながら必死に自由研究を仕上げた記憶がよみがえる。「もっと前から準備しときゃいいのに」とよく叱られていたのを思い出す。 先日、浜松市内の小中学生が夏休みに取り組んだ自由研究の優秀作品表彰式があった。最高賞の小学生は自治体や業者に聞き取りトイレの進化を、中学生は県西部にある秋葉山常夜灯の違いをまとめた。気になった場所に足を運び、取材した内容をまとめる力は目を見張るものがあった。 2人とも3~4年前から同じテーマで研究を続けているという。1人の母親に話を聞くと、夏休み初日から研究のために時間を費やしたというから驚きだ。あくなき探究心と、最後まで
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大自在(11月10日)駿河国正税帳
古代の律令国家で税は「租」として米が徴収された。田んぼの面積を基準に納められ、種もみを農民に貸し付け収穫時に利子を取る「出挙[すいこ]」も行われた。ほかに特産物を納めたり、労役や兵役なども課されたりした。日本史の教科書で読んだ覚えがある。 奈良国立博物館で開催中の正倉院展に8世紀の「駿河国正税帳」の一部が展示されていた。税として米が集められ、地方役所の財源となる米が正税。正税帳は地方財政の会計報告書を指す。 中央政府に送られた当時の静岡県中部の報告が正倉院文書として現在に残った。展示に添えられた説明によると、収支が細かく記載されているという。1200年以上昔の郷土の様子が垣間見えて興味深
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社説(11月10日)G7外相会合 「戦闘休止」求め続けよ
東京都内で開かれた先進7カ国(G7)外相会合は、パレスチナ自治区ガザへの人道支援のため戦闘の「人道的休止」を支持することで一致したとする声明を発表した。 ガザを実効支配しているイスラム組織ハマスのテロ攻撃は「断固として非難する」とし、人質の即時解放を要求した。イスラエルが自国と自国民を守る権利を有するとしながらも、国際人道法を順守する重要性も強調した。 国連安全保障理事会は常任理事国による駆け引きの場となって機能不全に陥った。先進国や新興国が参加する20カ国・地域(G20)もまとまることができない。その中でG7だけでも意見を一致させた意義は小さくない。 普遍的な価値を共有するだけでなく
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記者コラム「清流」 モルックの持つ可能性
数字が書かれた木製のピンに向けて木の棒を投げ、50点ちょうどを目指して競い合う北欧フィンランド発祥のゲーム「モルック」。ルールはさほど難しくないが、一発逆転の要素もある戦略性が魅力だ。 訪問した御殿場市のクラブの練習会では家族連れ、シニア世代、若者や女性のグループが集まり、和気あいあいと練習に励んでいた。人気お笑い芸人がテレビ番組や動画で積極的に紹介し、ここ数年で特に若い世代へ浸透したという。棒を投げる技術があれば、体力に関係なく誰もが楽しめる点が競技人口拡大の要因になっているようだ。 大会で初めて会った人同士が意気投合し、チームを組んで全国の大会へ遠征する事例もあるという。地方の活性化
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記者コラム「清流」 挑戦の場存続へ支援を
各地で議論されている部活動の地域移行。松崎町で唯一の中学校である松崎中にはバスケットボール、バレーボール、テニスの三つのみで、受け皿となるクラブどころかスポーツに親しめる環境があまり整備されていない。 少子化で子どもの選択肢が減る中、住民主体で運営する陸上競技クラブが立ち上がった。今年の春から元教員や競技経験者が、小中学生に投てきや幅跳びなどの技術をボランティアで教えている。徐々に参加人数も増え、大会で好成績を残した参加者もいる。 子どもの成長にとって、やってみたいことを実現できる機会は重要だ。スポーツに励んだ経験は、将来生きるはず。子どもが少なくなり人口が減っても、クラブの仕組みを維持
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記者コラム「清流」 エビのまち
京都大発の新興企業とNTTの合弁会社が来夏、磐田市竜洋地区に国内最大級のエビ陸上養殖施設を開設する。同地区では関西電力子会社もエビの陸上養殖を手がけている。磐田産のエビが全国的なブランドになる日が近いかもしれない。 陸上養殖は、最新の情報通信技術(ICT)を用いた次世代水産業。環境に配慮しながら安定的に水産物を供給する仕組みが、磐田から発信されることになる。先進地として陸上養殖の集積につながれば、市の新たな産業の柱になり得る。豊富な水資源を生かし、誘致を図ってほしい。 同市は京料理にも使われる高級食材エビイモの日本一の産地でもある。陸上養殖と伝統野菜の“二つのエビ&rdquo
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大自在(11月9日)壁
パレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム組織ハマスの奇襲で始まったイスラエルとの戦闘は1カ月がたった。ガザ、イスラエル双方の死者は計1万1900人以上と伝えられている。 コンクリートの分離壁や鉄条網付きのフェンスで囲まれたガザ地区は「天井のない監獄」とも言われ、パレスチナ問題の不条理を物語る。 ガザの子供が貧困に苦しんでいた頃、境界近くのイスラエル側では若者が野外音楽祭に興じていた。結果的に血みどろの音楽祭になってしまったが、壁1枚を挟んだ日常の違いに改めて驚かされた。 同じような壁でまず思い浮かぶのがベルリンの壁だろう。米首都ワシントンのニュース博物館で展示されていた実物を見たこと
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社説(11月9日)性被害相談 男性専用窓口の常設も
旧ジャニーズ事務所創業者の故ジャニー喜多川氏による性加害問題は、男性の性被害に対する社会の認識を一気に高めた。性被害は女性だけでなく、男性にも癒えない心の傷を負わせることを元所属タレントの告白で多くの人が知ったのではないか。 政府が、男性や男児と保護者に特化した臨時の電話相談窓口「性暴力被害ホットライン」を開設するきっかけにもなった。臨床心理士など専門的な知識を持つ相談員が対応し、必要に応じて外部の専門機関などにつないでいる。 各都道府県に設置されている性犯罪相談窓口「ワンストップ支援センター」は、性別に関係なく対応している。ただ、女性からの相談が圧倒的に多いため、被害者支援も女性に重点
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記者コラム「清流」 重すぎるあいさつ
これほど重い「お世話になりました」を聞いたことがなかった。 10月27日に静岡地裁で行われた袴田巌さん(87)の再審初公判。意思疎通が難しい袴田さんに代わって証言台に立った姉のひで子さん(90)は、法曹三者にくだんのあいさつを述べた上で「巌に真の自由をお与えください」と訴えた。 話す内容は1週間ほど前、ふと思いついてメモに書き留めたとのこと。「長々言ってもしょうがない。これでいいや、と」とひで子さん。裁判所や弁護人だけでなく、捜査機関の検察庁にも言葉を向けたのは「礼儀」だったという。 事件から57年、再審開始まで要した年月は42年。ようやくたどり着いた裁判の初日に響いた「お世話になりま
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記者コラム「清流」 発想力豊かな吉田選手
ふるさと納税制度にこんな使い方があったか。J2清水の吉田豊選手が地元富士宮市に寄付し、返礼品に選んだトイレットペーパーは受け取らずに市内の学校に譲った。 プロスポーツ選手による金品の寄付は少なくない話だが、ふるさと納税は聞いたことがなかった。「地元産業を知るきっかけになるかな」と思いついたという。相当な額を寄付した上で、生活必需品を子どもたちに届ける一石二鳥の妙案だった。 9季ぶりに古巣復帰を果たした吉田選手。県外でプレーする間、自身を育ててくれた地元に恩返しするための企画を練ってきたらしい。早速母校で児童とリフティング対決をしていた。次はどんなアイデアで富士宮を沸かせてくれるだろうか。
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記者コラム「清流」 目指せ ボッチャのまち
浜松市北区引佐町で10月下旬に初開催された「ふれあいボッチャ大会」を取材した。引佐地区の子ども会と高齢者サロンの23チームが出場。児童と高齢者がスポーツで対等に勝負する光景に新鮮さを感じ、ユニバーサルスポーツの魅力を再認識した。 高齢者にとっては認知症やフレイルなどの予防につながると期待され、子どもたちにとっても地域のお年寄りと触れ合う貴重な場になる。今回は子ども会とサロンに分かれて予選を行ったが、最初から区別をなくして交流の機会を増やしても面白いだろう。 主催した引佐地区社会福祉協議会は、昨年から子ども会やサロンを対象にボッチャの体験会、練習会を開き、普及に取り組んでいる。地区全域で活
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大自在(11月8日)社会を変える
インドで身分制度カーストにも入らない最下層の「ダリト(ダリット)」。この被差別民の女性たちが立ち上げた地方新聞社「カバル・ラハリヤ」(ニュースの波)の記者たちを追ったドキュメンタリー映画「燃えあがる女性記者たち」を見た。 紙媒体からデジタルメディアへの移行に伴い、ペンを撮影用のスマートフォンに持ち替える記者たち。当初は使い方もままならず、家に充電用の電気さえ通っていない記者もいるが、大手メディアが注目しない身近なニュースを地道に掘り下げ、存在感を高めていく。 女性の性被害、マフィアが絡む危険な採石事業、家にトイレがない人々など、扱う対象はいずれも閉鎖的な地域社会の過酷な現実だ。自身も幾重
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社説(11月8日)サクラエビ秋漁 気を緩めず資源管理を
国内では駿河湾でしか漁をせず、近年は不漁対策が待ったなしのサクラエビの秋漁が始まった。11月1日の漁獲は最近5年の初日で最も少なく、前年の3割程度の約1トンにとどまり、1ケース(15キロ)当たり前年初日を2割上回る平均約7万9千円で取引された。 初日の漁獲が低調だったのは、まだ海水温が高いためなどとして2回目の出漁は見合わせている。サクラエビの群れがまとまるのは水温17~18度とされ、初日時点ではまだ20度以上あったという。 「秋が深まれば漁獲が上向く」と漁業者は期待する。春漁が豊漁で滑り出すなどした「明るい兆し」を関係者とともに信じたい。 県水産・海洋技術研究所は毎夏、駿河湾内で産卵
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記者コラム「清流」 ふるさとの“逆襲”
地域で暮らす弊紙記者にはいくつか「ふるさと」がある。中でも、支局長の自覚に目覚めた御殿場支局での3年半は記者人生の根幹を成している。 2021年の選挙応援演説で川勝平太知事が「御殿場にはコシヒカリしかない」と発した当時、怒りと同時に離れて数年たつ北駿地域への愛着がうずいた。 問題が長期化する中、知名度の低かった特産品は結果的に全国区になった。知事に御殿場コシヒカリで醸した日本酒を届け、イベントで新米を食べさせるなど、問題発言を逆手にとった御殿場のたくましさは誇らしく、胸がすく思いだ。 県議会9月定例会で給与減額条例案が可決し、知事が望んだペナルティーは実現する。しかし、知事ができる唯一
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記者コラム「清流」 選手の粘り強さに感動
「頑張れ!」と思わず声が出た。10月22日、サッカーJ3アスルクラロ沼津と松本山雅FCとの対戦。DF大迫選手がスライディングで相手からボールを奪うと、取り返されまいと粘り強く守り抜いた。周りの観客も目を見張り、スタジアム全体が沸いた。 沼津は、ホームでの連敗が続いていた。試合当日の松本との勝ち点差は1。リーグ戦は終盤に入り、互いに負けられない試合だった。 大迫選手だけでなく、FW津久井選手らも相手に負けじとゴールに向かい、見事勝利をつかみ取った。中山監督が常々話している「ひたむきな戦い」を体現していたように感じた。J2ライセンスも交付され、今後の躍進を期待せずにはいられない。選手の奮闘を
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記者コラム「清流」 祭り文化 継承するには
遠州地域に祭りの季節がやってきた。磐田支局に着任した昨秋、祭り文化が根付いていない地域で育ったため、絢爛(けんらん)豪華な屋台の迫力に圧倒された。今年は屋台の装飾や引き回し方、かけ声など地域ごと異なる伝統を見て、聴いて楽しむことができた。 先日、こども園に伺った際、園長先生から、リヤカーと段ボールで作ったオリジナル「屋台」を引き回すなど“祭りごっこ”が園内で流行と教えてもらった。年長組の男の子は祭りに合わせて「髪の毛を切る」と気合十分だった。 華やかな舞台の裏側では担い手不足に悩み、存続の危機にある祭りも少なくない。この地の大切な祭りを継承するには、未来の地域を担
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記者コラム「清流」 「静岡人」として生きる
持っている文化はひとりひとりちがいますが、みんなこのまちで学び働き暮らしている仲間である静岡人(しずおかじん)です―。 優しさあふれる日本語で書かれた一文は、昨年7月施行の「静岡市多文化共生のまち推進条例」の前文。条例には外国人と日本人を分けた表現はない。9月に取材した多文化共生講座で紹介があった。講師を務めた条例策定委員によると、ローカルなアイデンティティーとして、静岡を愛する市民をみんな「静岡人」と呼ぶことにしたという。 大学進学以来、静岡県に来て5年。県外出身者と言われるたび、どこかよりどころのない気持ちを感じていた。静岡人という言葉は、自分の持つ文化や背景を全て優しく受け止めてく
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記者コラム「清流」 スマホデトックス
先日、長年連れ添ったスマートフォンの機種変更をした。新機種の値段の高さ以上に驚いたのがバックアップにかかった時間。面倒がってデータ整理をしてこなかったため、結局5日近く相棒なしで過ごした。 何事も失ってから大切さに気づくもの。友人と連絡は取れないし、写真も撮れない。気分転換にSNSを見ることもできなければアラームもかけられないので、寝坊しないか焦った。 5日間は確かに不便だった。ただ、隙間時間に画面を見なくなったので作業の効率が上がったり、読書がはかどったりと時間を有効に使えた気がする。 依存度の高さに落ち込んだので、新機種を使えるようになった今も意識してスマホデトックスしている。支配
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記者コラム「清流」 英会話の勉強意欲
10月、フェンシング・サーブル種目の日本代表選手らが沼津市で合宿した。世界で活躍する選手に直接話が聞ける。胸を高ぶらせながら取材に向かった。 町の印象、施設の利便性や試合の意気込みなど選手への取材は順調に進んだ。フランス人監督にも取材できることになり、必死に英語での質問を考えた。 大きい体に青い瞳。監督の目を見て、緊張のあまり用意していた質問が飛び、関係者に通訳してもらいながら取材を進めた。何となく意味は分かるが、その確認も自分でできない。監督はジェスチャーを交えて、親切に対応してくれた。 小中高大と人並みに英語の勉強はしてきたはず。ふがいなさと同時に自分の言葉で質問ができなかったこと
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大自在(11月6日)元大関・朝潮死去
スポーツでも文化芸術でも、どの世界にも逸材と呼ばれる若者がいる。近畿大時代に2年連続で学生横綱とアマチュア横綱に輝いたこの人は「30年にひとり」と言われ、スカウト合戦になった。 元大関朝潮で先代高砂親方の長岡末弘さんが死去した。67歳。大きな体と陽気な性格から「大ちゃん」の愛称で親しまれた。 いつものことながら、訃報記事は要点が押さえられていて、発信する側にいながら感心する。今回は「スピード出世」「横綱北の湖戦では13勝7敗」「朝青龍を横綱に育て上げた」のくだりか。 度重なるトラブルの監督責任も問われた朝青龍や、高砂部屋を託した元関脇朝赤龍ら弟子にどう向き合ったかが自著「親方はつらいよ
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社説(11月6日)副大臣ら2氏辞任 国民の視線 一層厳しく
支持率低迷に悩む岸田文雄首相が政権浮揚を狙って断行したはずの内閣改造だったが、2カ月もたたないうちに政権の足を引っ張る形になっている。山田太郎文部科学政務官が女性問題を報じられて10月下旬に辞任し、柿沢未途法務副大臣も公選法違反事件に関与したとして引責辞任した。任命した岸田氏の責任は重い。内閣支持率の下落に歯止めがかからないのは、減税問題などと合わせ、岸田政権に向けられた国民の視線が一層厳しくなっている証左と言えよう。 特に法務省を統べる立場の柿沢氏には最も高いレベルの順法意識が求められるが、地元の区長選で支援する候補者の陣営に法に触れる行為を勧めたとされる。内閣改造に当たって岸田氏が強調
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社説(11月5日)アフガン地震 人道的見地から支援を
アフガニスタンのイラン国境に近い西部のヘラート州で10月7日に発生したマグニチュード(M)6・3の地震で、千人以上が死亡した。余震とみられる2度の大きな地震でも死者が出た。住居が倒壊し、屋外での生活を余儀なくされている多数の被災者が救援を求めている。 死者が1千人を超える地震は昨年6月にも東部で起きた。しかし、国際社会の関心は、ロシアに侵攻されたウクライナやイスラエルと交戦状態にあるパレスチナ自治区ガザに集中し、アフガンの惨状は忘れられている。 2年前に再び権力を握ったイスラム主義組織タリバンの暫定政権は、国際社会から女性への抑圧などを理由に経済制裁を受けているため財政がひっ迫し、自力で
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大自在(11月5日)ガザ
世界中が固唾[かたず]をのんで見守るパレスチナ自治区ガザで地上戦が本格化しようとしている。イスラエルは自治区の中心都市である北部のガザ市を包囲し、イスラム組織ハマスの掃討のため、対トンネルの特殊部隊を送り込んだ。 ブリンケン米国務長官がイスラエルに入り戦闘中断を要請したが、ネタニヤフ首相は拒否。ガザ住民のさらなる犠牲が避けられない情勢だ。イスラエルが国際社会の声に耳を傾け踏みとどまることを願う。 ハマスが越境攻撃を仕掛けて多数のイスラエル市民を殺害し、人質を取ったことが引き金になった。だが、既にパレスチナ側の死者はイスラエルの数倍に達し、多数の子どもが含まれる。イスラエルは怒りで自制心を
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大自在(11月4日)フェイクニュース
インターネットの動画投稿サイトを視聴していると、同じような分野やテーマの動画ばかり表示されることに気づく。検索や視聴の履歴に基づいて類似の動画を自動的に選択、表示する働きがあるためだ。 一方で、何かのきっかけで過去に購入したことのない商品をネットで検索した後、もう必要がないのにその商品の広告がしばしば表示されてへきえきすることがある。どちらも便利さを追求した機能によるものだが、自分が興味のある情報だけしか見なくなる「フィルターバブル」の危険性を意識する機会にもなっている。 先日、こうしたネット上のリスクについて大学の研究者の講演を聴く機会があった。興味深かったのは、ロシアのウクライナ侵攻
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社説(11月4日)脳死臓器提供 地道な啓発で底上げを
日本臓器移植ネットワークによると、脳死になった人からの臓器提供が可能となった1997年の臓器移植法の施行後、国内の脳死臓器提供が千例目に達した。本人の意思が不明でも家族の承諾があれば提供できるようにした2010年の法改正以降、提供は増加傾向にあり、今年は初めて年間100件を超えた。 それでも、人口100万人当たりの提供数は米国44・50人、韓国7・88人に対して日本は0・88人にとどまる。提供が少ないのは、多くの国が脳死を人の死と受け止めているのに対して、日本では臓器移植を前提する場合を除いて心臓死を人の死と認定していることが根底にあるともいわれる。脳死とはどのような状態で、なぜ臓器提供の
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記者コラム「清流」 オリンピックで会おう
9月下旬、ウクライナの中高生世代の柔道チームが静岡に滞在していた。選手や指導者らへの取材中、自分も柔道をやっていたと伝えると一気に距離が縮まり、柔道を共通言語に会話が弾んだ。 別れ際、「いつかオリンピックに行きたい」という夢について話した。選手、指導者、通訳、記者…。それぞれの立場で研さんを積んだ先の再会を誓って握り合った手のぬくもりが、ウクライナ情勢を身近なものに引き寄せた。 めまぐるしく過ぎる日々の中では目の前のことに精いっぱい。記者という立場でありながら、海外情勢をどこか遠い話に感じている自分がいたと反省する。 オリンピックで会おう―。約束を果たすため、記者として腕
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記者コラム「清流」 枯れかけの花
1歳半になる娘がいる。腕を大きく振りながら頼りない足取りで歩く姿がたまらない。親ばかだろうか。 娘が生まれる前、休日は泥のように眠っていたが、最近は一緒に公園を散歩するようになった。花が大好きな娘は、到着するなり一目散に花壇に向かって走って行く。御殿場市内では花壇が美しく整えられている公園が多く、管理している方々に頭が下がる。 秋が深まる今日この頃、退色した夏の花も多い。コスモスや赤く色づいた葉などに誘導しようとするのだが、娘は枯れかけの花の前から離れない。その姿を見て、目の前の茶色い花を「終わったもの」として教えることをやめた。 ドライフラワーを買って家に飾ると、娘は毎日指さして満足
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記者コラム「清流」 新聞記者の足跡
赴任以降すっかり入り浸っている喫茶店で、ある日店員に声をかけられた。「静岡新聞さんですか。前にこの方がよく来てくれていたんです」。差し出されたのは1枚の名刺。今年の春に急逝した、4代前の支局長の名前が記されていた。 この先輩が湖西支局にいた2009~12年は、ちょうど湖西市と新居町の合併前後。当時の資料には彼のきちょうめんなメモが残っている。異動前、隣の部署にいた先輩にろくなあいさつもできないまま転勤してしまい、当時の話を聞きたいと思っていたがかなわなかった。地元の人からは今も時折思い出話を聞く。 転居が付きものの新聞記者はよそ者として地域に伺うことが多い。自分はどれだけ湖西の人の記憶に
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大自在(11月2日)李克強
「三国志」といえば、中国の漢王朝末期から三国時代までを記した歴史書だ。明の時代の「三国志演義」をはじめとする小説や映画、漫画、ゲームなどの題材になり、今も世界中で親しまれている。 主要な登場人物の一人で、魏の基礎を築いた曹操の出身地は現在の安徽省。南の長江と北の淮河に挟まれ、本県と友好都市提携している浙江省に隣接する。 三国志に描かれた「赤壁の戦い」で知られる周瑜も安徽省の人。ほかに春秋時代の斉の政治家管仲や明朝の初代皇帝となった朱元璋、下関条約に清の全権大使として調印した李鴻章ら歴史に名を残した人物を多く輩出している。現代なら本籍のある胡錦濤前国家主席、そして李克強前首相の名が挙がる。
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記者コラム「清流」 決意表明
春の光に包まれた菜の花や桜の花霞(がすみ)、その背後に雪化粧した富士山が浮かぶ1枚の写真―。そんなのどかな潤井川沿いの景色の中にたたずんでいた家が、ある日突然、報道カメラのフラッシュを浴び、物々しさに包まれた。 富士宮市の病院で70代の男が妻と娘を刺して自分も命を絶った事件。男と幼なじみだったという男性が見せてくれた写真が忘れられない。毎日のように男と一緒にけん玉やソフトボールで遊んだ思い出話を聞かせてくれた男性。写真に目を伏せ、寂しげにぽつりとつぶやいた。「来年も桜は美しく見えるだろうか」 突然の悲劇は、当事者ではない男性の心や大切にしていた思い出にも傷を残した。事件が当事者以外にさま
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記者コラム「清流」 新たな運動会
学校の運動会とはひと味違う地域の運動会に参加するのが小さい頃から大好きだった。回覧板の開催通知と出場したい種目に丸をつけるといよいよ秋が来るとワクワクしていた。 今秋、浜松市内の運動会を取材した。複数の自治会が運動会からふれあいフェスティバルと名称変更していることに驚いた。主催者が口をそろえて言った。「コロナ禍でつながりが減っているが、年齢や性別に関係なく誰もが楽しめる場を少しでも作りたい」―。時間も短縮して半日にし、種目もパン食い競争や伝統音頭、町内クイズ大会など従来の運動会とは変えていた。どの競技も小さな子供からお年寄りが笑顔で交流する姿が印象に残っている。 「ここにいるだけで楽しい
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記者コラム「清流」 「口撃」は違う
全国的にクマの目撃例が増え、渦中の自治体には駆除に対する抗議が押し寄せている。生息地である富士山麓の猟師たちも不安を募らせている。 静岡県では保護対象として、人里に姿を見せた個体は森に追い返している。富士宮の農場が襲われた2年前、ワナにかかったクマの映像が報道されて猟師や行政には批判的な意見が寄せられた。暴れるクマが痛々しいとの内容だ。撃ち殺していないのに…。 富士山麓の猟師は主にシカやイノシシを狩っている。狩って防げる農作物被害がある。後継者確保など課題もあるが、ある猟師は「紹介してほしいけれど怖い」とこぼす。抗議には身の危険を感じる内容もあったという。動物の命を尊ぶ考え
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社説(11月2日)本離れ進む高校生 同年代推薦本 広げよう
「読書週間」が始まり、9日までの期間中、静岡県内でも公立図書館などで関連催事が行われる。青少年を中心にした読書への関心の高まり、読書習慣のきっかけづくりとしたい。 幼少期からの習慣づけが、生涯を通じて読書に親しむ鍵となる。この点で“壁”になっているのが高校年代だ。2022年度の県教委「学校対象調査」によると1人当たりの1カ月読書平均は1・6冊。「どの程度読書をしているか」との問いには58・7%が「ほとんどしていない」と答えた。5年前までは40%前後で推移していたこの「不読率」が令和に入り、右肩上がりだ。小中学生の不読率は3~4割だけに、高校年代の増加が際立つ。 読
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大自在(11月1日)V9
その輝きは、日本の高度経済成長期の象徴として語られることも多い。プロ野球巨人が前人未到の9年連続日本一を達成したのは、50年前のきょう。 「V9は打倒阪神から始まった」。先日本紙に掲載されたインタビューで王貞治さんが振り返っていた。長嶋茂雄さんとのONコンビが、常勝軍団を引っ張った。 当時の阪神は村山実さん、ジーン・バッキーさん(ともに故人)ら投手陣が強力。V9が始まる前年は阪神がセ・リーグを制し、パ覇者の南海と日本一を争った。熱戦が続く阪神とオリックスの今年の日本シリーズは、それ以来の関西決戦である。 前述の王さんの記事で印象に残ったコメントがある。「景気がよくなった割には給料が上が
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記者コラム「清流」 型にはまらない強み
プロ野球オリックスの紅林弘太郎内野手(藤枝市出身、駿河総合高出)に毎年年末にシーズンを振り返るインタビューをしている。 天然キャラで知られ、かつてスポーツ紙に「紅林24時」と題して風呂場での熱唱、1日4食といった奔放で豪快な行動が取り上げられた。「これじゃ自分が変わったやつみたいじゃないですか」と否定していたので、野球に取り組む姿勢は至って真面目であることをフォローしておきたい。 ポストシーズンに活躍するのはなぜか尋ねたところ「リーグ戦では毎日結果を残さないと来季の評価につながるとか考え過ぎてしまう。日本シリーズはもうシーズン終わりだから気が楽なんです」とのこと。型にはまらない思考が大舞
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記者コラム「清流」 美術がわからなくても
伊豆市貴僧坊地区を拠点に開かれている芸術祭「うぶすなの水文学」。主催のクリフエッジプロジェクトは、中伊豆の災害や地質、水にまつわる信仰を題材に制作を続ける。そのせいか10月下旬のトークイベントには、林業や土木、ジオパークの関係者、地域史の研究者が多く集まった。 鑑賞した来場者は、各専門の知見で伊豆の災害や地形について語り合った。作品がいわゆる芸術品ではなく、普段は交わることのない異分野の専門知識が集まるハブとして機能していたのが興味深かった。 美術がわからなくても伊豆半島に住む人なら、湧水の恩恵を受けたり、水害の被害を受けたりと、日常生活において水との関わりは深いはず。足を運べば、生活者
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社説(11月1日)個人情報漏洩 内部不正の防止徹底を
NTT西日本グループの子会社で、コールセンターシステムの運用保守に従事していた元派遣社員が約10年間にわたり、少なくとも59の顧客事業所に関する約900万件の個人情報を不正流出させた。 コールセンターが関わった名前や住所、電話番号、生年月日(年齢)などの個人情報のほか、クレジットカード情報81件も含まれていた。情報の一部は名簿業者に渡った恐れがある。流れ出た情報はもはや回収できない。不正利用被害は確認されていないというが、情報を漏洩[ろうえい]された人々の不安を考えると責任は重い。 日本の通信事業を支え、情報セキュリティー事業も自ら手がける企業グループで、内部不正によって膨大な個人情報が
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記者コラム「清流」 夜道での反省
気温が急激に下がり、肌寒い季節となった。「熱中症が危ないから」という言い訳は使えなくなり、深刻な運動不足の解消のため、仕事終わりにランニングを始めた。走っていると日がみるみる短くなっていくことを実感する。最近では夕暮れ時に走り始めると、途中で辺りは真っ暗になる。 横断歩道のない小さな交差点。車が一時停止の標識に従い止まったので、そのまま走り続けると、再び動き始めてひやりとした。見えているだろうと油断してしまったが、おそらく運転手には暗くて見えていなかった。自分が着ていたのは暗い色の運動服だった。 夏以降、管内で起きた大きな事故のほとんどが、夕暮れ時か夜間に発生している。安全運転への意識ば
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大自在(10月31日)文楽
東京に勤務していた当時、関西の地方紙記者から「文楽を見た方がいい」と勧められた。国会議事堂の程近く、隣に最高裁、目の前には皇居。重厚な雰囲気の周囲と調和し、落ち着いた外観の国立劇場で初めて見た人形浄瑠璃文楽は、予想以上に面白かった。 江戸時代の大阪に生まれた日本の代表的な伝統芸能で、有名な作品に元禄時代の劇作家近松門左衛門による「曽根崎心中」がある。中学、高校の授業で習った程度の知識しかなかったが、「太夫[たゆう]」と呼ばれる語り手と三味線、人形が繰り広げる物語にぐいぐいと引き込まれた。 技巧を凝らした太夫の語りは、低音が重たく響く太棹[ふとざお]の三味線とともに、場面場面の情景、登場人
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社説(10月31日)国の新幹線調査 JRの指導こそ重要だ
国土交通省が、JR東海リニア中央新幹線開通による東海道新幹線の増便効果の調査結果を公表した。品川-大阪間の全線開業により、静岡県内6駅(熱海、三島、新富士、静岡、掛川、浜松)への停車本数が約1・5倍に増える可能性があると試算した。経済効果は10年間で1679億円になるとした。 岸田文雄首相や斉藤鉄夫国交相は、調査結果を受けてリニア開業に伴うメリットを強調し、静岡工区での事業の進展を期待する。だが、地元にメリットを提示すれば膠着[こうちゃく]状態が打開されると考えているのであれば甘い。大井川の流量減少対策や南アルプスの環境保全を巡って地元の理解を得るべく、JRへの指導、監督を強めることこそ、
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記者コラム「清流」 見過ごせない「共助死」
災害時に避難誘導などの共助の行動に伴う犠牲「共助死」が、近年の豪雨災害では毎年のように発生している。昨秋の台風15号でも、川根本町で地区の安全確認をしていた元副区長の男性が亡くなった。 「共助」と「死」。真逆とも言える言葉の組み合わせは少しショッキングに感じた。災害時の原則は自身の安全確保が第一だろう。復旧や復興にこそ、共助の力が発揮される。平時からの備えや地域の連携を確認しておくことも大切だ。 共助を強調し過ぎることで、助けに行くことが「当然」と捉えられてしまわないか。一方で、助からなくてもいい命はなく、簡単には答えが出ない。岩手県大槌町安渡地区は震災後、「救助は最初の15分まで」との
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記者コラム「清流」 美しい秋の芸術
黄金色に実った稲穂が夕日に照らされ、きらきらと輝く-。浜松市北区引佐町の「久留女木の棚田」で、収穫期を迎えた田んぼが光に染まった。郷愁を感じさせる光景は日本の原風景のように思えた。 農林水産省の「つなぐ棚田遺産」にも認定されている棚田は、戦国時代に井伊家の保護を受けて開墾が進んだと伝えられている。現地で写真を撮りながら、当時の人々もこの叙情的な風景に心を動かされたのではないだろうかと想像した。農家の減少や高齢化で、全国的に棚田の維持が困難になる中、有志らの努力で守られている光景にあらためて感謝した。 芸術の秋。これから紅葉シーズンも本格的に始まる。カメラマンとして、季節の織りなす芸術を可
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記者コラム「清流」 お化けの目的
鬼の格好で子供の前に現れる秋田県のナマハゲは、近年では怖さが控えめになっているというニュースを見たことがある。時代に合わせた変化もあろうが「そもそも怖がらせるための行事ではない」という前提があるのだろう。ナマハゲは怠け心を戒める神様。 富士市の吉原宿宿場まつりで、市立高の生徒たちがお化け屋敷をつくった。空き店舗で開く初の出張企画という。 行列は長かったが並んでみた。シャッターから出てくる小学生や幼児に泣いている子はいなくて「怖がらせるよりも、びっくりさせたい」という内容だった。 出口で何組かの親子に聞いてみると「小さい子だから手加減してくれたようで」「並んでいる時間から楽しめた」。商店
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大自在(10月30日)南アフリカ連覇
「すごい試合」と言っていたテレビの実況が、残り時間わずかになると「とんでもない試合になりました」と叫んだ。語り継がれる死闘だろう。ラグビーの第10回ワールドカップ(W杯)フランス大会決勝は南アフリカが1点差でニュージーランドに競り勝ち、連覇した。 両国のW杯決勝での対戦は第3回南アフリカ大会(1995年)以来。その前年、大統領に就任した黒人のネルソン・マンデラは、アパルトヘイト(人種隔離)により非白人にとって敵方のスポーツだったラグビーを和解と団結の象徴にと訴えた。 経緯と南ア代表の快進撃、優勝は映画「インビクタス 負けざる者たち」(2009年)に描かれた。映画のおかげで、名試合を観戦し
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社説(10月30日)性別変更違憲判断 人権守る法制度確立を
戸籍上の性別を自分が認識している性別に合わせて変更したいと希望する人に、生殖能力をなくす手術を求めている性同一性障害特例法の規定が憲法に反するかどうかが争われた家事審判で、最高裁大法廷がこの規定を違憲、無効と決定した。長官を含む裁判官15人全員の一致した判断だ。最高裁は2019年、この規定が「現時点で合憲」との判断を示したが、社会情勢の変化などを理由に覆した。 決定は規定について、性別変更を求める性同一性障害の人に、身体を傷つける手術を受け入れて変更するか、手術を受けず性自認に従った性別での法令上の扱いを放棄するかの「過酷な二者択一」を迫っていると指摘。「意思に反して身体への侵襲を受けない
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社説(10月29日)学校トイレ洋式化 子ども第一に加速せよ
全国の公立小中学校でトイレの洋式化が進んでいる。文部科学省の2023年度調査によると、9月1日時点で洋式便器の割合は68・3%。前回20年度の調査から11・3ポイント増えた。初めて調査した16年度は43・3%で、和式が洋式を上回っていた。 それでも、子どもがほとんど使う機会のない和式トイレがいまだに3分の1近くを占める。和式の使い方が分からないまま入学する児童もいるという。トイレ関連企業でつくる「学校のトイレ研究会」は、子どもが排せつを我慢するといった悪影響が出るとも指摘する。 子どものことを第一に考えて、洋式化を加速すべきだ。学校は災害時に避難所になるため、高齢者や障害者の利用も考えな
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時論(10月29日)バッハ会長 3期目はあるのか
インドのムンバイで先日行われた国際オリンピック委員会(IOC)の総会では、2028年ロサンゼルス夏季五輪の追加競技の一括承認や30、34年の冬季五輪開催地を同時決定することが決まった。 その他にも見逃せない動きがあった。トーマス・バッハ会長(69)=ドイツ=の任期延長についてである。25年での退任が決まっていたが、IOC委員から続投を求める意見が相次いだ。 「再選を可能にすべきだ」。アルジェリアの委員が続投を訴え、ドミニカ共和国、パラグアイ、ジブチの各委員が続いた。任期延長論の形成に向け、各委員が事前に協議してきたという声もある。 会長の任期は1期目8年、2期目4年の最長12年と五輪憲
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大自在(10月29日)公平に分ける
分数を知らない幼稚園の時のこと。先生が3個のドーナツの絵を持って問題を出した。「4人で分けるにはどうしたらいいでしょう」。じゃんけんする、ひとりは我慢する、などひと通り意見が出た後、普段は目立たない女の子が手を挙げて「どれも四つに切れば、分けられるよ」。先生がにっこり笑ってその子を抱き寄せたことを思い出す。 静岡県社会福祉協議会が中学生向けに作製した地域福祉教育の副読本「ふむふむ程度。」のあとがきに、似た問いかけがある。ひとりの教師と3人のこどもたちで10個のあんパンを「公平に」分けるにはどうするか。「こどもは3個ずつ、大人は1個」「大人は4個、子どもは2個ずつ」…。 食べ
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記者コラム「清流」 初めての「お相撲さん」
幼い頃、巡業に来ていた「お相撲さん」を街角で見かけた。体の大きさに驚き、びんつけ油から来る甘い香りに気品を感じた。何という名の力士かは忘れたがあの時の衝撃は今も頭から離れない。 焼津で4年ぶりに大相撲の巡業が行われた。100人ほどの力士がそろい踏みする光景は圧巻。大柄の男同士がぶつかった時の音を間近で聞くだけでその迫力を味わえた。何よりほほえましかったのは子どもたちの声援。場内には土俵に向かって地元力士のしこ名を呼ぶかわいらしい声が響き渡った。土俵で見せる表情と異なり、福々しい顔を浮かべ、サインや握手に応じる力士の姿も見られた。 「お相撲さん」に触れた子どもたちはどんな感想を抱いただろう
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記者コラム「清流」 「当たり前」への壁
生殖能力をなくす手術をせずに戸籍上の性別変更を申し立てた鈴木げんさん(48)の家事審判で、静岡家裁浜松支部は、手術を必要とする法律規定が憲法違反だとして、鈴木さんの性別を女性から男性に変えることを認めた。 別の申立人に対して最高裁が2019年に「現時点では合憲」とした決定を基にしつつ、社会の変化なども考慮した検討を加え、より踏み込んだ判断を示した。今後の同種審判でも、判断の基準になる判例を示したと言えるだろう。 鈴木さんは「男として生きてきた僕の戸籍が男になっただけ。求めたのは当たり前の日常」と語った。法的な判断は示されたが、多様な性を「当たり前」として受け入れる意識を社会として醸成でき
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記者コラム「清流」 遊び心詰まった新土産
三島市大通り商店街の商店主が地元土産を開発し、販売を始めた。その名は「三島のおせん」。映画「男はつらいよ」の寅さんのせりふでも登場し、江戸時代に人気だった歌舞伎の主人公から名前をとったみしまコロッケ味の煎餅だ。 販売者の名前は「COTETO」。共同開発した商店が扱うコスメ(化粧品)、ティー(茶)、トイス(おもちゃ)の英語の頭文字と、原料となる地元特産の三島馬鈴薯(ばれいしょ)の「POTETO」を掛けた造語だ。 商品名はさることながら、細部まで徹底して遊び尽くす心意気に感心するばかり。楽しんで仕事する商店主の姿には憧れる。 皆さんも魅力あふれる商店主に会いに行ってみてはどうか。土産を渡す
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大自在(10月27日)積ん読
きょうから読書週間。1947年に始まり、翌48年から11月3日の文化の日を中心とした2週間に定められた。 施政方針演説で司馬遼太郎や宮沢賢治を引用するなど読書家として知られた故小渕恵三元首相。99年10月27日、記者団から「読書週間をどう過ごすか」と質問を受けた。すると「積ん読だな。時間がないね」と答えたという。 「積ん読」。本を横にして何冊も積み上げたままの状態。つまり、読まないということである。さて、先日の職場の配置換えでは、先輩記者から引き継いだ本も一緒に引っ越した。しかし、並べ直すのが面倒になり、文字通り「積ん読」で放置している。 先輩が原稿執筆の参考にしたかと思うと手に取りづ
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記者コラム「清流」 祭りの余韻が残る
「ヤーレコーノセー」「ヤレヤレヤレヨー」。4年ぶりに開催した藤枝大祭りの余韻が残る。長男はいまだに「お祭りは?」「ワッショイ」と口にする。 大祭りは飽波神社の例大祭。支局は神社の隣にあるため、常に勇ましいかけ声と三味線、おはやしの音色、屋台を動かす音が聞こえた。周辺は見たことがないほど人でにぎわっていたが、それ以上に驚いたのは住民の一体感。個々が楽しむだけでなく、各地区が披露する屋台の引き回しや長唄、地踊りには見物客を楽しませるエンターテインメントの心を感じた。 一つだけ心残りなのは、参加した全地区を取材したかったということ。各地区に魅力と見どころが隠されているのだと、閉幕してから後悔し
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記者コラム「清流」 信じられない悲劇
山あいの静かな住宅街で信じられない悲劇が起きた。5日午前、浜松市天竜区水窪町地頭方で住宅18棟、倉庫4棟などを焼く火災が発生した。強風で勢いよく燃え上がる炎が住宅街を一気に焼き、空には真っ黒な煙が広がっていた。鎮火まで7時間。火災現場から必死に逃げる住民の姿が今も脳裏に浮かぶ。 火災が発生した夜、自宅を放火し、全焼させた疑いで89歳の男が逮捕された。男は放火する直前、周囲の住民へ「自殺する」「世話になった」などと伝えていたという。 放火の動機がどのような内容でも、身勝手な行為に変わりはない。火災の被害を受けた地元住民はぶつけようのない怒りを抱えて暮らす。事件の背景にある事実を探りながら、
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社説(10月27日)万博整備費上振れ 規模縮小なども検討を
2025年大阪・関西万博の会場整備費が500億円上振れして、最大2350億円となる見通しになった。増額は20年に続く2回目で、当初の約1・9倍となる。整備費は政府と府・大阪市、経済界が3分の1ずつ負担する決まり。地元だけでなく国民の負担も増えることになる。 運営する日本国際博覧会協会が政府などに伝えた。協会は19年1月には整備費を1250億円と公表した。最近の資材価格や人件費の高騰を踏まえれば、経費上昇はやむを得ない面もある。とはいえ、2倍近くに迫るとは見積もりが甘いと言わざるを得ない。 増額をそのまま受け入れるわけにはいかないだろう。協会はまず経費節減の努力をすべきで、その成果を示す必
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記者コラム「清流」 散策の楽しさ広がる
JR御殿場線足柄駅を離れ、木漏れ日がまぶしい里山へ。緩やかな山道を進むと涼しげな渓流の音が聞こえる。美しい水辺の「銚子ケ淵」で心癒やされ、道を戻る。夏に小山町のクアオルト健康ウオーキング「足柄古道・銚子ケ淵コース」を歩き、魅力を実感した。 9月に同コースは全国初の「和ハーブロード」として認定された。和ハーブは古来から生活の中で利用されてきた有用植物で、コースには四季折々の130種類以上の和ハーブが自生しているという。特徴などを紹介する看板も設置され、散策の楽しさが広がった。 同コースは古くから東国と西国を結ぶ道として活用された足柄古道の一部で、名残が随所に残る。健康、和ハーブ、歴史、美し
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大自在(10月26日)コピー
毎朝、職場で各紙に目を通し、気になる記事はコピーして取っておく。これをしないと落ち着かないというか、一日が始まらない。一種の“職業病”のようなものか。 この結果が、机上や周囲の紙資料の山。先日、職場のフロア内の模様替え、配置換えに合わせてだいぶ廃棄したが、それでも大量だ。 「いつか役立つ」と思うから捨てられない。テーマごとに資料のおおよその「位置」は把握しているが、いざ必要になった時は大概、“発掘作業”をすることになる。捜しながら一体、どれだけの時間を費やしているのだろうかと、思わず苦笑してしまう。 デジタルスキルの無さが理由の一つである
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記者コラム「清流」 素朴な日常こそ
静岡市駿河区の大谷街道沿いで30年以上、静大生や地域住民のおなかを満たしてきた「定食屋まるやま」。2022年6月に火災に見舞われ休業したが、今年8月に営業を再開した。 再開後は、物価高や再建費がかさんだことなどから値上げを余儀なくされた。今までのレシピも焼失し、探り探りの調理だという。 火災は今までの日常や価値観を大きく揺るがす。しかし、その中で変わらないこともある。「お客さんが喜んでくれることがうれしい。もうけたい欲はあまりない」と話す店主の佐藤栄男さん(69)の考え方は、創業時から火災を経た今も変わらない。欲は出さず、日々黙々と厨房(ちゅうぼう)で料理を作り続ける。 一人一人の素朴
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記者コラム「清流」 祭りの季節
この時期、遠州は秋祭り一色。磐田市でも、国指定重要無形民俗文化財の見付天神裸祭や、奈良時代から続く府八幡宮の例大祭など、見どころたっぷりの祭りが繰り広げられてきた。新型コロナウイルスの5類移行で久しぶりの通常開催となった祭りが多い。祭りの季節が本格的に復活し、紙面もにぎやかになった。 県中部出身の記者からすると、西部の人たちは本当に祭り好きだと感じる。見ているだけでも心躍るが、祭りに参加するよう誘ってくれる人もいて、「取材がなければ」と惜しい思いをした。地域の一員と受け入れられたようでうれしかった。 帰宅後に自宅の窓を開けると、涼しい風とともに、遠くで鳴る祭りばやしの音が部屋に入ってきた
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記者コラム「清流」 震災の教訓
伊東市の沿岸部で暮らす自身にとって、津波は関心事だ。大学生だった当時に起きた2011年の東日本大震災。黒茶色の水が陸地を襲い、人家をのみ込む被害の映像は脳裏に強く焼きついている。今後も忘れることはないだろう。 普段、何げなく眺めている穏やかな情景が突如として荒れ狂う様子は信じがたい。100年前の1923年9月1日に起きた関東大震災で、多数の津波犠牲者が出た伊東。現在、その街並みから日常的に悲哀を感じることはない。 地域の高台の寺には「九月一日ヲ忘レルナ」と書かれた震災の教訓を伝える供養塔がたたずむ。100年前に生き残った住民から今を生きる私たちに向けられたメッセージだ。塔の上部に大きく刻
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社説(10月26日)参院選「合区」解消 低投票率 有権者の声だ
衆院長崎4区補欠選挙とともに投開票が行われた参院徳島・高知選挙区補選の投票率は、参院選の「1票の格差」を是正するため隣接県を一つの選挙区にする「合区」を導入した2016年選挙以降、徳島、高知両県とも最低を記録した。 与野党一騎打ちの激戦となったが、投票率は上がるどころか大きく落ち込んだ。候補者は2人とも高知県が地盤。徳島県の投票率は23・92%で前回22年選挙より20ポイント以上下がった。高知県も40・75%にとどまった。今回、選挙が単独で行われたことによって、以前から指摘されていた合区の弊害が浮き彫りになった。 鳥取・島根と同時に導入された合区の投票率低下は、特に徳島・高知が顕著だ。投
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記者コラム「清流」 1%の社会貢献
「売り手によし、買い手によし、世間によし」とは近江商人の経営哲学「三方よし」のこと。世間によしとは、社会への貢献のことだ。ただ、世間様にどんな好影響を与えているか分かりにくい買い物も多い。 静岡市の釣り具メーカー「ジャクソン」が昨年度始めた「#1パーセントのソーシャルグッド」はうまいやり方、と感じる。社員総労働時間の1%を浜辺の清掃活動に、ルアーの販売数量の1%を稚魚の放流尾数に振り向ける。清掃は就業時間内のため有給だ。 いわば三方よしの定量化。公認会計士でもある加藤慶太社長(43)は「1%が具体的に還元されることは買い手に安心感を持ってもらえる」と話す。日本人の年間実労働時間は1600
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記者コラム「清流」 野菜の安定供給に期待
9月下旬に東京へ出張し、浜松に戻ってから喉に痛みを感じた。後にブタクサの花粉を吸い込んだことが原因と判明したが、新型コロナ感染など、不安は尽きなかった。 劇的に回復したのは、なにげなく食べた長ネギのおかげだった。自宅の冷蔵庫にあったネギを少し焼いて食べると、何事もなかったかのように痛みが消えた。ネギが持つ「アリシン」という物質に、強力な殺菌効果があるという。 多くの品種を栽培している浜松では、野菜の恵みを感じる機会が多い。一方で浜松倉庫(中区)が運営する地ビールレストランや、矢崎エナジーシステム浜松工場(南区)が発光ダイオード(LED)照明などを活用した室内栽培施設の実用化を始めている。
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記者コラム「清流」 「おでんのっぽ」の衝撃
パンにおでんを挟む?いやいやいや…。バンデロール(沼津市)が製造販売するご当地パン「のっぽ」の新作「しぞーかおでんのっぽ」の発売案内を見て衝撃を受けた。取材で手にした商品の見た目は、ほぼ茶色。いやいやいや…。 ところが、食べてビックリ。ジェル状になった和風だしが素朴なパンと絶妙に合う。9種類の具にもだしがしみこんでいる。見た目から想像できないほど、おいしい。「遊び心を込めた。印象と食べた時のギャップを楽しんでほしい」という開発者の術中にはまった。過去発売した「200種類以上の中で最も異色、斬新」という説明も納得だ。 同社は今後も地域に根ざし、目新しい商品づくり
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大自在(10月24日)1964年の日本シリーズ
プロ野球の総決算といえば、セ・パ両リーグ王者が対戦する日本シリーズ。野球好きの作家、故山口瞳さんはかつて「その年の野球がこれですっかり終わる」とスポーツ紙のコラムに書いた。「すっかり」に込められた寂寥[せきりょう]感。例年、10月下旬から11月にかけて開催される。季節の移ろいを感じることもあるだろう。 1964年は違った。東京五輪が開幕する10月10日までに終わらせるため、前倒しで行われた。阪神がセ・リーグ優勝を決めたのが9月30日。南海との決戦は翌10月1日に慌ただしく始まった。 だが、雨天順延もあり、最終第7戦が五輪開幕日と重なってしまった。「ライター、評論家、選手、監督が一堂に会す
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社説(10月24日)首相所信表明 「還元」真意が見えない
臨時国会が召集され、岸田文雄首相が所信表明演説を行った。物価高騰や少子化など国内に課題が山積するのに加え、ウクライナやパレスチナで戦闘が激化して国際情勢も緊迫の度を深める中、9月の内閣改造後の新体制で初めて臨む論戦の舞台となる。 首相は課題に対し「先送りせず、必ず答えを出すとの不撓不屈[ふとうふくつ]の覚悟を持って取り組む」と表明、経済対策に演説の約3割を充てて重視する姿勢を強調した。経済を成長させるため、成長型経済への変革を図る「供給力の強化」と物価高を乗り越える「国民への還元」を車の両輪とした。 ただ、還元の意味がはっきりしない。首相は与党幹部に所得税の一時的な減税を検討するよう指示
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記者コラム「清流」 保育現場の萎縮
「過剰な報道で園児の散歩に行くのが怖い。周りからどう思われているか…」「1分間の休憩も取れない」―。子ども・子育て施策を話し合う県の審議会で、出席者が紹介した保育現場の声に胸が痛んだ。 静岡県内では昨年、子どもたちの安全を脅かす事件が相次いだ。虐待や不適切保育は許されないが、結果的に保育現場が萎縮し、子どもと向き合う保育士の心に余裕がなくなっていないか気がかりだ。人手が足りず、ぎりぎりの状態で運営している施設も少なくないと聞く。 政府は「異次元の少子化対策」や「こどもまんなか社会」を掲げ、保育の質向上に取り組むという。現場は保育士の使命感によって何とか支えられているといって
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記者コラム「清流」 住民総出の移住者支援
移住促進の成否は受け入れる地域の覚悟に懸かっていると思う。とりわけ農山村部では、受け入れに先立つ地域ぐるみの合意形成が鍵になる。名古屋市から移住した親子が暮らす掛川市倉真地区で実感した。 10月上旬の地区祭典は印象的だった。4月に転校してきたばかりの2年生児童が山車の上で太鼓のばちを握り、祭りばやしをリードした。休憩時間には、一見怖そうな祭り青年が「うまいじゃん」「よく頑張ったな」と口々に声をかけた。得意げな気持ちを抑えてはにかんだ児童の表情が忘れられない。 親子が身を包んでいた法被は、住民がこぞって提供したお古だった。少し小さいことが分かると、あっという間に各サイズがそろったという。住
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記者コラム「清流」 相撲観戦には余裕必要
大相撲幕内の熱海富士が秋場所で優勝争いを演じる快進撃をみせた。出身地の熱海市では、商店街に激励の看板が掲げられ、「広報あたみ」の表紙に熱海富士の写真が採用された。一定の興奮状態が今なお続く。 本県出身力士として初の幕内優勝は逃したものの、熱海市民をはじめ多くの県民が大相撲中継にくぎ付けになったに違いない。相撲ファン拡大という観点からすれば、熱海富士の果たした功績は大きいといえる。11月中旬に始まる九州場所が早くも待ち遠しい。 相撲観戦で悩ましいのは幕内の取組が夕方に行われること。取材を終え、原稿執筆に追われる時間帯と重なる。秋場所はライバルの取組も確認しつつの観戦となり、作業の手がたびた
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大自在(10月23日)クマ出没
隣家のキンモクセイが開花して芳香を漂わせている。例年より少し遅いのは暑さが続いたせいだろうか。それでも10月半ばを過ぎて朝晩の気温がぐっと下がり、衣類や寝具を切り替えた。あすは山里や北国に霜が降り始めるころとされる二十四節気の「霜降」だ。 野生動物も冬支度を急いでいるからなのか、毎日のように各地のクマの出没に関するニュースを目にする。人的被害も多発していて、岩手県では襲われた女性が死亡した。 食料となるブナ類やナラ類の実の凶作、過疎化で里山が荒れてクマの生息域と人間の居住地域の境目があいまいになっていることなどが、出没の増えた原因とされる。ことしは特に深刻で、出没や被害の件数が「過去最多
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社説(10月23日)少子化対策財源 確保の道筋明確に示せ
政府は「次元の異なる少子化対策」の財源確保策を巡る議論を、年末決着に向け本格化させている。岸田文雄首相は来年の通常国会での法案提出に向け、制度設計の具体化作業を加速するよう関係閣僚に指示したほか、有識者らでつくる全世代型社会保障構築会議での議論も始まった。財源確保の道筋を明確に示す必要がある。 6月策定の「こども未来戦略方針」は、2024~26年度の集中期間に実施する対策として、児童手当の所得制限撤廃、育児休業給付の拡充、出産費用の保険適用などを打ち出した。この3年間には年3兆円台半ばの追加予算が必要となる。 財源に見込むのは、社会保険料に上乗せして徴収する「支援金」新設や、社会保障費の
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社説(10月22日)留守番禁止条例案 混乱必至 撤回は当然だ
子どもだけの留守番を「虐待」と見なして禁止する埼玉県虐待禁止条例の改正案が同県議会に提出されたものの、子育て世代などから「負担が大きくなる」との批判が殺到し、提出した自民党埼玉県議団が改正案の撤回に追い込まれる事態になった。 改正案は、相次ぐ車や通園バスでの子どもの放置死を防ぐのが目的だったという。保護者らが小学3年以下の子どもを自宅などに放置することを禁じ、「放置」を見つけた場合の通報も義務化するとした。目的はともかく、一方的に保護者に責任を負わせて新たな負担を強いる内容で批判を浴びたのは当然だ。 昨年、静岡県牧之原市で通園バスに園児が置き去りにされ死亡した事件は認定こども園側のミスや
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時論(10月22日)将棋は指せなくても面白い
藤井聡太棋士(21)が王座を奪取し八冠となったことを報じた12日付本紙1面には、これで4人目の全冠独占達成者の一覧が載った。升田幸三(1918~91年)、大山康晴(23~92年)、羽生善治九段(53)、そして藤井八冠。 羽生さんと哲学者の梅原猛さん(25~2019年)が、将棋文化をテーマにした対談の中で対照的だった升田と大山について語っている。梅原さんは両者の激戦の同時代の証言者として、羽生さんは大山と対戦した経験も踏まえて(「教養としての将棋 おとなのための盤外講座」現代新書)。 このエピソードも取り上げた。終戦直後、将棋は戦争につながるものだから禁止しようとしたGHQ(連合国軍総司令
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大自在(10月22日)キューバ危機
エンゼルス大谷翔平選手の欠場で日本では注目度が低下した印象の米大リーグだが、現地ではナショナル、アメリカン両リーグの優勝決定シリーズがヤマ場を迎えている。 19日のレンジャーズ―アストロズ戦では、アストロズがアブレイユ選手の3ランなどで勝利。20日も勝って3勝2敗としたが、レンジャーズはガルシア選手が3ランを放つ活躍を見せた。両選手はともにキューバ出身だ。 米国野球とキューバ野球の関係は19世紀にさかのぼる。ただ、その歴史は政治に翻弄[ほんろう]されてきた。1959年のキューバ革命以降は両国の関係悪化で長く交流が途絶えた。90年代に大リーグでプレーするため亡命するキューバ人選手が増え、2
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地震なしの津波警戒を 藤井敏嗣/東京大名誉教授【提言・減災】
今月9日、突然、太平洋沿岸に津波注意報が発せられた。「小笠原近くの鳥島近海での地震により津波が発生したと思われる」という、なんとも奇妙な発信が気象庁からあった。地震ではあるがマグニチュードも震源も決めることはできないというのである。 同様の事象が2018年12月にインドネシアで起こった。地震が起こらないのに、津波がスマトラ島とジャワ島の沿岸部を襲い、数百人の犠牲者が発生した。津波の原因は小さな火山島で噴火の最中に山体の一部が崩壊し、海中に土砂がなだれ込んだことである。土砂流入に伴う、わずかな地震動は捉えられたが、津波を発生させるような地震ではなかった。このため津波警報は発せられないまま、津
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大自在(10月21日)石油危機50年
半世紀前の晩秋、日本は石油危機(オイルショック)のさなかだった。原油価格が上昇し物価が高騰した。物不足への不安から買いだめ・買い占めが横行し、それが物不足に拍車をかけた。象徴的だったのがトイレットペーパーだ。 細かい記憶はないが社会が混乱していた覚えはある。物不足から社会不安が起きると、なぜトイレットペーパーが注目されるのか。新型コロナウイルス感染症が流行した2020年春、中国の生産活動が停滞して衛生用品不足の兆候が表れると、トイレットペーパーが不足するというデマが流れた。 しかし、トイレットペーパーはほぼ国産。まして富士・富士宮地域は全国有数の生産地。富士市の生産量は全国で44・3%(
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社説(10月21日)「茶草場」遺産10年 継承へ価値発信強化を
「静岡の茶草場[ちゃぐさば]農法」が国連食糧農業機関(FAO)の世界農業遺産に認定されて10年。掛川市で昨日、記念式典が開かれた。認定された茶園・茶草場がある掛川、菊川、島田、牧之原の4市、川根本町と遺産登録申請の背中を押した静岡県にとって、活動を点検する節目である。伝統的な農業システムの維持・継承を確かなものにしてほしい。 後継者難などで茶業情勢は厳しく、2010年に約1万4千戸あった県内茶農家は20年に約6千戸に減った。茶草場農法も例外ではなく、認定実践農家は13年度の515戸から22年度は311戸に。生業としての持続化策が求められる。農家の汗が報われるよう、支援の輪を広げたい。 茶
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記者コラム「清流」 豊かな苦しさ
80代の女性に終戦直後の学校生活について聞く機会があった。隣のクラスの授業がわかるくらい薄い壁の教室やニシンの缶詰が出た給食。さまざまな思い出を振り返っていたが、手作りの人形劇や友人が詩を書き先生が作曲した学級の歌など、クラスで取り組んだ行事を詳しく話してくれた。 苦しい時代だったにもかかわらず明るい表情で語っていた。不自由な環境下ではどうしたら楽しくなるか、仲間と工夫してよく考えたという。「親も生きるのに精いっぱいで子どもにまで構ってはいられなかった」。寂しさもあったと思うが、仲間と過ごした充実した日々が伝わってきた。 「何もないのは楽しかった。何でもあるのは苦しい」。オンラインゲーム
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記者コラム「清流」 空虚な模範解答
まちづくりをテーマに中高生が大人と意見を交わす場に何度か立ち会った。「素晴らしい活動だと感動した」「私も地元に恩返しがしたい」-。生徒側から模範解答が連発。大人たちの感心した様子で幕は下ろされたが、記者の胸の内には違和感が残った。 勉強、部活、遊びで手いっぱいであろう10代には難しい議題だったはずだ。取材メモを見返すと、抽象的な発言の羅列で、実のある議論の形跡は見当たらなかった。後日、出席した生徒の1人に、自分に求められていそうなコメントをしただけだと事もなげに言われ、違和感の正体に気づいた。 大人が言う“良い子”とは、けんかをしない素直な子を指す場合が多い。これ
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記者コラム「清流」 「悔しさ」前進する糧に
好成績を残したスポーツチームなどが首長らを訪ね、結果を報告する表敬訪問。磐田市は「スポーツのまち」を掲げるだけあり、夏の終わりになるとさまざまな競技で活躍した生徒らが喜びを伝えに訪れた。 その中で特に印象に残った場面がある。水球全国大会で準優勝となった男子中学生らが「点数や結果にこだわって練習したい」などと自身を見つめ直してやらなければいけないことを口にした。彼らは予選の東海大会の決勝で負けた“ライバル”と最高峰の舞台で再び激突。結果は、東海よりも点差が開いて敗れた。 彼らは笑顔を見せなかった。悔しさを持って挑んだだけに、さまざまな思いがこみ上げてきたのだろう。ラ
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大自在(10月20日)クリケット
貧しい家庭に生まれた少年がプロの投手を目指して父親の特訓を受け、好敵手と切磋琢磨[せっさたくま]しながら成長していく。日本人なら往年の野球漫画「巨人の星」を思い浮かべるだろうが、インド人は10年ほど前に放映されたクリケットのテレビアニメの名を口にするに違いない。 英国発祥で野球の原型と言われるクリケットはインドの国民的スポーツ。投手が投げたボールを打者がバットで打つ。インドのアニメ「スーラジ ザ・ライジングスター」は、「巨人の星」が原作だ。主人公の「スーラジ」はインドの公用語ヒンディー語で「太陽」の意味。英語「ライジングスター」は「新星」とも訳される。 クリケットは、野球・ソフトボールな
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記者コラム「清流」 教員支援 抜本的対策を
子どもが授業の流れに乗り遅れた時に声をかけたり、教室から出て行ってしまった時に寄り添ったり。学校で子どもの多様な困り事に対応する「支援員」の需要が高まっている。教員が学級全体に向けて授業を進める傍ら、子どもに個別支援する。取材で、その役割の大きさを垣間見た。 子ども一人一人にきめ細かな対応が求められているとして、文部科学省は来年度予算の概算要求で、こうした支援員の拡充を重点項目の一つに挙げた。 ただ、支援員配置は自治体の財政状況に左右され、地域差があるのが現状だ。また、名称も資格も仕事内容も法律で定められておらず、教員の全業務を代わりに担えるわけではない。 支援員は心強い存在だが、教員
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記者コラム「清流」 「集中」問題考え観光
コロナ禍で出無精になり、好きだった遠出の旅行に行く機会が減った。ただ、個人的な感覚ではコロナ禍以上に、自粛期以前に出向いた紅葉シーズンの京都での経験の影響が強い。国内外の観光客殺到による混雑と喧騒(けんそう)で、消耗感が募った。 富士山など風光明媚(めいび)な自然環境や名所旧跡を抱え、全国でも屈指の観光地の本県も、観光客集中が住民生活に負の影響を与える「オーバーツーリズム」の問題と無縁ではない。中国訪日客をはじめ徐々に観光正常化が見込まれる中、今後はいかに集客と持続可能性の両立を重視しながら、印象に残るもてなしを提供できるかが重要だ。 他の観光地に足を運べば、その地域特有の誘客やサービス
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記者コラム「清流」 笑いに隠れた夢
高校2年生が将来構想を考える講習会が開かれた。記者は同じ年齢の頃に将来像を描けず、意義付けが難しい印象を持っていた。 生徒たちは自身の計画を共有した。恥ずかしさもあるのだろう、発表を前提とした現実味が薄い“笑い重視”のプランも多い気がした。見ていて「自分が人生で何に価値を置くか考えるきっかけになっただけでも十分なのかな」と思った。 そんな中、声優になると語った生徒に話を聞いた。「実は憧れの職業。友達に伝えられたのは今回が初めて。頑張ろうかな」と話した。場の笑いの雰囲気に乗じて心の奥にある目標を随所で発表している生徒がいると気づき、はっとした。 夢や目標を人に伝え
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社説(10月20日)ガザ人道危機 「回廊」設置が急がれる
パレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム組織ハマスによるイスラエルへの大規模越境テロで始まったガザ周辺の紛争は、あすで2週間となる。連日続く戦闘で、パレスチナとイスラエルを合わせた死者は5千人を超えた。 イスラエル軍はガザ市街地への空爆や砲撃を繰り返し、地上侵攻に備えてガザとの境界周辺に戦車や兵士を集結させている。ガザからもイスラエルの都市に向けてロケット弾が撃ち込まれている。その中でガザの病院で爆発が発生し、現地保健当局の発表では471人が死亡した。 あまりにも人命が軽んじられている。ハマスは約220万ガザ住民を人間の盾とし、越境テロで多くの国民が残忍な殺され方をしたイスラエルはハマ
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大自在(10月19日)運動会
行楽や運動にうってつけのすがすがしい青空の日が続く。娘が通う小学校では11月の運動会に向けて練習が始まった。昨年、一昨年は休みを取り運動会を見学することができた。コロナ禍で午前中のみの開催になるなど制約はあったが、子どもの成長を実感するよい機会になった。 18日付本紙の記事が目についた。幼・保育園児から小学3年までの子どもがいて運動会に参加したことがある父親を対象にした調査で、回答した約千人の1割超に転倒・負傷した経験があったという。そのうちの7割は「想像していたほど体が動かなかった」ことを理由に挙げた。 娘の運動会の競技に参加したことはないが、年々体力の衰えを痛感している身だけに「さも
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社説(10月19日)多死社会 無縁遺骨 ルール整備を
少子高齢化と同時進行で、死亡する日本人の数が増えている。2022年は約156万5千人(総務省調査)と過去最多を更新。この傾向は団塊ジュニア世代が65歳以上となる40年ごろまで続くと見込まれる。 高齢者の孤立死とみられる事例も多数発生している。多死社会は日々の暮らしにさまざまな不安をもたらし、同時にいくつもの課題を映し出す。その一つは、引き取り手のない「無縁遺骨」の問題だ。身寄りのない高齢者らが亡くなり、自治体が葬儀を行ったものの遺骨の引き渡し先が見つからない事例が多いという。 こうした遺骨の扱いを巡る統一ルールは未整備で、自治体側は引き渡す親族らを探すが、一定期間保管しても引き取り手が見
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記者コラム「清流」 地方鉄道と地域の未来
公共交通機関と観光鉄道の役割を持つ大井川鉄道。沿線住民にとってどんな存在なのだろう。一言で表すのは難しいかもしれない。 蒸気機関車(SL)やきかんしゃトーマス号を間近で見ると、その迫力にいつも驚かされる。観光客は全国、ひいては世界中から訪れる。地域の誇りだ。 一方、普通電車の乗客が数えられるほど少ない現状がある。そもそも車社会が浸透している。コミュニティーバスもあり、地域の足としての機能を果たしているとは言いがたい。 10月1日、延伸再開に合わせ、久しぶりにSLが大井川本流を渡った。鉄道が地方の雰囲気を支えていると改めて感じた。地方鉄道の未来に思いをはせることは、地域の将来を考えること
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記者コラム「清流」 旅するチョウに心和む
「旅をするチョウ」として知られるアサギマダラを伊豆市の観光施設「修善寺虹の郷」で見ることができた。施設関係者も観察できたのは久しぶりで、とても幸運を感じた。 同施設では今年、新たに500株のフジバカマを植えてアサギマダラの飛来に期待を寄せていた。どこから飛んできたのか、すでに近くに生息していたのかは定かでないが、喜びの声が上がっていた。ゆったりと羽を動かす様子はとても優雅で美しい。花畑にはほかのチョウも蜜を求めて飛び交い、心和む穏やかな空気が流れる。 まだ数は少ないが、徐々に増えてくれることを願って見守る。海を越えるとも言われるアサギマダラ。最近よくニュースで耳にする遠い国の戦争も早く終
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記者コラム「清流」 子供に夢与える施設に
小学6年の夏を鮮明に覚えている。1991年に本県で開催された全国高校総体。開館間もない浜松アリーナ(浜松市東区)を初めて訪れ、男子バスケットボールを観戦した。ピカピカの施設に超満員の観客席、全国トップレベルの試合に興奮しっぱなしだった。 そんな浜松アリーナも開館30年以上が経過し、老朽化への対応、近年のプロスポーツ興行や全国・国際大会の開催に適した設備整備など大規模改修を迫られている。市は民間活力を活用した施設改修を計画中だ。 小学6年の長男と時折、浜松アリーナでバスケ男子Bリーグ1部の試合を観戦している。大迫力のプレーに目を輝かせる長男を自身に重ね、浜松アリーナが今以上に多くの子供に夢
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大自在(10月18日)川端康成
ことしもその日の編集局は嘆息とともに通常モードに切り替えて翌日付朝刊の紙面作りを進めた。ノーベル文学賞の発表があった5日のことである。 かれこれ10年以上になる。作家村上春樹さんが候補者と騒がれるようになって、受賞時に備えてゆかりの地や書店の反応を準備している。村上さんばかりではない。女性作家を含め数人の候補者をリストアップしていただけに取材担当者の落胆も大きかった。 作家の川端康成(1899~1972年)が日本人で初めて、ノーベル文学賞を受賞したのは68(昭和43)年10月17日。当時の新聞に、授賞理由は「豊かな感受性をもって日本の精神を表現した語り口の見事さ」とあった。 代表作「伊
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時論(10月18日)記者は「ウの目 タカの目」
「新聞週間」に合わせたインタビューで日本サッカー協会の宮本恒靖さんが、新聞は「物事を俯瞰[ふかん]して見ることができる」と語っている(16日付15面)。鳥の目をという激励に改めて背筋が伸びる。 「ウの目タカの目」と言う。一生懸命に人や物を探す様子をウやタカが獲物を狙う鋭い目つきに例える。辞書に「記者がウの目タカの目でスクープを狙う」と用例があった。 鵜[う]飼い、鷹[たか]狩りと、どちらの鳥も人間との関わりは長い。日本にも早くから伝わった。ウを使う漁の記述は記紀にあり、仁徳天皇は百済の王族から献上されたタカを使ってキジを数十羽捕ったという。徳川家康の鷹狩り好きもよく知られる(柴田敏隆著「
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社説(10月18日)全銀システム障害 信頼性 大きく揺らいだ
全国の金融機関を結んで振込取引などをオンライン処理している「全国銀行データ通信システム」(全銀システム)で、「スポーツの日」の3連休が明けた10日午前、送金障害が発生した。10の金融機関で他行への振り込みなどが2日間にわたって停止した。 全銀システムは日本の決済システムの中核で、国内ほぼ全ての金融機関が接続し、2019年現在で1営業日平均約650万件、約12兆円の取引が行われている。トラブルの影響は市民生活の広範囲に及び、処理に遅れが発生した件数は約500万に上った。 金融機関の取引は確実性が欠かせない。公共性の高いネットワークが不安定で信用を失うようなら経済活動は成り立たない。原因を究
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記者コラム「清流」 ソードライン
ベンチシートが向き合う英国下院の議場には、双方最前列の床に赤い「ソードライン(剣線)」が引かれている。線の内側なら、相手側から剣が届かない距離に引かれ、議員は線を越えてはいけない規則がある。言論の府での暴力的な争いを避けるため、とされる。 沼津市議会では江本浩二市議の「タケノコ発言」が波紋を呼んだ。懲罰動議が出されると、江本氏の議場での発言は180度変化。どちらかが事実でないことになるが、議員の言葉はそれほどに軽いものなのか。 戦前の日本では軍部の干渉を許し、反軍的な国会議員の除名に至った苦い歴史がある。故に懲罰は極力避け、当事者が自発的に反省して解決すべきだ。だからこそ、議員は発言に「
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記者コラム「清流」 「いつか」のために
9月の県総合防災訓練では、湖西市内の幼稚園で訓練を取材した。訓練開始の放送を合図に机の下に潜り込む子どもたち。机から頭がはみ出す子を見た教員が、「お尻にはお肉があるから、まずは頭をしっかり隠して!」と自身のお尻をたたいて見せた。その姿に、記者自身も幼稚園や小学校で先生に同じ言葉を言われた記憶がよみがえった。 子どもの頃は防災訓練が嫌いだった。物々しいサイレンに防災頭巾の暑さ、上履きでグラウンドに出た時の不快感―。だが今思えば、教員という身近な存在に教わって何度も経験した対応こそが、一番体に染みついている気がする。 地域や世代を超え、積み重ねられてきた防災訓練の歴史を感じた。実際に大きな地
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記者コラム「清流」 その食べ物はどこから
青森県八戸市の駅弁製造会社「吉田屋」の弁当が原因の集団食中毒。静岡県は全国でも特に患者が多くて驚いたが、食品スーパーの駅弁フェアで販売されたと聞いて合点がいった。 東北の有名店が手がけた海の幸の駅弁で、見るからにおいしそう。店頭で見かけたら、記者も手に取っていたかもしれない。 青森で作られた弁当を、遠く離れた静岡で買って食べる。物流網が整備された今では当たり前の生活の一場面だ。食べ物の選択の幅が広いのは豊かな証拠でもある。だが、やはり駅弁は作られた地域で食べるのが本来の姿。大量の商品を急いで遠方へ出荷すれば、無理が生じることもある。 製造会社の責任は重い。一方、消費者も店頭の商品がどう
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大自在(10月17日)谷村新司さん逝く
中学生の時、近所の楽器店で初めて買ったギターがモーリス製だった。深夜に谷村新司さんが登場するラジオCMで流れた「モーリス持てばスーパースターも夢じゃない」のフレーズに触発されたのは間違いない。 「アリス」は1970年代後半を中心に活躍した音楽グループ。「冬の稲妻」「今はもうだれも」「チャンピオン」…。チンペイこと谷村さんとベーヤンこと堀内孝雄さんという二枚看板の絶妙なツインボーカルが魅力だった。 谷村さんは提供楽曲も多く、山口百恵さんが歌った「いい日旅立ち」は、文化庁が公募で選定した「日本の歌百選」に選ばれている。旧国鉄のキャンペーンソングとなり、山口さんの叙情的な歌唱と相
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社説(10月17日)静岡県東部の企業誘致 地域を挙げて戦略的に
静岡県東部の市町による企業誘致が活発化している。雇用確保や加速する人口減への対策を目的に、東名と新東名の両高速道を擁する利便性の高さや、首都圏と中京圏との結節点としての地理的優位性を前面に押し出す。 「東京に近い」「交通インフラが充実」「水や森など資源が豊富」。大半の自治体がこうした地域の特徴を〝売り〟として発信している。県内の企業立地件数は2022年に52件で、地域別では東部の東駿河湾(伊豆を含む)が16件を占め、この数年漸増している。経済産業省によると、全国的に高速道のインターチェンジ(IC)と近接するエリアへ進出する傾向が強く、大半がICの約5キロ圏内だという。 一方、自治体が企業
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記者コラム「清流」 発想と挑戦 生んだ名所
「ヒマワリ畑を作ってみたので、ちょっと見てみませんか」。ある日、以前お世話になった農家さんからの電話を受けた。向かった場所には見たこともない景色が広がり、思わず声を上げた。 2.7ヘクタールの広大な農地には約10万本の大輪がびっしりと咲き誇り、訪れた地域住民らも足を止めて目を丸くしていた。ヒマワリ畑の仕掛け人は同市坂口で農園を経営する平幹也さん。冬場にレタス畑として利用している農地で何か面白いことはできないかと考えた。試しに種をまいたところ想定を上回る出来栄えになったという。 取材に「正直びっくりだよね」とおどける平さんだったが、ちょっとした発想と思い切りの良い挑戦が地域に新たな名所を生
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記者コラム「清流」 夢を叶えたその後
「サッカー選手になる夢をかなえたら、自分が育った地域に貢献したいという夢ができた」。沼津市出身の選手が、母校で語った言葉が印象に残った。自分はいつから目標や夢がなくなったのだろう。 「夢授業」と題して開かれた講演。選手は「夢を持つと人生が豊かになり、嫌なことも頑張れる」と生徒らに訴え、「やりたいこと、やらなければいけないことに一生懸命取り組んで」と語りかけた。 取材として足を運んだが、いつの間にか自分のこれまでの経験と照らして話を聞いていた。学生時代はスポーツをしていた分、目標が明確だったが、記者になってからは日々生活を送ることで精いっぱいになっていた。記者としてやりたいことは何か。それ
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記者コラム「清流」 宇宙でごみ掃除に挑む
米連邦通信委員会(FCC)が、運用を終えた人工衛星を適切に軌道から離脱させなかったとして米衛星放送企業に罰金を科したニュースが伝わった。人工衛星などの残骸「宇宙ごみ」をめぐり、罰則が科された初の事例。宇宙開発競争が進む中、「ごみ掃除」が大きな問題だ。静岡大工学部の超小型人工衛星はこの課題解決に挑んでいる。 9月に最新の静大衛星が完成し、米企業のロケットに載せるため出荷された。この衛星は宇宙空間で模擬デブリ(ごみ)を発射して網で捉える実験を行う。 宇宙ごみは大量に高速で軌道上を周回し、小さな物でも運用中の人工衛星などにぶつかると多大な被害を及ぼす可能性がある。除去技術は確立されていないため
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プロ野球身近な存在に ハヤテ223が来季ウエスタン参戦【とうきょうウオッチ 記者余論】
東京に赴任してから、プロ野球の2軍戦を球場で観戦するようになった。魅力はいろいろあるが、一番はグラウンドやベンチの声が届くぐらいの選手との距離感の近さ。競争を勝ち抜こうと奮闘する若手のプレーに心を奪われ、調整中の大物、ベテランが登場すればスタンドも沸く。 そんな光景が、来季から静岡市でも見られる。9月末、日本野球機構(NPB)が、清水庵原球場を本拠地とするハヤテ223(ふじさん)のウエスタン・リーグ新規参加を内定した。承認したオーナー会議の都内会場には地元メディアも多く詰めかけ、関心の高さをうかがわせた。 議長を務めた西武の後藤高志オーナーは会見で「野球のすそ野が拡大し、地域が発展するこ
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大自在(10月16日)先代の5千円札
コンビニでもどこでも、支払いはほぼキャッシュレス。一応、財布に紙幣は入れているが、あくまで緊急用に。筆者の福沢諭吉や野口英世は出番がなく、肖像画の印象もおぼろげだ。 先代の紙幣ともなれば、記憶はさらに遠のく。1984年から現行紙幣が発行された2004年までは、1万円は今と変わらず福沢で千円が夏目漱石。5千円は新渡戸稲造だった。 日本銀行券製造計画によれば、23年度の紙幣発行枚数は約30億枚。そのうち1万円が6割超、千円が3割超。例年の傾向で、5千円はそもそも少ない。枚数と知名度と。存在感の低さが悲しい新渡戸である。 しかしながら、女性起用の流れを作った功労者ともいえようか。5千円は現行
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社説(10月16日)増え続ける不登校 受け皿整備し孤立防げ
全国の小中学校で2022年度に30日以上欠席した不登校の児童生徒は、過去最多の29万9048人に上った。文部科学省の調査結果で、10年連続の増加となった。静岡県も9643人と過去最多を更新した。 不登校への理解が広がり、無理して学校に行く必要がないとの考えの保護者が増えたことに加え、新型コロナウイルス禍で子どもの生活リズムが乱れやすい状況が続いたことが要因とみられる。 気がかりなのは、不登校の小中学生のうち38・2%に当たる11万4217人が学校内外で専門家らの相談や支援を受けられていなかったことだ。子どもの状況に合わせた受け皿を整備し、孤立を防がなければならない。 学びからも人間関係
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大自在(10月15日)文武労働
「文武労働」。勉強して、スポーツして、なおかつ働いて。「文武両道」からの連想だろうが、住友生命が毎年募集する「創作四字熟語」ではない。通信制の放送大関西(大阪)の陸上競技部スローガンである。 箱根駅伝予選会がきのう、行われた。100回大会を記念し、関東学生陸上競技連盟所属ではない全国の大学にも門戸を開いた。放送大関西など関東以外の11校を含む57校が出場した。 参加するには1万メートル34分以内の走者を最低10人そろえる必要がある。予選は21・0975キロのハーフマラソンで争い、10人の記録合計上位が本大会に進む。 関東以外の大学の目標は11月に伊勢路で行われる全日本大学駅伝だが、往復
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社説(10月15日)音楽のまち浜松 市民への浸透を目指せ
浜松市で秋の風物詩となっている音楽イベント「ハママツ・ジャズ・ウィーク」が開幕した。全国の一流ミュージシャンやアマチュア愛好家らが街角や文化ホールなどで演奏を繰り広げる。 浜松市が「音楽のまちづくり」を掲げてから40年以上が経過した。その間、「浜松国際ピアノコンクール」といった若い才能を発掘するコンテストを開催したり、本格的なホールを備えた「アクトシティ浜松」のハード整備に取り組んだりと一定の成果を上げたと言えよう。他方、一般の市民レベルや市外に「音楽のまち」はどこまで浸透したと言えるだろうか。 市民生活の中で芸術文化を広く楽しんでもらうには「ジャズ・ウィーク」のような誰もが気楽に参加で
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時論(10月15日)2人の元軍人が示した道
パレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム組織ハマスが、イスラエルに侵入して前例のない攻撃を仕掛けてから1週間。報じられる犠牲者の数は日々増え、暗澹[あんたん]たる気持ちにさせられる。イスラエルはハマス掃討のためガザで地上作戦を始めたようだ。これからさらに犠牲者は増える。 多数の市民を殺害し、人質を取ったハマスの作戦は残忍なテロ行為であり、国際社会の非難を浴びるのは当然だ。ただ、イスラエルが今回のハマス掃討で一定の成果を上げたとしても、ヨルダン川西岸とガザに閉じ込められたパレスチナ人の状況が改善されない限り、報復が報復を呼ぶ暴力の連鎖は続くだろう。 イスラエルとパレスチナが和平を目指した
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大自在(10月14日)恐ろしげなるもの
「夏の間は見るのも嫌だった毛布が、恋しくてたまらない季節になった。この世に毛布があってよかった」。詩人平田俊子さんは、本紙連載をまとめた単行本「低反発枕草子」の秋の章でこうつづった。まさにわが意を得たり。朝晩の冷え込みが、寝所のぬくもりのありがたみを思い出させる。 本家「枕草子」には「秋は、夕ぐれ。」(新潮日本古典集成「枕草子」第一段)から始まる、誰もが知る記述がある。夕刻の空にねぐらへ急ぐ鳥たちを数え、風や虫の音に耳をそばだてる。視覚と聴覚を総動員し、しみじみとした秋の情感を伝える。 第百四十段「恐ろしげなるもの」で真っ先に挙がるのは「橡[つるばみ]の梂[かさ]」、ドングリのかさだ。清
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社説(10月14日)教団解散命令請求要件 立証へ万全を期せ
高額献金被害の訴えが相次ぎ、社会問題化している世界平和統一家庭連合(旧統一教会)について、政府は解散命令請求を東京地裁に行った。 宗教法人法は「法令に違反して、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為」があった場合、裁判所が解散を命じることができると定める。解散命令を受けても任意団体として宗教活動は継続できる。しかし、宗教法人格を失うことで法人財産が清算され、税制上の優遇も受けられなくなって、教団経営が厳しくなるといわれる。 旧統一教会の問題は、昨年7月の安倍晋三元首相銃撃事件を契機に注目されたが、高額献金や霊感商法による被害の深刻さはそれ以前から指摘されていた。こうした教団が法
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記者コラム「清流」 今を前向きに生きる
広島に投下された原爆によって重いやけどを負いながら、半世紀以上にわたって米国に住み続ける笹森恵子さん(91)。自身を命の危機にさらした国は憎くないのか。返ってきた言葉に驚かされた。「悪いのは戦争。恨んでいても傷は治らないわ」 13歳で被爆から10年後、治療の支援事業をきっかけに渡米した。ジャーナリストのノーマン・カズンズが中心の活動に支えられ何度も手術を受けた。 「誰かを恨んでいても私はハッピーにならない」。今を前向きに生きる姿勢からは、笹森さんを養女として受け入れたカズンズら多くの米国人の温かさに触れてきたことを感じ取れた。ちなみに「大谷翔平」を知らず、彼の偉業を説明すると「そんなすご
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記者コラム「清流」 観光誘客の好機ものに
三島市のJR三島駅周辺を歩いていると、多くの外国人観光客の姿を見かける。新幹線駅で降車し、「富士山」をキーワードにバスで山梨県の富士五湖を訪れるのが人気コースになっているという。 三島市と隣接する裾野市では普段、外国人観光客を見かける機会がほとんどない。四季折々の富士山の景観は決して、山梨県に負けていないはず。むしろ、新幹線駅からの「地の利」は裾野市にあるはずだが、訪日外国人観光客をうまく取り込めていない現状が浮かび上がる。 トヨタ自動車が次世代技術の実証都市「ウーブン・シティ」を開設する裾野市。交流人口拡大の絶好機を迎える中、ビジネス客だけでなく観光客の誘致に向け、受け入れ態勢の整備は
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記者コラム「清流」 時速10キロの衝撃
その瞬間、助手席のかばんに入れてあったペットボトルが勢いよく飛び出し、座席下に転がった。自身の体も前に押し出されるように動いた。時速10キロで緊急停止したときの反動は、予想を遥かに上回った。 安全ブレーキサポートカー(サポカー)の乗車体験会に参加した時の感想だ。TVコマーシャルでよく目にしていたブレーキサポート。公道を時速40~50キロで走行し、緊急停止した場合はどの程度の衝撃になるのか。想像するだけで怖かった。 自動車メーカーによると、ブレーキサポートはあくまでも補助機能。雨の日など視界が悪い環境では、センサーの検知が遅れてしまうこともあるという。 浜松に赴任して交通量の多さに驚いて
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時論(10月13日)ポリネシアからの桜戦士
ラグビーのワールドカップ(W杯)フランス大会を、前回までとは違う角度からも観戦している。人類学者片山一道京大名誉教授の著書「身体が語る人間の歴史」(ちくまプリマー新書)の記述に引かれるものがあったからだ。 大柄で骨太で筋肉質。〈まことポリネシア人は、ラグビーというスポーツの申し子というような存在〉〈ラグビーは神から与えられた最大の贈り物のよう〉。西欧列強から支配の仕組みとともに移入されたものだとしても、である。 1次リーグ最終試合では日本と同じD組でサモアがイングランドを苦しめ1点差で惜敗、C組ではフィジーが決勝トーナメントに進んだ。日本代表は運命のアルゼンチン戦に敗れ2大会連続ベスト8
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大自在(10月13日)藤井八冠
こんな息子、こんな孫がいたらどれほど誇らしいか。自分の才は棚に上げ、中学生の頃からこの人のニュースに驚かされ感心してきた人は少なくないだろう。ついにこの日が来た。21歳の藤井聡太棋士が王座のタイトルを奪い、前人未到の八冠となった。 子どもや孫がある日、「将棋がしたい」と言ったら、両親や祖父母はうれしいはず。「集中力がつく」「論理的思考力も」「言動に落ち着きがでる」。将棋の教育的効果に異を唱える人はいない。 だが、都内の私立小学校で将棋を取り入れた指導を実践した安次嶺[あじみね]隆幸さんは「将棋をやれば頭がよくなると考えるのは短絡的」とくぎを刺す。将棋は子どもに伸びしろをつくり、自然に頭の
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記者コラム「清流」 まめったく
初めて自分で見つけてきたテーマを取材した時のこと。これどうだっけ。あれ聞き忘れた。己の拙さゆえ、何度も同じ取材先に足を運んでいると、にっこり笑って言われた。「まめったいねえ」 静岡県外出身で静岡の方言はまだまだ勉強不足。褒められているのかそうでないのか分からず、笑ってごまかした。その後、先輩に尋ねると、どうやら褒め言葉と受け取ってよいらしい。 数カ月たち、少しずつ仕事にも慣れてきたところで、9月から清水支局へ異動した。新天地で担当分野も広がり、緊張の日々が続く。うまくいかない。どうしよう。不安を振り払うように、気付けば心の中で繰り返していた。「まめったくやるしかない」。取材先で人の温かさ
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記者コラム「清流」 ヘルメットの“文化”
自転車利用者のヘルメット着用が努力義務化された改正道交法の施行から10月で半年を迎えた。通勤中の会社員などが着用している姿はよく見かけるようになったが、高校生の着用率には課題があると感じる。 子どもの頃を振り返ると「高校生になればかぶらなくて済む。大人の仲間入り」という意識があり、着用が強制だった中学時代でさえ、学校から少し離れるとヘルメットを脱いだこともあった。中高生の大人への憧れや高校生は非着用というイメージは根強い。 浜松市内の高校で生徒指導を担当する教員は「高校生は横のつながりが強く、うちだけ強制にするのは難しい」と本音を漏らす。一度定着した“文化”を変え
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記者コラム「清流」 銭湯の公共性
「銭湯活動家」を自称する浜松市出身の湊三次郎さん(33)が代表を務める「ゆとなみ社」が経営する京都市内の銭湯を訪ねた。“銭湯継業集団”を掲げる同社は今夏、廃業寸前の3軒を一挙復活させ、関西を中心に計8軒を運営。20~30代の従業員が「銭湯を日本から消さない」をモットーに精力的に活動する。 特徴の一つが、浴室の壁にある掲示物の多さ。鏡広告、従業員による手書きの壁新聞、子どもの番台体験や避難訓練の告知など、自治会の掲示板のよう。湯につかりながら、つい端から端まで読み込んでしまう。 静岡県でも昔ながらの銭湯は減っているが、伊豆半島には地域に愛される温泉公衆浴場が多く残る
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社説(10月13日)札幌30年五輪断念 招致再出発へ民意問え
札幌市と日本オリンピック委員会(JOC)が、2030年冬季五輪・パラリンピックの招致断念を表明した。21年東京大会を巡る汚職・談合事件の影響で機運が停滞し、スウェーデンなど他に有力候補都市が出てきたことによるものだ。札幌市は34年大会以降の招致の可能性を探るとしているが、市民の支持が得られているとはいえない。あらためて民意を問い、再出発する必要がある。 莫大[ばくだい]な公金を投入する五輪招致について、欧米では住民投票を踏まえる例が多くなっている。26年大会では、シオン(スイス)やカルガリー(カナダ)が住民投票で否決され、招致から撤退した。 札幌市では昨年、五輪開催の是非を問う住民投票実
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大自在(10月12日)サステナブル
新しい服はめったに買わない。Tシャツは首元がヨレヨレになるまで捨てない。靴下は穴が開くまではく。30年ほど前に古着屋で買ったコートをいまだに着ている。英国のデザイナー、エイミー・パウニーを追ったドキュメンタリー映画「ファッション・リイマジン」を見て、筆者のそんな無頓着ぶりが正当化されたように思った。 作中では、ファッション業界が環境に及ぼす衝撃的な事実が列挙される。1980年代に比べ、人々は3倍以上の服を購入している。毎年、千億単位の服が作られ、その5分の3は購入した年に捨てられる。ファッション業界を国に見立てると、二酸化炭素排出量は中国、米国に次ぐ世界第3位に相当する、などである。 エ
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社説(10月12日)日本とASEAN 次代へ信頼関係深めよ
日本が東南アジア諸国連合(ASEAN)と交流を始めて今年で50年を迎えた。天皇、皇后両陛下は6月、即位後初の外国親善訪問としてASEAN議長国のインドネシアに足を運ばれた。12月には日本がASEAN各国の首脳を招き、東京で50周年記念特別会議を開催する。この半世紀で双方の関係は深まっていることは間違いない。 ASEAN加盟10カ国の人口は欧州連合(EU)のほぼ1・5倍の6億7千万人以上。平均年齢も若く今後も人口増が見込まれる。「世界の成長センター」と言われる有望な市場として国際社会で存在感を高めている。 こうした目覚ましい経済発展は、日本が注いできた政府開発援助や日本企業の相次ぐ進出も礎
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記者コラム「清流」 色あせない教訓
死者・行方不明者が10万5000人余りとなった関東大震災から100年。県内でも建物倒壊や津波で443人が犠牲となった。現在の富士宮市に暮らしていた河井清方が残した日記に、朝鮮人が襲来するなどの流言が県内でも広がった様子が記されている。混乱や不安に陥る市井の人々の様子が生々しい。 9月上旬のモロッコ地震の後、南海トラフ地震と結び付ける投稿がSNS上に飛び交った。リビアの洪水では、熱海市伊豆山の土石流の映像が、現地の被害として拡散された。 災害後は誤情報やデマが流れやすい。特にSNSでは瞬時に広がる。「流言を放つの罪軽からず」。信じるのも愚かだと河井は言う。その冷静な視点は、現代にも通じる戒
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記者コラム「清流」 当時言えなかった感謝
暑さが和らぎ、秋が来たと実感する。今夏を振り返ると「スポーツの夏」だったと、真っ先に浮かんだ。 とはいえ、自分が運動に明け暮れたのではない。中学総体の取材で各地へ足を運んだ。同じく中高生時代に部活に青春をささげた者として、各競技で選手が戦う姿には心を動かされた。 ほかにもう一つ。印象に残ったのはある選手の母の言葉だ。「息子がやりたいことをできているのが私の幸せ」。息子が選んだクラブチームへ片道1時間弱の送迎を続け、支えてきた。自分の母も早朝から、2リットル容器ぱんぱんに米を入れ、おかずは2段弁当がびっしり埋まるほど作ってくれていたことを思い出した。 選手の親御さん方。年ごろの息子は恥ず
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記者コラム「清流」 応接室の男たち
9月上旬、富士市役所の特別応接室に猛者たちが集結した。 パワーリフティングのモンゴル代表エンフバヤル選手が同市内での合宿に合わせ、市長に東京パラリンピックでの金メダルを報告した。同行したマネジャーら2人も世界大会の出場経験者。市長が「この部屋に3人も世界レベルがいる状況に驚いている」と口にすると、監督は「もう1人いますよ」と笑みを浮かべて否定した。 意外な4人目は、訪問の様子を撮影していた福島勇輝さん。市職員ながらベンチプレスの世界大会で3度の優勝を誇る。 「富士で合宿できてうれしい。みなさんを戦友だと感じる」「今後も良好な関係を続けましょう」。屈強な男たちが、国籍や言語を越えて固い約
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御前崎市議会 見直し要求 検証して改革につなげ【西部 記者コラム 風紋】
御前崎市のこども園新設事業を巡り、市議会(定数15)の正副議長ら7人が関係予算を可決後、市に水面下で計画見直しを要求した問題が波紋を広げた。議員は議案審議を尽くし、いったん予算案や条例案を可決すれば議決責任が生じる。やむを得ず変更する場合は、公の場で住民に分かる形で議論し、補正予算などで修正するのが正しい手続き。7人の行動は不適切だ。反省点を市議会の教訓としたい。 同事業は幼保こども園3園を再編し、民設民営のこども園を新設する。市議会は3月に了承し、関係予算700万円を採決に加わらない議長を除く市議全員の賛成で認めた。ところが、7人は5月末に市長に「住民の不安の声がある」として計画延期を求
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大自在(10月11日)アジフライ
職場の食堂での昼食は麺類にすることが多い。しかし、これがある時は迷わず定食を選ぶ。アジフライだ。ソース派、タルタル派とあるようだが、最近は「しょうゆに唐辛子を一振り」が気に入っている。居酒屋のメニューにあれば、もう絶対。揚げたての「サクッ、フワッ」はたまらない。 沼津市で7月に開かれた将棋の第94期棋聖戦第3局。当日昼食の「勝負メシ」では、藤井聡太棋聖の「カツハヤシ」に対し、佐々木大地七段は「アジフライ定食」を選んだ。提供店に足を運んだ将棋ファンもいたようだ。 アジの命名は諸説あるが、「味が良い」ことが由来と言われている。食材としては申し分ない。刺し身、たたき、南蛮漬けなど、どう調理して
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社説(10月11日)ハマス越境テロ 人質解放し即時停戦を
パレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム組織ハマスが、イスラエル領に大量のロケット弾を撃ち込んだ上、市街地にも多数の戦闘員を侵入させて住民を無差別に襲撃した。イスラエル軍との間で大規模な戦闘が起きている。 ハマスの戦闘員はイスラエル側で開催された音楽イベントも襲撃、参加した若者ら約260人の遺体が現場で見つかった。別の場所でも住民の殺戮[さつりく]があったほか、多数が人質として拉致された。イスラエル側の死者は日本時間10日午前の時点で900人以上と伝わる。イスラエル軍もガザを空爆。住民ら600人以上が死亡したとされる。流血が流血を呼ぶ最悪の事態だ。痛ましいのは常に犠牲になるのが民間人とい
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記者コラム「清流」 言語の壁は高くない
川根本町千頭にインドIT企業大手の日本法人「ゾーホージャパン」のサテライトオフィスがある。そこで働くインド人社員と取材を通じて知り合い、先日オフィスに招かれ羊肉のカレーをごちそうになった。 休業中の旅館「清水館」を改良したオフィスは、伝統的な和室に現代的でスマートな機材が並び、ほのかにカレーの香りが漂う不思議な空間。社員食堂ではインド人シェフがカレーやご飯料理のビリヤニを用意していて、事前に連絡すれば町民も利用できる。 町には現在約100人の外国人が暮らす。クリケット体験会や料理教室など在住外国人と町民の交流も積極的だ。言葉が通じずともジェスチャーや表情を活用して笑顔で交流する町民を見る
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記者コラム「清流」 現実とイメージ
一度定着したイメージを払拭するのは難しい―と考えさせられた。「下田ってまだ市役所の移転でもめてるの?」。なぜか9月になって立て続けに同業の知人から言われてしまった。ああ、まだ下田市政のイメージは庁舎移転のゴタゴタなのね…。 だが問題は事実上解決済み。移転場所が決まり、概要も示されている。工事にも着手した。それでもこういった印象を持たれるのなら、過去の市長選でも争点の一つとなり、候補地が二転三転した経緯が市外に強烈な印象をいまだに与えているからなのだろう。 新庁舎は廃校になった中学校を活用するなど、少子化や過疎化を念頭に置いている。これからの時代のモデルケースになり得るだろう
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記者コラム「清流」 SNSの功罪
「当事者2人が知り合ったのはSNS」「SNS上の闇バイトに応募した」 警察署で事件の概要を取材すると、SNSをきっかけに被害者や加害者になるケースが年々増えていると感じる。未成年者誘拐や特殊詐欺の受け子などのほか、恐喝事件に巻き込まれるケースもあった。 スマートフォンの普及はもちろんだが、コロナ禍の影響も大きいように思う。対面ではない非接触型の交流が推奨された結果、仕事の面接やさまざまな契約をデジタル上で行う機会が増えた。個人情報を含むやりとりへの抵抗感が薄れているのではないか。 利便性が高い以上、今後もデジタル化の流れは加速する一方だろう。若年層に危険性を正しく伝えるためには、大人た
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視座(10月10日)首相、年内の衆院解散困難に 権力維持よりまず政策
来年9月の自民党総裁選をにらみ、衆院の解散・総選挙の時期を模索していた岸田文雄首相だが、20日召集の臨時国会で経済対策の裏付けとなる2023年度補正予算の成立を優先させる方針を固めたと報じられた。補正予算の成立は11月後半以降と見込まれる。12月は24年度予算編成や税制改正論議が控えている上、外交日程も詰まっているため、事実上、衆院解散を打つのは困難で、年内の解散はなくなったとの見方が強まっている。 今月4日で政権発足から2年となった岸田首相が、総裁選での再選を確実にするには、その前のどこかの時点で国民に信を問い、勝てないまでも現状維持か大きく議席を減らさないことが求められる。だが、共同通
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【D自在】徳川家康と鷹狩り
初夢でみると縁起がいいとされる「一富士二鷹(たか)三茄子(なすび)」は徳川家康の好みを言っているという説がある。駿府城公園(静岡市)の「徳川家康公之像」は富士山の方を向き、左手に鷹を据えた鷹狩りのいでたち。風貌から大御所時代であろう。 家康の鷹狩り好きはよく知られる。生涯で1000回以上の鷹狩りをしたとも言われる。数え66歳で駿府に移ってからは1カ月以上の鷹狩りの旅を幾度もした。 先週、静岡新聞社主催のトークショーで小和田哲男静岡大名誉教授が、家康が藤枝・田中城を拠点に鷹狩りをしたことを取り上げ、野山を駆け回り獲物のツルなどを食したことが家康の健康長寿の秘訣(ひけつ)だったと解説した。
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大自在(10月9日)スポーツの日
観測史上最も暑かった9月が終わり、今月に入ってようやく秋らしさを感じる日が増えた。晴れた日は外に出て運動不足を少しでも解消したいという気になる。きょうは「スポーツの日」。 もっとも昭和生まれの筆者には、かつての「体育の日」のほうがしっくりくる。1964年東京五輪の開会式にちなんで制定され、99年までは10月10日だった。2000年から10月の第2月曜になり、名称が変わったのは20年。最初の東京五輪を知る世代が減る一方、21年に2度目の東京五輪が開催された。今後、制定の理由を知らない人がますます増えるだろう。 最初の東京五輪は10~24日の15日間だった。2021年大会の7月23日~8月8
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社説(10月9日)大井川鉄道の活路 観光を軸に議論進めよ
昨年9月の台風15号で線路の複数箇所が被災した大井川鉄道大井川本線は今月、運行区間の中間点付近の家山―川根温泉笹間渡間2・9キロが復旧した。これで全線の半分に当たる島田市区間約20キロが運行再開したが、残る終点の千頭までの川根本町区間は被害が大きく、全線復旧の見通しは立っていない。 静岡県は3月、「大井川鉄道本線沿線における公共交通のあり方検討会」を初開催。そこでは台風被害以来運行休止している上流側の家山駅から千頭駅までは代行バスがほぼダイヤ通り運行し、乗客の積み残しも発生していないことが報告された。その後、会議は開かれていない。 公共交通としての代替手段は確保されているからといって検討
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社説(10月8日)いじめ最多更新 対応の立て直しを急げ
全国の小中高校と特別支援学校で2022年度に認知されたいじめが68万件を超え、過去最多を更新した。文部科学省の問題行動・不登校調査の結果で、21年度から10・8%増加した。静岡県も2万3314件で、過去最多だった21年度を15%上回った。 いじめについては国が積極的に認知を促す方針を示していて、年々増加傾向にある。早期の発見、対応は評価できるが、深刻な状況であることは間違いない。22年度は、新型コロナで中止、縮小していた行事や活動の復活など、校内で児童生徒が関わる場面が増えたことも増加の背景として想定される。 インターネット上や学校外のいじめによって、被害の実態は複雑で見えにくくなってい
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時論(10月8日)老いには大きな意味がある
生物学者、小林武彦さんの近著「なぜヒトだけが老いるのか」(講談社)によると、野生の生き物は基本的に老化せず、生殖能力を失えば、いわゆる「ピンピンコロリ」。生物学的に見れば、人生の40%は「老後」なのだそうだ。 そして、この長い老後は進化の過程で、ヒトが「獲得」したものだと説く。ここで興味深かったのが、本の中で紹介される「おばあちゃん仮説」だ。 生後間もないゴリラは母親の体毛をつかんでしがみつくことができ、母親は両手を自由に使えるが、長い体毛を失ったヒトは赤ちゃんを両手で抱っこしなければならない。そこで、手間がかかる子育ての“救世主”であるおばあちゃんが元気で長生き
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大自在(10月8日)平和賞
今年のノーベル平和賞は、イランの女性人権活動家ナルゲス・モハンマディさんが受賞した。厳格なイスラム体制下のイランで、女性の人権への抑圧に抵抗し、自由獲得のための闘いを続ける。 ただ、栄えある授賞式への出席は難しそうだ。当局に13回も逮捕され、収容者への拷問や虐待で批判を浴びるテヘランのエビン刑務所に収監されている。 これまでも、昨年受賞したベラルーシの人権活動家アレシ・ビャリャツキさんや中国の民主活動家で2010年の故劉暁波[りゅうぎょうは]さんら、政府に拘束されたまま受賞した人たちがいた。平和賞は「平和」への闘いに多大な犠牲を払っている人々が、今なお世界中にいることを知らしめる。 一
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大自在(10月7日)ジャニーズ会見NGリスト
菅義偉官房長官時代の記者会見で、質問を何度も繰り返し、厳しく政府を追及していく他社の記者がいた。正直ほとんどの記者は無難な質問しかしない。感心して本人に直接理由を聞いたことがある。 自身の生活環境が変わり、それまで精力的にやっていた取材相手への「夜討ち朝駆け」ができなくなったそうだ。夜討ち朝駆けは早朝や夜間、取材相手の勤務先ではない場所で秘密裏に接触することである。 夜討ち朝駆けができなくなったことで、昼間に公式に開かれる記者会見の重要性に気づいたという。せっかく国民に代わって政府要人に直接疑問をぶつけられる機会なのに、当たり障りのないことを聞くだけでは責任を果たせない―と。 ジャニー
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記者コラム「清流」 温泉の力 信じて再起へ
「取り壊す時は身を削られる思いだった」。昨秋の台風15号の土石流で全壊の被害を受けた静岡市葵区の油山温泉元湯館の海野博揮社長(41)は、旅館が解体された時の胸中を語った。 同温泉は戦国時代の1556年、今川義元の母・寿桂尼が湯治で滞在。義元も見舞いに足を運んだと史料に記され、長い歴史を誇る。当時、梅ケ島温泉(同区)は武田氏の統治下にあり、今川氏の負傷兵は油山温泉で湯治したと言われる。 海野社長は1964年創業の旅館を継ぐ3代目。今川氏を陰で支えた寿桂尼を癒やした温泉として「寿桂湯」と名付けた浴場もあった。2年後の再建を目指し、断腸の思いで解体した。 「心が折れるたび支援者に励まされた。
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記者コラム「清流」 秋太り対策
秋が到来し、食欲がわいてくる季節になった。クリやナシ、イモ、シイタケ、サンマなど、野菜から魚介類までさまざまなおいしい食材が頭に浮かぶが、気になるのは体脂肪。 今年の夏はとても暑く、多くの人が食欲不振に陥ったはずだ。食べる量が減り、大量の汗をかき、夏の終わり頃にはずいぶんと痩せてしまった人たちは秋が来ると夏の反動で暴飲暴食になりがちだ。9月下旬、中秋の名月の撮影で山に入ると心地よい爽やかな風が吹いた。1年で最も過ごしやすい季節でもあり、ススキを見ながらランニングする人の姿も見られた。 厳しい冬に入る前に体を動かし、体脂肪を燃やす習慣を身につけることが大切。「あの人、秋太りしたな」と言われ
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記者コラム「清流」 戦争遺族
浜松市南区の遺族会支部長中津川恒生さん(78)は父恒夫さんを1945年3月の「硫黄島の戦い」で亡くした。大学研究者のエリートだった恒夫さんは、他の将校が本土へ戻る中、自ら決意して戦場に残ったらしい。父の思いを知ろうと証言を集める恒生さんを先日取材し、そのやるせない内容に引き込まれた。 恒生さんの祖父謙二さんは戦時中、地元の村長として住民に召集令状を交付していた。住民に恨まれ苦悩する謙二さんの様子に、恒夫さんも間近で触れていたという。任務への人一倍の責任感を、恒夫さんは父に倣って背負いこんでいたのでは―。集まった証言からそんな姿が浮かぶ。 謙二さんは戦後多くを語らなかったそうだ。心の傷の深
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社説(10月7日)米下院議長解任 リーダー自覚 再認識を
マッカーシー米下院議長に対する解任動議が可決し、米議会史上で初めて議長が職を追われた。下院議長は大統領が死亡または辞職した場合などに、副大統領に次ぐ継承順位を持つ要職。下院の多数派を占め、議長を出しているのが共和党で、党内対立の深刻さを強く物語っている。 下院は今月から始まった新会計年度の予算案審議でも混乱し、資金切れから政府機関が閉鎖寸前となった。仕掛けているのはトランプ前大統領の影響を強く受ける共和党強硬派議員。解任動議の可決で勢いを増せば、現在は先送り状態になっている予算審議への影響が懸念されている。 9月末に成立した45日間分の歳出を賄う「つなぎ予算」にウクライナ支援は含まれてい
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大自在(10月6日)八丁ダルミ
行方不明者を含め63人が犠牲となり、戦後最悪の火山災害となった御嶽山噴火から9年。今年夏からは長野県王滝村側から山頂「剣ケ峰」(3067メートル)に至る王滝口登山道の立ち入り規制が緩和された。 今年の登山シーズンを前に山頂直下にある火口近くの尾根「八丁ダルミ」の2カ所に鋼鉄製シェルターが設置され、登山者の安全が確保されたためだ。遮る物のない八丁ダルミでは噴火で大勢の人が亡くなった。 先月末にその尾根を歩いた。登った日、下界では各地で猛暑日を観測したが、山頂付近は濃い霧で何も見えず、強風と冷たい雨で体が凍えた。温泉で感じる硫化水素の臭いも時折流れてきた。登山道は明確なので迷う不安はなかった
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記者コラム「清流」 スポーツの在り方
監督が怒ってはいけない大会―。聞きなじみのない理念を掲げたバレーボール大会が先日、吉田町内で開かれた。はつらつとした表情でプレーする選手の姿が印象的だった。 大会は元バレーボール女子日本代表の益子直美さんが発起人となり2015年から各地で展開。理念の狙いは選手のチャレンジ精神を最大限に発揮させることだ。学生時代を振り返ると、怒る指導は当たり前だった。選手のミスに激高し、給水ボトルを床にたたきつける指導者。萎縮する他チームの選手を見て「あんなコーチは絶対いやだ」と子どもながらに思った。 運営を担った指導者の一人は、自身の指導法を見つめ直す機会だと話した。スポーツにおいて勝利を目指す姿勢は大
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記者コラム「清流」 勉学支える夕方の給食
富士宮東高定時制の一日は給食から始まる。夜の授業に備えてエネルギー補給をする大切な食事が、委託業者の都合で3週間ほど提供されなかった。 生徒たちはこの期間、各自で食事を済ませなければならなかった。コンビニ弁当でしのいだり睡眠を削って自炊したりと、経済的にも体力的にも打撃を受けていた。生活リズムが狂ってしまい、授業に遅刻しそうなピンチもあったという。 提供が再開した日、カレーをほおばる生徒たちは「給食を食べて勉強モードに切り替えるんです」と答えてくれた。アルバイトなどそれぞれの活動の後に登校する生徒が多い定時制の給食には小中学校とは違った役割もあるようだ。 夕日が差し込む部屋で給食を食べ
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記者コラム「清流」 「日本一」に重要なこと
静岡県西部の各地で秋冬番茶生産が本格化している。夏の間に生育が進んだ茶葉は収穫と加工を経て、全国に出荷される。 県や一部市町は「日本一の茶どころ」をスローガンとしてきたが、本県の荒茶生産量は近年、鹿児島県に追い上げられている。 浜松市天竜区に住む70代男性は、後継者不在で5年以内の廃園を予定する。摘採前の畑を眺めながら「県内生産量が多い少ないの問題じゃない。若い人が希望を持てないと、日本一でも意味がない」と嘆く。 燃料や包装資材、肥料の高騰が続く中、「上がらないのは茶の価格だけ」との嘆き節を聞く機会が多い。茶の消費低迷と農家数減少が続く中、生産量以上に収益性改善こそが重要な局面に移行し
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社説(10月6日)ジャニーズ解体 人権侵害これを最後に
ジャニーズ事務所創業者のジャニー喜多川元社長(2019年死去)による所属タレントらへの性加害問題を巡り、同事務所の東山紀之社長らが東京都内で記者会見を開き、社名から「ジャニーズ」を消して「SMILE-UP.(スマイルアップ)」に変更すると発表した。名称変更後も被害者への補償を担い、対応を終えた後に廃業する。 被害者救済委員会に325人が補償を求めていることも明らかにした。衝撃的な人数だ。元トップの性暴力は前代未聞の規模で繰り返されていたことになる。被害者一人一人との補償交渉に真摯[しんし]に向き合わねばならない。 優越した地位にいる人間が立場の弱い他者の人権を侵害する構図は、同事務所にと
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大自在(10月5日)「考える葦」
「人間は考える葦[あし]である」は、17世紀のフランスの思想家で数学者や物理学者としても知られるパスカルの有名な言葉である。葦は日本の水辺でも見られるイネ科の多年草。「豊葦原[とよあしはら]の瑞穂[みずほ]の国」は遠い昔から日本の美称だ。 葦は「よし」とも読む。葦の茎を編んだ日よけは葦簀[よしず]で、猛暑のこの夏は特にありがたみを感じた人もいるだろう。「あし」は「悪[あ]し」に通じて縁起が悪いと、「よし(善し)」に言い換えられたとされている。 浜松市の佐鳴湖には人間の背丈以上に伸びた葦が所々に群生している。秋が深まると目にする葦の刈り取り作業は、今や風物詩になっている。 湖水の浄化を目
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記者コラム「清流」 物価高、知恵絞って
政府が10月中にも経済対策を取りまとめる方針を示した。あらゆる生活必需品の値上がりが続き、国民はうんざり気味。実効性の高い施策に期待したい。 ただ、公表された五つの柱を見ると、私たちが恩恵をすぐに実感できそうなのは、既存策の延長である光熱費の負担軽減措置くらい。国内投資促進など、そもそも補正予算で対応すべき性格か疑問のメニューがあり、精査が必要そうだ。 経済対策の裏付けとなる補正予算案を巡っては衆院解散の臆測が飛び交った。国民生活より政局を優先させるような選択を取れば、政治にもうんざり-となることを肝に銘じてほしい。 住民に近く、小回りが利く県や市町も何ができるか知恵のだしどころだろう
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記者コラム「清流」 タッチ決済 静岡県内普及は
遠州鉄道がバスと電車にクレジットカードのタッチ決済を来春から導入する。遠鉄独自のIC乗車券「ナイスパス」は全国の交通系ICカードと互換性がなく、訪日客や地域外からの観光客らにとって不便さがあった。 遠鉄は交通系ICカードとの共通化を長年の課題と認識していたが、コストや移行手続き上などの問題で進められなかったという。 タッチ決済は、バスや電車で乗り降りする際に端末にクレカやスマートフォンをかざして支払う。日頃からクレカを使っている身としては、新たなカードを持つことなく両替なども省けることは大きな利点だ。 コロナ禍に普及した数多くの決済方法は淘汰(とうた)が始まったと感じている。そのような
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記者コラム「清流」 半数の民意
9月24日投開票の伊東市議選は投票率が48.88%にとどまった。過去最低だった前回選を下回り、初めて5割を切った。低投票率は全国的な流れだが、地元住民にとっては最も身近な選挙だけに、もう少し関心が高まってほしかった。 立候補者は今回、定数20を10上回る30人。市の現状や将来を憂いた新人候補が13人出馬し、全市的な選挙ムードの高まりが期待されたが、盛り上がりに欠けた。新人の多くが票を伸ばすことができず、16人中15人が当選した現職の壁に阻まれた。 諸外国に比べ表面的には安定しているように見える国内状況で、投票率低下には歯止めがかかりそうにない。投票率が低い若年層への呼びかけなど地道な努力
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社説(10月5日)石油危機50年 エネルギー安保万全に
アラブとイスラエルの紛争で最大規模となった第4次中東戦争から、6日で50年となる。対空、対戦車ミサイルなど最新兵器が次々に投入された戦いは短期間で停戦となったが、双方に大きな損害を出した。それまでアラブ側を圧倒していたイスラエルの軍事的優位が揺らぎ、6年後の1979年にはエジプト・イスラエル間で平和条約が締結される流れとなった。 一方、戦争に合わせてアラブ産油国が石油戦略を発動、イスラエル寄りの国々に禁輸したり、輸出価格を引き上げたりしたため国際価格が急上昇。供給不安から日本を含め消費国はパニックに陥り、第1次石油危機(オイルショック)が起きた。日本では高度経済成長期が終わり、「狂乱物価」
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清水町の高齢者対象事業 地域とつながり健康に【東部 記者コラム 湧水】
清水町に住む65歳以上の高齢者を対象に、町内の体育施設の使用料が無料となる静岡県内初の「笑街健幸(しょうがいけんこう)パスポート事業」が10月からスタートした。認知症の人やその家族の支援に取り組む「チームオレンジ」も9月に設置された。一連の取り組みが町民の健康増進や地域の連携強化につながる契機となってほしい。 町福祉介護課によると、町内の要介護認定者のうち、認知症と診断されている人は2022年度時点で34・8%。国や県よりも10ポイントほど高い水準にある。また、物忘れの症状が目立たない「隠れ認知症」で、医療機関を受診していない人がいる可能性もある。 政府が19年に決定した「認知症施策推進
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大自在(10月4日)直さない判断をするのも校閲の仕事
読者に正確な情報を伝えるために原稿の誤りを調べる校閲作業は新聞製作の肝といえよう。校閲は漢字そのものが仕事の中身を表しているという。毎日新聞校閲センターの週刊誌連載コラムをまとめた「校閲至極」に、「校は二つのものを突き合わせて比べる意味があり、閲には一つ一つ調べるニュアンスがある」とあった。 参考に、対話型人工知能(AI)の「チャットGPT」にも聞いてみた。正確性、読みやすさを確認し、スタイルガイド(用字用語集)に基づき修正する。執筆者と協力し高品質な記事を提供する…などと詳しく答えてくれた。 チャットGPT関連の記事が出るたび思うことがある。「仕事を取って代わられるのでは
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記者コラム「清流」 悲しみにさようなら
「エコパで日本に負けたアイルランドです」。父の出身国を聞かれた際、この悲しみあふれる定型句を4年間使い倒してきた。しかし今、「ラグビーW杯で優勝したアイルランドです」に更新する時が来たのだ。来るはずだ。来てほしい。 実は、この定型句は正確ではない。かつての「グレートブリテン及びアイルランド連合王国」に設立したアイルランドラグビー協会は、独立後も分裂を回避。アイルランド共和国と北アイルランド双方から選手を集めている。ラグビーにおける「アイルランド」は国家の枠にとどまらないのだ。 4年前、せめてアイスランドとの混同がなくなればとここに書いた。期待を超え、静岡に特に縁深い国の一つとなれたことは
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記者コラム「清流」 学ぶカレー
子供のころ、「カレー」といえば母や給食のカレーライスが唯一の存在だった。進学で上京してインドカレーに衝撃を受け、近年は香辛料を多用したスパイスカレーに凝っている。 南伊豆町のインド家庭料理店「南豆亭」で、インドの伝統医学を学ぶ講座が開かれた。スパイスによる食事療法は実に興味深い。食材としてのみ認識していた香辛料には体温を下げる効果も期待されるなど、まさに医食同源と言える。 週末限定営業の南豆亭では、店主の日置雅子さん(58)が今まで味わったことがないようなおいしい料理を週替わりで提供。食いしん坊を喜ばせている。「日本の人にはなじみが薄くとも、インドの家庭で日々食べられている味なんですよ」
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記者コラム「清流」 救急隊員の優しい行動
1歳半の息子は乗り物への興味が強い。特に救急車が好きなようで、白地に赤い線が入ったミニカーを手から離そうとしない。 先日、2人で散歩していると正面から救急車が走って近づいてきたので、よく見えるようにと息子を抱きかかえた。緊急走行中ではなかったこともあり、助手席の救急隊員と思われる男性は、にこやかな表情でこちらに向けて手を振ってくれた。それを受けてか、走り去っていく車を眺める息子も、覚えたばかりの「バイバイ」をいつもより大きなしぐさでしている様子だった。 隊員の優しい行動は子どもの良い思い出になるとともに、世の中の仕事に興味を持つきっかけにもなるはず。何より、とてもうれしい対応だった。休日
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社説(10月4日)mRNAワクチン コロナから人類守った
今年のノーベル生理学・医学賞に、「メッセンジャーRNA(mRNA)」と呼ばれる遺伝物質を使った新たなワクチン開発に道を開いた米ペンシルベニア大のカタリン・カリコ特任教授(68)とドリュー・ワイスマン教授(64)が選ばれた。 カリコ氏らの技術を用いることで、パンデミック(世界的大流行)を起こして深刻な脅威となった新型コロナウイルス感染症に有効なワクチンが、1年足らずと極めて短期間で開発できた。特効薬がない中、新たなワクチンは人類の強力な武器となり、多くの人の命と健康を守った。日本でもmRNAワクチンは広く接種され、恩恵を実感した人は少なくないはずだ。 カリコ氏らのワクチン開発は一昨年、米国
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大自在(10月3日)大谷翔平選手
米大リーグ・エンゼルスの大谷翔平選手が今季のアメリカン・リーグ本塁打王に決まった。右肘と脇腹の負傷でシーズン終盤は欠場を余儀なくされたが、前半に驚異的なペースで本塁打を量産し並み居る強打者にも逆転を許さなかった。 1960年代生まれの筆者が子どものころ、米国で日本選手がこれほどの活躍をするとは考えもしなかった。大谷選手の快挙は恵まれた才能と不断の努力によるものだろうが、多くの選手が海を渡って道を切り開いたことが今につながっているのは間違いない。 大谷選手は少年時代、元ヤンキースの松井秀喜さんや現在もパドレスで活躍するダルビッシュ有選手に憧れたという。元ドジャースの野茂英雄さんが日本人2人
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記者コラム「清流」 スポーツと涙
古巣との対戦で決勝点を挙げたJ2藤枝MYFCの選手がヒーローインタビューで涙を流した。 かつての本拠地は天国から地獄を味わった忘れ難い場所。当時J3の最終戦に先発出場して優勝を決めJ2昇格に貢献したが、直後に解雇を言い渡された。後から聞くと、事情を知る顔見知りのインタビュアーが先に目を潤ませていたのでもらい泣きしたという。 五輪の日本代表選手も甲子園球児も勝っても負けても涙するが、欧米などでは事情が違うようで「スポーツで泣くなんて感情を抑制できない赤ん坊のようだ」と考える人が多いらしい。 お国柄それぞれだが、年を重ねて涙もろくなり、勝敗に関係なくひたむきにプレーする選手の姿を見ただけで
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記者コラム「清流」 30年前の発明
富士市の原田地区に「鬼鹿毛物語」という伝説が残る。城主「小栗判官」は療養のため、馬「鬼鹿毛」を遠方に預ける。忠誠心の強い鬼鹿毛は小栗判官の後を追い、同地区の妙善寺で感動の再会を果たす。 9月初旬、地元の小学生が同寺で鬼鹿毛物語の読み聞かせを鑑賞した。児童が夢中で見つめていたのは絵本でも紙芝居でもなく、「絵巻物」。物語の各シーンが描かれた全長22メートルの布を、読み手がストーリーに合わせて3人がかりで巻いていく。巨大な巻物への没入感は抜群。馬の躍動もリアルに感じられる。 「絵巻物」は地元の読み聞かせボランティアらが約30年前に考案したオリジナル品。これまで故障は一度もないという。子どもが地
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記者コラム「清流」 地元記者の醍醐味
「半世紀ぶりに命の恩人と再会する。取材してほしい」。異動前の今夏、勤務していた支局に電話がかかってきた。26年前、モンゴルのバイクレースに参加中、遭難したところを現地民に助けられたという男性(68)からだった。 男性は帰国して恩人を探し始めるが、名前すら分からず。半ば諦めていたが、昨年伊豆の国市で開かれたモンゴルの文化交流イベントがきっかけで恩人の所在が判明。男性は今年8月に現地で再会を果たした。旧交を温め「大変感激した」と熱っぽく語ってくれた。 取材中、男性になぜ支局に連絡をくれたのかと尋ねた。26年前、バイクレースへの出場を当時の支局記者に取材されたことを覚えていたという。先輩記者の
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社説(10月3日)「核のごみ」処分場 丁寧な合意形成が必要
「核のごみ」と呼ばれる原発由来の高レベル放射性廃棄物の最終処分場選定に向けた「文献調査」を巡り、長崎県対馬市の比田勝尚喜[ひたかつなおき]市長は調査に応募しない意向を表明した。市議会が調査受け入れ促進の請願を採択した一方、市長は最終判断として反対の立場を明確にした。 文献調査に応募した自治体は最大20億円の交付金を受け取れる。比田勝市長は「風評被害が出れば、交付金20億円には代えられない」として、調査に応じた場合に経済的損失が膨らむ恐れを指摘した。「文献調査で適地に分類されると続く調査を断りにくくなる」「賛否が割れる中で調査に応じれば市民の分断を深める」という認識も示した。 依然として地
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大自在(10月2日)貧しいリチャードの暦
スケジュール管理もスマホという人が増え、カレンダーの残り枚数で話を始めにくくなった。自宅のカレンダーは1枚に3カ月が下から並び、ミシン目で破いて先に進む。10、11、12月と、あと1枚になった。 カレンダーは大きさもデザインもさまざま。名言や格言が書かれたものを愛用という方も多かろう。 そのルーツともいえる「貧しいリチャードの暦」は、米国独立宣言の起草にかかわるなどした政治家で、雷が電気であることを明らかにした物理学者でもあるベンジャミン・フランクリン(1706~90年)の偉業の一つに数えられる。100ドル紙幣の人である。 貧しい印刷工から身を起こしたフランクリンは20代前半で新聞社を
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社説(10月2日)中国経済の低迷 さらなる悪化に備えを
不動産不況などに揺れる中国経済の低迷が続き、世界経済にも悪影響を及ぼす懸念が強まっている。経済協力開発機構(OECD)が9月に発表した「世界経済見通し」では、2023年の実質経済成長率は3・0%と6月の前回見通しより0・3ポイント高く予測したものの、24年は2・7%と0・2ポイント下方修正した。中国の内需が冷え込み、世界景気を下押しするとの分析だ。 新型コロナウイルス禍で「ゼロコロナ政策」を推し進めた中国は、景気回復の遅れに住宅価格の下落が重なって個人消費が鈍化している。国内総生産(GDP)世界第2位の中国が不況に陥れば、結び付きの強い日本も大きな打撃を受けるのは避けられない。速やかな回復
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14億人率いる国家主席 アジア大会開会式で歓声【記者コラム 杭州小話】
習近平国家主席が観客の声に手を上げて応えながら登場すると、ひときわ大きな歓声がこだました。アジア大会開会式の最中、会場となったスタジアムの大型スクリーンには、何度もその姿が映し出された。 歓声がとりわけ大きくなった場面はほかにも。地元中国はもちろん、香港、マカオ、台湾の選手団入場で盛り上がりは一層増した。中国国旗の小旗を振る観客は熱狂していた。 さまざまな地域とのあつれきを抱える中国。スタッフの若い中国人女性に尋ねると、「彼(習氏)のことは大好きです」と無邪気に答えた。違和感を覚えるとともに、14億人をけん引する最高指導者の影響力に触れ、体が震えた気がした。 2時間の式典は盛況のまま幕
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時論(10月1日)2軍新球団 県民の希望に
プロ野球のオーナー会議が9月末に行われ、来季から拡大する2軍戦に、静岡市に本拠地を置く「ハヤテ223[ふじさん]」などの参加を承認した。ハヤテはウエスタン・リーグ、ルートインBCリーグの新潟がイースタン・リーグに参入する。 公募していた日本野球機構(NPB)が参加要件を審査し、今後の選手確保や施設設備改善などの条件付きで内定した。 地元にプロ野球の新球団が誕生することは、静岡県の野球界の活性化や地域経済の発展などに期待がもてよう。 ただ、NPBに加盟するわけではない。2軍戦に参加するプロの野球チームである。水を差すわけではないが、現時点ではそこは認識しておかなければならないだろう。昨年
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社説(10月1日)地域交通再生法 身近な足確保へ本腰を
地域公共交通の再編に向けた関連法が1日施行された。関連法のうち、改正地域公共交通活性化再生法は、経営が厳しい鉄道路線の事業者か地元自治体の要請を受けた国土交通省が再構築協議会を設置し、路線を存続するか、バスなどに転換するかを議論するのが柱だ。1キロ当たりの1日平均乗客数を示す輸送密度千人未満が目安になる。 高齢化と人口減少でもともと厳しいローカル線の経営に新型コロナウイルス禍が追い打ちをかけた。こうした状況下で住民の身近な移動手段をどう確保するか、関連法施行で制度設計を本格化させる。ただ、赤字路線の廃止ありきの拙速な議論は許されない。採算だけでなく、地域活性化や国土の均衡ある発展、国土強靱
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大自在(10月1日)本日は、お日柄もよく
気に入って応援する人や物に使う「推し」。より良く見せようとする時の「盛る」。言葉の新しい使い方がかなり浸透していることが文化庁の国語世論調査で分かった。 原田マハさんのお仕事小説「本日は、お日柄もよく」(2010年)は結婚披露宴の場面で始まる。主人公の二ノ宮こと葉は、この常套[じょうとう]句で始まった来賓スピーチに閉口した後、「伝説のスピーチライター」久遠久美の祝辞に感動。新郎新婦が「推し」であることが、「盛る」ことなく伝わる内容と構成は衝撃的だった。 こと葉は久美に弟子入りし、一念発起して転職。「政権交代」を訴える野党新人候補のスピーチライターに抜擢[ばってき]され…。言
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クリケット 静岡と縁【記者コラム 杭州小話】
今まで撮影したことのない競技も見たい。ふと思い立ち、好きな野球の原型とも言われるクリケットの会場に足を運んだ。恥ずかしながら、予備知識はインドやパキスタンなど南アジアで人気があり、平たいバットを使い、試合時間が長いことぐらい。 スタンドからの景色は、芝生が美しく上品な印象だ。円形のグラウンドの中央には投打の対決が行われる長方形のピッチが設けられている。さあ試合開始。 投手が助走をつけて、ボールを投げ込む。「カキーン」。あれ? 打者はボールを360度に打ち返している、2人のバットを持った打者が向かい合って立っている―。果たしてどうなったらアウトになるのだろう…。 ルールをス
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大自在(9月30日)「協会主義」
当時ヤマハ発動機所属のラグビー日本代表だったマレ・サウ選手は、サモア代表が試合前に披露する戦いの踊りの「シバタウ」に感動したという。2015年10月3日、ラグビー・ワールドカップ(W杯)イングランド大会で日本はサモアと対戦した。 サウ選手はニュージーランド出身だが、両親はサモア人。代表入りの資格があったサモアからもオファーを受けたが、最終的に桜のジャージーを選んだ。 複雑な心境でグラウンドに立ったのだろう。「第二の故郷との試合はエモーショナル(感動的)だった。緊張した」と大会後のインタビューで語っていた。日本で15年間プレーしたサウ選手は今年、トヨタを退団した。 ラグビーは、五輪などの
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社説(9月30日)「年収の壁」対策 制度の抜本改革を急げ
政府は、配偶者に扶養されるパート従業員らが一定の年収になると年金などの社会保険料負担が発生するのを避けるため、働く時間を抑える「年収の壁」への対策を決定した。10月からの最低賃金引き上げに伴い年収の壁を意識した働き控えが広がる可能性があり、経済界は「人手不足が加速する」と政府に危機感を訴えていた。 確かにパート従業員らが時間を調整せず働くことができ、企業にとっても人手不足の緩和が期待できよう。だが、社会保険料を支払っている他の共働き世帯らとの不公平さを内在した、一時しのぎの苦肉の策であるのは間違いない。制度の抜本改革を急ぐ必要がある。 対策では、従業員101人以上の企業での「106万円の
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記者コラム「清流」 市民に多くの情報を
藤枝市で本年度、100歳を迎える島田イネさんの自宅を取材で訪れた。元気な足取りで歩き、背筋もきれいに伸び、すくっと立ち上がる姿に「100歳になるんですよね?」と何度か聞き直してしまったほど若々しかった。 島田さんの健康の秘訣(ひけつ)は50年以上毎日欠かさないラジオ体操。日記や俳句を書いたり、食事も好き嫌いがなかったりと生きていく上で見習うことばかりだった。 最も印象に残ったのは毎日、新聞を楽しみにしていること。「大自在が好き」「藤枝の記事がたくさん載っている」。記者としてこれほど励まされる言葉はない。取材に追われる日は続くが、その言葉のおかげで「今日も頑張ろう」と思える。日々気持ちを新
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記者コラム「清流」 フェンサーと市の未来
「会場に入ったときの雰囲気がすごかった」。9月中旬、沼津市で開かれた全日本フェンシング選手権個人戦に訪れたフェンシング部の高校生は目を丸くしていた。「自分もいつかこの舞台に立ちたい」 記者はテレビ越しにフェンシングを見たことはあるものの、じかに見るのは初めてだった。7月の世界選手権で活躍し、来年のパリ五輪でメダルが期待される選手らが集結。目で追えないほどの早さで剣を振り、1点を取るごとに雄たけびを上げる姿に圧倒された。 市は「フェンシングのまち」を掲げ、将来的には世界規模の大会を誘致し、そこで勝負できる選手を育成することが目標という。高校生と「その時には取材させてね」と笑いながら交わした
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記者コラム「清流」 不変と進化の花鳥園
8月下旬、おそらく小学生の時以来、掛川花鳥園を訪れた。天井から満開の花がつるされた「花温室」や鳥に直接餌をあげられるコーナーを通ると、かつて花に囲まれて親戚とアイスクリームを食べたことやインコが頭に止まった重みが思い出されて、目の前に広がる変わらない園の様子に懐かしい気持ちになった。 その一方で、ハシビロコウの「ふたば」が大人気になっていた。確かにゆっくりと動く姿がミステリアスで魅力的だ。お土産コーナーにもグッズが充実していて、多くの来園者でにぎわっていた。コロナ禍を経てグッズのオンライン販売を始め、園の一つの見どころになっている。 花鳥園は20日で開園20周年を迎えた。新しい風を吹き込
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大自在(9月29日)リール
子どもの頃から魚釣りに親しんでいる。道具の進化は著しく、糸を巻き取ったり、出したりするリールもその一つ。以前に比べ、信じられないくらい滑らかに回転するようになった。 日本のリールの輸出額は昨年、前年比49・7%増の227億円と比較可能な1988年以降で最高だった。新型コロナをきっかけに、人と離れて楽しめる釣りの人気が高まったことが主因のようだ。 国別の輸出先のトップは中国で、全体の3割以上を占めた。経済発展によるレジャーの多様化もあり、中国では若者を中心に釣りブームが起きているという。品質が高い日本製の釣り具は特に人気だ。 釣りに通じていた文豪・幸田露伴の作品に「釣車考[ちょうしゃこう
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記者コラム「清流」 静岡県・静岡市 連携の行方は
リニア中央新幹線トンネル工事で発生する残土の置き場に関する議論を巡り、静岡市の難波喬司市長が県側の環境保全に関する考え方に疑問を呈し、県市の違いが顕在化した。JR東海に意見する立場の両者の考え方が違っていては有効な対策は講じられない。早急にすり合わせるべきだ。 県市の考えは、JRが残土置き場に計画する「燕(つばくろ)沢」を前提とするかどうかで対立しているように見えるが、JRに求める保全措置の考え方をすり合わせれば、議論の着地点はおのずと見えてくるはずだ。 県市には今後、工事が南アルプスの生態系に与える影響に関する議論でも連携が求められる。だが、県で長くリニア問題の陣頭指揮を執った難波氏が
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記者コラム「清流」 静岡県東部 多様性武器に
3月に現所属に移って以降、県東部20市町のうち16市町に取材で赴いた。日本一高い富士山や最も深い駿河湾、工業地帯や漁師町…。数十分移動するだけで異なる景観や風土に触れることができ、小さな旅をしている感覚になる。食材や集客施設、温泉など地域資源も豊富で多様だと感じる。 県東部地域局が10月に東京で開く移住相談会には9市町が参加する。同じエリアから、これだけ多くの市町が集うのは珍しい。相談者の興味関心に合わせた移住先の提案ができるよう市町同士で協力してほしい。 観光誘客やまちづくりにも多様性は大きな武器になる。「伊豆」や「富士山」というエリア名は市町名よりも知名度が高く訴求力が
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記者コラム「清流」 ここだ!の1枚を
新聞記事で大事なことの一つは写真。記者の腕の見せどころでもあるが、なかなか満足のいく写真が撮れず、頭を悩ませている。 小学生の船の遠足取材では船が勢いよく走行する瞬間にシャッターを押したが、逆光で子供たちの表情がよく見えず。焦って追いかけたが、ピンぼけ写真が続き、あぜんとする。浜名湖の水上訓練では距離が遠すぎて米粒ほどの水上バイクばかり。初めての花火取材では豪雨でカメラが使えず予備のスマホが活躍した。 悪戦苦闘の日々だが、写真展の取材先で助言をもらった。「考えすぎず感じたままシャッターを押してごらん」。苦手意識から、最初から構図や位置取りを妥協していなかっただろうか。「ここだ!」と感じた
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社説(9月29日)国会召集義務訴訟 法制化への議論早期に
安倍晋三内閣が2017年に野党側の臨時国会召集要求に約3カ月間応じなかったのは憲法違反だとして、野党の国会議員らが国に損害賠償などを求めた訴訟で、最高裁は上告をいずれも棄却し、野党議員側の敗訴が確定した。 内閣は国会召集義務を負うとしたものの、「個々の議員の権利などを保障したものではない」という判断で、安倍内閣の違憲性には言及しなかった。敗訴という結果だけを受け止め、時の政権が自らの都合で召集を避けることを認めてしまえば、召集義務を定めた憲法が形骸化してしまうのではないか。 国会は国政の適切な運営を論じる場であり、議員は国民を代表してその場に立つ。要件を満たす形で臨時国会を求められた場合
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大自在(9月28日)狂犬病
先日の小欄で蚊が媒介する感染症を取り上げた直後、熊本県の70代男性が日本脳炎と診断された。ことしの全国初の患者で、発熱などの症状が出たため入院したが、意識レベルが低下して人工呼吸が必要な状態に陥ったという。 国立感染症研究所の資料によると、日本脳炎患者は世界で年間3万~4万人が報告されている。日本はワクチンの定期接種で流行が阻止され、患者は1966年の2017人をピークに減少。92年以降は毎年、ほぼ10人以下に抑えられている。 ウイルスに感染しても多くは症状が現れないが、推定で100~千人に1人が発病するという。発症した場合は対症療法が中心で治療が難しい。予防接種と媒介する蚊に刺されない
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社説(9月28日)野生のクマと人間 山で遭遇しない工夫を
環境省は9月、今年4~7月のクマによる人身被害が54件に上り、同期間の記録が確認できる2007年度以降で最多だったと発表した。同期間の「出没」は約8千件。年間2万件超だった20年度と同程度で推移しているという。 クマは森林生態系の重要な構成種である一方、近年は人や農作物への被害が社会問題化している。人の生活領域への侵入を防ぐ工夫が必要だ。夏場から冬眠に入る11月下旬までは山中を活発に動き回る。キノコ採りや山歩き、キャンプなどで偶発的に遭遇しないよう、十分に注意したい。 静岡県内では21、22年度に人身被害の報告がある。今年4~7月の出没は28件に上る。昨年度の21件を既に超えた。静岡市葵
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記者コラム「清流」 夏の観光地 洗礼と改心
新型コロナウイルス感染症の位置づけが季節性インフルエンザと同じ5類に移行後、初となった夏シーズンが終わった。県内有数の観光地熱海は週末やお盆、花火大会の開催日を中心に行楽客でにぎわい、まちの活気を肌で感じた。 夏の熱海生活は着任後初めての体験。歴代の支局記者から夏の混雑ぶりを聞いていたが、想像をはるかに超えた。激しい交通渋滞にはまって取材の時間に遅れたり、空席のある飲食店を探すのに苦労したり…。あまり経験したことのない出来事に何度もいら立った。 コロナ禍を乗り越え、勢いづく観光地の“洗礼”を受けたといったところか。このご時世、自分の住んでいるまちが多
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記者コラム「清流」 道路に潜む危険性
8月の浜松市議会の委員会で、昨秋からの半年間に道路瑕疵(かし)が原因で通行車両が損傷し、市が和解金を支払った事故が10件あったと報告された。同様の事故は毎年報告されているが、今回は特に多く、広大な市域で市が道路を管理する難しさを感じる。 内訳は道路の穴でパンクするなどした路面や側溝の問題が7件、道路脇斜面からの落石が3件。このうち落石は同じ箇所で1カ月に2回起きていて、仮に1件目の被害者がすぐに市へ報告していれば、次の事故が起きる前に市が対策を講じられた可能性があった。 市はスマホで市民が道路の危険箇所を報告できるアプリ「いっちゃお!」を運用している。舗装面や斜面は年々老朽化が進み、事故
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大自在(9月27日)赤トンボ
彼岸を過ぎて朝晩はいくらか暑さが和らいだようだ。国内有数のトンボの生息地、磐田市の桶ケ谷沼へ足を運んだ。腹が赤いトンボが飛び、沼のほとりにはヒガンバナが咲いていた。 異常気象が続き、四季の移ろいが分かりにくくなりつつも、身近な生き物や植物は季節の気配を伝えてくれる。古来暮らしとともにあり、人々はそれを言葉にして繊細な感性を磨き上げてきた。 〈赤とんぼじっとしたまま明日どうする〉。「風天」の俳号で詠まれた句を「いのちの一句 がんと向き合う言葉」(いのちの歳時記編集委員会著)に見つけた。映画「男はつらいよ」でフーテンの寅さんを演じた故渥美清さんの句。 渥美さんが俳句をたしなんでいたと知られ
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記者コラム「清流」 「ネットが現実」の幻想
対話形式で指示や質問を繰り返して文章を作る生成AI「チャットGPT」をテーマにした取材で、専門家に生成AIの仕組みを聞いた。生成する文章はインターネットの情報を基にしているので、ネットにない情報は「現実にないもの」と見なされるという。 ネットに掲載されていない重要情報は山ほどある。ネットの情報が全て正しいとも限らない。例えば、熱海土石流の原因解明につながる行政文書。数千ページがネットに掲載され、県や市は「情報を隠さない」と強調していた。しかし、取材してみると肝心な文書が掲載されなかったり、掲載した文書も肝心部分が判読できなくなったりしていた。 AI専門家からは「検証者としてのメディアの役
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台風15号 巴川氾濫 「流域治水」に実効性を【記者コラム 黒潮】
森川海の連環を念頭に、ダムではなくソフト面も含め流域一体での洪水対策を標榜する「流域治水」。国が打ち出したこの政策は時代の転換点とされ、自治体も踏襲する。ただ、実現までの道のりは遠く、災害が頻発する中、スローガンは多額を費やすインフラ整備を回避する“免罪符”にすらなっていないか。 昨年9月の台風15号。静岡市清水区の巴川の支流などを見て回るといまだに随所に爪痕が残る。行政は本流ばかりに着目しがちだが、流域一体での流域治水を志向するならば、水をかん養する山間地にも目を向けるべきだ。 その一つが、清水区河内地区のワサビ田とその周辺の沢だ。今月18日に訪れた際には、いま
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記者コラム「清流」 遠いデジタル化
沼津市をはじめ静岡県東部の自治体で、亡くなった人に関する手続きをワンストップでできる「おくやみコーナー」の設置が進んでいる。多くは予約制で、正直にいえば「予約してまで依頼する人はいるのだろうか」と思っていた。 ところが、先日浜松に住む母が亡くなり、その必要性を痛感した。市役所の窓口を何カ所も巡り、何枚も手書きで書類を書いて出すのは、葬儀を終えたばかりで疲れた身にこたえた。死亡届を出して戸籍に記載されるまで数日かかるため、必要な書類を後日請求する手間も出た。確かに日を置いて一度にできれば楽だ。 だが、そもそもこんなに書類を手書きして出す必要はあるのだろうか。人の死に関する手続きは慎重さも必
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記者コラム「清流」 斬新な発想 感心と自省
「人手不足に悩む建築現場の職人を助けたい」「農業を支えたい」「最高のトイレ環境を提供したい」。いずれも、高校生や専門学生が提案した社会課題の解決に役立つロボットのアイデアだ。 ロボットアイデア甲子園の県西部地区大会には、ユニークな案が出そろった。職人の動きをまねる手を持ったロボットや、さまざまな種類の畑に対応できる収穫ロボット、トイレの汚れや害虫を感知すると自動で清掃するロボットなど、斬新な発想に感心するとともに自省した。 新しいことをする際や人の挑戦を見聞きする時、思わず「できない理由」を考えてしまっていたようだ。アイデアをどう実現させるか、堂々と答える発表者に気付かされた。将来、ぜひ
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社説(9月27日)日本版DBS 実効性ある制度設計を
子どもと接する仕事に就く人に性犯罪歴がないことを確認する制度「日本版DBS」を創設する法案について、政府は来月に想定される臨時国会への提出を断念する方針を固めた。こども家庭庁の有識者会議が公表した法案の土台となる報告書案について、与党から義務化の対象職種が限定されるなど内容が不十分との批判が相次いだためだ。 学校や塾などで子どもに対する性犯罪は後を絶たず、しかも表面化しにくい。法整備は待ったなしだ。政府は義務化の範囲などについてさらに検討を進め、来年の通常国会への提出を目指すという。実効性ある制度設計のために議論を尽くしてほしい。 報告書案では、学校や保育所、児童養護施設などに確認を義務
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心をつかむ“日本食”【記者コラム 杭州小話】
大会の取材拠点になる杭州市中心部のメインメディアセンター(MMC)。選手の活躍を伝えようとせわしなく行き交う報道陣の空腹を満たすため、施設内に設けられた食堂で、意外な“日本食”が各国メディアの心をつかんでいる。 杭州の特徴を際立たせた本場中華をはじめ、東、南アジア、西洋など各国料理がずらりと並ぶ傍らにあるのは見慣れたソフトクリームの看板。北海道産生クリームとラングドシャ素材のコーンでおなじみの「クレミア」だ。 日本で500円超の高級ソフトもここでは20元(約400円)の食事代を払えば食べ放題。濃厚でありながら、すっきりとした後味が受けるのだろう。多くの人が、ビュッ
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大自在(9月26日)記憶
この夏、7年前に熊本県内を襲った災害の実相を伝える南阿蘇村の「熊本地震震災ミュージアムKIOKU(きおく)」を訪ねた。7月半ばにオープンしたミュージアムは、震度6強の揺れに襲われた旧東海大阿蘇キャンパス1号館や地表の断層を一体的に保存した震災遺構と、真新しい展示施設で構成される。 当時の映像や写真、押しつぶされた車などの震災遺物。ガラス張りの展示スペースでは、阿蘇玄関口の風景を感じつつ、さまざまな震災の“記憶”に触れた。1号館にはそこここに地震の爪痕が残り、すぐ脇の地表では建物の真下を貫く断層が生々しい姿をさらしていた。 「KIOKU」は熊本県と市町村が連携して取
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社説(9月26日)国連安保理改革 平和と協調の再認識を
ウクライナのゼレンスキー大統領が、ロシアの侵攻後、初めてニューヨークの国連総会に出席した。ゼレンスキー氏は一般討論演説で「侵略者を倒すため」の団結を呼びかけ、国際社会に対して支援を求めた。続いて国連安全保障理事会の会合にも初参加し、安保理改革を訴えた。 侵攻から1年半が経過したものの、戦場では激しい攻防が展開され、停戦は全く見通せない。核保有大国で安保理常任理事国のロシアが、国連憲章がうたう「武力行使禁止原則」を破って侵略戦争を始めたため、世界の平和と安定を守るはずの安保理が機能不全に陥っている。 さらに多国間協議の場である国連そのものが分断と対立の舞台になっている。非難の応酬ばかりでは
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記者コラム「清流」 気持ちを込めて
10年ほど前に勤務していた水窪(浜松市天竜区)に今夏、久しぶりに足を延ばした。当時お世話になった方に会いたくて、長野県との県境近くにある家をアポなしで訪れたところ歓待してくれた。その方は60代の女性。「誰かにずっと話したかった」と、大雨で3日間新聞が届かなかった時の心境を語ってくれた。 「新聞はただ情報を伝えるだけではなく、書く人の気持ちがこもっていて、読む人はその気持ちを受け取っていると思う。3日間気持ちを受け取れなかったのはつらかった。新聞屋さんには廃棄しないで全部届けてって言ったの」 女性の愛読紙は某全国紙。でも、この話は地域に根を張る記者の自分がありがたく聞かせてもらった。全国紙
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記者コラム「清流」 肉声の力
「障害者が子どもを産めない世の中なんておかしいと思います」 旧優生保護法下で不妊手術を強いられたのは憲法違反だとして国に損害賠償を求めた訴訟の本人尋問が9月上旬に静岡地裁浜松支部であり、視覚障害がある原告の武藤千重子さん(75)=浜松市東区=が証言台に立った。 武藤さんは弁護士からの約90問に及ぶ質問に答えた。小学生で目が悪くなり、40代で全盲になった生い立ち。第2子出産直後に受けた手術の前後の様子。現在の思いについては「国はしっかりと責任を認め、謝ってほしい」と訴えた。 淡々とした語り口から、視覚障害を受け入れ、力強くしなやかに生きてきた武藤さんのリアルな思いが伝わってきた。尋問が終
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記者コラム「清流」 物語の詰まった時報
決まった時刻に流れる同報無線の時報のメロディー。松崎町では1日3回「松崎町のうた」が響き渡る。美しい音色がまちをノスタルジックな雰囲気に包み、心を和ませてくれる。 松崎町のうたのメロディーは2017年、一つの曲を元に町民それぞれが作詞するプロジェクトの一環で、作曲家の相沢洋正さんがまちをイメージして制作した。住民有志が普及に努め、21年に時報に採用された。 ソプラノ歌手のたえこさんは、この取り組みで町を訪れたことがきっかけとなり、移住した。住民からの支援を受けてコンサートを開き、歌を通じた地域活性化に励む。新たに町に足を運ぶようになったファンもいて、人々が交流する機会を提供している。
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大自在(9月25日)「四股1000回」
大相撲の力士は、土俵に上がると仕切り前に左右交互に四股を踏む。「相撲大事典」(現代書館)によれば、四股とは「両足を開いて立ち、軸足は軽く曲げて構え、他方の足は膝を伸ばして体の側方に高く上げる」とある。 柱に向かって突っ張りを繰り返す鉄砲とともに、相撲の基本動作の四股。「醜[しこ](強いもの、醜いもの)」に通じるといわれる。四股を踏むことは地中の邪気を祓[はら]い大地を鎮める神事から発したとされ、「地固め」とも呼ばれる。 昭和の大横綱大鵬は、四股500回を日課にしたという。「新版 横綱の品格」(双葉山著、ベースボール・マガジン社)に寄せた一文で「上げる足より、支える足にこそ意味がある。単調
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社説(9月25日)介護離職対策 職場の理解欠かせない
2015年に当時の安倍晋三首相が「1億総活躍社会」実現を目指すとして掲げた「介護離職ゼロ」は、目標に近づくどころか、遠ざかっていると言わざるを得ない。総務省の5年に1度の就業構造基本調査によると、22年に仕事と介護の両立が困難になり、仕事を辞めた介護離職者は10万6千人と、前回17年の調査より7千人増加した。 働きながら家族を介護する「ビジネスケアラー」と呼ばれる人たちも、この5年間で18万3千人増えて364万6千人に上る。25年までに団塊の世代が全て75歳以上になり、介護が必要な人は今後も増加が見込まれる。団塊ジュニア世代はビジネスケアラーの予備軍ともいえる。 政府は、こうした実態を改
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時論(9月24日)就職活動では「嘘も方便」?
陪審制を描いた米国の古い映画に似たタイトルだが、この小説は就活が舞台である。最近文庫化された朝倉秋成さんの話題作「六人の嘘[うそ]つきな大学生」を読んだ。 ミステリーなので詳述は控える。人気IT企業の新卒採用の最終選考に残った6人に1カ月後のディスカッションが通告される。よければ全員内定も。だが、本番直前に課題が「6人の中から1人の内定者を決める」に変更。当日、各人の嘘と罪を告発する文書が入った封筒が見つかり、仲間は競争相手に。誰が、何のために―。 月が替わると、2024年卒の学生たちの入社内定式が行われる。学生も企業の担当者も、ようやくたどり着いたという思いか。 「実力に自信はないが
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社説(9月24日)デジタル庁に行政指導 「司令塔」への道険しい
マイナンバーに別人の公金受取口座を誤登録するミスが相次ぎ、個人情報が漏洩[ろうえい]した問題で、政府の個人情報保護委員会は、マイナンバー法に基づいてデジタル庁などを行政指導した。 新型コロナウイルス禍で顕在化した行政デジタル化の遅れを解消するため、デジタル庁が2年前、政策推進の「司令塔」として発足した。しかし、これでは政策推進の要になるどころか、組織的に未熟で、足を引っ張りかねない。政府を挙げて体制の立て直しが急務だ。目に見える形で国民からの信頼回復に努めなければならない。 誤登録は、自治体の支援窓口で共用端末を使って登録手続きをする際、登録者を切り替えるために必要な接続遮断操作(ログア
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大自在(9月24日)「モズの高鳴き」
静岡市ではおととい、きのうと最高気温が30度を下回った。雨の影響もあるだろうが、2日連続は今月初めてだ。9月に真夏日でなかったのはその2日を含め4日だけ。「暑さ寒さも彼岸まで」というのに、来週も気温が高くなりそうな予報に閉口する。 夏草が青々と茂る川沿いを歩いた。秋の初まりを告げるという「モズの高鳴き」を期待したのだが、「キイキイキイ」という鳥の声はまだ聞こえてこない。 自然の中で木々や草花、小鳥などを愛した歌人の若山牧水は、沼津市で晩年を過ごした。千本松原の地続きの土地に居を構えた。 7月に公益社団法人沼津牧水会が出版した「牧水 鳥」に収められた随筆に〈沼津に越して来て七年。唯[た]
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大自在(9月23日)新しい手術
右肘の靱帯[じんたい]を損傷した米大リーグの大谷翔平選手が2度目の靱帯手術を受けたと、トップニュースで伝えられた。同じ野球選手でも昨年8月にDeNAの三嶋一輝投手が「黄色靱帯骨化症」の手術を受けたことは、広く知られなかった。 脊髄近くの黄色靱帯が骨化して大きくなると、神経を圧迫し、下半身のまひなどを引き起こす国指定の難病。三嶋投手は手術前、歩行さえ困難な状態になったが、術後の経過は良好で今年は再び1軍のマウンドに上がっている。 大谷選手は5年前、肘靱帯の再建手術を受けた。利き腕にメスを入れることがタブー視されていた1974年、初めてこの手術に踏み切った大リーガー投手の名にちなんで「トミー
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社説(9月23日)働く女性最多 就労環境の改善進めよ
総務省が公表した2022年の就業構造基本調査で、女性就業者は過去最多の約3035万人と初めて3千万人を超えた。就業率も53・2%で過去最高だった。 だが、働く女性はなお過半数が非正規雇用で、フルタイムで働く人に限っても男女の賃金格差は主要国で最悪レベルだ。仕事と家庭を両立させづらい正社員の働く環境などを改善し、男女の格差解消を急がねばならない。 会社などの役員を除く雇用者に占める非正規の割合は男性22・1%に対し、女性は53・2%と多い。この状況を生む背景に目を凝らすべきだ。 未就学児を子育て中の人のうち就業者の割合は、男性の99・0%に対し、女性は5年前より9・2ポイント増えたものの
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記者コラム「清流」 変わらない熱気
テレビ番組をモデルにした寸劇、力士のコスプレで紙相撲の再現、侍の一人芝居…。個性豊かな仮装が集まる「仮装コンクール」が今月中旬、浜松市の山あいで4年ぶりに開かれた。私も仮装に参加し、祭りの熱気に触れた。 仮装コンクールは、浜松市天竜区水窪町の最大のイベント「みさくぼ祭り」の目玉行事。私が参加したのは、人里離れた山奥で暮らす住民の暮らしや思いを紹介するテレビ番組「ポツンと一軒家」をモデルにした寸劇だ。 寸劇では、水窪町がロケ地で山奥に暮らす家族を訪問する流れ。農具からテレビ取材班の小道具までセットの再現度は高く、観光客を楽しませたい気持ちが込められていた。人が減り続け、200
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記者コラム「清流」 スマホ操作の答え方
「あなたはどんなパスワードにしたの」。高齢者向けスマホ教室で、自身のパスワードを見せて隣とやりとりする人がいた。初心者同士で心を許したのかもしれないが、2人は他人。たまらず声をかけた。 スマホのありとあらゆる場面で求められるパスワードや特定の番号。その後も「ここに入れるのはどれ」と聞かれ、見たくなくてもパスワードを確認し、入力を手伝うしかなかった。 この参加者は息子や娘にスマホを設定してもらうことが多いという。ただ、中身は不明。「やってもらえるのはありがたいけど、何度も聞くと怒られるの」と悩みを吐露していた。 スマホの操作を聞かれた時、面倒くさいと適当に答えてないだろうか。その行動が家
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記者コラム「清流」 ゲリラ豪雨にヒヤヒヤ
先日、車を運転していたらいわゆるゲリラ豪雨に出くわした。雨の勢いはすさまじく、ワイパーを最大にしても前がほとんど見えない。走っていた場所はバイパスだったため、車を止めるわけにもいかない。速度を落として慎重に前へと進めた。トンネルに入り、出たら一転して雨の勢いは収まった。どうやら特定の地域だけピンポイントに雨雲がかかっていたようだ。短い時間だったが、ヒヤヒヤした。 そういえば、車を出発する時、進行方向の上空にどす黒い雲が漂っていた。最近頼りになる携帯アプリの雨雲レーダーでは行く先に激しい雨が降ることを示していた。車に乗っていればなんとかなるだろうという考えが甘かった。これからは「危ない雲」が
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大自在(9月22日)奴雁
基準地価が発表され、三大都市圏を除く「地方圏」の住宅地の変動率がバブル崩壊前以来、31年ぶりプラスになった。1平方メートル当たり10万円強という調査地点に近い拙宅周辺にも新築住宅が次々と建っている。 日銀の大規模金融緩和策でローンを組みやすい環境が続いたことが住宅ブームを後押しした。ただ、米欧との金利差が拡大。日銀総裁が黒田東彦氏から第32代植田和男氏(牧之原市出身)に交代し、政策が修正されるとの見方が広がっている。きのうは長期金利が約10年ぶりの高水準に上昇した。 きょうは日銀第24代総裁前川春雄氏(1911~1989年)の命日である。79年12月に就任すると、国会審議中に公定歩合引き
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記者コラム「清流」 4年前の記憶
ラグビーのワールドカップ(W杯)で日本が優勝候補のアイルランドを撃破した2019年9月28日。舞台となったエコパスタジアムに取材で身を置きながら、歴史的快挙をたぐり寄せたプレーの数々を目に焼き付けることはなかった。観客の様子を写真に収めるため、ピッチに背を向けてカメラを構えていた。 ただ、スタンドを埋めた人々を見ていれば、胸を打つ戦いが繰り広げられていることは容易に分かった。期待に満ちた表情、好プレーに反応する拳、勝利の笛の音とともに潤む目。ラグビー、そしてスポーツの魅力を観衆から感じ取ることのできた日だった。 4年に1度の祭典が再び盛り上がりを見せている。今回はパブリックビューイング会
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記者コラム「清流」 浜名湖の水中で出会い
背中に紫色の斑紋があるシラライロウミウシ、体の外周に黄とオレンジの色帯があるミツイラメリウミウシ。この夏に潜った浜名湖の水中で、“海の宝石”と呼ばれるたくさんのウミウシたちに出会った。 浜名湖体験学習施設「ウォット」によると、浜名湖は100種以上のウミウシが観察できる日本有数の生息地。取材日は1時間で10匹ほどを発見できたが、案内してくれたガイドによると「これでも少ない方。多い日には一匹ずつ観察していると先に進めないほど」という。キスやメバルなど魚の姿も多く見られ、浜名湖の豊かさを実感した。 前任地は沼津で、本県でダイビングといえば伊豆半島という認識だった。浜名湖
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社説(9月22日)外国人訪日客回復 観光公害にならぬよう
新型コロナウイルス禍で低迷した観光需要が急回復している。観光庁が8月に発表した宿泊旅行統計では、6月の全国の延べ宿泊者数は日本人、外国人を合わせて4533万人。2019年6月に比べ1・1%の減とコロナ禍前の水準に戻った。日本人だけでなく、コロナ禍の影響が特に深刻だった外国人も大幅に回復した。政府観光局発表の訪日外国人数の推計値では、8月は215万人余りと19年8月の85%超だった。 外国人客の内訳をみると、コロナ禍前は圧倒的に多かった中国人客の回復が遅い。日本への団体旅行解禁の遅れや東京電力福島第1原発の処理水海洋放出問題が影響しているが、この低迷が長期に続くとは考えにくい。今後、増えるこ
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大自在(9月21日)蚊媒介感染症
休日の夕暮れ時に屋外の鉢植えに水やりをしていたら知らぬ間に足を蚊に刺された。蚊も猛暑に弱く気温30度を超えると活動が鈍ると聞いた。真夏日が続く中、確かに日中はほとんど見かけない。 ところが、日差しが弱まって気温が下がると活発になるようだ。やはり短パンでは忌避剤を塗らないと格好の獲物になってしまう。静岡では嫌なかゆみをもたらす程度で済むかもしれないが、実は世界で人間を最も多く死亡させているのが蚊なのだ。 マイクロソフト元会長のビル・ゲイツ氏と妻メリンダ氏が設立した財団調べ(2015年)で、人を死亡させた1位が蚊で83万人(54%)、2位が人で58万人(37%)。蚊による死亡とはマラリアや黄
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社説(9月21日)地方圏の地価上昇 人呼び込む政策強化を
静岡県が発表した7月1日時点の基準地価は、住宅地、商業地とも昨年に続き下落した。国土交通省のまとめで、全国の地方圏平均が住宅地で31年ぶり、商業地は4年ぶりにプラスとなる中でのマイナスになったが、県内都市部の上昇基調や、下落傾向が続いていた地域に改善の兆しがあることは注目される。 本県の住宅地(調査地点410)の平均変動率はマイナス0・5%、商業地(149地点)はマイナス0・2%。いずれも下落幅は縮小した。上昇地点数が、住宅地110地点(前年80地点)、商業地45地点(同31地点)あるということを明るい材料と受け止め、人を呼び込む政策を強化したい。工業地は0・3%上昇、高速道路インターチェ
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記者コラム「清流」 感染症 受難続く受験生
1月の大学入学共通テストの際、受験生から「新型コロナウイルスの感染対策で一番我慢を強いられたのは自分たちだと感じた」と不満を聞いた。社会ではコロナ対策の緩和ムードが高まっていた時期だっただけに、心に残る言葉だった。 本年度はコロナの5類移行後初の受験期となる。しかし、夏休み明けからインフルエンザの流行による学級・学年閉鎖が相次ぎ、今月、1700人まで感染者が膨らむ異例の事態になった。例年ピークは1~3月だが、早くも拡大している。 コロナもまた来年1月ごろから拡大する可能性がある。昨年インフルエンザの集団感染がゼロだったことからも、受験生の受難は今年も続き、孤独さは増すのかもしれない。彼ら
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記者コラム「清流」 前例踏襲 見直す動きを
高校野球の取材で球場を訪れると、県内でも選手が髪を伸ばしている学校は増えている印象を受ける。身だしなみが何かと気になる年頃。「野球部といえば丸刈り」という従来のイメージは変わっているのだろう。髪の長さと野球の実力に因果関係はなく、野球人口の減少をくい止める一因にもなるのであれば、好ましい流れだと思う。 性別や年齢で役割を決めたり、前時代的な業務が存在したり―。学校だけでなく、社会や地域でも「昔からそうだから」という慣習、慣行がまだ多く残されている。そして大概の場合、そこに合理的な理由を見いだすことはできず、「悪しき」との枕ことばを付けたくなる。 多様性が認められつつある現代。「前例踏襲は
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記者コラム「清流」 思い受け継ぐ定演
浜北文化センター(浜松市浜北区)で開かれた聖隷クリストファー中・高(北区)吹奏楽部の定期演奏会を取材した。クラシックから子ども向けの曲など選曲は幅広く、50人の部員の熱気やチームワークの良さが観客席に伝わってきた。 個人的には「野球応援メドレー」が印象に残っている。球場で聞くのもいいが、音響設備が整ったステージで聞くと、選手を鼓舞し、一体感を生み出す曲だということがよく分かる。 同高野球部は2020年夏に県の頂点に立ったが、同年は新型コロナの影響で全国選手権は開催されなかった。21年秋の東海大会は準優勝も、22年春の選抜大会は選から漏れた。甲子園のアルプススタンドでの演奏はかなわなかった
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大自在(9月20日)バスの日
酒席のために自宅から静岡市中心部に向かう際、よく路線バスを利用する。その時の道路事情によって定刻通りに来ないこともしばしばだが、乗り込むと、自家用車を運転している時には気付けない発見を通常より少し高い視点から味わえる楽しみがある。 7月に訪れた広島県福山市では、JR福山駅から路線バスに乗って鞆の浦に足を運んだ。江戸時代に「潮待ちの港」として栄え、幕末には坂本龍馬が身を潜めた地である。片道およそ30分。瀬戸内の穏やかな海と島々が目の前に現れ、心が洗われた。 「シニア バス旅のすすめ」(平凡社新書 加藤佳一著)には、伊豆の浄蓮の滝や旧天城トンネル、映画「テルマエ・ロマエ」のロケ地となった「天
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社説(9月20日)教員の働き方改革 政府全体で取り組みを
中教審が教員の長時間労働是正に向けた緊急提言をまとめた。年間の授業時間数が国の基準を大きく超える学校に改善を促し、行事精選や教員の仕事をサポートするスタッフ拡充の検討を要請した。 近年、教員の労働が「過酷」「ブラック」との印象が広まった影響もあり、各都道府県・政令市の教員採用試験の志願倍率は低下傾向にある。熱意と能力を持つ人材を採用できなければ、日本の学校教育の基盤が揺らぐ。抜本的な対策が急務だ。 経済協力開発機構(OECD)が48カ国・地域を対象に2018年に実施した調査によると、日本の中学校教員の仕事時間は1週間当たり56・0時間で、13年調査を2・1時間上回り、2回連続で世界最長と
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記者コラム「清流」 防災力としてのラジオ
御殿場市と小山町の一部が放送エリアのコミュニティーFMラジオ局「エフエム御殿場」で、地元高校生が番組制作に挑んだ。企画から機器操作、番組進行まで体験し、番組作りの奥深さを実感したようだった。 生徒たちは番組制作の過程でラジオ放送の意義も学んだ。職員から「ラジオの力が最も発揮されるのは災害時。いざという時に聞いてもらえるよう、普段から放送しているともいえる」と説明を受けていた。 総務省の調査で、東日本大震災発生時に被災者らが利用したメディアの中で、ラジオが最も高い評価を受けたことは記憶に新しい。コミュニティー放送は地域の大きな防災力の一つだ。「リスナーを楽しませるだけでなく、防災の担い手で
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記者コラム「清流」 宝を隠す雑木林
たびたび光の色を変えて夜間にライトアップされる掛川城。何度か撮影してきたが、いつも構図が同じになってしまう。生い茂った城周辺の雑木が邪魔で、天守を望める場所が限られているからだ。 天守復元から30周年の節目を来年に控えて、掛川市が雑木の一部を伐採する方針を示した。取材後、改めて掛川城の周辺を歩いた。大きな木が構造物を圧迫し、看板を隠していた。電柱や電線に接触しそうな枝もあり、危険性を感じた。 中心市街地に本格的な天守があるまちは多くない。掛川市は非常に恵まれていると思う。一方で、自慢の城を持て余しているようにも感じてきた。来年に向けた景観向上の取り組みを歓迎したい。仰げば天守が望めるまち
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旧天竜林高事件 再審請求 「12時26分の謎」解明を【西部 記者コラム 風紋】
旧天竜林高を舞台にした大学推薦入試を巡る調査書改ざん・贈収賄事件で、加重収賄罪などで有罪が確定した北川好伸元校長(75)が10月6日、第2次再審請求を静岡地裁浜松支部に申し立てる。弁護団は、北川元校長に現金を渡したとされる中谷良作元天竜市長(91)=贈賄罪で罰金刑が確定、再審請求中=のアリバイに関する主張を新証拠の柱にする方針で、裁判所の判断に注目したい。 焦点になっているのは、中谷元市長に対する警察の取り調べメモに記されていた「スルガ銀行天竜支店 12時26分事務処理(中谷退店)」との記述。中谷元市長が2回目に現金を渡したとされる2007年12月10日の行動履歴を示していて、22年になっ
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大自在(9月19日)「個とチーム」
きのうは、早朝からテレビの前で熱くなった方もおられよう。ラグビーのワールドカップ(W杯)フランス大会1次リーグで日本はイングランドに敗れた。ミスや不運もあり、点差は開いたが善戦に思えた。だが、ラグビーの母国に11戦全敗。どこかにまだ差があるのだろうか。 元日本代表監督の故宿沢広朗さんは、勤務していた住友銀行(現三井住友銀行)で1977年から7年半、ロンドンに駐在。本場のラグビーに触れ、日本との違いを感じたという。 英国に滞在する各国代表選手の選抜チームで英国陸軍と試合をすることになった。スクラムハーフで日本代表経験がある宿沢さんも選ばれた。だが、各国の選手が集まり、初対面のあいさつをした
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社説(9月19日)訪問介護員の不足 若い人材確保が急務だ
介護が必要な高齢者などの自宅を訪れ、食事や入浴の介助といった介護保険サービスを提供する訪問介護員(ホームヘルパー)の人手不足が深刻だ。公益財団法人「介護労働安定センター」の2022年度調査によると、ヘルパーが足りないと感じている介護事業所は全国で83・5%に上り、他の介護職種と比べて極めて高い。さらに、ヘルパーの4人に1人が65歳以上と、高齢化も目立つ。 国は「地域包括ケアシステム」と銘打って、重い要介護状態になっても住み慣れた地域でできる限り長く暮らせる社会の仕組みづくりを目指している。だが、その要となるヘルパーの不足で、自宅での生活を望みながらも、高齢者施設の入所などを選択せざるを得な
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大自在(9月18日)敬老の日
「日頃、読み聞かせをした子どもは本が好きになる」。先輩記者から経験談を聞いていたこともあり、娘が物心がつく前から夫婦で就寝前に読み聞かせをした。ふだん帰宅の遅い父親ができるのは休日だけだが、以前は手に取ったこともなかった絵本を読むようになった。 読んでみると、子どもの成長のためのさまざまな工夫に気づかされる。大人にも学びのある作品が多く、何冊かお気に入りも見つけた。「だいじょうぶだいじょうぶ」(いとうひろし作・絵)はそうした作品の一つだ。 一緒に散歩するおじいちゃんと幼い孫の交流を描いた。世の中にある怖いことや困ったこと知って不安になる「ぼく」を、おじいちゃんがいつも「だいじょうぶだいじ
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社説(9月18日)処理水と禁輸措置 脱中国依存の模索急げ
東京電力が8月24日から福島第1原発で始めた処理水放出の初回分が終了した。1日当たり約460トン、貯水タンク10基分7800トンが流された。放出後、周辺の海水に含まれている放射性物質「トリチウム」濃度が計測されてきたが、これまで基準を上回る数値は検出されていない。 一方、処理水放出に伴い、中国は処理水を「核汚染水」と呼んで日本産水産物の輸入を全面禁止。香港も合わせると中国向けは水産物輸出全体の4割を占め、水産業に深刻な影響が出ている。水産業は東日本大震災被災地の主要な地場産業でもある。復興の足を引っ張ることは避けたい。 中国の禁輸措置撤回に向けて、政府は粘り強く対話を呼びかけ説明を尽くす
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時論(9月17日)不可解な内閣改造の女性登用
「看板倒れ」と批判されるのは分かりきっているのに、あえて実行した意図は何なのか。 岸田内閣改造での「女性活躍」のことだ。13日に発表した閣僚19人の名簿には過去最多に並ぶ女性5人が名を連ね、女性人材の積極活用をアピールしたが、2日後に新内閣が決定した副大臣26人、政務官28人には一人もいなかった。閣僚人事を評価する声があったことから、かえって「全員男性」の副大臣・政務官人事が悪目立ちした格好だ。政権への「女性閣僚最多」のプラス効果は吹き飛んだと見ていいだろう。 昨年8月の内閣改造は女性閣僚こそ2人だったが、副大臣、政務官は計11人を数えた。今回、女性を任命しなかった理由としては、昨年の積
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社説(9月17日)ロシア北朝鮮接近 東アジア緊張高めるな
北朝鮮の金正恩[キムジョンウン]朝鮮労働党総書記が約4年半ぶりにトップ外交を再開し、ロシアのプーチン大統領とロシア極東の宇宙基地で会談した。 軍事協力強化で一致したもようで、ウクライナ侵攻が長期化して武器弾薬や兵力が不足して苦境にあるロシアは、武器弾薬の提供を受けるのではないかと言われている。一方でロシアから北朝鮮へのミサイル技術提供の可能性も指摘されている。 国連安全保障理事会の常任理事国であり、核超大国のロシアが北朝鮮との軍事協力を強化し、北朝鮮の核武装を手助けするのであれば、制裁決議を通じて北朝鮮の非核化を求めてきた安保理の協力体制は崩壊することになる。 強権で国内世論を抑えつけ
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大自在(9月17日)ラグビー
テレビのスポーツ観戦で泣くことはめったにないが、あの時はとめどもなく涙がこぼれた。2015年9月19日、英国で行われたラグビーワールドカップ(W杯)の日本対南アフリカ戦。W杯優勝2回を誇る南アフリカに、1次リーグを突破したことのない日本が挑み、34―32で撃破した「ブライトンの奇跡」だ。 単に強豪に競り勝っただけなら、涙は出なかっただろう。勝ったからではなく、試合終了間際の選手の決断に感動した。 3点差を追う日本が敵陣に攻め込み、スクラムでの相手反則によりペナルティーキックで3点を狙うか、スクラムをしてトライでの5点獲得を目指すかを選ぶ権利を得た。同点で終わっても、日本が高く評価される試
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記者コラム「清流」 苦境の中で
農林水産業が悲鳴を上げている。夏の異動で1次産業の担当になって1カ月余り。各業界関係者の危機感の強さを痛感する日々を過ごしてきた。 そんな中で奮闘する、一人の茶農家の営みに心を打たれた。先月の全国茶品評会で初の農林水産大臣賞に輝いた小沢晃さん(69)。受賞が決まった当日、静岡市葵区有東木にある茶園で話を聞いた。 同地は良質な本山茶の産地として知られるが、低迷する茶価や後継者不足のあおりを受け、苦境に立たされている。大臣賞をとった茶は、その有東木で7年前に買い取った放棄茶園で育てたものだった。 一度見捨てられた場所に再び光を当て、価値を磨き直す。小沢さんの軌跡は、農業に限らず、普遍的な再
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大自在(9月16日)ノー・サティスファクション
英バンド「ローリング・ストーンズ」が10月、18年ぶりの新アルバムを発表する。メンバーのミック・ジャガーとキース・リチャーズは今年80歳。デビューから60年たった。恐るべき息の長さだ。 先行曲「アングリー」が配信されている。力強い歌声、腰の入ったギターストロークは「これぞストーンズ節」といった趣。現代的な音処理にも耳を奪われた。 彼らの代表曲「サティスファクション」(1965年)は、歌詞の中で強い否定を用いて「満足できない」を連呼する。2014年の来日公演を貴賓室で見たある政治家は歌詞の真意を読み取れず、ライブの感想を問うた記者団に「サティスファクション(満足)だった」と言い放った。
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記者コラム「清流」 障害者雇用 定着が重要
障害のある子の保護者と特例子会社など雇用に積極的な企業の「語る会」が8月、浜松市で開かれた。保護者の不安や悩みの相談や質問は途切れることがなく、企業側も求める人物像を丁寧に答えた。就職期にはまだ遠い小学校低学年の母親もいて、将来への不安の大きさが伝わってきた。 民間企業の障害者の法定雇用率は現行の2.3%から2026年7月の2.7%まで段階的に引き上げられ、就労の機会が広がる。「障害があってもやりがいがある仕事に就いてほしい」とイベントに参加した父親は子が働く姿に期待を込めた。 ただ、重要なのは定着だ。まずは働く本人の意志や特性が土台にある。今回のように企業や保護者、生徒が過ごした特別支
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記者コラム「清流」 1983年9月1日
1983年9月1日。大韓航空機がソ連軍の戦闘機に撃墜され、三島市出身の川名広明さんら乗客乗員269人全員が犠牲になった。その日は川名さんの20歳の誕生日。くしくも記者が生まれた日だった。 この事件を恥ずかしながら最近まで知らなかった。現場に近い北海道稚内市では毎年、平和を祈る式典が開かれているが、「本州では話題にもならない」と川名さんの弟正洋さんは言う。東西冷戦が生んだ悲劇から教訓を学ばず、世界で戦争が終わらない現状に思いをはせると、やるせなくなる。 今年は、関東大震災発生100年の節目でもあった。今後は無事に年を重ねる度に、家族や周囲に感謝するだけでなく、悲惨な戦争や災害の犠牲者がなく
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社説(9月16日)損保ジャパン 社長辞任で幕は引けぬ
中古車販売大手ビッグモーターによる自動車保険の不正請求問題に絡み、損害保険ジャパンの白川儀一社長が引責辞任を表明した。不正を認識しながら役員の異論に耳を貸すことなく、一時停止していたビッグモーターとの取引再開を主導していた。「判断ミス」と言うより「意図的」と言うべきで、辞任は当然だ。 自社の利益を最優先し、顧客を裏切った罪は重い。ビッグモーターと同根と言えるだろう。金融庁は両社への立ち入り検査を19日に始める予定で、不正の温床とされる癒着の実態解明が本格化する。親会社のSOMPOホールディングスのグループ統治に問題はなかったのかなど、徹底的に追及すべきだ。社長辞任で幕引きとはいかない。
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記者コラム「清流」 本当の社会復帰
「社会に受け入れられるようになってやっと“社会復帰”なんです。塀を一歩出ただけではまだ違うんです」。静岡刑務所(静岡市葵区)の職員から、刑期を終えた受刑者が直面する現実の厳しさを聞いた。 法務省のまとめによると、刑務所の再入所者のうち約7割が再犯時に無職だという。出所後に雇用され、社会に居場所を確保し続けることがいかに重要かが分かる。路頭に迷って再び罪を犯し、刑務所に戻ってくるようでは社会復帰したとはいえないだろう。 「社会に戻ってしっかり生活している姿を見るとうれしいんですよ」。刑務所というと厳しく無機質なイメージだったが、職員の言葉からは犯罪を減らすという覚悟
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記者コラム「清流」 地域を守る新拠点に
静岡県内の警察署の中で最も古い大仁署の移転建て替えに伴い、地域を守る新たな拠点になる伊豆中央署が開署した。 県内の警察署で2例目の拳銃射撃場を整備した。本庁舎の外観は世界遺産「韮山反射炉」をイメージし、外壁には温かみのある色のれんが風資材をふんだんに使った。同署に面する国道136号からは外観全体が確認でき、観光的要素もあるのかもしれない。内装は白が基調で広く、新築の香りがする。 開署式で高橋文典署長は「常に市民目線に立ち、伊豆市、伊豆の国市の治安維持のプロとして署員一人一人が責務を果たしてほしい」と訓示した。伊豆の国市の田京交番と田原野交番は閉所したが、これからも管内の安全を守り続けてほ
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記者コラム「清流」 20人からのメッセージ
浜松市役所1階ロビーに並ぶ20体の人形パネル。無免許や飲酒、危険運転など違法ドライバーの犠牲になった死者20人の等身大で、本人の写真や生前はいていた靴、遺族の悲痛なメッセージが添えられている。 「生命(いのち)のメッセージ展」と題した企画で、13日までの期間中は多くの来庁者が足を止めて、パネルに見入っていた。 県警や自治体のハード、ソフト両面の対策によって近年、全国で事故件数は減少傾向にある。車の安全技術の進歩などもあり、重大事故の減少も期待される。 だが、最後に重要なのは個人の交通安全意識だ。浜松市は2022年、人口10万人当たりの人身交通事故件数が政令市で14年連続最多を記録した。
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社説(9月15日)農基法改正へ答申 価格転嫁の議論深化を
ロシアのウクライナ侵攻などを背景に「食料・農業・農村基本法」の見直しを議論してきた農林水産省の有識者会議が最終取りまとめをし、農相に答申した。不測の事態が起きたときに農家に普段とは違う作物を作ってもらうことの検討などを提言している。 答申は農基法抜本改正の課題の一つに「適正な価格形成」を指摘した。デフレ経済長期化で低価格志向が定着し、農作物の価格に生産コストが十分に考慮されていないとしている。答申を前に全国11市で開かれた意見交換会でも、電気代や肥料代が上がっても価格に転嫁できないという訴えが生産者から相次いだ。 価格転嫁ができれば農家の生産意欲向上や新規就農者増が促される一方で、食品価
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大自在(9月15日)適材適所
「スギとクスノキは舟に、ヒノキは宮殿に、マキは棺[ひつぎ]に使いなさい」。奈良時代に成立した「日本書紀」にスサノオノミコトの言葉として記されている。「そのためには、たくさんの木の種をまこう」と続く。 木の実を採取し森の動物を狩った先史時代から、仏教が伝来して大寺院を造営するため森林を伐採するようになり、やがて城郭と都市の造成が各地に広がり木材が不足するようになった。そこで伐採と植林を循環させて森林との共生を図る林政が登場した。 だが、その歯車は外材の輸入が自由化されて止まる。日本は国土の3分の2を森林が占めるが、その4割は人工林である。戦後に造林された人工林は本格的な利用期を迎えているが
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大自在(9月14日)上川外相
監督やチームメートから全幅の信頼を寄せられる選手の存在は貴重だ。例えばラグビー日本代表のリーチ・マイケル選手。代表デビュー以来、熱いハートとプレーで認められてきた。主将としても代表をけん引し、キャップは歴代2位の81。ワールドカップ(W杯)フランス大会のチリ戦でもトライを決め、チームを勝利に導いた。 信頼に応え、来年9月の総裁選で再選を目指す岸田文雄首相に「勝利」をもたらす存在になるだろうか。上川陽子元法相(衆院静岡1区)が内閣改造で重要閣僚の外相に抜てきされた。女性閣僚は過去最多に並ぶ5人となった。 「女はいいよな」。少子化担当相などを経て上川氏が法相に就いた2014年当時、ある県内衆
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記者コラム「清流」 少年が駆け込んだ家
6月の大雨で浸水被害を受けた沼津市原の住民の話を聞こうと先日、ある民家を飛び込みで訪れた時のこと。気のよさそうな年配の夫婦が現れ、日焼けした小学校低学年くらいの男の子も姿を見せた。 「お孫さんかな」。そう思いながら訪問の趣旨を伝えると、主人は「この子、さっきふらふらの状態でうちに来たんだよ」と意外な話をした。近くの公園で一人で遊んでいて、熱中症になり助けを求めたらしい。家に上げて休ませ、親の迎えを待っているという。 親ではなく、記者という“珍客”を見て少年はさぞがっかりしただろう。この家には「こどもかけこみ110番」の札がかかっていた。少年がそれを見て駆け込んだの
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記者コラム「清流」 そんな価値が
富士高の卒業生が出品する美術展で、絵画や彫刻に交ざって千羽鶴があった。お手本のように丁寧な仕上がりだけど、なぜここに。実は外科医が内視鏡手術で使う器具を「指先のように扱うトレーニング」で挑み続ける折り鶴。器用に、しかも素早く。そんな背景も紹介され、来場者の見る目が変わる。 別の展示会では、小中学生が日常の不便を解消するアイデア作品を発表し、年配の家族のために知恵を絞った幾つかが特に関心を集めた。こちらも作品自体に加えて、心温まる着想のエピソードが心に残る。 この「発明くふう展」はものづくりのまちで続く長い事業で、9月は市議会も評価を審議している。どんな経緯で始まり、成果を生み、価値がある
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社説(9月14日)岸田内閣改造 政権浮揚は成果次第だ
岸田文雄首相(自民党総裁)は第2次再改造内閣を発足させ、党役員人事も断行した。物価高騰や緊迫化する国際情勢などの難局に対応するため、内閣も党もこれまで政権運営を主導してきた体制の骨格を維持。一方で初入閣の閣僚を増やし、女性閣僚も過去最多に並ぶ5人にするなど、支持率低迷が続く中で新鮮さを追求しようとした首相の意図がうかがえる。 だが、初入閣組の多くは党内派閥の要望に応えた人材で、派閥ごとの閣僚の人数も派閥間の均衡を重視した。2024年秋の党総裁選を見据えて再選の地固めをするための布陣なのは明らかだ。意外性のある人物の登用はほとんどなく、支持率の大幅な上昇にはつながらないのではないか。この陣容
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記者コラム「清流」 DXはヒアリング大切
社内のデジタル機器の仕様が最近変わり、とまどいつつも使いこなせるようになるのも仕事だと自らに言い聞かせている。デジタルトランスフォーメーション(DX)の流れに乗らなければならない。 浜松市内であった浜松医科大医療DXシンポジウムで、都内の医療DX支援会社の代表者がDXについて講演中、こんな指摘をした。現場の人間にとって情報共有には手書きの方が楽なことが多い。その前提で重複業務を省いていくことが必要で、単にシステムだけ導入し、現場の作業が複雑になるものの、施設の代表者が「うちはDXを進めた」と悦に入るのは「なんちゃってDX」である。 医療機関、大学関係者向けの講演だが、指摘はどの事業者にも
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記者コラム「清流」 蛙化しない若者
「蛙化(かえるか)現象」という言葉がある。好きだった相手が振り向いた途端に嫌悪感を覚える、相手のささいな言動で好意が急に冷めるといった状況を指す。SNSなどを介して広がり、10代後半から20代を中心としたZ世代の流行語にもなっている。 この言葉について地元の大学生に意見を聞いた。彼氏彼女をばっさり断じるような体験談を想定したが、協力してくれた4人は開口一番「蛙化されたら怖いよね」。「心情は分かるが、自分がそうなった経験はない」「〝被害者〟になったら嫌」と口をそろえた。 この言葉に共感が広がった背景には、相手への妄想が膨らみがちなSNSの普及や効率重視の価値観などが指摘される。ただ、「若者
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記者コラム「清流」 伊豆のセブ島
人生初の富士登山をした今夏、伊豆半島ジオパークの魅力も知りたくなり、2日間かけてドライブした。 沼津を出発後、西伊豆町の堂ケ島で遊覧船に乗り、南伊豆町のヒリゾ浜で海に潜る。石廊崎で断崖絶壁を見て伊豆市で温泉に入り、熱海市へ。約180キロの旅程を車で走らせ、海や山などさまざまな角度から地質の違いを観察すると、表情の多様さに驚かされる。 中でも、切り立った崖の下にあるため船でしかたどり着けないヒリゾ浜は、県内にいながら遠い南洋の島に来た感覚になる。「伊豆のセブ島」とも称されるそうだが、伊豆半島が日本で唯一のフィリピン海プレート上にあることとも無縁ではないのかもしれない。 富士山も伊豆半島も
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大自在(9月13日)「もうひとつのWBC」
熱戦を繰り広げているラグビー・ワールドカップ(W杯)だけでなく、今年はバスケットボール、サッカーなどスポーツの日本代表の活躍が続く。国際大会での盛り上がりの流れを作ったのはやはり、3月のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)での侍ジャパンの野球世界一奪還だろう。 先週末に行われた「もう一つのWBC」と呼ばれる大会も盛況だった。第5回世界身体障害者野球大会が名古屋市のバンテリンドームで開催され、日本、米国、韓国、台湾、プエルトリコの代表がリーグ戦で争った。 2006年、第1回WBCを制した日本の提案で創設された。4年に1度開催され、今大会はコロナ禍で1年延期されていた。大会の名誉顧問
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社説(9月13日)スポーツとアニメ 東部の連携 成果に期待
沼津市や小山町、御殿場市でアニメとスポーツを連携させたまちづくりを官民が模索している。首都圏から来るアニメファンを取り込み、競技や選手のPRにつなげようとする試みは、全国的にも珍しい。一過性で終わらせるのでなく、息の長い取り組みにしなくてはならない。 沼津市では、地元が舞台のアニメ「ラブライブ!サンシャイン‼」と、市が活性化の鍵としているフェンシング、サッカーの連携が進む。関連商品を販売したり、声優陣が試合会場に登場したりするほか、大会公式ホームページ(HP)にアニメキャラクターのイラストを活用するなど取り組みは多岐にわたる。 フェンシングは、市が2019年に東京オリンピック・パラリンピ
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富士山世界遺産10周年 登山様式 考える転機に【東部 記者コラム 湧水】
富士山の本県側3登山道が10日に冬季閉鎖され、夏山シーズンが終わった。今季は新型コロナの行動制限が解除されて登山者数が回復した一方で、弾丸登山やマナー違反など歴年の問題は好転する兆しが見受けられなかった。事態を重く受け止めた静岡、山梨の両県知事は登山規制や入山料義務化の議論加速について言及した。世界遺産登録10周年の節目を、登山の新たな様式を考える転機にしたい。 富士山臨時支局を開設していた8月上旬、長崎幸太郎山梨県知事が混雑時に登山規制を検討しているというニュースが山小屋に届いた。吉田口8合目付近で登山者に待機を促す可能性が浮上し、山小屋経営者らは「山頂目前の足止めは暴動が起こる。現実的
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記者コラム「清流」 清水駅東口再開発に思う
「こんなに港に近いJRの駅は全国でも珍しい」。静岡市清水区の大手企業幹部からそんな話があった。過去に新聞記者の先輩から「JRの線路ほど緻密に防災を考え抜かれたものはない」と教えられた記憶があり、江尻港の岸壁に近い清水駅は希少なのだろう。 東口で続く“再開発ラッシュ”。背景には生かし切れていない「駅近」の地の利を生かそうとの狙いがある。最大の焦点は線路を挟んで反対側のアーケード街にある伝統的商店街にいかに人を環流させるかだ。 地元振興組合による地道な活性化策が続く。大胆な提案だが、駅周辺の高架化や地下化は検討に値するのでは。防災上の恩恵もある。2年半前の清水支局赴任
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記者コラム「清流」 ライバル
「相手が上手だった。悔しいけど私は力不足です」。御前崎市で8月下旬に開催されたサーフィンの国際ツアー大会「御前崎プロ」。女子決勝は地元出身の高校生同士の対決となり、佐藤李選手(17)が優勝した。一方、敗れた池田美来選手(15)は表彰式後、唇をかみしめ冒頭の敗者の弁を振り絞った。 幼い頃から互いをよく知る2人は普段仲良しだが、海に入れば真剣勝負をするライバル。今大会は佐藤選手のパフォーマンスが勝ったが、池田選手もくじけることなく報道陣の前で堂々と勝者をたたえる姿がたくましくて印象的だった。 2人はこれからも大舞台で幾度となく勝負を繰り広げるだろう。だからこそ、勝っても負けても良きライバルで
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記者コラム「清流」 何もしないぜいたく
「昭和すぎる」と話題になっている沼津市大手町のカフェ「ケルン」を取材した。その後、客として店を訪ねた。気取らない内装や備品、回転ダイヤル式の電話、ひっそりと広がる坪庭、穏やかな店主…。物心ついた時には平成だった記者も懐かしさを覚えた。 しばらく滞在すると、普段訪れるカフェとの大きな違いに気づいた。何もしない客が多いこと。スマホに目を落とす人は少数で、テレビを見たり、一点を見つめて物思いにふけったり。「ついでに原稿執筆を」とかばんに入れたパソコンは手に取らず、先客にならって静かな時間を満喫した。 忙しさが増し、コンテンツがあふれ、時間対効果「タイパ」が重要視される令和の社会。
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大自在(9月12日)神奈川沖浪裏
葛飾北斎と聞いてこの絵を思い出す人は多いだろう。富嶽三十六景の「神奈川沖浪裏」。ゴッホやモネら、欧州の画家に影響を与えたことで知られる。作曲家のドビュッシーは、交響詩「海」のスコアの表紙に使った。 先日、ドイツのバイエルン州立図書館が、個人から数百万ユーロ(約数億円)で購入したと報じられた。非常に保存状態が良く、2025年に予定している展示イベントの目玉になるという。同州の科学芸術相は「宝物がまた一つ増えた」と歓迎した。 うねる海面で大波が船につかみかかるような奇抜な構図、「ベロ藍」と呼ばれる舶来の顔料を使った鮮やかな波色。装飾的に見える波頭の表現は、実際に波が砕ける様子を高速度カメラで
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社説(9月12日)迫るインボイス 円滑導入へ支援不可欠
消費税のインボイス(適格請求書)制度が10月から始まる。納税の仕組みが変わり、これまで消費税負担を免除されてきた零細事業者やフリーランスの仕事に大きく影響するため反対の声は根強い。 円滑な導入には激変緩和措置の周知を図るとともに、下請けなどの零細事業者に寄り添った支援が欠かせない。商工団体には丁寧な対応を求めたい。発注元から不当に報酬を引き下げられるなど受注事業者が不利益を被らないようにしなければならない。 インボイスは2019年に消費税が10%と8%の複数税率となったことに対応して導入が決まった。下請けなどの業務や商品の納入を受注した事業者が発注元の事業者に対して発行する。請求書や納品
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記者コラム「清流」 確認体制の構築を
長泉町は、多額の支払い遅延と課税誤りの不適切な事務処理が本年度に入って発覚したことを発表した。なぜ防げなかったのか。 支払い遅延は担当者が上司の決裁を受けないまま、町営住宅などの修繕工事を発注した上、事務処理を放置。工事を受けた業者から、町に問い合わせがあり発覚した。課税誤りは担当者が本来適応すべき減額補正をせずに、処理を行った。別の担当者が固定資産税システムの土地に関する異動処理を行った際に、減額補正が適用されていないことに気付いた。 処理はいずれもヒューマンエラーだ。上司や同僚など別の人が確認をする、目を通すだけで防ぐことができたはず。人が関わると少なからずミスは起こる。再発を防ぐた
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記者コラム「清流」 エリアとしての魅力を
磐田市の子育て支援施設「ひと・ほんの庭にこっと」が8月、開館5周年を迎えた。ミニコンサートや人形劇など、多彩なイベントが繰り広げられた記念日は、多くの親子連れでにぎわい、市民の親しみが感じられた。 絵本・児童書を中心に約5万冊が並ぶ図書スペースや学習コーナー、天体観測室を備える施設には、これまでに75万人以上が来館したという。屋内で子どもを遊ばせられるスペースもあり、子育て中の親にはありがたい場所だ。 一方で、スポーツが楽しめる複合施設や新しい文化施設が隣接するものの、各施設との連携は十分とは言えない。催しがない日は親子連れに各施設を開放するなど、連動した取り組みがあれば、子育て世代にと
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記者コラム「清流」 なんのために生きる
「なんのために生きてる?」。7月のある朝、布団でごろごろしていた私の顔をのぞき込み、娘が聞いた。緊張感のない私の脳が“母親としての模範解答”を必死に探す。見透かしたように娘は追い打ちをかける。「親にそれ聞くの、夏休みの宿題なんだけど」 学校現場ではキャリア教育が盛んだ。多種多様な職業人が特別授業を行い、その仕事を選んだ理由や展望を語る。その一環が先述した宿題だ。 夢がなかったわけではない、でも夢に向かって汗水垂らした努力の記憶はない。「与えられた役割を果たすために生きてきた」と正直に答えたが不満顔だった。悔しく、悲しかった。 「後悔しないために今を生きてる」と言
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視座(9月11日)影響力より政策論争を 自民安倍派の新体制
昨年7月の安倍晋三元首相銃撃事件の後、なかなか決まらなかった自民党最大派閥、安倍派(清和政策研究会)の新体制が発足した。安倍氏の後継となる会長ポストは空席のまま。塩谷立元文部科学相(衆院比例東海)を座長に据え、計15人の合議制による派閥運営をスタートした。 経済政策アベノミクスの評価や森友学園を巡る問題などで多くの批判を浴びたとはいえ、憲政史上最も長く首相の座に就き、日本のかじ取りを担った安倍氏の存在が大きすぎた上、突然の死去で有力な後継者を育てる間がなかった。今の派閥内の混乱は無理からぬことだろう。そうした中で、暫定的にせよ派閥をまとめていかなければならない塩谷氏の苦労は想像に難くない。
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【D自在】風という字になぜ虫が
静岡県上陸の可能性に身構えた台風13号。最接近した8日は、2月の立春から数えて217日目だった。 気象衛星などのおかげでテレビやスマホで台風の発生や現在地、進路を知ることができるようになった。予報技術がなかった昔、季節の目安となる雑節の重みは今とは比べようもなかったに違いない。 「八十八夜」と同様、立春起点の「二百十日」は9月1日ごろ。稲の出穂時期に当たり「二百二十日」とともに台風襲来を案じる農家の厄日とされる。強風に倒されないよう、人々は祈った。祈るしかなかった。 「風」という字は、風をはらんだ帆の絵から生まれた「凡」と、風に乗って天に昇る竜を表す「虫」から成る。 「虫」と
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時論(9月10日)「普通の人」が狂気に走る時
関東大震災から100年の9月1日、静岡市内のミニシアターで、その日封切られた「福田村事件」を見た。震災の5日後、千葉の福田村(現野田市)に立ち寄った香川からの薬の行商団が朝鮮人と疑われ、一行15人のうち幼児や妊婦を含む9人が村人に殺された史実に基づく劇映画だ。事件は長い間、歴史の闇に埋もれていた。 震災直後、「朝鮮人が暴動を起こす」「井戸に毒を入れた」など、流言飛語が広がった。当時、日本は朝鮮半島を植民地支配し、背景には抵抗運動に対する恐怖や民族差別があったとされる。村人は一行が聞き慣れない讃岐弁で話していたことから朝鮮人と決めつけ、悲劇を生んだ。 虐殺に加担した自警団をはじめ村人一人一
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社説(9月10日)「PFAS」汚染 実態把握し拡散を防げ
発がん性が疑われる「PFAS(ピーファス)」と呼ばれる有機フッ素化合物が、各地の河川や地下水などで検出されている。米軍や自衛隊基地などで使用されていた泡消火剤との関連が指摘され、静岡県内でも浜松市の航空自衛隊浜松基地の近接地で国の暫定指針値の28倍となる値を測定した。国や自治体は早期に汚染源を特定し、拡散を防がなければならない。 PFASは水や油をはじく性質からフライパンの表面加工や半導体、自動車部品など幅広い用途で使用されてきたが、一部の種類で有毒性が指摘されている。2018年に泡消火剤に使われるPFASの一種の製造・輸入が禁止されるなどしたものの、21年度の環境省の調査で、13都府県の
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大自在(9月10日)富士山閉山
アルピニストの野口健さんがエベレストでの清掃活動を始めたきっかけは、現地のシェルパに日本人登山家が残したごみの山を見せられ「ヒマラヤをマウントフジにするのか」と非難されたことだったという。かつて県内で開かれた講演会で語った 2000年からは富士山の清掃活動に取り組んでいるが、そのきっかけもエベレストで出会ったニュージーランドの登山家からの「富士山はごみの山だね」という一言だった。富士山のごみの多さが海外に知れ渡っていたことがよく分かる 100人で始めた富士山清掃は「富士山が変われば日本が変わる」をスローガンに続けた結果、数千人が参加するまでになった。野口さんは近年、5合目より上ではほとん
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大自在(9月9日)「視観察」
英国で行われたフットボールの試合中、ラグビー校の生徒だったウィリアム・ウェブ・エリス少年がボールを抱えて走り出したのがラグビーの始まりとされる。200年前の話だが、当時は両チームを仲裁し試合を円滑に進める審判はいなかった。 ラグビーでは、試合中に審判と直接やりとりが許される選手は、基本的に主将だけという。国際統括団体ワールドラグビーも「審判に意見を求め、審判の決定に関連するプレー選択を行う」のが主将だと定義する。審判からの注意や説明は、主将が他選手に伝える。独特なルールといえよう。 エリス少年はラグビー・ワールドカップ(W杯)の優勝杯に名前を残す。W杯フランス大会が開幕。日本代表はあす、
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社説(9月9日)新県立中央図書館 交流機能 周到に準備を
静岡市のJR東静岡駅南口に移転し2027年度後半の開館を目指す静岡県立中央図書館の設計案が公表された。図書館単体では異例の9階建ては視覚への訴求力も大きく、県施設「グランシップ」と並び新幹線利用者らの目を引くことになろう。 延べ床面積約2万平方メートルは現館の2倍強、閲覧席数は800席と4倍超に。蔵書可能数は200万冊。総事業費は192億円と見込まれる。 書庫をすべてバックヤードとせず、一部を可視化して施設の存在意義をアピールするのも斬新だ。外観、内装デザインと同様、運営でも新たな時代を感じさせてほしい。 これまで裏方に徹していたスタッフの活躍にも期待したい。新図書館は「県民が出会い交
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記者コラム「清流」 自らが“レギュラー”を
夏の甲子園で躍動した浜松開誠館高野球部にはベンチ入りがかなわなかった8人の3年生部員がいた。取材を通して見た彼らの姿が今も目に焼き付いている。 全員と話すことはできなかったが、選手が語ってくれた言葉の端々に、懸命に頑張ってきた3年間の足跡が感じられた。さまざまな葛藤があっただろう。でも、練習補助やメンバーのサポートに汗を流し、スタンドでは先頭に立って声をからした。プレーはできなくても、最後までやり抜いた一人一人は立派だった。 情熱を注いだ高校野球も人生の中では一瞬のひとコマ。だが彼らが目標を追い励んだ事実は揺るぎない。その経験は今後逆境に立った時、きっと自分を支えてくれるはず。これからが
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記者コラム「清流」 カメラマンのマナー
最近では高性能スマートフォンやドローンなど、さまざまな撮影機材が誰でも安価で手に入るようになった。良識を持ち、ルールを順守して撮影したい。 お茶畑と富士山で有名な撮影スポットでは、一部のカメラマンが散歩していた一般客に対して「邪魔だ、どけ」などの怒号を浴びせていた。伊豆市の観光施設では施設関係者が許可を出していないにもかかわらず、所有者不明のドローンが飛んでいたことも。 マナーを徹底している団体もある。沼津市の写真愛好家グループ「お気楽写真会の仲間達」は、人の顔が写ってる場合はその都度本人に確認をして許可を得ている。周りの邪魔にならないように細心の注意を払っている。一人一人が規律を守り、
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大自在(9月8日)「地方紙の研究」
「第20回地方紙フォーラムin静岡」が7日、本社で開幕した。静岡新聞社など全国12の有力地方紙でつくる日本地方紙ネットワークが主催し、各地の地方紙の記者がそれぞれの地域報道の在り方について語り合う。8日まで。 開催地は持ち回り。本県は2010年以来、13年ぶりとなる。今年のテーマは「自然災害と報道」。登壇した記者はネット時代の災害報道や風化を防ぐ取り組みなどについて現状と課題を発表した。 1990年代末、ルポライターの鎌田慧さんは3年半かけて静岡新聞社など全国の地方紙40社を訪ね歩き、200人以上の記者を取材した。「地方紙の研究」(潮出版社)にまとめられている。 鎌田さんはあとがきでこ
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記者コラム「清流」 戦争の学び方
静岡市には平和教育の指針が存在しない。小中学校では、学習指導要領の範囲で各校が独自にやるばかり。社会科でまだ15世紀を習っている児童が、時代背景も分からぬままにおじいさん、おばあさんの戦争体験を聴く姿を何度も見た。 高級士官に政治家、出征した兵卒、銃後を守った子どもら。みな同じ戦争経験者だ。しかし今、その声を聴こうとすればどうしても銃後の苦しみが話の主軸となる。戦後78年。時とともに数を減らし続ける「生の声」へのこだわりは、重点を先の大戦の限られた一面に偏らせてしまう。 平和への糧として戦争を学ぶには、文献史料への向き合い方など教員にも専門性が求められる。これまで頼り切ってきた「身近な戦
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記者コラム「清流」 「アクロス」の物語
2000年代に“地震予知の新兵器”と期待され、森町で稼働していた気象庁気象研究所の地下構造探査システム「アクロス」が老朽化のため撤去される。プレート境界の監視は困難だったが、地震波速度の変化観測などで成果を挙げた。 静岡大などの研究グループは、実際に巨大地震が発生した後のデータにも注目していたが、幸か不幸か、アクロスの設置期間に地震は起こらなかった。老朽化に伴い、維持費などの観点から継続稼働が困難になり、研究者にとって消化不良に終わった側面もある。 文部科学省が8月に公表した科学技術指標では、注目度の高い論文数の国別順位で、00年代にトップ5に位置した日本は13位
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社説(9月8日)国民玉木氏再選 与野党の緊張感維持を
国民民主党の代表選は玉木雄一郎代表が前原誠司代表代行を破り、再選を決めた。政策実現を優先させて政権との連携を排除しない立場を取ってきた玉木氏が80ポイントを獲得し、「非自民・非共産」結集による政権交代を唱えた前原氏の31ポイントにダブルスコア以上の大差をつけ、一騎打ちを制した。 共同通信社の8月の世論調査によると、同党の支持率は4・4%に過ぎない。静岡県内でも両候補の演説会が行われたが、党外の注目度は低く、政党支持率の低さを裏打ちした。党勢拡大が課題だが、代表選を通じて議論は深まらず、逆に路線対立が先鋭化した。 玉木氏は投開票された臨時党大会後の記者会見で、今後の党運営について、「政策実
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記者コラム「清流」 幼魚の世界に触れて
清水町の幼魚水族館で開かれた一日館長体験。参加した小中学生10人は、魚の知識が豊富な「博士」だった。取材中、子どもたちの会話には、全く知らない魚が何匹も登場した。 イベントは、担当として割り振られた幼魚の展示方法を2人一組で考えるという企画。児童生徒は担当幼魚と一緒にどんな魚を水槽に入れるといいか、図鑑とにらめっこして真剣に考えた。サンゴと色鮮やかな魚を展示して花に見立てる案など、豊かな発想にこちらの心も躍った。 私は8月に県東部に着任し、幼魚水族館にはこの取材で初めて訪れた。館内には目を凝らさなければ見えないほど小さな魚もいた。子どもたちのおかげで、未知だった幼魚の世界に触れることがで
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大自在(9月7日)防衛費
1974年12月、金権体質を批判された田中角栄首相が内閣総辞職に追い込まれ、後継として三木武夫首相が誕生した。金権政治とは無縁のイメージから「クリーン三木」の名で知られる。 三木内閣は76年11月、当面、各年度の防衛関係経費がGNP(国民総生産)の1%を超えないとする「GNP1%枠」を閣議決定した。この枠は中曽根政権下で86年に撤廃されるが、それ以降もわずかな例外を除いて守られ、国内総生産(GDP)が主な指標になってからもおおむね1%以内に抑えられてきた。 防衛費をいたずらに膨張させない制約の設定は三木氏の功績の一つに挙げられる。ただ、実際には田中首相時代、首相の指示を受けた当時の防衛庁
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記者コラム「清流」 警戒区域解除の日
熱海市伊豆山の大規模土石流の被災地に設けられていた立ち入り禁止の警戒区域が解除された1日、被災者の男性が庭先の水道の蛇口をひねると、茶色に濁った生ぬるい水が出てきた。「大丈夫、ここの水はすぐに冷たくなるから」。男性はそう言うが、水は一向に冷たくならなかった。 男性宅は電気も通っていなかった。隣も、その隣の家も同じ。自宅への出入りが自由になったとはいえ、とても生活できる環境ではなかった。「人災」に日常を奪われ、自宅に2年以上も帰れない。そんな理不尽に直面している被災者の胸中を思うと、かける言葉が見つからなかった。 「警戒区域解除」という言葉がひとり歩きし、悲劇の風化が進まないか心配している
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記者コラム「清流」 78年後の広島で
「静岡から来られたんですか? 私の祖母も静岡の生まれで」-。今夏取材で滞在した広島市。平和記念式典を目前に控える平和記念公園で、公園を案内する「ピースボランティア」の粟村智幸さん(62)が教えてくれた。 粟村さんの祖母とくさんは沼津出身で戦前、静岡県庁職員の祖父重秋さんと結婚。その後移り住んだ広島で1945年8月6日、原爆投下の悲劇に見舞われ、2日後に亡くなった。「一瞬で日常を地獄に変えたのが原爆です」(粟村さん) 広島に関わる県内外の関係者を訪ねたこの1カ月余は、一瞬の閃光(せんこう)に人生を一変させられた人々を通じ、平和の意義を深く考えさせられる夏となった。報道の役割は「記録者」でも
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記者コラム「清流」 祭りからみる地域の力
祭りの語源は「祀る(まつる)」と伝わる。自然や神さまに感謝する営みとして受け継がれ、コミュニティー形成に寄与してきた祭りが県内各地にある。 浜松市天竜区二俣町の「二俣まつり」は諏訪神社の例祭で、江戸時代から続く伝統がある。町内各地区の若者らがそれぞれ、彫刻が施された荘厳な造りの屋台を引く。神事を終え、神社から続々と駆け出す勇壮な行列からは、祭りに対する熱い思いや深層にある愛郷心が伝わってきた。 4年ぶりの今年は参加者が転倒後、屋台に接触して負傷する事故も起きた。数十人がかりで引く屋台の迫力は大きな魅力だが、危険と隣り合わせでもある。「伝統を継承していきたい」との思いが強く伝わってきただけ
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社説(9月7日)京アニ事件公判 惨劇防げなかったのか
菊川市出身の大村勇貴さん=当時(23)=ら36人が亡くなり、32人が重軽傷を負った2019年7月の京都アニメーション放火殺人事件で、殺人罪などに問われた青葉真司被告の裁判員裁判が京都地裁で始まった。事件から4年余り。初公判で車いすに乗って出廷した青葉被告は「自分のしたことに間違いありません」と起訴内容を大筋で認めた。 物事の善悪を判断する刑事責任能力の有無や程度が最大の争点。弁護側は、事件当時は責任能力がなかったとして無罪を主張した。これに対し検察側は「完全責任能力があった」とし、被告は京アニの小説コンクールに応募し、アイデアを盗まれたと一方的に恨みを募らせたと主張した。 被告は真摯[し
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大自在(9月6日)北海道胆振東部地震5年
北海道・苫小牧の港から車で東に走り、畑や牧場を抜けると厚真[あつま]町役場に至る。町の中心を流れる厚真川に沿って北東に進んだ地域の背後には高さ数十メートルほどの山が広がる。 5年前のきょう、北海道胆振[いぶり]東部地震が発生した。厚真町では最大震度7を観測。厚真川沿いの山際では土砂崩れが発生して住宅を押しつぶした。地震による犠牲者44人のうち、町内だけで37人を数えた。 先月、被災場所を訪ねてみると、崩れた斜面の多くに土留め工事や植栽が施され、土砂が流れ込んだ浄水場も新しくなっていた。地震の爪痕は消えつつあるものの、かつて住宅があった場所は更地のままで寂しく見えた。 この地震の揺れで札
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消防士殉職火災から1年 誠心誠意の対策求める【記者コラム 黒潮】
「夫は危険な場所に出動するのが仕事だから一生懸命支えてあげたい」。10年ほど前に県内の消防に勤める友人の結婚式に参列した際、お相手の新婦があいさつで涙ながらに語っていた。火災や救助など過酷な現場で活動する新郎の無事を願ってやまない新婦の言葉からは、常に不安と闘っているように感じ取れた。最愛の家族が業務中に命を落とす最悪の事態は想像もしたくないだろう。 静岡市消防局駿河特別高度救助隊の山本将光さん=当時(37)=が殉職した昨年8月の同市葵区呉服町の雑居ビル火災から1年余りがたった。同消防局管内では2020年7月にも、吉田町の「レック静岡第2工場」で発生した火災で屋内進入した消防隊員3人と警察
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記者コラム「清流」 スマホとの距離感
「小学3、4年生でもスマホを持つ時代。持つ前に、親子で一緒にSNSやゲームの使い方について無理のないルール作りを」。夏休みに向けた県警の啓発方針を取材中、担当者から利用開始時期の低年齢化が急速に進む実態と、親の対応の在り方を聞いた。 担当者によると「子どもは親の言動を常に確かめている。理不尽に怒ったりは絶対ダメ」だそうだ。しかられた子の反論に返す典型的な悪例が「大人だからいいの」や「携帯代払っているの誰。○○関係で至急必要になった」などだろう。 自身においては動画視聴はもっぱらテレビの“大画面”だ。SNSを駆使するスキルもない。「テレビの方が迫力ある」「携帯開始は
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記者コラム「清流」 ICTで教育に変化を
伊豆市内3中学を統合し2025年4月に開校する伊豆中について、教職員参加のワークショップが開かれた。黒板メーカーから黒板を活用するICT機器の紹介があり、機能の進化に驚いた。 専用のプロジェクターを使ってデジタルの教科書や教材を黒板に投影できる。さらに子どもたちの使っているタブレット端末の画面も共有し、発表し合える。授業の復習が容易になったり動画を見せることができたりするため、メーカー担当者からは生徒の反応の違いが顕著になるとの説明もあった。 自身の画面が投影されることによってうれしいと感じる生徒がいれば、発表も積極的になるのではないか。ICT機器を使い、「子どもたちにとって一番良い教育
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記者コラム「清流」 ネットのあるべき姿
タレントryuchell(りゅうちぇる)さんの訃報から約2カ月がたつ。テレビや講演会などで、多様性や個性を尊重する大切さを積極的に発信するりゅうちぇるさんは、若者を中心に人気だっただけに、社会に大きな衝撃を与えた。 本人へのSNSでの誹謗(ひぼう)中傷が問題視された。昨年の離婚公表とカミングアウト、女性的な外見に変化したことを皮切りに、昨今のトランスジェンダーへの攻撃的な投稿も相まって中傷は過激さを増した。SNSでは、面白おかしく取り上げてきた報道への非難もあった。責任転嫁のような発言は看過できないが、ネット報道のあり方を再考すべきとも感じた。 9月から浜松を離れ、本社デジタル編集部に異
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社説(9月6日)概算要求過去最大 防衛費増 必要性精査を
財務省が2024年度一般会計予算の各省庁からの概算要求を締め切り、要求総額は2年ぶりに過去最大を更新して114兆3852億円になった。政策の調整が今後必要などの理由で予算額が不明な項目について例外的に認められる「事項要求」も多く、実際の要求額はさらに多額になっている。国債を大量発行して歳出を賄う借金頼みの実情に変わりはなく、さらなる財政悪化は避けられない。 要求額の膨張は、岸田文雄政権が注力する防衛力強化のため防衛費が大幅増となったことや社会保障費の増加、金利上昇に伴い国債の利払い費が膨らんだことなどが要因だ。防衛費は23年度予算を13・4%上回る7兆7385億円とした。「総合的な防衛体制
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大自在(9月5日)アフガニスタン
コロナ禍が落ち着いた今年に入ってから、久しぶりに遠方の故郷に帰ったという人は少なくないだろう。アフガニスタン出身で島田市在住の医師レシャード・カレッドさんも2019年以来となる里帰りをした 祖国訪問後、「アフガニスタン 戦禍からの再生・希望への架け橋」(高文研)を出版した。自らの目で確かめたアフガンの現状をはじめ、1979年のソ連侵攻以降の歴史、同じ医師でアフガン復興のために尽力する中で凶弾に倒れた中村哲さんへの思いなどをつづっている アフガンでイスラム主義組織タリバンが再び権力を握ってから2年が過ぎた。旧タリバン政権時代と同じように女子の教育の権利を奪い、女性の自由を制限した。貧困や飢
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社説(9月5日)バス置き去り1年 命預かる重さ再認識を
牧之原市の認定こども園「川崎幼稚園」で園児の河本千奈ちゃん=当時(3)=が送迎バスに置き去りにされて死亡した事件は、5日で発生から1年。この間、保育現場の安全管理や労働環境に関する多くの問題点が全国的に指摘され、一部は改善に動き出したが、緒に就いたばかりだ。現場の関係者や環境整備にかかわる行政は、改めて「命を預かっている」重さを強く胸に刻まなければならない。 「保育の現場では保育士が日々綱渡りのように努力して子どもを危険から守っている」。先月末、国の保育士配置基準では子どもの安全が守れないとして、浜松市議会に独自の基準設定を求めて陳情した市内保育関係者団体の会長の言葉は重たい。 国のまと
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記者コラム「清流」 広島の子どもの子ども
静岡県庁で開かれた「原爆と人間」展の取材。展示されている写真や絵画を見て、その光景を表現するに足る言葉が見つからなかった。 転勤族だった私の父は、小学生時代を広島で過ごした。当時の広島は原爆投下後まだ25年ほど。街を歩いている20代の若者も含め、大人の多くが被爆者という時代だった。そんな環境で育った父たちは「広島の子ども」と呼ばれたという。 学校で、地域で、被爆者の話を聞き、姿を見て「広島の8月」を経験した父。祖父の転勤で広島を離れても、自分が「広島の子ども」であることを胸に刻んできた。幼い私にも、自分が聞いた被爆者の話を伝え、毎夏共に黙とうした。 原爆投下から78年。被爆体験の伝承が
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記者コラム「清流」 アプリで釣り場快適に
西伊豆町の田子漁港で今夏、スマホアプリを活用した釣り人の受け入れが始まった。釣り客と漁業者のトラブルなどを巡り、昨年から釣り禁止となっていた同港。誰もが快適に釣りを楽しめる場所を目指したい。 アプリで予約してキャッシュレス決済で料金を支払う仕組み。コロナ禍の釣り人気により、全国で釣り禁止となる漁港が相次いだ。問題解決の糸口にしようと官民連携で運用を開始。導入後約1カ月、釣果を交流サイト(SNS)に投稿する人も見られ、少しずつ浸透しているように思う。 以前、町内の漁港で釣りをしたら簡単にスズメダイなどが何匹もヒットして驚いた。豊かな自然が残る西伊豆町は首都圏から近く、釣りに訪れる人も多い。
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記者コラム「清流」 高低差532メートルの一日
沼津市の東部総局から赴任して約2週間の8月11日。この日は掛川の自然と魅力に触れた一日だった。 朝は「山の日」にちなみ、市内を一望できる粟ケ岳山頂を訪れた。富士山と茶畑の絶景に見守られながら、ハイカーから粟ケ岳愛を聞かせてもらい、地域の“霊峰”の存在を知った。麓の東山いっぷく処では名産の深蒸し茶を頂き、まろやかな舌触りに驚いた。 午後には、市南部の大須賀地域でのビアフェスタにお邪魔し、初開催とは思えないにぎわいと熱気に圧倒された。海岸に立ち寄ると、風力発電機と夕焼けの異質なコラボを目にした。 高低差532メートルの一日は発見ばかりだった。しかし、私が驚いた自然や
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大自在(9月4日)流言飛語
日本の電話事業は1890年に東京-横浜間で開始され、ラジオ放送は東京と大阪で1925年に始まった。関東大震災の2年後である 被災翌月、小説家里見弴(1888~1983年)は「噂[うわさ]する本能」と題した随筆を発表した。「今度のように電報電話・新聞号外など文明の通信機関が破壊されると、急に人々は通信本能を発揮して、その不足を充たそうとする」という指摘を引いて同感だとし、噂は「悉[ことごと]く出鱈目[でたらめ]と云[い]ってもいいくらいだった」と書いた(石井正己著「文豪たちの関東大震災体験記」) 地震直後に「朝鮮人が井戸に毒を入れた」「暴動を起こす」と根も葉もない話が広がり、朝鮮人への暴行
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社説(9月4日)BRICS拡大 対立と分断深めるな
南アフリカで先月下旬、開かれた新興5カ国(BRICS=中国、ロシア、インド、ブラジル、南ア)首脳会議は加盟国拡大に合意した。 来年1月、新加盟国の資格がイラン、サウジアラビア、エジプト、アルゼンチン、アラブ首長国連邦(UAE)、エチオピアの6カ国に付与される。拡大するBRICSは今後、「グローバルサウス」と呼ばれる南半球を中心とした新興・途上国を代表する存在感を持つ可能性がある。 その中で、ウクライナ侵攻で先進7カ国(G7)などと対立するロシア、覇権を競って米国と軋轢[あつれき]を生む中国からは、多くの途上国の支持を得ることで影響力を高めようとする狙いが見える。 ウクライナ侵攻後、国連
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時論(9月3日)「裏も表もなかりけり」
先日の1面コラム「大自在」で、三省堂国語辞典(略称三国)に追加された新語について触れた。「ほぼほぼ」「マシマシ」の話である。 辞書には、時代を映す日常生活用語で、今後10年は使われると判断されたものを新たに加えるそうだ。もちろん、その逆もある。使用しなくなった言葉、時代にそぐわない言葉などは削除される。 「三省堂国語辞典から消えたことば辞典」(見坊行徳・三省堂編修所編著)は、三国の前身で1943年初版発行の明解国語辞典(略称明国)から三国第8版までに削除された言葉のうち約千項目をピックアップしている。 昨年改定された第8版で消えた言葉に「表日本」「裏日本」があると同書で知った。表日本は
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社説(9月3日)ガソリン価格高騰 一律補助は見直し必要
一向に沈静化する気配のないガソリン価格の高騰を受け、岸田文雄首相は家計の負担軽減に向けた補助を今月7日から段階的に拡充するとともに、支援を年末まで延長すると表明した。直撃を受けている運送業界や、買い物・通院などで日常生活に車が欠かせない地方の住民らの負担を考えれば、支援の継続はやむを得ない面はある。 ただ、ウクライナ情勢の緊迫化などによる資源価格高騰への対応で、日本政府が燃料価格を抑えるため補助を始めたのは2022年1月。緊急避難的な激変緩和措置とされたが、延長を繰り返し、今回で期間が2年に及ぶことになる。産油国の減産、円安の一方で資源価格の下落につながる材料は乏しく、本当に年末に補助を打
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大自在(9月3日)言い間違い
東南アジアに行く人に、コレラに気をつけてと言おうとして「コアラに…」。おかしみを含んだ言い間違い「言いまつがい」がコピーライター糸井重里さん主宰のウェブサイト「ほぼ日刊イトイ新聞」に寄せられている。 先日は、結婚衣装を試着した娘が「この色仕掛け、素敵!」と言って焦ったという母親の投稿が載っていた。正しくは色打ち掛け。初期の「言いまつがい」は文庫になっていて、第1集(2005年)の解説は静岡県立大の寺尾康教授が書いた。 片足を言語学に、もう片方を心理学に置くと「思わず言ってしまった」ことが学問になる。音の並べ間違いだったり、言葉の選び間違いだったり。個人の勘違いや思い込みで片
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大自在(9月2日)河本千奈ちゃん
夏休みが明け、登校する子どもたちの姿に日常が戻ったと感じさせられる。子どもたちの表情はさまざまだが、どの子の保護者も元気に通ってほしいと願っているに違いない。 そんな当たり前の日常を取り戻せない保護者がいる。昨年9月5日、牧之原市の認定こども園「川崎幼稚園」で、河本千奈ちゃん=当時(3)=が送迎バスに置き去りにされて死亡した。事件から1年がたつのを前に父親が報道陣の取材に応えた。 千奈ちゃんは「今でも家族の主役」だという言葉に胸が締め付けられる。癒えない悲しみと園の運営法人に対する憤り。心中は察するに余りある。本紙報道などを通じ、事件の経緯や運営法人の問題点についてさまざまな情報に接して
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記者コラム「清流」 10秒「待つ」勇気
「子どもに問いかけた時、答えを10秒ほど待ってあげて」-。教育関係者を対象とした講習会の取材で、講師のこの言葉が印象に残った。待ち時間をつくることで、相手に心理的な安心感を与え、多様な答えを引き出す可能性が高くなるという。 自身の取材姿勢を振り返る。取材相手への問いかけで、次の言葉をせかしていないか。ちょっとの時間を待ちきれず、自分にとって都合の良い言葉に誘導していないか。残念ながら、余裕がなく結果を焦るあまり、反省と後悔の念しか浮かばない。 たった数秒、されど数秒。記者職となって1年。沈黙や「間」を恐れず、相手を思いやって立ち止まる勇気を持ち、数秒先にある言葉に意義を感じたい。待つこと
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記者コラム「清流」 全盛期の熱気 追いつけ
8月上旬、富士宮市内で祭りが続き、市民の威勢のよい声が中心市街地に響き渡った。日常ではあまり感じられなかった大きなエネルギーに、取材をしながら久しぶりに胸が躍った。 思い返せば、記者になった時はコロナ禍で3密回避のために人と距離を保つ現場が多かった。報道写真は「要素を凝縮した1枚で勝負」と教わった。角度や遠近感を工夫し情報の空白を埋めて撮るすべは身に付いてきたが、大勢が最高潮に達した一瞬の撮影に挑める機会は少なかった。 今年は多くの行事が通常開催をうたう中、参加者が少ないなど4年のブランクは大きく、全盛期の熱気は戻っていないと聞く。「来年はもっと激しくなるはず」という主催者らの意気込みに
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記者コラム「清流」 新たな気付きを
夏休みに市内の小学生に記者の仕事や新聞の読み方を伝える講座の講師を務めた。図書館に集まった約30人の親子に見出しのつけ方や取材の仕方を解説した。 記者になってまだ半年。講師なんて偉そうかなと思いつつ、「質問があれば」と聞くと男の子が勢いよく手を上げ、こう言った。「どんな気持ちで記事を書いているの」。記者になってたったの半年だが、いろんな場面が頭の中を駆け巡った。熱気の浜松まつり、台風2号の災害現場、必死の高校球児―。取材で喜怒哀楽さまざまな感情をもらっていたんだ、とハッとした。 子どもたちからは「記者に憧れた」とも言われ、頑張らなくちゃと思った。かけられた言葉で何かに気付く。自分も質問一
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社説(9月2日)自転車反則金検討 規則違反の実態深刻だ
警察庁は、自転車の交通違反に対して自動車やバイクの違反と同じように交通反則切符を交付し、反則金の納付を通告できるよう制度変更の検討を始めた。自転車が関連する事故の抑止を目的に、有識者会議で適用範囲や運用方法など具体的な議論を進める。導入には道交法の改正が必要で、来年の通常国会への法案提出を視野に入れる。 反則金納付の通告は行政手続きだが、納付しなければ刑事手続きへ進行し、逮捕されるケースもある。運転免許不要な手軽な乗り物についても取り締まりの強化を検討しなければならないのは、自転車のルール違反が引き起こす事故が後を絶たないことが背景にある。 2022年に全国で発生した自転車関連事故は約7
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大自在(9月1日)関東大震災100年
房総半島南部の千葉県館山市を訪れた日の夕暮れ、相模湾の向こうに富士山のシルエットがきれいに見えた。富士山までの距離は約100キロ。障害物のない海越しだと近くに見えた。 その相模湾では伊豆半島側からフィリピン海プレート(岩板)が関東平野の下にある陸側のプレート地下に潜り込んでいる。そのため陸側にひずみがたまり続け、限界を超えると境が滑り動いて巨大地震を起こす。その仕組みは伊豆半島を挟んだ西側で起きる東海地震(南海トラフ地震)と同じだ。 館山市周辺に広がる海岸段丘は巨大地震の度に海底が隆起して造られたと洲埼灯台の案内板にあった。1703年元禄関東地震では半島南端が一気に5~6メートル隆起した
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記者コラム「清流」 山城への愛
落語家春風亭昇太さん(静岡市清水区出身)の山城への愛が止まらないイベントだった。築城450年を迎えた島田市の諏訪原城の関連行事に連日登場し、熱い思いを子どもたちに語った。 敵の侵入を防ぐために斜面を削った人工的な断崖「切岸(きりぎし)」や堀切、土塁…。天守閣や石垣のように目立つわけではないが、軽妙な解説によって、その役割を知れば違った角度から山城を楽しめることに気付かせてくれた。 諏訪原城について「徳川家康ら歴史上の人物が同じ場所にいたことを想像すれば楽しくなるはず」と語ってくれた。高校生の頃に訪れたことがあったという。城跡で開催されたチャンバライベントで、スポンジ製の刀を
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記者コラム「清流」 中腹富士登山のお勧め
休日に標高2400メートルの富士山富士宮口5合目を出発して須山口登山歩道を通り、同1450メートルの水ケ塚駐車場まで歩いた。最初は少しだけ登りもあったが、その後はひたすら下るコース。途中から木々が日差しを遮り、すれ違った登山者は数人だけ。夏山シーズン最盛期でごった返す5合目以上の登山道とは違い、ストレスを感じることなく心地よい汗を流した。 富士山は中腹に多くのハイキングコースが整備されている。注目度はそれほど高くないかもしれないが、初心者でも気軽に楽しめ、夏以外の季節も歩くことができるのが特徴だ。 「日本一の頂」を目指すだけではなく、富士山の楽しみ方はさまざま。連日の猛暑が続くが、秋の訪
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記者コラム「清流」 夏も食べたいミカン
口いっぱいに広がる爽やかな酸味と甘みに夏の暑さをしばし忘れた-。浜松市北区三ケ日町では9月上旬にかけて緑色の皮のグリーンハウスミカンが収穫最盛期。気温の上がりきらない早朝のうちに、生産者は青々とした実を手際よく摘んでいる。 前任地の沼津ではミカンといえば「西浦みかん寿太郎」。毎年こたつのお供として冬の楽しみにしていた。浜松で三ケ日のミカンも食べられると期待していた中、想像よりも早く機会が訪れた。取材した農家のアドバイスで、緑色のミカンを冷蔵庫で冷やして食べてみると、ひんやりとした甘酸っぱい果汁が暑さで火照った体に染み渡った。 秋から冬にかけてが本格的なミカンシーズン。期待は高まるが、夏の
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社説(9月1日)関東大震災100年 教訓生かして命守ろう
犠牲者が約10万5千人を数え、自然災害史上最悪となった関東大震災からきょうで100年となる。 犠牲者の9割近くは地震で起こった大規模火災で亡くなったとされる。木造家屋の倒壊や相模湾で発生した津波、土砂崩れなどでも多くの人が犠牲となった。伊豆半島を中心に静岡県内でも400人以上の犠牲者を出した。そして震災直後には、人々の不安から生み出された流言が朝鮮人虐殺などの悲劇を生んだ。 現在、東京周辺では「首都直下地震」の危険性が叫ばれている。大震災で指摘された課題は、現在でも深刻なリスクとなっている。教訓を今後の防災・減災に生かし、命を守っていかねばならない。 大震災を起こした大正関東地震は、神
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大自在(8月31日)「ほぼほぼ」「マシマシ」
時代を映す言葉といえば、毎年12月の「ユーキャン新語・流行語大賞」がおなじみ。同じ頃に発表されるものに、「今年の新語」がある。こちらは三省堂が主催で、タイトルの前に「辞書を編む人が選ぶ」が付く。 「新語・流行語大賞」に比べ歴史は浅く、2015年に始まった。「辞書に採録されてもおかしくないもの」が候補。いわば、後世に残したい言葉であろう。そのため、両賞で結果が違うこともよくある。2冠達成は17年の「忖度[そんたく]」だけ。16年はユーキャンの「神ってる」に対し、三省堂は「ほぼほぼ」だった。 昨年改訂された三省堂国語辞典の第8版に「ほぼほぼ」は採用された。〈「ほぼ」をくり返して、きわめて近い
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記者コラム「清流」 先ほどと今の質問
「今の質問は、先ほどの質問と、どうつながっているのですか」。インタビュー取材をした相手に尋ねられ、返事に窮した。「先ほどの質問」に十分答えてもらった感触があり、事前に用意していた次の質問を聞いた直後だった。 限られた取材時間で、あれもこれも聞きたいという気持ちが先行してしまう。話題を変えたい時もある。しかし、相手にしてみれば、今の質問に一生懸命答えたのに、「もうおしまい? 全く違う質問が来た」と感じさせてしまったのだろう。 そして、記事には取材した内容の半分も触れられなかったりする。それでも、「他のインタビュー記事と同じじゃつまらない。あなたと私の関係の中で生まれる記事を」。くだんの相手
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記者コラム「清流」 “幻日と現実”の沼津港
沼津市が舞台のアニメ「ラブライブ!サンシャイン‼」の派生作で、放送中の「幻日のヨハネ」には、架空都市「ヌマヅ」を走る「ジャマツ軌道」が登場する。かつて沼津駅と沼津港を結んだ貨物線「蛇松線」がモデルだ。 休日の度に車であふれる沼津港。「もし、今も線路があれば、アニメのように客車が走れたかも」と想像はするが、貨物線を旅客線に転用して渋滞緩和につながったか、現実は難しかっただろう。首都圏から日帰りドライブ先として絶好の距離にある沼津港へのアクセスを公共交通にシフトするのは容易ではない。 10月には沼津港で「Sea(シー)級グルメ全国大会」が開かれる。市も対策を練っているが、大渋滞の不安は残る。
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記者コラム「清流」 家族で雑がみ分別意識
「ちょっと待って」。自宅の雑がみをまとめている紙袋を浜松市役所の回収ボックスに持って行こうとすると、妻に止められた。小学生の長男が夏休みの宿題で、家庭から出る1カ月の雑がみ量を調べるらしい。 雑がみは新聞や雑誌、段ボール、紙パック以外のリサイクル可能な紙で、封筒やティッシュ箱、菓子箱、包装紙、紙袋、パンフレットなどがそれにあたる。家庭から出る可燃ごみの約30%は紙類で、その約35%を雑がみが占めているため、家庭ごみ排出量の削減には雑がみの分別による資源化が求められている。 分別で我が家のごみが減っていることを実感している。夏ということもあり、ビール6本パック包装紙やアイスの紙箱で総量がか
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社説(8月31日)休み明けと子ども 耳を傾け寄り添いたい
夏休み明けは、子どもの心が不安定になりがちだ。自ら命を絶つ子どもが増える時期でもある。「学校に行きたくない」と悩みを募らせる子どももいるだろう。家庭や教育現場は小さな異変を見逃さず、つらさを受け止め、寄り添ってほしい。 食欲不振や睡眠不足、情緒不安など、子どもの発するSOSはさまざまだ。保護者は「わが子がいつもと違う」と感じたら、まずは穏やかに声をかけた上で、子どもの話にじっくり耳を傾けたい。「自分の苦しみを分かってほしい」という思いに、しっかり応える必要がある。 NPO法人「全国不登校新聞社」などは、子どもの様子から、周囲の大人が学校を休ませるべきかどうかを判断できるチェックリストを作
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時論(8月31日)朔太郎、「連詩の会」の系譜
口語自由詩を確立した詩人萩原朔太郎(1886~1942年)は、昨年が没後80年。秋から年明けにかけて焼津小泉八雲記念館(焼津市)など全国52カ所の文学館や記念館が企画展を実施した。 朔太郎の故郷前橋市などが主催する「萩原朔太郎賞」は、現代詩の賞としては屈指の権威を誇る。先週公表された今年の候補6詩集の作者名の欄に、静岡ゆかりの詩人がずらりと並んでいる。県内生まれが選ばれれば、2000年の江代充さん(藤枝市出身)以来。「文学の秋」の幕開けを飾る吉報を待ちたい。 20代の水沢なおさん(長泉町出身)の「シー」は、第25回中原中也賞を受けた「美しいからだよ」に続く第2詩集。ダブルミーニングを巧み
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大自在(8月30日)時代小説
作家藤沢周平さんの武家もの時代小説を「時代を違[たが]えたサラリーマンもの」と作家の関川夏央さんは解説した。「ただし、屈辱と策謀に関しては敢然と剣を抜き放つ」 「普通」の維持に努めるサラリーマンへの温かいまなざしが愛される理由だと読み解く。苦学生、教員、療養、専門紙の記者の各生活の経験が藤沢文学に含蓄を与えているとし、45歳で第69回直木賞を受けた年の作品「又蔵の火」(1973年)を初期の傑作に挙げた(「おじさんはなぜ時代小説が好きか」岩波書店) 「又蔵の火」は、又蔵が兄のあだ討ちをする話。敵は甥[おい]とはいえ年上。兄は家の面汚しとして死に、人々は放蕩[ほうとう]者がいなくなったと安堵
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社説(8月30日)防災週間 共助と自助確かめよう
関東大震災に由来する「防災の日」(9月1日)を挟みきょうから5日まで防災週間となる。今年で100年を迎える関東大震災の教訓をしっかり引き継ぐとともに、地震災害だけでなく気象災害も含めて、防災・減災を向上させていかねばならない。 静岡県の総合防災訓練が3日、浜松・湖西両市を舞台に開かれるほか、県内各地で行政や自主防災組織による訓練が繰り広げられる。可能な範囲で訓練に加わり、共助となる地域連携を確認したい。同時にわが家の耐震化や家具の固定、水や食料の備蓄、携帯トイレの用意など、自助の備えも確かめておきたい。 今年は新型コロナウイルス感染症の位置づけが「5類」となり、ようやく行動制限のない訓練
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記者コラム「清流」 “味”な道の駅
昨年7月、「長引く自粛生活に身近な楽しみを」と始めた連載「道の駅 食探訪」。1年かけて特産品を使った自慢の品がある静岡県内の24駅25カ所を紹介した。 幹線道路沿いでさっと名物を楽しめる施設以外に、鳥のさえずりを聞きながら茶を味わえる駅あり、厨房(ちゅうぼう)で働く地元のお母さんたちの声が響く駅あり。連載当初は先々でコロナ禍による嘆きを聞いたが、次第に駐車場に県外ナンバーの車が増え、商品開発やイベント企画に忙しくするスタッフの姿を見るようになった。世の中の変化とともに人々の強さを感じた取材だった。 この夏、県外に出かけても気になったのは道の駅。手書きの商品説明や初めて見るメニューについつ
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記者コラム「清流」 残されたハコ
行政が建てた「ハコ」の行き場が失われている。浜松市天竜区水窪町の水窪民俗資料館で長年にわたり、空調のほとんどが機能していない現状が明らかになった。設備の修繕にかかる膨大な費用を賄うことができず、十分な運営ができないハコは増えるだろう。 規模や運営の形は水窪民俗資料館と異なるが、国立科学博物館(東京)は運営費の支援を目的にしたクラウドファンディングを始めた。ハコの管理に関する課題は県内外で急増するし、再編の動きも加速する。 課題が膨らむ一方、明るい動きもある。浜松市の民間企業が今月、閉鎖した市有施設を合宿向けの施設に改装した。地元住民とタッグを組んで実現した。残されたハコを遺物にするか、新
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記者コラム「清流」 富士登山中の国際交流
今夏、富士山臨時支局の支局員に指名された。取材テーマは、外国人登山客の多言語対応。山小屋などに事前取材して臨んだが、電話だけではイメージが湧かない。的確な記事を書けるのか-。不安を抱え、人生初の富士登山に挑んだ。 登山中、すれ違う下山客と「こんにちは」「ありがとうございます」「頑張って」と声をかけ合った。息が上がってきつい時も、エールをもらうと頑張れる。外国人にも声をかけると、多くの人が日本語で返してくれて、うれしかった。 山の上は、年齢、国籍、性別を問わず平等だ。外国人でも日本語のあいさつさえ覚えれば、つらさを分かち合える。通訳アプリを使えば意味は伝わるが、視線の先にはスマートフォン。
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1年に2度決壊の敷地川 中小河川の危険性説明を【西部記者コラム 風紋】
6月の台風2号による記録的豪雨で再び決壊した磐田市北部の敷地川。昨年9月の台風15号の際にも決壊し、静岡県は土のうを積むなどして“仮堤防”を築いていた場所だ。近年、局所的に豪雨をもたらす「線状降水帯」が頻発し、全国各地で豪雨による自然災害が多発している。従来の想定を超える規模で激甚化する状況を踏まえ、県などの関係機関は、これまで以上に迅速に復旧工事を進める必要がある。 同市によると、台風2号による豪雨で、仮堤防が決壊した敷地川周辺の家屋50件が床上・床下浸水の被害を受けた。このうち、昨年の台風15号と連続して自宅が被害を受けた世帯は21件に上った。 1年足らずで2
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大自在(8月29日)常磐もの
福島県沖は暖流と寒流がぶつかり合う「潮目の海」。豊かな漁場として知られ、ここで水揚げされた魚介類は「常磐もの」として、東日本大震災前は東京・築地市場などで高値が付いていた。しかし、原発事故で漁業者は全面的な操業自粛に追い込まれた。 事故翌年に試験操業が始まると、漁業者らは自主検査を通じて安全性を発信する努力を重ね、対象魚種や海域を広げてきた。水産物中の放射性物質の基準値を国の半分に設定し、水揚げ日ごとに全魚種を対象に検査。風評被害の払拭に向けた、まさに「いばらの道」だった。 ブランド復権の歩みを進め、本格操業に向かおうとする矢先、漁業者の反対を押し切る形で始まった処理水の海洋放出。政府と
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社説(8月29日)戦没者遺骨の収集 国の本気度が問われる
岸田文雄首相は15日の全国戦没者追悼式で、硫黄島と沖縄を含む海外戦没者の遺骨について、国の責務として収集を集中的に実施すると明言した。「一日も早くふるさとにお迎えできるよう、引き続き全力を尽くす」と述べた。 厚生労働省によると海外戦没者は約240万人で、遺骨の未収容は約112万柱に上る。終戦から78年が経過し、遺骨の傷み、戦没者遺族の高齢化が進む。遺族会も縮小や解散が相次ぐ。県内の遺族会の会員世帯数は2022年12月末時点で約1万6千世帯。3年前から約5千世帯減った。国はできるだけ早く、1柱でも多くの遺骨が帰還できるよう力を尽くすべきだ。 追悼式では14年の安倍晋三氏以降、出席した首相が
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記者コラム「清流」 戦争の記憶、次世代に
終戦記念日の前後に戦時下を描いた映画「火垂るの墓」がたびたび放映されていた。小学生の頃、家族そろって視聴していると、祖母から「空襲のことを思い出すから(テレビを)消してほしい」と言われたことが記憶に残っている。 先日、空襲で同級生を亡くした男性(91)に当時の状況を聞く機会があった。「防空壕(ごう)に飛び込んだら右足に生温かいものを感じた。触ったら肉片だった」。悲惨な情景をどう表現すればよいのか。戦争体験者の読者につらい経験を思い出させてしまうのではと考えて筆が止まった。 体験世代の高齢化が進む中、戦争の記憶を次世代に継承していくことが社会全体として欠かせない。そう考えると、包み隠さず書
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記者コラム「清流」 我慢で済ませない
まるで蒸し風呂状態。うちわで必死にあおぐもあまりの暑さにうつむき、ぐったりする生徒。ある高校の授業の一場面だ。 全校生徒が体育館にすき間なく座り、ある講義を聞いていた。この日の最高気温は33度。館内は風通しが悪く、大型扇風機だけでは耐えきれない暑さだった。 体調不良を訴える生徒が2~3人。教師の大半は体育館外の廊下にいて、対照的な光景に疑問を抱いた。 「全ての教室でオンライン環境が整っていない」と学校側は体育館での実施理由を説明した。 暑さが年々増す中、冷房がない環境で長時間講義を受けるのは無理がある。生徒は真剣に話し手と向き合えただろうか。校内放送を活用し、各教室で講義を聞くなど工夫
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記者コラム「清流」 地元へ恩返しする先輩
沼津市出身の人気俳優磯村勇斗さん(30)が、高校時代に所属した地元劇団と市内の学生らと一緒に舞台に出演した。市制100周年の記念事業。出演者らは和やかながらも真剣な表情で稽古に励んでいて、本番でも息の合った演技で会場を魅了した。 上演後、学生たちは「磯村さんの振る舞いや演劇と向き合う姿勢から多くを学んだ」と満足げ。磯村さんは「沼津は役者としての原点。一緒に盛り上がっていきたい」と熱く語った。 華やかな芸能界の第一線で活躍し、舞台に立つ磯村さんはもちろん輝いていたが、多忙な中でも沼津に恩返ししようとする懸命な姿はかなりまぶしかった。私も約4年前、地元を発信したいと記者の道を選んだ。得意分野
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大自在(8月28日)大行進
米国で盛り上がった黒人公民権運動は、マーチン・ルーサー・キング牧師の呼びかけで全米から首都ワシントンに集結した20万以上の人々による大行進でピークを迎えた。ちょうど60年前のきょう1963年8月28日のことだ。 リンカーン大統領の奴隷解放宣言から100年の節目を迎えていたが、当時の米国は公共施設や交通機関で白人と有色人種が分離され、黒人の投票権や住居の制限も合法とされていた州が多かった。 大行進は、ケネディ大統領が6月に提出した公民権法案を速やかに制定するよう議会に圧力をかける狙いがあった。ワシントン記念塔広場に集まった大群衆を前に、キング牧師が「私には夢がある」と語りかけた演説は、世界
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社説(8月28日)認知症新薬承認へ 安全確保の具体策示せ
製薬大手のエーザイと米バイオジェンが共同開発したアルツハイマー病治療薬「レカネマブ」の製造販売承認を、厚生労働省の専門部会が了承した。近く承認される見通しだ。年内にも保険適用される可能性がある。病気の原因物質を取り除いて進行を緩やかにすることを狙った画期的な新薬で、患者や家族、医療関係者らの間で期待が高まっている。 ただ、臨床試験(治験)の結果では、その効果はあまり大きくないとされ、副作用も明らかになっている。投与できる対象が軽度の患者やその予備軍である軽度認知障害(MCI)の人に限られること、薬価が高額になることなど実用化に当たっては課題が多い。政府はこうした課題の解決に取り組み、新薬を
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時論(8月27日)多様性は葉っぱの茶にこそ
煎茶、ほうじ茶、ウーロン茶、紅茶、ジャスミン茶…。コンビニの冷蔵ケースに並ぶ「お茶」。プライベートブランドが低価格でひと通りそろい、ナショナルブランド商品も複数種が棚をにぎわす。 これを「多様性」と言っていては短絡的と批判されるかも。客の好みに応え、必然的にこの品ぞろえになったのだろうから。 先日、都内にある茶と関連商品の小売店が行った店頭イベントの話を聞いた。この店は「ペットボトルのお茶を主に飲む人が日本茶の茶葉の家庭内消費に一歩踏み出すための店」がコンセプト。葉っぱの「リーフ茶」の“持ち味”アピールには、価格差がある煎茶の上中下の飲み比べより、同
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社説(8月27日)日中平和条約45年 「反覇権」の原点に返れ
日本と中国が1978年に平和友好条約を締結してから、この8月で45年を迎えた。条約は長い戦争の歴史を経て、72年に国交を回復した際の共同声明を踏まえて締結された。第1条に恒久的な平和友好関係を発展させ、すべての紛争を平和的手段で解決すると明記し、第2条では、あらゆる国の覇権に反対すると表明した。 締結から半世紀近い時を経た今、両国を取り巻く国際情勢は様変わりした。中国は国内総生産(GDP)が世界第2位、日本は第3位の経済大国になり、国際社会で重い責任を負う。一方、台湾情勢の緊迫化や米中対立の深刻化、ロシアのウクライナ侵攻など懸念は尽きない。だからこそ、日中双方が条約締結の原点に立ち返り、「
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大自在(8月27日)プリゴジンの死
衝撃的な事件だが、驚きはなかった。ロシアの民間軍事会社ワグネルの創設者エブゲニー・プリゴジン氏の搭乗する小型ジェット機がロシア北西部で墜落し、乗客乗員の10人全員が死亡した。6月にワグネルを率いて武装反乱を起こしたばかり。墜落から間を置かず暗殺説が浮上したのも無理からぬことだろう。 機内に爆発物が仕掛けられた可能性が報じられている。米大統領が見解を表明するのは少し早すぎるようにも思うが、バイデン氏はプーチン大統領の関与を疑う姿勢を示した。 ロシア航空当局はフライトレコーダーを回収して原因を究明するという。どんな調査結果を発表しても、国際社会の疑念はぬぐえまい。それでもプーチン氏があえて暗
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大自在(8月26日)中学生の言葉に
みずみずしい言葉に毎年、心が洗われる。この何年か、静岡県の中学生が社会や未来に向けて自分の意見を発表する「わたしの主張 静岡県大会」の審査員を務めさせてもらっている。1万人以上から応募があり、代表13人が県大会に臨む 少年少女の純粋で真っすぐな思い。記者にもそんな時期があっただろうかと振り返ってみた。しかし、こうも思う。三十数年来の職務でフレッシュさを失っていないか。小手先ばかりで書いていないか。自問すれば恥ずかしくもなる スピーチの壇上に立つのは、新型コロナウイルス禍で思うような中学生時代を過ごせなかった世代だ。選ぶテーマは、その年によってトレンドがある。昨年はコロナ下の不自由さ、ヤン
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記者コラム「清流」 “節約の夏”に思う
買い物に出かけると物価の上昇を肌で感じる。食材、衣類、日用品…。1リットル当たりのレギュラーガソリン価格は180円を超え、電気代やガス代の請求金額にも驚く。昼食はなるべく安く、工夫をしながら出費を抑える“節約の夏”だ。 半面、よく考えて買うことで商品のありがたさにも気付く。誰かが原材料を用意し、加工して製品に仕上げる。それを運ぶにも人手が必要で、消費者の手に届けるには店員の存在も欠かせない。裏には多くの工程があり、代金は関わる人たちの生活や消費につながっている。 収入は多く、支出は少なく-。多くの人がそうしたいとは思うが、手元を離れたお金が誰かの生活
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記者コラム「清流」 全面禁止ではない理由
浜名湖で一般市民がアサリを採る際の規則が強化された。浜名漁協は資源保護を目的に、新たに9月から2月末までの採捕を禁止にし、1人が1日に採れる上限は2キロから1キロにした。 2009年に6000トンを超えていた浜名湖のアサリ漁獲量は22年に200トン未満にまで減った。不漁の原因は複合的で、決定的な対策は見つかっていない。 地元漁師らの苦難が続く状況の中、規則をめぐる協議では「全面禁止」を求める意見もあったという。それでも「潮干狩りで浜名湖に親しむ機会をゼロにはしない」(渥美敏組合長)と規制強化にとどめた。 潮干狩りで楽しめるからこそ、高められる資源保護の意識もあるはずで、英断と感じた。資
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記者コラム「清流」 計画や装備、万全に
雷鳴が響き、気温も下がり始めた富士山須走口5合目。登山口へ向かう女性2人とすれ違った。半袖Tシャツに半ズボン、スニーカーの軽装。「今からその格好で登山は危ないですよ」と思わず声をかけた。2人は「でも来ちゃったし」と引き返す様子はなかった。 今年も富士山で救助事案が相次いでいる。けがや体調不良などのっぴきならない理由で助けを求める人が大半だが、「弾丸登山で疲れた」「靴擦れができて痛い」といった理由で警察に通報する人もいると聞く。 命の危機に発展する可能性もあり、一概に「そんなことで救助を呼ぶな」とは言わない。しかし、タクシーを呼んでいるかのような内容があるのも事実。計画や装備の不備が明らか
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社説(8月26日)一茶生産過去最低 茶業団体も改革気概を
農林水産省によると、今年の主産5府県の一番荒茶生産量は前年比7%減の2万1千トンで過去最低となった。首位静岡は前年比14%減の9060トン。2位鹿児島は4%増の8440トンで差が縮まった。 大型連休ごろ盛期となる県内一茶は30年ほど前は2万トン超が生産された。この間県内茶園面積はほぼ半減し、茶農家は4万戸から6千戸に、一茶の平均価格は1キロ当たり3千円前後から2千円を割るまでになった。これらの構造的要因に加え、今シーズンは4月以降の低温が生葉収穫量に響いたとされる。 緑茶ドリンクの台頭や贈答需要の不振で、急須で入れる新茶・一番茶の「危機」が言われて久しい。これを転機と捉えられるかどうかが
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大自在(8月25日)富士山のトイレ
参拝客でにぎわう江戸・不忍池の弁天さまのご開帳。ある男がひらめいて有料トイレを開業したところ、大もうけとなった。ならば俺も、と別の男。二番煎じはおよしなさいと女房は止めるが、聞き入れない。 いざ隣に開業すると、まねた方の貸し雪隠[せっちん]に列ができ、先行の雪隠はひとりの利用もない。不思議がる女房に、亭主は鼻高々。「それもそうさ。隣の雪隠には俺が一日中入っているから」 江戸の滑稽咄[こっけいばなし]ならいいが、舞台が令和の富士山となればそうはいかない。世界文化遺産登録10年と新型コロナ感染症5類移行が重なって人出が増えた今夏の霊峰。マナー違反が大きな問題になった 山小屋の予約を取れなか
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記者コラム「清流」 ウナギと生物多様性
夏の商戦を取材した静岡市葵区の静岡伊勢丹では、土用の丑(うし)の日を前に、ウナギのかば焼きの予約販売が好調だった。身近な食材だが、ニホンウナギは絶滅危惧種。いつか食卓から消える可能性もある。 絶滅回避へ人間ができることの一つが、水辺の環境保護。餌となる他の魚や虫が豊富に存在する「生物多様性」の保全が鍵だ。 水辺の環境整備では、アメリカザリガニなど外来種の駆除がよく知られるが、在来種であっても、別地域から導入されれば、「国内外来種」として地域特有の遺伝子を汚染するなど生態系への脅威となる。 遠方から持ち込んだホタルや川魚を善意で放流する様子を見る度に、複雑な気持ちを抱く。ウナギや他の生物
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記者コラム「清流」 緑茶に感じるだしの味
菊川市の小学生の茶工場見学に同行した。試飲の時、児童の1人がつぶやいたひと言にはっとした。「だしみたいな味がする」。良質な茶を急須で丁寧に入れると、しっかりしたうまみを引き出せる。だしの滋味に例えた児童の発想力と繊細な舌に感服した。 以前、うま味調味料や発色剤を添加した茶について取材したことがある。県外で、うまみ成分のグルタミン酸ナトリウムが添加された安価な茶を買い求めた。顆粒(かりゅう)のコンソメスープのような味が舌に残り、強い衝撃を受けた。異質な喫茶体験だった。 県内では、緑茶への添加物使用は原則禁止されている。天然自然の茶からだしの味を感じ取れる子どもたちは茶どころの誇りだ。同時に
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社説(8月25日)ハワイ山火事被害 多様な災害に備え必要
日本人観光客にも人気の米ハワイ・マウイ島で発生した山火事は、これまでに犠牲者115人が確認され、過去100年間に米国で起きた山火事では最悪の惨事となった。少なくとも850人が行方不明だ。 太平洋に浮かぶハワイでは長年、台風や津波の被害に対する警戒が強く、山火事は災害対策の盲点を突かれた形ではあったが対応には不備があり、人災の側面も浮かんでいる。ハワイ州政府の統計によれば、今年上半期、約500万人がハワイ諸島を訪れ、うち日本人は約21万4千人に上る。今回の大災害は決して人ごとではなく、教訓も探らなければならない。 まず気になるのは、初期の消火活動や避難指示が適切であったかどうかだ。火災発生
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記者コラム「清流」 体験で学ぶまちづくり
三島市街地で7月、地域コミュニティー団体の活動に触れる謎解きイベントが開かれた。面白そうと子どもを連れて参加すると、恥ずかしながら知らない団体がちらほら。子どもも他の参加者も楽しみながら活動内容に触れていた。 活動する人々の苦労や熱い思いを取材で知る度、多くの人に広まってほしいと感じてきた。原稿を通じて活動を応援してきたつもりだが、体験に勝る学びはないと実感した。 まちづくり活動への参画に敷居が高いと感じる人は多いのではないだろうか。記者自身も取材する機会は多いが、一人の住民として関わることは少ない。まちづくりに無理やり参加すべきだとは思わないが、楽しむ目的で参加する活動は良いきっかけに
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NPOの存在意義 二つの視座で解説 浜松で講演会
静岡県西部NPO法人会はこのほど、1998年施行の特定非営利活動促進法(NPO法)の創設に携わった松原明さんを招いた講演会を浜松市中区の市民協働センターで開いた。 松原さんは「何のためにあるの? 地域における非営利団体」と題して講演した。非営利組織の存在意義を問う場合は、時代と環境で変化する「社会から期待される役割」と、長期的な変化は小さい「道具としての機能」の二つの視座を持つよう助言。社会的役割について、公共サービスの補完からマイノリティー支援、社会課題解決市場の担い手へと変わっていき、現在は独自の役割が不透明になっていると解説した。 NPOの道具としての機能は「協力と参加」だと説明し
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大自在(8月24日)戦争遺跡の保存
静岡市内の自宅近くにあった旧陸軍歩兵第34連隊の訓練施設が、老朽化に伴い6月に解体されていたことを先週の本紙記事で知った。連隊関連で残る最後の建物で、戦時中は毒ガス対応を想定し建物内部に催涙ガスを満たし、防毒マスク装着を訓練したという。一度、しっかり見ておくべきだったと悔やんだ。 戦後78年。戦争体験者が減り、記憶の伝承が難しくなる中、いわゆる戦争遺跡の存在意義が高まっている。先の大戦を中心に使われた旧陸海軍の施設や住民の避難壕[ごう]などで、大部分は放置されたまま風化が進んでいる。 共同通信の7月時点での状況に関する集計では、47都道府県のうち10道県が保存状況など全容把握のための調査
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記者コラム「清流」 邪魔するつもりは…
私は名古屋市出身だ。先日帰省して懐かしい知己と杯を交わした。私が今静岡県に住んでいると紹介すると、会話の中心テーマはリニア問題になった。相手は「なぜ静岡県はリニアの邪魔をするのか」と問いただすように聞いてきた。私は本県とリニア工事との関わり合いについて懇切丁寧に「ご説明」した。同時に静岡で今何が論じられているのか知られていないと痛感した。 JR名古屋駅周辺はリニア開通を前提としているであろう再開発計画がいくつか持ち上がっている。かつての住民としても実現すれば便利になるなと思う魅力的な内容だ。ただ、リニア開通が遠のけば見通しは狂う。それだけに本県の動きに疑問を感じるのだろう。でも決して邪魔を
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記者コラム「清流」 4年ぶりにわくわく
「わっくわっく!」と音楽に合わせて、拳を交互に突き上げ、跳びはねる幼児から大人。5日、長泉町のJR下土狩駅前の大いちょう通りには、法被や手作りの衣装を身にまとった祭りの主役である地元住民であふれていた。 4年ぶりに開かれた「長泉わくわくまつり」。取材した住民の中には、祭りが初めてという子ども連れも少なくなかった。「自分が子どものころから楽しみにしていた祭りに、子どもと来られたからうれしい」。町出身の親はそう話す印象が強かった。 幼少期の思い出深い祭りに、自分の子を連れてやって来る。祭りに向かう住民は、まさにわくわくしているように見えた。通りを笑顔で行き交い、一緒になって踊る姿を見て、地元
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記者コラム「清流」 天下取りへ高まる期待
全国高校野球選手権に初出場した浜松開誠館は、甲子園でも堂々たる戦いぶりだった。初戦は東海大熊本星翔に鮮やかな逆転勝ち。2回戦は北海にサヨナラ負けも、勝利への執念は伝統校に引けを取らなかった。 7月の静岡大会で開誠館の地元浜松球場での3試合を取材した。沼津商に2―1で逃げきって4年ぶりに突破した初戦から尻上がりに調子を上げ、浜松を離れた後も破竹の勢いで勝ち上がった。決勝は近藤愛斗投手が初先発。8失点も打線が援護して打ち勝った。甲子園に出るだけでなく、勝つことを目指したチームに最高の一体感が生まれた。 甲子園のインタビューで佐野心監督は「家康のように、少しずつ力を付けて天下を取りたい」と言っ
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社説(8月24日)サッカー女子W杯 日本8強 次につなげよ
1カ月にわたってオーストラリアとニュージーランドで開催されたサッカーの第9回女子ワールドカップ(W杯)は、スペインの初優勝で幕を閉じた。参加チーム数は前回2019年フランス大会の24から32に増え、準決勝進出の4チームはすべて優勝未経験国だった。女子サッカーが新たな時代に入ったことを感じさせる大会となった。 女子日本代表「なでしこジャパン」は決勝トーナメントの準々決勝でスウェーデンに敗れ、11年ドイツ大会(出場16チーム)以来の優勝に届かなかった。しかし、1次リーグでスペインを4―0で破るなど、一時期の低迷からの復活を印象付けた。 強みである連動と俊敏性を生かした、柔軟性の高い戦い方が光
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大自在(8月23日)睡眠学習枕
そろそろ夏休みも終わり。宿題の進み具合が気になる。休み明けにはテストがある学校もある。労なく答えが書けたらどんなに楽だろう。 そんな夢のような商品の話があったはず。静岡市清水区出身で漫画「ちびまる子ちゃん」の作者、故さくらももこさんのエッセー「もものかんづめ」(集英社)を読み返した。「睡眠学習枕」。眠りながら暗記ができるという文句につられ、高校生の頃、3万8千円で購入した話。母親たちの懸念通り、しくじる。取扱説明書には、枕を使用する前に暗記したい単語を100回書いて練習するよう記してあった。 エッセーの舞台は昭和だが、何度読んでも楽しい。どこにでもいそうな少女の目線で描かれた日常は、少し
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記者コラム「清流」 気を引き締めた運転を
藤枝署が飲酒運転による交通事故の防止を図るために行った検問の様子を取材した。今まで検問を実施中の署員に遭遇したことや取材したことはほとんどなかった。「テレビでよくこういう映像があったな」と思っていたところ、現場から急に背走を始めた不審な車両と出くわした。 署員が笛を鳴らしながら走って追いかけた。車両は停車し、検問中の全署員が駆け付けた。様子を見ていると、飲酒運転していたが、基準値には達していなかったようだ。その後も、免許不携帯など交通違反の運転手が見つかった。 運転手にはそれぞれ言い分があるだろうが、ルールを破って良い理由にはならない。取材して一番感じたのは「人ごとに捉えてはいけない」と
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子育て支援 リスタート 第二の「長泉方式」期待【東部 記者コラム 湧水】
子育てのまちといえば長泉町。そんなイメージの強い長泉町だが、出生数はここ数年、減少傾向にある。町は出産前から出産、育児中まで継続的に支援するため、本年度から県内初の第2子保育料無料化、妊産婦のタクシー利用代助成など事業を拡充し、子育て支援のリスタートを切った。今後の町民の意識の変化や他市町への影響を注視したい。 町住民窓口課によると、10年前の2014年度462人だった出生数は、16年度に512人(14年度比10・8%増)になった。その後は全般的には前年度比減となる年度が多く、22年度は372人(同19・5%減)だった。 出生数の減少をくい止め、増加に転じさせるには、家庭が経済的に安定し
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記者コラム「清流」 真夏の屋外大会に疑問
年々夏の暑さが厳しくなっているのは明らかだ。誰もが感じているはずなのに、学生スポーツの開催時期が変更されないことに疑問を感じる。 夏の高校野球や、インターハイは1年で最も気温が高い時期に行われている。酷暑の中、熱中症のリスクを背負っているのは選手だけではない。一日中ずっと競技を見ている大会スタッフ、審判、保護者など多くいる。大会運営の決定権を持つ者は肌身で酷暑を感じたことがあるのか。「熱中症対策を」と口で言うのは簡単だ。 日本の伝統かもしれないが、このご時世、あえて夏に開催する必要はない。今は一昔前の夏とは違っている。現在の春の大会をなくし、中学や高校の最後の大会を梅雨入り前から行い、夏
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記者コラム「清流」 一日子ども市長の提言
湖西市が実施した一日子ども市長体験の記者会見で、参加した小学6年生5人に難しい質問を投げかけてみた。「市長のように、税金の使い道を決める人を選ぶ選挙で投票率が下がっています。どうしたら政治や選挙に関心を持ってもらえると思いますか」 一様に渋い顔をした小学生たちだったが、少し考え込んだ後、順に手を上げて答えてくれた。「普段から関心を持っていないと、今何が起こっているのかが分からない。分かりやすく伝えてほしい」「投票によって自分の願いを実現できることが伝わるといい」 “投票率の低下”という言葉を聞いて深くうなずき、悩みながらも具体的な提言をしてくれた小学生の姿勢に驚い
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社説(8月23日)福島処理水放出へ 安全と風評 対策全力で
東京電力福島第1原発にたまり続ける処理水について、政府は24日に海洋放出を開始する方針を決定した。 処理水の保管量は3日時点で134万トン。保管タンク容量の約98%に達した。タンクを撤去して廃炉作業に必要なスペースを確保するためにも処理水を減らす必要があり、現状で海洋放出はやむを得ない判断といえる。 一方、地元をはじめとする漁業者は風評被害を強く懸念して放出に反対している。岸田文雄首相は「数十年の長期にわたろうとも処理水の処分が完了するまで政府として責任を持って取り組む」と断言した。根強い反対を押し切って放出する以上、安全対策に加えて風評対策やなりわい継続支援に力を尽くす責務を負ったとい
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大自在(8月22日)ソ連8月クーデター
ソビエト連邦指導部の保守派が、改革派ゴルバチョフ大統領からの権力奪取を狙ったクーデターは、ロシア共和国のエリツィン大統領とそれを支持する市民らの抵抗で失敗し、エリツィン氏は1991年のきょう8月22日に勝利宣言した。クーデター開始から3日後のことだった。 ゴルバチョフ氏は無事だったが、ソ連共産党の権威は失墜し、12月のソ連崩壊へとつながる。国民の支持がエリツィン氏ら急進的な改革派に集まり、追い詰められた保守派の起死回生の策も時代の流れを変えることはできなかった。 エリツィン氏は98年に来日し、伊東市の川奈ホテルで橋本龍太郎首相との首脳会談に臨んだ。当時、取材の応援で現地に入ったことを思い
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社説(8月22日)中間貯蔵調査容認 住民理解が欠かせない
中国電力と関西電力が共同開発を目指す原発の使用済み核燃料の中間貯蔵施設について、山口県上関[かみのせき]町の西哲夫町長が建設に向けた調査を受け入れる意向を表明した。 中間貯蔵施設は、原発で使った核燃料を再び使用できるように再処理するまで一時保管するのが目的。放射線を遮蔽[しゃへい]する専用の金属容器(キャスク)に使用済み燃料を入れて、外気で冷却する「乾式貯蔵」方式を取るとみられる。 しかし、中国電が町長に中間貯蔵施設の建設を提案したのが今月2日。容認発表まで半月しか経過していない。その間に住民への説明会が開かれることはなかった。 町議会に関しても8日に全員協議会、18日に臨時会を開いた
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記者コラム「清流」 花のある暮らし
生産された花が消費者の手に渡らずに捨てられてしまう「フラワーロス」。新型コロナ下のイベント減少などで注目されたが、花き業界では以前からの課題だったという。県内のガーベラ農家から「夏場は出荷する2、3倍の花を廃棄している」と聞き、驚いた。 この農家はコロナ下を契機に規格外の花を消費者に直接販売するようになった。私も自宅に飾らせてもらったが、美しさや持ちは十分。手頃な価格で楽しめるのは、ありがたい。 花のサブスク(定額課金制)もコロナ下に広がった。「おうち時間」を彩りつつ、ロスを減らす効果もあるようだ。静岡市内では生花店だけでなく、飲食店や福祉施設など意外な場所でも花を受け取れるサービスもあ
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記者コラム「清流」 ラブライブの後に
新たなシリーズが始まった沼津市が舞台のアニメ「ラブライブ!サンシャイン‼」。7月の市制100周年関連イベントには声優たちが参加し、県内外から多くのファンが詰めかけた。 放送開始から7年。沼津に“聖地巡礼”する人は途切れず、ファンの沼津詣では定着したとみていいだろう。彼らと、温かく迎え入れる地元の人たちの輪は広がり、作品がきっかけで移住する人も増えている。 しかし、いつまでもラブライブに頼るばかりではいけない。ラブライバーたちが「再発見」してくれた地域の魅力的なコンテンツを地元の人たちが認識し、違う文脈で発信できるかが鍵になる。作品で生まれた人の縁は大切にしつつ、い
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記者コラム「清流」 地産地消から始めたい
御前崎市はおいしい食材の宝庫。全国的に有名な茶品種「つゆひかり」や和牛「遠州夢咲牛」など畜農産物が豊富だ。日照時間が長い好条件もあるが、やはり生産者の情熱が大きい。 島田市出身の記者は今まで川根茶が一番と思っていたが、つゆひかりの豊かな香りとまろやかな甘味に引かれた。遠州夢咲牛も味わってみたが、御前崎まで買い求めて来る人がいるのも納得できるうまさ。間違いなく地域の魅力である。 市は2019年に「食まちづくり条例」を制定した。認知度は低いが、食材の地産地消で地域活性化し、市民の健康増進を図ることなどを理念に掲げている。 実現に向け、まずは地域農業者を支える視点で地元食材を食べることから始
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社説(8月21日)ひきこもり支援 相談に導く手引作成を
厚生労働省は、ひきこもりの人やその家族の支援に役立てるマニュアル(手引)を初めて作成する。2023年度中に都道府県と全市区町村を対象に実態調査を行い、相談事例や課題を把握した上で、24年度中に各自治体で活用できる手引を作る。 内閣府の最新の調査によると、全国の15~64歳のうち、146万人がひきこもり状態にあると推計される。ひきこもりが長期化して50代になり、経済的に依存してきた80代の親とともに生活に行き詰まる「8050問題」の深刻化が指摘され、共倒れを防ぐためにも支援の拡充が求められている。 だが、世間体を気にして、ひきこもりを知られたくない家族は多いとみられる。そのため、支援が必要
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大自在(8月21日)「サーカスの馬」
戦後の日本を代表する作家、安岡章太郎さんが1955年に発表した「サーカスの馬」という短編小説がある。何の取りえもないと思い込んで、勉強も運動もやる気が出ない少年。痛々しい姿に自分と同じ境遇だと感情移入して見ていたサーカスの馬が、実は人を乗せると見違えるほど生き生きする一座の花形だった。ざっとこんな話。 安岡さんは第一東京市立中学校(都立九段高校=2009年に閉校)出身。母校の学生から依頼されて寄稿したものが、この作品のもとになっているそうだ。学生に学校の話を聞いた安岡さんは、「自殺する生徒が多いんです」と聞いて、暗い気持ちに襲われたという。「日本語人生百景 エッセイの名言」(中村明著、青土
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時論(8月20日)ふるさと納税の生みの親
ついこの間まで本紙2面の隅に毎日載っている「首相の動静」をチェックするのが仕事だった。細かくデータを取ったわけではないから印象でしかないが、菅義偉前首相の日程はとにかく過密だった。官邸では分刻みで会議、面会をこなし、夜の会合もはしごが当たり前。岸田文雄首相らは、情報の出し方の違いかもしれないが、もう少し余裕がある。 秋田県出身で国会議員秘書や横浜市議を経て衆院議員となり、首相に上り詰めた。長期政権だった安倍晋三元首相の後継で、新型コロナウイルス禍の難しい時期に政権運営を担った。過密日程は自身の仕事のやり方と特異な状況の両方によるものだったのだろう。最後は不本意な形で再選を断念し、在任期間は
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社説(8月20日)低迷続く研究力 挑戦支える環境整えよ
日本の研究力低下に歯止めがかからない。文部科学省の科学技術・学術政策研究所が公表した注目度が高く引用数が多い「トップ10%論文」の数に関する最新の国際ランキングで、日本はイランに抜かれ、前回12位から過去最低の13位に後退した。研究力は、資源が乏しい日本が科学技術立国の旗を掲げ続けるための生命線だ。研究者の挑戦を支える環境を整え、低迷を脱しなければならない。 20年ほど前は4位を維持していたが、以降、順位が下がり続けている。最新ランキングは各国の2019~21年の平均論文発表数などを分析した結果で、日本は注目論文の中でも引用数が極めて多い「トップ1%論文」でも、スペインと韓国に抜かれ、前回
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大自在(8月20日)「信念を貫く」
SBSテレビで放送されている日曜劇場「VIVANT」。阿部寛さん演じる警視庁公安部の捜査官を補佐する「ドラム」さんの存在が気になって仕方ない。長身の阿部さんと対照的なずんぐりむっくりで、スマホの音声翻訳を使いこなすあの人である。 元力士の富栄[とみさかえ]ドラムさん。現役時代は富栄のしこ名で幕下6枚目が最高位。100キロ超の体重で連続バック転をこなす運動神経と陽気な性格を生かし、引退後はユーチューバー、俳優として活動する。 所属した伊勢ケ浜部屋では、横綱日馬富士らの付き人もしたという。同部屋の翠富士(焼津市出身)や熱海富士(熱海市出身)は、第二の人生で活躍する兄弟子に刺激を受けたことだろ
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記者コラム「清流」 卓球に新たな楽しみ方
卓球Tリーグに今季から参入した静岡ジェードの初戦。開幕を勝利で飾ることはできなかったが、会場となった静岡市中央体育館には約1000人が駆けつけ活気にあふれた。 座席はほぼ埋まり、私を含め観客席後ろの通路で立って観戦するファンも多くいた。静岡ジェードの選手が得点すると大きな拍手と歓声が上がり、ホーム試合らしい一体感が会場を包んでいた。 初戦から多くのファンが集まったのは、チームが2月から行ってきた地域に密着した活動の成果でもあるが、静岡県の卓球人気の高さも要因の一つだろう。サッカー王国と称される静岡県だが、実は日本卓球協会の登録人数が全国で2番目に多い。今後は、プレーするだけでなく、「観戦
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記者コラム「清流」 再配達減へ意識変えて
通販サイトで買い物をした荷物を自宅で受け取る際、急きょ不在にしてしまった。再配達を依頼したが、うまく調整できず、その後も配達員と行き違うことに。連絡や労力を重ねさせたのは申し訳なかった。 電子商取引(EC)の宅配便取扱量が年々拡大し、国交省が公表した4月の再配達率は約11.4%。トラック運転手の残業規制強化に伴い、輸送能力や人手の不足が懸念される「2024年問題」を背景に、24年度には6%に下げる目標だ。実現には起点となる消費者の日時順守や置き配希望といった協力が欠かせない。 24年問題を巡り、浜松の運送企業も運転手の負担が減る中継輸送や賃金改善の対策を進める。消費者も自身のニーズや都合
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記者コラム「清流」 まちの歩みを追う覚悟
静岡市の本社から熱海支局に今夏異動して早々、伊豆山の土石流現場に向かった。発生から2年余り。生活再建への取り組みが徐々に進む一方で、地肌むき出しの斜面や壊れた家屋がいまだに残る現状を目の当たりにした。遺族や被災者のことを思うと、心が痛む。 「熱海」と言えば、静岡県が国内外に誇る温泉観光地だ。土石流現場から少し離れた中心街では、若者や家族連れ、外国人を中心とした旅行客の多さに驚かされた。コロナ禍を乗り越え、活気を取り戻しつつある熱海の底力を感じている。 本来なら「まちは一つ」のはずだが、同じ熱海市内でも、伊豆山とそのほかの地域とでは“温度差”があると聞いた。真の日常
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大自在(8月19日)公共トイレ
時々立ち寄るコンビニのトイレに、座った状態で利用してほしいと協力を求める文書がいつの間にか張り出されていた。飛び散りによる汚れを防ぐためのお願い。以前ならともかく、今は面倒だとは思わない男性の方が多いかもしれない。 2年前に生活用品メーカーのライオンが成人男性を対象にした調査では、座り派と立ち派の割合はほぼ6対4。座り派のうち、立ち派からの転向はほぼ半数に上った。今年も調査すれば座り派の割合はさらに大きくなっているのではないか。 性的少数者への理解を広めるLGBT理解増進法の制定を機に、公共トイレの在り方を巡る議論が活発に交わされるようになった。性別に関係なく誰でも使えるジェンダーレスト
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社説(8月19日)台風7号禍 鉄道混乱 十分な検証を
台風7号は15日、紀伊半島に上陸した後、関西地方を縦断して日本海に抜け、17日に北海道の西方海上で温帯低気圧に変わった。鳥取県に大雨特別警報が発表されるなど各地に記録的大雨をもたらし、浸水や土砂災害を起こした。日本海に抜けた後も静岡県東部で大雨を降らせた。 加えて国民が大移動するお盆を直撃したことで交通網に大きな影響を及ぼした。大動脈の東海道・山陽新幹線は上陸した15日は計画運休。16日に平常運転に戻した途端、静岡県内で発生した大雨をきっかけに一時全線で運転を見合わせることになった。ダイヤの乱れは17日まで続き、Uターンしようとする大勢の家族客らを疲弊させた。 新型コロナウイルス感染症の
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大自在(8月18日)東京の磁力
東京タワーを真横から眺めることができる日本一高いビルが11月、東京都港区に開業する。不動産大手の森ビルが手がける「麻布台ヒルズ」。330メートルの超高層ビルをはじめ、網目状の個性的な外観の建物や広大な緑地で構成され、オフィスや商業施設、ホテル、住宅、インターナショナルスクールなどが入居する。年間3千万人の来訪を想定し、記者会見した森ビルの辻慎吾社長は「国際都市間競争に勝たねばならない。ますます東京の磁力を向上させていく」と強調した。 都心は再開発が相次ぐ。超高層ビルでは東京駅近くに「トーチタワー」が2027年度の完成を予定する。高さ390メートルで、完成後は新たに日本一高いビルになる。
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記者コラム「清流」 二度あることは三度?
数十年に一度だけ開花するとされる中南米原産の植物「リュウゼツラン(竜舌蘭)」。昨年、牧之原市の石雲院で初めてその姿を目にしたが、今年も開花の知らせを伝えることができた。 天高く伸びる花柱の先端には黄色い小さな花が咲き、輝きを放った後に株は枯死するという。植物の力強さと美しさ、そしてはかなさを兼ね備える何とも言えない素晴らしさがある。今年開花したのは吉田町の東名高速道吉田インターチェンジの入り口に植えられていた株。週に一度は通る場所であったが、地域住民からの知らせがあるまで全く気付かなかった。 幸運に巡り合わせてくれた住民に感謝するとともに、次こそは自分の力で発見したい。二度あることは三度
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記者コラム「清流」 何のため、誰のため?
「話せなかった分はこの後の懇親会で共有を」。賀茂地区6市町の首長が参加し、下田市で開かれた県主催の防災会議。報告者の話が想定以上に長引き、後半に予定していた首長間の意見交換は中止となった。その中で主催者から出たのが冒頭の言葉だった。 近年、予想を超える気象災害が頻発している。防災をテーマに年1回、首長が顔をそろえて意見交換する場はまさに貴重な機会だ。被害が広範囲に及ぶ事例も多く、自治体間の連携強化は喫緊の課題と言える。 会議の重要性を考えれば、時間の延長は選択肢に入れるべきだったはず。懇親会での“意見交換”は議事録に残るはずもなく、市町間でも共有できない。それとも
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記者コラム「清流」 安全第一の親子海水浴
8月上旬の休日、家族で牧之原市の静波海岸へ出かけた。浜松市内の自宅から東名高速道を利用して1時間と少し。数年ぶりの海水浴だ。4歳の息子にとっては初めて。晴れ渡った空の下、妻に見守られ、波に揺られながら親子ともども全身真っ黒に日焼けした。 海水浴中、周りを見ると、幼い子にライフジャケットを着せている家族連れがいた。水辺の事故は命に関わる。0歳から水泳教室に通わせている息子にも念のために着用させるべきだったか。反省した。 浜松市浜北区の水泳クラブ「浜北スイミングプラザ」は毎年、着衣泳の教室を開いて子どもたちへの啓発を続けている。親に向けては「水遊び中、子どもから絶対に目を離さないように」とく
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社説(8月18日)浜松の区画整理 企業誘致の機を逃すな
ものづくり企業が集積する浜松市で、新しい大規模工業用地を造成する民間主導の土地区画整理事業が動き出した。47ヘクタールの広大な山林、農地を開発して企業の工場や物流拠点などの誘致を目指す。土地所有者らの意向を尊重しつつ、機を逃さないよう行政と連携してスピード感を持って取り組んでもらいたい。 対象地域は、東名高速道路浜松西インターチェンジへのアクセスが良い西区のエリアで、周辺には別の工業団地や大型商業施設などがある。恵まれた立地を活用しようと、7月下旬に地権者でつくる住民組織の準備委員会が事業の第一歩となる土地区画整理法に基づく「技術的援助申請書」を市に提出した。 約250人いる地権者の大半
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大自在(8月17日)友を思う四字熟語
暮雲春樹―。長安に住んでいた中国唐代の詩聖杜甫が、はるか離れた揚子江付近の江東を旅する詩仙李白を思って詠んだとされる。離れた地にいる友人への友情を表す四字熟語として知られる。 高校卒業から間もなく40年。卒業以来初めて、盆休みを活用して同級会があった。3人の幹事が5月から、卒業名簿にあった実家に連絡を入れて現況や連絡先をたどり、半数以上の所在がつかめた。 傘寿を過ぎた恩師を招き、思い出話に花を咲かせた。首都圏で働くクラスメートの方がやや多かっただろうか。ある級友の髪の毛は薄くなり、脳梗塞を患ったり、杖[つえ]を手に参加したりする友人もいた。とはいえ、氏名が出てこないほど変貌した友人はおら
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社説(8月17日)GDP大幅な伸び 賃上げ実現し好循環を
内閣府が発表した2023年4~6月期の国内総生産(GDP、季節調整済み)速報値は、物価変動を除く実質で前期比1・5%増、年率換算は6・0%増と市場の予想を大きく上回った。半導体不足が緩和されたことによる自動車の輸出増加や、新型コロナウイルス禍の収束に伴うインバウンド(訪日客)需要の拡大が寄与した。 3四半期連続のプラス成長で、日本経済の拡大が本格化しつつあるともとれるが、好材料だけではない。国内では物価高が直撃して肝心の個人消費が落ち込み、海外に目を向ければ中国の景気後退が指摘されている。成長軌道に乗れるかどうかは、賃上げを拡大し個人消費を回復させられるかどうかにかかっている。 年率の成
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大自在(8月16日)米国素描
ロシアのウクライナ侵攻や来年の大統領選挙。内外事情を背景にバイデン米大統領はたびたび民主主義の重要性を口にする。 民主主義を牽引[けんいん]するかのような言葉は逆に米国の内実を照らし出す。英誌「エコノミスト」が毎年公表する「民主主義指数」で2022年の米国は30位。集計開始の06年17位から横ばいが続いた後、トランプ前大統領当選の16年に21位となり「完全な民主主義」から「欠陥のある民主主義」へと評価を下げた。トランプ氏支持者が議会を襲撃した21年は26位とさらなる下落。 バイデン政権発足後も上向かないのは分断の根深さゆえか。“主役”のトランプ氏は今月早々、議会襲
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社説(8月16日)食料自給率38% 飢えの不安なくすには
農林水産省が発表した2022年度の食料自給率(カロリーベース)は38%で前年度と同じだった。目標の「30年度までに45%」は遠く、重く受け止めるべき数字である。 参考値として示された21年度の都道府県別自給率(同)は北海道の223%が最高で、100%超は4道県にとどまる。静岡県は16%で、過去最低だった19、20年度から1ポイント上向いたものの、横ばいが長く続いている。 全国の食料自給率は1970年まで60%以上あったが、米の消費減少など食生活の変化で低下基調となった。農業基本法が食料・農業・農村基本法に移行した後の2000年以降は横ばい傾向にある。 基本法の再見直しが議論されている今
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大自在(8月15日)「学鷲」
1945年3月、佐賀県の陸軍目達原[めたばる]飛行場で野球の試合が行われた。学徒出身の飛行兵らによる対抗戦。投手として見事な投球を披露した渡辺静少尉(当時)は、バットでも本塁打を放ったという。 渡辺さんはその試合でただ一人、職業(プロ)野球経験者だった。当然と言えば当然の活躍だろう。19歳だった43年、朝日軍に入団。朝日軍は今日の横浜DeNAにつながる球団である。 長野県の小諸商業学校で注目を集め、スカウトされた。職業野球でプレーする傍ら、兵役免除のため専門学校で高等教育を受けた。 だが、プロでの生活は1年だけ。出場2試合、2打数無安打に終わった。太平洋戦争の戦況悪化で学徒出陣が決まっ
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社説(8月15日)終戦の日 平和守る対話に全力を
ことしもまた「終戦の日」が巡ってきた。 アジア・太平洋地域で、日本人だけでも300万人以上の犠牲者を出したとされる戦争の終結から78年。この間、日本が他国と戦火を交えることはなかったが、今この瞬間もウクライナでは侵攻したロシアとの戦いが続き、日本周辺でも北朝鮮の核兵器開発や台湾情勢の緊迫化など懸念が尽きない。享受している平和が決して盤石なものではないことを認識する必要がある。 ウクライナでの一刻も早い戦争終結に貢献し、北東アジアの安定を図って日本が再び戦火に包まれるのを防ぐため、日本はどうすべきか。国際情勢がますます不安定になる中で、国民一人一人が真剣に考えなければならない時期が来ている
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視座(8月14日)信頼回復への道険しく 中山県議の無免許運転
静岡市清水区選出の中山真珠県議(28)が運転免許を失効していたにもかかわらず、軽乗用車を運転していたことが分かった。中山氏は所属していた国民民主党を離党せざるを得なくなった上、県議会第2会派のふじのくに県民クラブからは除名処分を受けた。事実関係を認めて謝罪したが、県議の職にはとどまる意向を示している。最大会派の自民改革会議は辞職勧告決議案を提出する方針だ。決議案は可決されたとしても法的拘束力がなく、中山氏が県議を続けることは可能だが、その場合、厳しい批判にさらされることは避けられない。 単に更新を忘れて気付かないまま運転したのではなく、期限を過ぎたことに気付いた後も運転していた。一般の人以
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【D自在】「自分事」を載せた辞書があった
フランス皇帝ナポレオン・ボナパルト(1769~1821年)の名言とされる「余の辞書に不可能という文字はない」。出典や翻訳などに諸説あるようだが、手を隠したポーズとともによく知られる。 「広島原爆の日」の大自在に、「自分事」という言葉は多用されるが、手元の辞書には載っていないと書いたところ、通称「三国(さんこく)」、三省堂国語辞典の第8版(2022年)にあると教えられた。最近改訂された辞書のチェックに気が回らなかった。知っていたらコラムの切り口や展開は違ったかもしれない。 拙稿は、児童生徒が平和や核兵器廃絶に目を向けるという文脈では「自分事」が据わりがいいとした。それだけに、掲載当日の
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社説(8月13日)静岡県東部の移住施策 広域で連携、深化図れ
沼津、三島両市が移住者の増加に向けて連携し、初の取り組みとしてバスツアーを行った。企業や商業施設の誘致、子育て支援や福祉などの各施策で意識し合っている両市は、移住促進策でも競り合ってきた。タッグを組むのは異例で、静岡県東部のほかの市町が関心を寄せている。 山と海に囲まれ、人気アニメ「ラブライブ!サンシャイン‼」の舞台にもなった沼津市と、新幹線駅を擁して東京と行き来する利便性の高い三島市。バスツアーは互いの“売り”をそれぞれにPRできる上、隣接しているため移住希望者が1日で比較しやすいことから、共催が実現した。 取り組みは相乗効果を狙い、定期的に行っていく。人口減に
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時論(8月13日)ブリは救世主となるか
地球温暖化に伴う海水温上昇の影響で、国内の漁獲に変化が起きている。その代表格がブリだ。暖水系の魚であるブリが東北や北海道で多く水揚げされるようになり、日本全体でも資源量が増えている。 国の統計では、2022年の魚介類の養殖を含む漁獲量は前年比7・5%減の約386万トン。比較可能な1956年以降で最低を更新した。温暖化などによる海洋環境の変化は、全体的には多くの魚種で不漁をもたらしている。 こうした状況の中、ブリへの注目度が高まり、成長につれて呼び名が変わる出世魚がさらに“出世”したようだ。水産や水産加工業界の救世主となるか。取れる魚を有効活用し、消費者にも積極的に
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大自在(8月12日)なでしこジャパン
なでしこジャパンの新たな歴史への挑戦が終わった。サッカー女子ワールドカップ(W杯)2023の準々決勝で、国際サッカー連盟(FIFA)ランキング3位の強豪スウェーデンと対戦して惜しくも敗れた。2011年大会以来となる優勝の夢には届かなかった。 それでも、ここまでの戦いぶりは大会前の予想を上回る素晴らしいものだった。1次リーグ3試合で、全参加チーム最多の11得点を挙げながら、失点はゼロ。決勝トーナメント1回戦でも優勝経験のあるノルウェーを危なげなく下した。攻守に高い次元のパフォーマンスを発揮し、フェアプレーに徹した。 11年のなでしこメンバーで海外チームに所属していた選手は4人だったが、今の