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富士山頂の活用継続を 鴨川仁/静岡県立大特任教授【提言・減災】

 富士山における防災や科学というと火山噴火の監視が最初に思い浮かぶであろう。しかし、日本最高峰のみならず孤立峰であるその特徴的な形状から、現在のような技術発展がなされるはるか前から富士山は科学利用されてきた。古くは江戸時代までさかのぼり、初めて実測による日本地図を完成させた伊能忠敬は、測量で富士山を利用していた。

鴨川仁氏
鴨川仁氏

 幕末には、国内外の人々が富士山から気象観測を行っていた。高所での気象観測は気象予報の精度を向上させる。1895年には野中到夫妻が高所での世界初の山頂越冬気象観測を試みたが、高山病などのため約3カ月で下山せざるを得なかった。その後、中央気象台(現・気象庁)の職員などで越冬観測を試み、1936年には富士山に常設の気象観測所、のちの富士山測候所が設立されることとなった。
 測候所設立後は富士山の科学利用が進み、64年には山頂に大型気象レーダーが設置された。設置前の59年の伊勢湾台風までは、台風により数千人規模の死者を記録していたが、設置後は激減した。このように、富士山の科学利用には意義があったが、現在では技術革新により気象衛星や地上レーダーがその役目を担うようになり、富士山測候所にはレーダーも常駐職員も不要となったため2004年に閉鎖された。それ以降は限定的な無人気象観測しかなされていない。
 もはや富士山山頂という極地で科学計測する必要性はないのであろうか。実際には、そうではなく環境問題など時代とともに新たな用途が生まれてきている。気候変動が起こす災害などはいま最も注視すべき環境問題の一つであるが、筆者も関わる「富士山測候所を活用する会」が旧測候所を使い、温暖化ガス移流の理解や大気中マイクロプラスチックの高所での発見、温暖化を抑制するエアロゾルの経年減少の発見など、わずか15年で環境問題対策や減災に結びつく成果を出し始めている。
 しかしながら、この新しい富士山頂の利用は、研究者の手弁当で組織運営が行われており、行政の力なしでは今後の維持は難しい状況にある。過去の事例を見ても富士山を活かすことはわれわれを生かすに直結しており、富士山頂の活用の継続について市民、行政もいま一度考えてみてほしい。

 かもがわ・まさし 東京学芸大准教授などを経て2023年4月より現職。専門は地球電磁気学、大気電気学、物理教育。認定NPO法人「富士山測候所を活用する会」事務局長も務める。51歳。

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