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【提言・減災】突然の津波も警戒必要 古村孝志 東京大地震研究所所長・教授

 10月9日の早朝、房総半島から沖縄に到達した津波の詳細な原因はいまだ不明だが、通常の地震断層運動に伴う海底変動による津波ではなく、海底火山活動による海面変動で起きた津波の可能性が高い。周辺の海域では、以前より活発な火山活動が続いており、20日には鳥島近海で噴火を示唆する軽石の漂流も確認されている。

古村孝志氏
古村孝志氏

 今回と似た津波は1605年の慶長地震でも起きた。江戸幕府の創成期の地震であり史料は少ないが、千葉県銚子市の犬吠埼から九州の広範囲に津波が押し寄せ、5千人が犠牲となった。一方、揺れと被害は報告されていない。これまで、南海トラフ沿いで起きた「ゆっくり地震」の可能性が議論されてきた。プレートが数分かけてゆっくりとずれ動くことで、人が感じる揺れは小さいが、津波は地震の規模並みに発生する。あるいは、フィリピン海溝などで起きた遠地地震の津波だった可能性も指摘されている。
 今回の経験を踏まえると、慶長地震の津波の原因に小笠原諸島の海底火山噴火の可能性も出てきた。小笠原で発生した津波は、浅い海底地形に沿って伊豆諸島へと北上し、遠州灘から四国沖合の深い海底を回り込むように西日本の太平洋沿岸に集まる。この結果、南海トラフ沿いの地震とよく似た津波の分布を示す。
 西日本の太平洋沿岸には、さまざまな原因による津波が到来する。強い揺れがなくても突然津波が来ることを認識し、海岸に近づく際には携帯電話やラジオなど津波警報を確実に受け取る手段を確保することが大切だ。

 ふるむら・たかし 北海道教育大助教授などを経て、2008年4月より東京大地震研究所教授。23年4月に所長就任。専門は地震学。観測データ解析とコンピューターシミュレーションから大地震の強い揺れと津波の成因を研究。60歳。

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