テーマ : 防災対策

#防災力を高めよう 断水、停電の備えは? 実践者に聞く

 9月下旬、静岡県内を襲った台風15号。今なお影響が続く土砂災害や浸水被害に加え、静岡市清水区で発生した大規模な断水や、葵区、駿河区を中心に半日に及んだ停電により、市民生活は混乱した。断水や停電にどう備えたらいいか。長泉町を拠点に実践的な防災活動に取り組む母親グループ「マモルマムズ」の中心メンバーの助言や、記者の体験から考える。

赤ちゃん用おまるなど身近にある物で防災トイレの作り方を実演する高木有加さん(右)と高良綾乃さん=10月中旬、長泉町
赤ちゃん用おまるなど身近にある物で防災トイレの作り方を実演する高木有加さん(右)と高良綾乃さん=10月中旬、長泉町

 

トイレ代用 身近な物で

  自宅が断水した時、最も気になるのはトイレの始末。今回のように下水が正常なら、排せつ後にバケツなどで便器に直接水を流し込んでいい。マモルマムズのアドバイザーを務めるふじのくに防災士の高良綾乃さん(48)=三島市=は「ある程度の水の量と勢いが必要。詰まったらバケツ2杯分くらいを再度流して」とアドバイスする。
 ただ、地震などで下水管が破損している可能性がある場合は、水を流すのは厳禁。逆流や破損の拡大、汚水の流出を招き、復旧を妨げる恐れがある。状況が分からなければ、水を使わない防災トイレを使う。生活用水が十分確保できない場合も同様だ。

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 簡易便器などがセットになった専用品も販売されているが、マモルマムズ代表の高木有加さん(49)=長泉町=は「凝固剤さえあれば、自宅の便器や身の回りにある容器とビニールを使って、衛生的に始末できる」と提案する。
 高木さんが備蓄するのは、粉末のトイレ用凝固剤とほうろう製の赤ちゃん用おまる、おまるをぴったり覆うサイズのポリ袋。おまるに袋をかぶせて凝固剤を入れた後、排せつし、袋の口を縛る。これをさらに大きなゴミ袋に入れて保管する。ゴミ回収が始まれば、可燃ゴミとして処理できる自治体が多い。
 消臭剤や塩素系漂白剤、防臭効果の高いポリ袋などがあればなおいい。凝固剤は猫のトイレ用の砂、紙おむつ、生理用ナプキンなどでも代用可能。
 トイレ用品の備蓄はどのくらいあればいいか。マモルマムズでは、大地震を想定し、過去の災害の例を踏まえて2週間分、4人家族なら約300回分の備えを呼びかける。
 今回の災害では県内の広範囲で停電が起き、静岡市では葵区、駿河区を中心に半日にわたって電気が止まった。近年増えるタンクレスタイプのトイレは、停電すると水を流せなくなるが、メーカーごとに手動で水が流せるよう対策が講じられている。普段から操作を確認しておくといい。
 停電対策として、高良さんはアウトドア用の折りたたみ式ソーラー発電機とコンパクトな蓄電池、高木さんは家庭用ガスボンベで使える発電機を備える。通信機器や扇風機などのための電力確保を念頭に置く。汎用[はんよう]性のある単3乾電池で使えるライト類も、電池とともに備蓄を勧める。
 「何のためにどのくらいの電力がほしいのか検討し、それに応じた機材をそろえて」と高良さん。災害時は停電のほか、利用の集中で通信状況が不安定になる。電池式のラジオなども有効だが、親戚友人など被災地の外を経由して情報を得る手だてを考えておくことも必要という。

震災 自宅で避難想定を

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 マモルマムズは2019年、地震が発生した際の「在宅避難」に備える母親向けの防災アイデア冊子を作製した。冒頭では地震の際に計画されている長泉町内の避難所数と人口を比較し、「大半は入れず、入るための優先順位もある」と在宅避難の必要性を説いた。
 代表の高木さんは中1と小3の2児の母。東日本大震災を機に防災に関心を持ち、町の補助で防災教室を開こうとマモルマムズを発足させた。仲間と学ぶ中で、「避難所生活は厳しく、女性や子どもには保安上の問題もある。自宅が無事なら在宅避難が最適」と考えるようになった。
 発足当初から講師やアドバイザーとして関わってきた高良さんも「避難先を決めるポイントは、どこが一番安全で衛生的、快適に過ごせるか。避難所より自宅が勝ればその方がいい」と話す。
 冊子は備蓄のほか、自宅内の一部屋でも家具固定など安全対策を徹底すること、災害時の子どものストレスへの心構えなどを含め、具体的な備えを示す。高木さんは「防災用品はどんどん使い、不便であることを体験し、慣れておくことが大事」と強調する。

日常生活ままならず 1週間の自宅断水、記者が経験

 

 9月の台風15号による影響で、静岡市清水区の自宅が約1週間、断水した。浸水被害などはない地域だったが、初めての水の出ない生活に戸惑いは大きかった。断水中の生活を振り返った。(社会部・大滝麻衣)
        ◇
 区内で断水地域が出始めているとの一報を得たのは24日午前11時過ぎ。23日夜の記録的大雨の影響を確認しようと近隣を車で走っていた時だった。年長児の娘と留守番する夫に連絡すると、「水はまだ普段通り出ている」とのことだった。
 ドラッグストアに入ると、すでに混雑し、2リットルの飲料水が6本入った箱は「1人1箱まで」と制限がかかっていた。念のため1箱と麦茶などを購入し、自宅(集合住宅)に戻った。断水に備え、浴槽に水を張り、空のペットボトル数本に水を入れた。午後には断水した地域の友人がタンクやペットボトルを持って水をくみに来た。
 

photo01 水を節約するため、ペットボトルのふたに小さな穴を開けて、シャワーのように水を出した  

 25日朝起きると、水が出なかった。まず困ったのはトイレ。前日にネットで検索した「トイレタンクに水は入れず、バケツ1杯の水を直接便器に勢いよく流し込む」という方法を試した。洗面器で浴槽の水をくみ、1回につき2~4杯の水で流した。トイレットペーパーは流さず、燃えるゴミとして捨てた。
 水が出ないと分かっていても、手を洗おうと無意識で蛇口をひねってしまうことが何度もあった。ペットボトルのふたにいくつか穴を開け、シャワーのように少しずつ水を出した。手や顔、食器はその方法で洗った。
 スプーンや箸は少量の水で洗えるが、コップ1個を洗おうとすると500ミリリットルほどの水が必要だった。食事の際は紙コップと紙皿にラップをしいたものを使うようにした。食事は、総菜や冷凍食品が中心だった。
 浴槽にためた水は、3人暮らしで1日に60リットルほど減っていった。少し離れた親戚宅で井戸水が出たため、トイレに使用する生活用水は給水タンクを借りて浴槽に足した。洗濯も親戚宅で2日に1度させてもらった。断水期間中、清水区内は幹線道路を中心に渋滞が激しく、営業するコインランドリーの駐車場には車があふれていた。入浴は2日に1度、比較的スムーズに行ける温浴施設を利用した。そのほかの日は汗拭きシートで体を拭き、水が不要なドライシャンプーを使用した。
 自宅近くの学校にも給水所が設けられ、食器や手を洗うための水をもらいに行った。日中、数時間並んだという話を聞いていたが、午後8時過ぎに行くと待たずに給水できた。由比地区や富士市から来たというボランティアの人たちが食料や衛生用品を配ってくれていた日もあった。

photo01 給水に使用したタンクや袋。自分が持ち運べたのは12リットル用(左奥)まで。15リットル用(手前)や20リットル用は持ち上げるのにも苦労した
 給水袋や給水タンクは24日にネット通販で注文したが、届いたのは断水解消後。途中、家族が静岡市外や県外で調達してきた。さまざまな大きさがあるが、自分が持って歩けるのは12リットル用程度。15リットル用や20リットル用は持ち上げるのも難しかった。
 断水中、娘の保育園は休園になった。普段頼る親が娘を見られない日もあり、2日間、在宅勤務をした。オンラインの取材が入っていた日、同じ集合住宅に住むママ友が娘を預かってくれて助かった。断水中、娘は大人の用事に付き合う時間が長く、ストレスをためていた。友達と遊べる時間は貴重だった。

 

  ふじのくに防災士高良さんに聞く 断水生活乗り切る対策

 断水生活を経験して浮かんだ疑問について、ふじのくに防災士で家庭の防災に詳しい高良綾乃さんに聞いた。
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 -飲用水の備蓄はどの程度、必要か。「1人1日3リットル」との目安を聞いたことがあるが、今回は茶などが手に入り、そこまで使わなかった。
 厚生労働省によると成人男性の場合、1日に必要な水分量は2・5リットルで、「1日3リットルの備蓄」はそれに基づく数字。飲むだけでなく、食事から摂取する水なども考えるとその量が必要。最低3日分は用意する。2リットルボトルを備蓄している人も多いが、500ミリリットルボトルも含めるといい。使いながら備蓄する「ローリングストック」がしやすいし、人にも分けてあげやすい。
 -生活用水の確保に苦労した人は多い。普段から浴槽に水をためておくのは一案だが、小さな子どもがいる家庭は危険とも感じる。
 確かに危険な場合もあり、各家庭の環境による。集合住宅では排水ができなくなった場合、バケツなどで外に流せるかも考えておく。生活用水は1人1日10~30リットルが必要。井戸水や雨水を活用できる場合もあるし、ヒートポンプ式給湯器「エコキュート」がある家庭は貯水タンクとして活用できるので、水の備えになる。
 -給水袋やタンクも備えなくては。
 女性であれば10リットル用以内が持ちやすく、蛇口付きのタンクが使いやすい。使用後に乾かしやすい、口の大きいタイプがいい。近くの公園などに水をくみに行き、持って帰ってこられる量を確認してみてほしい。リュックに入れて運ぶ方法も試すとよい。
 -高齢者など給水所に自力で行くのが難しい人もいた。
 災害時には自助に加え、共助が欠かせない。自治会が脆弱[ぜいじゃく]になっている地域もあるが、「向こう三軒両隣」の関係は大事にしたい。自身の自治会では、大雨の時など高齢者の世帯を気に掛けている。娘には「何かあった時はこのお宅を頼るように」ということも伝え、日頃から無理のない交流を意識している。
 -食事で野菜不足が気になった。何か工夫できることは。
 乾物の利用がおすすめ。ワカメ、のり、切り干し大根など、ミネラルと食物繊維が取れる。製氷皿にみそと乾物、だし粉を入れて冷凍しておけば、湯を注ぐとみそ汁になる。大地震が起きた場合、生野菜の入手は難しい。冷凍野菜を常備するほか、ネギやミニトマトをベランダ栽培しておくのもいい。
 -断水時の洗濯や入浴について助言を。
 アウトドア用の洗濯袋やポリ袋があれば、500ミリリットルくらいの水を入れて、下着などの洗濯ができる。広域で断水すれば、入浴は難しい。メークを落とせなかったり、肌が乾燥したりすると、かなりのストレスになる。体拭きシートやウエットティッシュ、メーク落としシート、保湿クリーム、目薬などは用意しておきたい。

 <メモ>台風15号による大雨の影響で静岡市清水区では、最大6万3000戸で最長13日間にわたる断水が発生した。県のまとめによると、浸水害は県内15市町で確認され、最も多く発生している同市は10月28日現在、床上浸水が4186件、床下浸水が1477件。

 

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