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【第1章】危機意識の低下⑥完 「どこに」「いつまでに」作ろう、わたしの避難計画【東海さん一家の防災日記 南海トラフ地震に備える/いのち守る 防災しずおか】

 いつ起きるか分からない南海トラフ地震に市民はどう備えるべきか。自治会・自主防災会会長の東海駿河さん(71)と妻の伊豆美さん(66)、長男の遠州さん(36)親子、長女の富士子さん(33)の3世代をモデルに、自助、共助の取り組みを考える。
東海さん わたしの避難計画
 静岡新聞を読んでいた東海駿河さんは維持管理が行き届いていない津波避難施設の記事に目がとまった。県内は東海地震対策で長年、避難路や高台への避難階段などの整備に取り組んできたが、過去に設置された施設は雑草が生い茂るなど使えない状態のものもある。「いざという時に困るな」。津波浸水想定区域に暮らす遠州さん家族が心配になり、防災ベテラン家族「わたひな家」に相談した。
 東海さんは後日、わたひな家の3人と一緒に遠州さんの自宅を訪れた。「遠州さん、地震が発生したらどこに、どう避難するか、ちゃんと考えていますか」。わたひな父は問いかけた。「え…」。答えに詰まる遠州さん。最近はコロナ禍で訓練にも参加していない。そういえば最近、地区内に新しい命山ができた。「そこでいいのかな…」
 わたひな父は「一緒に『わたしの避難計画』を作ってみましょう」と呼びかけた。初めて聞く「わたしの避難計画」。「計画って何だか大げさで難しそうだわ」と遠州さんの妻三保さん(34)は不安な表情を浮かべる。
 実は家庭内でハザードマップすらちゃんと見たことがない。「大丈夫ですよ。わたしの避難計画はすでに地区ごとのハザードマップと作成ガイドがセットになっています」とわたひな父。ガイドに沿って「どこに」「いつまでに」避難すればいいのか、津波の場合を早速考えてみた。
 まず自宅に津波が到達するのか、しないのか。「家の近くは青色が掛かっているね」。長男竜洋君(7)も身を乗り出してマップをのぞき込む。10~15分で津波が到達し、津波浸水深は5メートルと確認できた。自宅から5分のところに津波避難ビルに指定された民間施設がある。「ここが一番近いから避難場所に良さそうだな」と遠州さん。「ちょっと待ってください。民間施設の場合、夜間でも逃げ込めるのか確認した方がいいですよ」とわたひな父からアドバイス。施設によっては夜間は施錠され、24時間使えるとは限らない。
 妻の三保さんは新しくできた命山を候補にあげた。自宅からの距離はやや遠く、早歩きで7分ほど。5歳と7歳の子ども2人を連れて避難することを考えるとぎりぎりだ。「最短距離で行く道だと途中で古いブロック塀の建物もあるから迂回[うかい]しないといけないな」と遠州さん。結論が出ない中、「一番近いビルをいつでも使えるようにしてもらうのはどうかな」と竜洋君がひらめいた。
 わたひな父は「とても大事な視点ですね」と強調する。揺れを検知して自動で開錠するキーボックスを取り付けるなど工夫の余地はありそうだ。ひとまず、「わたしの避難計画」には「10分以内に津波避難ビルに到着する」と書き込み、遠州さん家族は自治会を通じて民間施設の所有者や自治体に掛け合ってみることにした。
明日へのメモ
河川氾濫、土砂災害にも対応
 「わたしの避難計画」は早期避難の意識を向上させるため、県が取り組む事業。津波だけでなく、地震、河川氾濫、土砂災害にも対応している。地震や津波への危機意識は低下し、多発する風水害で避難中などに被災するケースもある。事前に避難について考えておくことが重要だ。
県の「わたしの避難計画」普及に取り組む防災ベテラン家族「わたひな家」
 わたひな父は「一人一人災害のリスクが違うので、あらかじめ計画をしておき、目立つところに貼ったり、訓練で実践したりして忘れないようにしましょう」と呼びかける。「みんなで作ってみて、避難先の状態や避難路の危険性など課題も見えてきた」と遠州さんは振り返る。三保さんは風水害の避難計画を作ることを提案した。
 東海さんの自宅は津波浸水区域ではないが、地震の強い揺れが予想される。数年前に耐震化は済ませた。自主防災会役員として避難所運営には携わるが、「できるだけ在宅避難の方がいい」と考える。「となると、家具の固定や備蓄は見直さないとな」。東海さん一家は、わたしの避難計画作りをきっかけに防災への関心がぐっと高まった。

 「東海さん一家の防災日記」で取り上げてほしいテーマや、地域・家庭での特色ある活動、県や市町の防災行政への意見などを募集します。情報を基に取材をさせていただく場合もあります。お住まいの市町名、氏名またはペンネーム、年齢、連絡先を明記し、〒422-8670(住所不要) 静岡新聞社編集局「東海さん一家の防災日記」係<ファクス054(284)9348>、<Eメールshakaibu@shizuokaonline.com>にお送りください。

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