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難しい日本海の津波対応 東北大教授/今村文彦さん【能登地震 研究者や経験者 被災地へメッセージ】

 甚大な被害をもたらした能登半島地震。直面する課題にどう対応すればいいのか。これまでの国内災害で、長い間奮闘してきた研究者や市民らが、それぞれの教訓や今回の被災地へのメッセージを語った。

今村文彦さん
今村文彦さん

 能登半島地震では大津波警報が発表され、沿岸で甚大な津波の被害が出た。2011年の東日本大震災の被災地で、津波対策に向き合ってきた今村文彦・東北大教授は、日本海では地震直後に来襲する津波対応の難しさを指摘する。一方、「迅速な避難など平時の備えが生きた地域もあった」と評価した。
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 能登半島地震では津波の初動が、地震後わずか1分で石川県珠洲市の沿岸に到達していたことが分かりました。地震の原因の海底活断層が海岸に近く、極めて短時間で陸側に押し寄せました。
 海底活断層が動くと、陸側は直下型の大きな被害を受け、沿岸は津波が襲う。戦後経験していないタイプの複合型災害でした。津波は局所的には3~4メートルの高さになった地域もありました。
 日本海中部地震(1983年)から本格的に津波の研究を始めました。日本海では93年にも北海道南西沖地震の津波が起きています。
 今回の津波を分析すると、大陸と日本列島で反射して何度も押し寄せています。1回の往復に約4時間、大陸と日本を6回くらい往復しました。このため津波注意報などがなかなか解除されず、海からの支援も遅れました。この点でも日本海の津波のリスクは大きいという認識が必要です。
 津波情報の規制が長時間に及ぶ場合、救命・救援をどうするかは考えないといけない課題です。津波の監視や安全確保を大前提とした上で、何らかの対応ができないか、議論すべきでしょう。
 注意したいのは、富山市で最初に観測された津波です。到達があまりにも早く、断層のずれに基づく津波のシミュレーションでは説明できません。私たちは富山湾の海底で生じた地滑りによる津波という見方を強めています。他の地域でも、こうしたメカニズムの津波にも注意が必要です。
 東日本大震災の教訓伝承に取り組んできました。津波からの避難は、揺れたら高台へ逃げる、すぐに海から離れることに尽きます。今回、避難訓練をしたり、災害マップで津波リスクを共有したりして、迅速に避難した地域があることを評価したいです。
 一方、太平洋側に比べると、日本海側は津波対策の避難タワーが少ない印象があります。高知県などは相当予算を組んでいますし、整備には行政の支援が不可欠です。建物の津波避難ビル化も進めてほしい。津波避難は徒歩が原則であり、車の使い方を地域で話し合ってほしいと思います。

 東日本大震災 2011年3月11日午後2時46分、三陸沖を震源にマグニチュード(M)9.0の巨大地震が発生し、最大震度7を観測。東北地方の沿岸部を中心に大津波が押し寄せ、震災関連死を含む死者と行方不明者は計2万2000人を超える。東京電力福島第1原発は電源を喪失して炉心溶融(メルトダウン)が起き、大量の放射性物質が拡散した。

 いまむら・ふみひこ 1961年山梨県生まれ。専門は津波工学。東北大災害科学国際研究所所長を経て現在は同研究所教授。土木学会副会長。

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