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無実の人救済、より実効性を 京都・龍谷大が研究センター新設 学者と弁護士協働「あるべき再審法」提示目指す

 龍谷大(京都市)に2023年度、刑事司法・誤判救済研究センターが新設された。再審法(刑事訴訟法の再審規定)の不備によって無実の人の救済が遅れているとの指摘がある中、弁護士と協働し、実効性のある仕組みの構築を目指す。センター長に就いた斎藤司法学部教授(刑訴法)は「持続可能な刑事司法と再審制度を支える基盤を整え、実務と研究の担い手も育てていきたい」と話している。

「公正で迅速な誤判救済のためには再審法を改正しなくてはいけない」と指摘する斎藤司教授=5月中旬、京都市の龍谷大
「公正で迅速な誤判救済のためには再審法を改正しなくてはいけない」と指摘する斎藤司教授=5月中旬、京都市の龍谷大

 研究員21人の過半数は刑事弁護にたけた弁護士だ。「もっと普通に、もっと安定的に誤判救済ができるようにしたいと考えたとき、実務家の努力がなければ机上の空論になりかねない」と斎藤教授。その上で「実務の蓄積を共有すると同時に、理論的観点の検討で研究者の力も必要。大学はそれができる」と説明する。
 誤判救済の実現には膨大な時間と手間と費用がかかり、冤罪(えんざい)被害者や日本弁護士連合会は規定の乏しい再審法の改正を要求している。斎藤教授は「法改正の必要性を研究者からも発信しなくてはいけないと思っていた」とセンター設置の背景を明かす。
 センターでは、①誤判救済システム②刑事弁護・再審弁護③法と科学―の3グループに分かれて研究を進める方針。あるべき再審法の提示をはじめ、刑事弁護のIT化や効率化、再審弁護のノウハウ共有と発信、科学を活用した誤判救済方法の開発や専門家のデータベース化などを目標に掲げる。博士課程や修士課程の学生をアシスタントとして雇い、若い世代を育てる。
 客員研究員には他大学の研究者も名を連ねる。京都市の一般財団法人イノセンス・プロジェクト・ジャパン(IPJ)など、無実を訴える人を支援する他団体との連携も視野に入れる。斎藤教授は「こちらは研究や情報発信、IPJは実践というように支え合うことができれば」と見据える。
 センターの嘱託研究員でIPJにも所属する元裁判官の西愛礼弁護士は、再審開始決定が相次いだことを受け「今まさに誤判冤罪の救済や予防に関する問題意識の高まりを感じる。問題の解決を主体的に担っていきたい」と意欲を見せる。
 (社会部・佐藤章弘)

 誤判是正 国の義務 センター長に就いた斎藤教授
 現在の静岡市清水区で1966年に一家4人を殺害したとして死刑が確定し、今年3月に再審開始が決まった袴田巌さん(87)は、今後始まる公判で無罪が言い渡される公算が大きいとみられている。その際、誤判原因は解明されるのか。
 「誤判の救済と防止は国家の責務。誤判が生じた場合、積極的に是正するのが国家の義務だと思うが、日本は消極的。だから、自分たちができることをしていくしかない」。龍谷大の斎藤司教授はそう口にする。
 海外では、誤判原因を究明する公的な委員会があったり、検察庁内部に有罪判決を検証する部門が誕生したりしている。日本では、再審無罪となった「足利事件」で最高検や警察庁が捜査・公判の問題点を公表したが、まれな例だという。
 斎藤教授は「国会や法務省が主導し、誤判原因の究明と解決策を考えるのが本来。ヒューマンエラーもあれば制度的な欠陥もあり、第三者機関を設置して解明するのが筋」と強調する。

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