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「病院避難」想定、初の実動 緊急消防援助隊、静岡県内で訓練

 南海トラフ地震の発生に対する救助、救援体制を確認した12、13両日の緊急消防援助隊(緊消隊)全国合同訓練。緊消隊と県内の医療機関が連携し、大地震で機能を失った病院の患者を他の病院に転院させる病院避難の実動訓練が初めて行われた。複数の都道府県の救急小隊を統合した中隊を編成して実施。熊本地震を教訓に、関係者は迅速で安全な搬送へ「指揮命令系統の確立が必要」と強調する。

病院避難で搬送した患者の情報を報告する緊急消防援助隊員(右)=13日、藤枝市立総合病院
病院避難で搬送した患者の情報を報告する緊急消防援助隊員(右)=13日、藤枝市立総合病院
病院避難の救急中隊構成のイメージ図
病院避難の救急中隊構成のイメージ図
病院避難で搬送した患者の情報を報告する緊急消防援助隊員(右)=13日、藤枝市立総合病院
病院避難の救急中隊構成のイメージ図

 13日午前8時40分ごろ、東京消防庁を先頭に、石川、京都、徳島、鹿児島の5都府県の救急車が災害拠点病院の藤枝市立総合病院に続々と到着した。大地震による停電で診療や入院活動を継続できなくなった病院からの患者搬送を想定。「75歳男性、腎不全です」。緊消隊の救急隊員は患者受付で、同院のDMAT隊員に診療情報提供書を手渡した。
 三木靖雄副院長は「病院が丸ごと避難する場合、地元消防だけでは間に合わない。緊急消防援助隊などの協力が不可欠」と話す。
 緊消隊は通常、救助や救急、消火などの小隊で一つの都道府県大隊を編成して活動などに当たる。
 11病院計約1400人が病院避難をした熊本地震では、大隊から救急小隊を切り離して対応したものの、都道府県の枠組みを超えて活動する際の指揮命令や情報統制の仕組みが明確ではなかったため、「円滑に搬送ができなかった」(総務省消防庁広域応援室)。今回の訓練では統合した救急小隊のうち1隊を指揮隊に指定し、指揮命令体制の強化を図った。ただ現状では小隊の切り離しについて、具体的な運用ルールは定まっていないという。
 今回の全国合同訓練プロジェクトチームリーダーで県消防保安課の望月辰久主査は、熊本地震で緊消隊調整本部の連絡調整員を担った経験から、「円滑に搬送し隊員が安全に活動するためにも、指揮命令を誰が担うのか明記すべき」と強調する。
 同庁広域応援室の担当者は「訓練の反省を踏まえ、ルールづくりを含めた検討をしていく」と述べた。

 ■患者負担、病院経営に影響…「避難しないための対策を」 静岡県立総合病院・大場副院長
 病院避難は多数の人員を要するだけでなく、患者の負担や病院の経営にも影響し、課題が多い。県立総合病院災害医療センター長の大場範行副院長は、可能な限り病院避難を回避できるよう、インフラ強化など事前対策の重要性を指摘する。
 倒壊のリスクやライフライン断絶などが病院避難の判断基準となり、病院長が最終決定する。全ての患者を転院させると、病院の存続や地域医療への影響が大きくなる。病院避難しないために、大地震に対する事業継続計画を作成することが重要となる。
 大場副院長は「弱点をあらかじめ改善し、万が一に備えて1次避難場所を決めておくことも大切」と強調する。
 避難をする場合、搬送先や優先順位を決めるため、入院患者の状況把握が最重要となる。紹介状や診療情報提供書の作成に多くの医療スタッフが割かれ、多数のDMATを派遣する必要も出てくる。

 

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