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“海底隆起”漁に打撃 南海トラフでも可能性 津波、一時的に観測不能の地点も【能登半島 最大震度7 静岡新聞社現地ルポ④】

 「地面が盛り上がるなんて誰が予想できたか」。石川県輪島市の輪島港。漁師の池澄隆守さん(64)=同市=は、異変が起きた港を見て悲痛な声を上げた。一帯の地盤が隆起したことで海面が相対的に低下し、地震前は高さ約1メートルのはしごを登らないと乗り込めなかった漁船が岸壁から見下ろせる位置に並んでいた。
隆起の影響を受けた輪島港を眺める池澄隆守さん。地震前は手の高さまではしごを登らないと漁船に乗り込めなかった=10日、石川県輪島市
 同港周辺では地震に伴って地盤が2メートルほど隆起したとみられる。海底や岸壁が持ち上がり、水深が浅くなって座礁した船も見られた。池澄さんの船も船底が海底につかえ、出航できなくなった。「漁師は沖に出られないと生活できない」。このまま放置されれば船体のさらなる損傷が避けられない。漁師歴約50年のベテランが経験したことのない異常事態。「港を一から整備しないと漁は再開できない。最低でも2、3年はかかるだろう」と嘆く。
能登半島
 能登半島地震では、同市や珠洲市などの半島北岸の広範囲で大規模な土地の隆起が確認された。国土地理院(茨城県つくば市)によると、人工衛星「だいち2号」のレーダー観測では、輪島市西部で隆起量が最大約4メートルに上ったという。日本地理学会の研究グループの調査では、半島北岸の約4・4平方キロメートルが隆起によって陸化し、輪島市北西部の門前町では海岸線が海側に最大で240メートル拡大したことが報告された。
 同港近くの河原田川の河口でも、川底や赤色の藻が付着した石が露出しているなど、隆起の様子が見られた。海底の露出や水深の低下などの地形変化は、港町の住民の生活に深刻な影響を与えたほか、津波観測にも思わぬ弊害が生じた。
 半島の先端に近い珠洲市長橋町の潮位観測点のデータが地震発生と同時に途絶え、津波が一時的に観測不能になった。気象庁は、海底が隆起して露出したことが原因と説明した。輪島港の観測点も1・2メートルの津波の観測後に何らかの原因でデータが更新されなくなった。同庁は臨時の観測装置を同港に設置した。
 南海トラフ地震が発生した際、静岡県内でも地形の変化が起こるとされる。静岡大理学部の生田領野准教授(測地学)によると、トラフから離れた遠州灘沿いや沈み込むフィリピン海プレート上の伊豆半島などでは沈降が予想される一方、地震で跳ね上がる陸側のユーラシアプレート上にありトラフに近い富士川西岸から御前崎市付近にかけては隆起する可能性があるという。「県内でも能登半島と同じ規模の隆起が局所的に起こる可能性はある。地殻変動の影響を想定しておくことも重要」と強調する。

 <メモ>1854年に紀伊半島東南の熊野灘沖から遠州灘沖、駿河湾内までの広い海域を震源として起きた安政東海地震では、駿河湾西部から遠州灘海岸東部にかけて隆起が確認されたことがこれまでの研究で明らかになっている。当時の被害をまとめた「地震報告静岡県其二」に基づく東京大地震研究所の分析によると、清水港の内湾に面した海岸地形は地震前と比べて顕著に洲(す)が露出し、港の機能が半減したとされる。安倍川河口付近でも寄洲ができたほか、御前崎・相良付近や遠州横須賀では1メートルほどの隆起が確認された。

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