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富士山火山避難基本計画改定 観光客は「帰宅」、複合災害も想定を 藤井敏嗣/検討委員長【インタビュー】

 噴火に備えて改定された富士山火山避難基本計画。登山者や観光客の避難対策や降灰からの避難の考え方も新たに追加された。富士山火山広域避難計画検討委員会の藤井敏嗣委員長に改定のポイントと今後の課題を聞いた。

富士山噴火の避難イメージ
富士山噴火の避難イメージ
藤井敏嗣氏
藤井敏嗣氏
富士山噴火の避難イメージ
藤井敏嗣氏


 ―登山者や観光客は避難ではなく早期の「帰宅」となった。
 「避難というと、近くの避難所に行くというイメージがあるためだ。避難所や避難路は地元住民に優先的に使ってもらう。観光客は噴火警戒レベル3に引き上げられるまでに帰宅し、5合目以上の登山者はそれよりも前のレベル2に相当する臨時の火山解説情報で下山する。要支援者や住民の避難と重ならないようにした。混雑の緩和には5合目以下の林道を整備し、複数の避難路を確保する必要がある」
 ―降灰の避難対策の変更点は。
 「旧計画では火山灰が30センチ以上積もると予想される地域は避難と、数値基準があった。しかし建物の強度は県によって違うため、一律の数値は設けなかった。避難は鉄筋コンクリート造など堅固な建物への屋内退避が原則で自宅も可能。体育館のように梁[はり]が少ない場所は灰の重みで倒壊する可能性がある。降灰が続いた場合に備え、1週間程度の備蓄をしてほしい。大規模な降灰が発生したら立ち退き避難が必要なため、ヘルメットやゴーグルで身を守りながら徒歩で逃げる」
 ―降灰の予測の難しさは。
 「火口の位置や風向きによって火山灰が積もる領域が変わり、事前に決めるのは困難。2021年のハザードマップ改定でも降灰の予測は見直さなかった。噴火の形態が溶岩流型なのか、火山灰型なのか、現在の火山学では噴火前には把握できない。火山灰と溶岩が同時に大量に発生するのは火口周辺を除けばほとんどない。どういう噴火現象があり、どの範囲に危険が及ぶ可能性があるのか個々人が正しく理解しておいてほしい」
 ―今後の課題は。
 「南海トラフ地震との複合災害になった場合の避難計画の検討が必要。1707年の宝永噴火の49日前に宝永地震が起きた。今の人口規模で南海トラフ地震の想定震源域の東側で半割れが起き、その後、富士山が噴火したら、まさに国難となる。東西からの救援はすぐには見込めず、県は各自で持ちこたえる準備が必要になるだろう。これほどの被害になった場合、国が中心になって救援や広域避難の在り方を検討しなければならない」
 (聞き手=社会部・中川琳)

 3次エリア一般住民 避難は噴火直後から
 富士山火山避難基本計画は、噴火警戒レベル別に対応をまとめた。溶岩流が3時間以内に到達する地域(第3次エリア)と7日以内に到達する地域(第5次エリア)にいると仮定し、レベルの引き上げに伴って対応がどう変わるのか比較した。
 火口周辺で噴火が発生する可能性があるレベル2に相当する臨時火山解説情報が出た場合、一般住民は3次、5次いずれのエリアでも行政から発表される情報に注意しながら生活する。一方、3次エリアにいる観光客は帰宅を開始しなければならない。
 レベル3(入山規制)でも、一般住民はまだ避難を開始しないが、学校などの教育関連施設は休校、児童引き渡しの措置を取る。
 レベル4(高齢者等避難)になると、3次エリアの避難行動要支援者は避難を始める。居住地に被害が及ぶ噴火が切迫しているレベル5(避難)でも、一般住民はまだ避難しない。
 3次エリアにいる一般住民が避難を開始するのは噴火直後。5次エリアでは噴火状況が判明してからとなる。避難が必要なのは、溶岩流が流下する方向にいる住民のみ。溶岩流の流下速度は平野部ほど遅くなるため、徒歩や自転車でも十分に逃げられる。火山活動が急激に高まって噴火する場合もあり、市町が発表する避難指示などの情報に注意しながら、冷静に対応することが重要となる。
 親戚や知人宅に自主的に避難する場合はレベル3までにする。
 

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