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血痕の赤み「残らない」弁護側証人3人が断言【袴田さん再審公判】

 現在の静岡市清水区で1966年、みそ製造会社の専務一家4人を殺害したとして死刑が確定した袴田巌さん(88)の再審第11回公判が26日、静岡地裁(国井恒志裁判長)であり、前日に続いて証人尋問が行われた。再審開始の大きな根拠となった鑑定を手がけた弁護側の証人3人は「1年以上みそに漬かった血痕に赤みが残ることはない」と断言。旭川医科大の清水恵子教授(法医学)は、検察側が反論の証拠として提出した共同鑑定書について「抽象的な可能性論を繰り返すだけで仮説の域を出ておらず、われわれの鑑定結果を左右しない」と強調した。

尋問を受けるために静岡地裁へ向かう弁護側証人の石森浩一郎北海道大教授(左)と清水恵子旭川医科大教授(右)=26日午前、静岡市葵区
尋問を受けるために静岡地裁へ向かう弁護側証人の石森浩一郎北海道大教授(左)と清水恵子旭川医科大教授(右)=26日午前、静岡市葵区
みそ漬けの血痕が黒色化する化学的なメカニズムを説明する奥田勝博助教=2022年12月21日、北海道旭川市の旭川医科大
みそ漬けの血痕が黒色化する化学的なメカニズムを説明する奥田勝博助教=2022年12月21日、北海道旭川市の旭川医科大
尋問を受けるために静岡地裁へ向かう弁護側証人の石森浩一郎北海道大教授(左)と清水恵子旭川医科大教授(右)=26日午前、静岡市葵区
みそ漬けの血痕が黒色化する化学的なメカニズムを説明する奥田勝博助教=2022年12月21日、北海道旭川市の旭川医科大

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 5点の衣類は事件から約1年2カ月後、現場近くのみそタンクで見つかった。直後に撮影されたカラー写真では衣類の血痕に赤みが見て取れ、弁護団は不自然だとして発見直前に捜査機関が入れた「捏造(ねつぞう)証拠」と訴えている。
 旭川医大の清水教授と奥田勝博助教(法医学)は尋問で、検察側が主張する通りに事件の発生からタンクにみそ原材料が仕込まれるまでの約3週間の間に衣類が隠された場合、血液は十分な酸素に触れ、仕込み前に黒色化が進行しているはずだと指摘した。衣類が入っていた麻袋の隙間やみそ原材料にも酸素は含まれ、赤みが失われる化学反応は進むと解説。清水教授は検察側の共同鑑定書について「(仕込み時に)衣類の上に完成みそが載せられたかのごとく記載しているが、不自然で不合理」とした。
 清水教授らの鑑定は弱酸性かつ塩分濃度10%程度というみそ成分に着目した上で、当初は「血痕」ではなく「血液」で実験した。検察側の共同鑑定書は血液と血痕は違うなどと指摘しているが、清水教授は「血痕のもとは血液。血液本体の化学反応を確かめることは常道で、(みその)たまりが浸透して血痕の表面に染みれば化学反応は進むので問題はない」と説明した。
 北海道大の石森浩一郎教授(物理化学)は、みそ漬け血痕が黒くなるメカニズムを化学的に示した清水教授らの鑑定を「問題ない」と評価。検察側が化学反応の阻害要因を十分に検討していないと批判している点について「(弱酸性と高い塩分濃度の)この二つのファクターで十分。赤みは残らないと言える」とした。
 27日は検察側による石森教授への反対尋問があり、その後、検察・弁護側双方の証人計5人を同時に尋問する「対質」が行われる。

「弁護側仮説否定された」 検察側の法医学者が主張
 前日に続き、検察側証人の神田芳郎久留米大教授(法医学)も尋問した。検察側が再審請求審段階で実施した血痕のみそ漬け実験について、神田氏は「主観だが、私には1年2カ月たっても赤みを保持しているように見えた」と改めて説明。「赤みは残らない」と結論づけた弁護側鑑定について「仮説が否定された」と述べた。
 再審公判で検察側は、神田氏ら法医学者7人による共同鑑定書を証拠として提出している。3回のウェブ会議でまとめたとされる。反対尋問で「赤みが残る可能性があるというなら、なぜ実際に化学変化を確かめる実験をしなかったのか」と弁護団に問われると、神田氏は「2カ月しかなかった」と検察側から求められた鑑定の作成期間では難しかったとの趣旨を答えた。
 赤みが残っているように見えたという検察側実験のみそ漬け血痕について、神田氏は試料そのものではなく写真で確認したという。

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