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共助死に警鐘「自身の安全確保最優先に」 災害時の避難誘導 静岡県内でも犠牲

 多発する風水害などで近年、避難誘導や地域の見回りなど共助の行動に伴う人的被害「共助死」が一定数、発生している。昨秋の台風15号でも、川根本町で道路の確認に出た元副区長の男性=当時(70)=が亡くなった。風水害による犠牲者の調査を行う静岡大防災総合センターの牛山素行教授は「数は多くはないが共助死とみられるケースは近年、ほぼ毎年のようにある」と警鐘を鳴らし、自身の安全確保を最優先する重要性を指摘する。

元副区長の男性が乗っていた車が転落した現場。道路の復旧作業はまだ終わっていない=9月下旬、川根本町
元副区長の男性が乗っていた車が転落した現場。道路の復旧作業はまだ終わっていない=9月下旬、川根本町

 昨秋の台風15号では、川根本町下泉区で、地区の安全確認のために軽トラックで見回りに出た元副区長の男性が、陥没した道路に車ごと転落し、死亡した。同区では、慣例で災害時に区長と副区長が危険箇所がないかを確認し、住民に周知する役割を担っていた。
 牛山教授によると、「共助死」は、近隣住民や自治会役員、親戚知人らが、避難の手助け▽避難の呼びかけ▽救助▽地区内の見回り―など自分や家族以外の人の安全確保のために行動して死亡や行方不明となることを指す。1999年以降の風水害による犠牲者は約1540人。このうち共助死とみられるのは今年9月までに少なくとも12件あるという。2018年の西日本豪雨では岡山県倉敷市で当時の自治会長が犠牲になり、21年には長崎県西海市で高齢女性宅を訪れた民生委員の女性が命を落とした。今年は2件あったとみられる。
 11年の東日本大震災では消防団員は254人、民生委員は56人が津波避難の誘導などで亡くなった。震災後、消防団には退避に関わるルールが確立された。民生委員も全国民生委員児童委員連合会が、災害時は委員自身の安全確保を最優先するなどの基本的な方針を整理し「災害時一人も見逃さない」との考え方は「一人も見逃さないための平常時の体制整備」を意味すると解釈を再確認した。
 風水害は実際の災害の発生まで徐々に危険度が上がっていくため、助ける猶予があるようにみえる。「ただ、急激に水位が上昇して災害に至ることもあり、見極めが難しい」と牛山教授は注意を促す。「共助の結果による犠牲は痛ましい。繰り返さないためにも『助けに行く』などの行動は慎重に考えてほしい」とし、自身の安全確保とともに「状況が悪くなってからの無理な行動を避けることが大原則だ」と強調した。


慣例見直し進む川根本町  川根本町では、台風15号で陥没した道路に車ごと転落し、当時の区長と周辺の見回りに出ていた元副区長の男性=当時(70)=が亡くなった事故を教訓に、慣例の見直しが進む。
 同町下泉区の事故は、雨が弱まったとして未明から安全確認を始めた直後に起きた。元副区長について、長谷川豊・現区長(69)は「責任感の強い人だった。いち早く住民に危険を知らせようとしたのではないか」と推測する。
 現在、同区では災害がまさに発生している時は自宅や避難所など安全が取れている場所から出ないことを呼びかけている。見回りも十分安全が確認できる明るい時間帯に行うようした。牛山教授は日中か夜間かにかかわらず、状況が悪化してから危険が伴う行動は取らないよう呼びかける。
 町総務課の中村慎主幹は「町内は山が近く土砂崩れの恐れがある地域も多い。共助よりも自助を優先するよう意識改革を進めたい」と話した。  (社会部・中川琳、島田支局・白鳥壱暉)

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