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新地球観、確立した恩師 長尾年恭/静岡県立大客員教授【提言 減災】

 1月19日に筆者の指導教官であった上田誠也東京大名誉教授(日本学士院会員、元東海大学教授)が93歳で逝去された。東京大を定年退職後は「地震は物理現象なのだから予測できるはず」との信念で、東海大清水キャンパスにて短期直前の地震予知研究にまい進された。これは政府が取り組んでいる「地震発生確率評価(いわゆる30年予測、長期評価)」では、静岡県民の直接の役に立たないと考えたためであった。

長尾年恭氏
長尾年恭氏

 上田教授の一般的な名声はプレートテクトニクスの確立に貢献された事であろう。先生が40歳の頃に執筆された『新しい地球観』(1971年初版)は世界中で10を超える言語に翻訳され、世界中の若手研究者の座右の書となった。この本により「動かざること山の如し」は地球科学では大間違いで「動くこと大地の如し」が正しいと認知された。
 いまや地学という教科は絶滅危惧種とも言われているが、高校生の理科分野では最低限、天動説・地動説とプレートテクトニクスは学ぶようにとの指針が示されていることからも、その重要性を伺い知ることができる。プレートテクトニクスは現代の地球科学の根底をなす概念で、学説というより数学の公理に近いものである。この考えにより、なぜ「ヒマラヤ山脈があれほど高いのか」についてもインド亜大陸とユーラシア大陸の衝突ということで明瞭に説明できるようになった。しかし、それまでは「どこに地震が発生するか」は観測により分かっていたが、「なぜそこで地震が発生するのか」は説明出来なかったのである。
 現代の科学はあまりにも細分化されており、今の日本には個々の分野では世界的に著名な研究者も多いが、上田先生はすべての地球科学分野で世界的にその名が知られていた最後の研究者の一人であった。これは日本の地球科学のみならず、あらゆる分野における基礎研究の相対的な地盤沈下を意味しているのかもしれない。ちなみに88歳まで文科省の科学研究費を代表として獲得され、筆頭著者の論文も執筆されており、まさに生涯研究者を体現する存在であった。

 ながお・としやす 静岡県立大、東海大客員教授。国際測地学地球物理学連合「地震・火山に関する電磁現象WG」委員長。地震予知だけでなく富士山噴火予知研究もライフワークとする。67歳。

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