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津波避難施設 環境改善に法的制約も【点検 2023年度静岡県予算案㊥】

 2月中旬、静岡市駿河区広野の津波避難タワー。南岸低気圧の通過に伴う冷たい雨が、屋上の床に激しく打ち付けた。「こんな雨の中、ずっとここにいるのはしんどいな」。広野町内会の杉山貴勇会長(68)が苦笑した。

屋根や壁がなく吹きさらしの津波避難タワー。手前のベンチ型防災倉庫には簡易トイレなどを保管している=2月中旬、静岡市駿河区
屋根や壁がなく吹きさらしの津波避難タワー。手前のベンチ型防災倉庫には簡易トイレなどを保管している=2月中旬、静岡市駿河区
被災地の生活の質改善関連の事業
被災地の生活の質改善関連の事業
屋根や壁がなく吹きさらしの津波避難タワー。手前のベンチ型防災倉庫には簡易トイレなどを保管している=2月中旬、静岡市駿河区
被災地の生活の質改善関連の事業

 大津波警報が発表されてタワーに避難した場合、警報が解除されるまで屋上にとどまる必要がある。長ければ1日以上に及ぶことも想定される。静岡市内の17基のタワーにはベンチ型の防災倉庫が設置され、アルミ毛布や簡易トイレなどを備えているが、雨や猛暑をしのぐ設備はない。市の担当者は「東日本大震災後、津波から避難できる場を急いで確保する必要があった」と話す。
 県内沿岸部は震災後、タワーなどの整備が進み、想定浸水域内の津波避難施設の空白域はほぼ解消された。ただ、県によると、タワーなどの施設136カ所の大半は静岡市のような簡易的な構造で、資機材を保管する防災倉庫すらない場所もある。
 県は23年度から10カ年の地震・津波対策アクションプログラムで南海トラフ巨大地震による犠牲者の9割減とともに、被災後の生活の質向上による災害関連死など健康被害の最小化を目標に掲げる。津波避難施設の環境改善は生活の質向上の一環。改善の実施率を25年度までに20%、32年度までに100%とする。
 23年度以降、市町が屋根や防災倉庫などを整備した場合、地震・津波対策等減災交付金の補助率を通常の3分の1から最大3分の2に引き上げて取り組みを促進する。
 一方で、どの程度の環境改善ができるかは不透明だ。静岡市の担当者は「新たに屋根を付ける場合、構造変更を伴う可能性があり、建築基準法上の課題がある」と懸念する。県東部の沿岸市の危機管理担当も「何をもって環境改善となるのか、具体的に見えてこない。根本的に解決するには建て替えしかないのでは」と漏らす。
 県は施設の環境改善の事例をまとめた事例集を作成するための経費として1千万円を新年度予算案に計上した。技術的、法的な課題も示す方針。県危機政策課の松村昌広政策班長は「既存施設を生かしながらできる工夫を提案していく」とする。
 広野町内会の杉山会長は「大幅な改善には限界もあるだろう」と理解を示した上で「カッパの用意など住民にもぬれないための対策を呼びかけたい」と気を引き締めた。
 (社会部・中川琳)

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