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再審法 憲法に照らし検証を 静岡大・笹沼教授 袴田事件踏まえ「捜査機関は全証拠、裁判所に」

 3日は憲法記念日。現在の静岡市清水区で1966年、一家4人を殺害したとして死刑が確定した袴田巌さん(87)の裁判のやり直し(再審)が決まるまでに長い年月がかかったことを巡り、現在の再審法(刑事訴訟法の第4編再審)は憲法上の要請を実現できていないとの指摘が聞かれる。不利益再審を廃止した以外は戦前の旧刑訴法の規定を引き継ぎ、一度も改正されていない再審法について、静岡大の笹沼弘志教授(憲法学)は「憲法に適合しているかどうかを全面的に検証すべき」と話している。

袴田事件や再審法の課題を巡り「憲法学にとっても重大な問題」と受け止める静岡大の笹沼弘志教授=4月下旬、静岡市駿河区の同大静岡キャンパス
袴田事件や再審法の課題を巡り「憲法学にとっても重大な問題」と受け止める静岡大の笹沼弘志教授=4月下旬、静岡市駿河区の同大静岡キャンパス

 袴田さんは80年に死刑が確定し、翌81年に再審を請求した。第2次再審請求審で静岡地裁は2014年、再審開始と死刑・拘置の執行停止を認めて袴田さんを釈放した。しかし、検察が不服を申し立て、再審開始の可否についての審理はその後も続いた。東京高裁が今年3月に改めて再審開始を決め、検察が特別抗告を断念したことで確定した。
 憲法の31条は適正手続きを、37条第1項は「公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利」をうたう。ただ、再審法は請求審において、裁判所に提出してこなかった証拠の開示を検察に義務付けておらず、再審開始決定に対する不服申し立てを禁じていない。非公開が一般的な請求審が長引く大きな要因になっている。
 笹沼教授は袴田事件の経過を振り返り、捜査機関の手元にある証拠が全て裁判所に出されることが何よりも重要だと考える。「冤罪(えんざい)が起こる可能性は低くなり、裁判が迅速に進めば誤りがあっても早く気づくことができる。捜査機関が収集した証拠は国民の財産だ」と強調する。
 袴田さんの取り調べは1日平均12時間に上り、死刑を言い渡した一審判決でさえ、捜査官が自白の獲得に汲々(きゅうきゅう)としていたと言及。「『適正手続きの保障』という見地からも、厳しく批判され、反省されなければならない」と付言している。袴田さんの再審開始を認めた静岡地裁決定と東京高裁決定は、捜査機関によって重要証拠が捏造(ねつぞう)された疑いや可能性を指摘した。
 笹沼教授は「例えば強盗殺人・放火事件が起こると『ひどい』『早く犯人逮捕を』と感情が揺さぶられるが、そんなときこそ手続きが守られることが大切。捜査機関は独自の正義感で走ってはいけない」と説く。
 憲法は31条から40条で、刑事手続きに関する規定を細かく設けている。笹沼教授は「憲法には『個人の尊重』(13条)という大原理があり、個人の自由を制約することへのハードルを適正手続きの保障や裁判を受ける権利といった形で表現している」と説明。その上で、現在の再審法が憲法に見合っているのか見直すべきだと問題提起している。

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