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名張事件 再審認めず 最高裁、10次請求審確定へ 1人が初の反対意見

 三重県名張市で1961年、女性5人が死亡した名張毒ぶどう酒事件の第10次再審請求審で最高裁第3小法廷(長嶺安政裁判長)は、奥西勝元死刑囚=2015年に89歳で病死=の妹の岡美代子さん(94)による特別抗告を棄却する決定をした。29日付。再審を認めない判断が確定する。=関連記事3、29面へ

決定骨子
決定骨子


 裁判官5人中4人の多数による結論。行政法学者出身の宇賀克也裁判官は「再審を開始すべきだ」との反対意見を述べた。名張事件の再審請求審を巡り、最高裁で反対意見が出たのは初めて。
 決定は、弁護団が新たに提出した証拠は「確定判決に合理的な疑いを生じさせるものではない」とした名古屋高裁、同高裁異議審の決定を支持した。弁護団は30日に記者会見を開き、十分な審理をしていない名古屋高裁を追認しているとして「新たな再審請求に向けて準備を進めたいと考えている」と明らかにした。ただ、再審開始決定を得るための新証拠を収集するハードルは高い。
 1964年の一審無罪判決が二審で逆転死刑となり、その後確定。第7次請求で名古屋高裁が2005年、再審開始決定を出したが、異議審で取り消されるなど60年余りの間に裁判は異例の経過をたどった。
 第10次請求で弁護団は、現場で見つかったぶどう酒の瓶とふたをつなぐ「封かん紙」の破片から「製造段階のものと違う市販ののり成分が検出された」とする専門家の鑑定書を新証拠として提出。真犯人が犯行現場以外の場所で紙を破って開栓し、毒物を混入後、再度のり付けして紙を貼り直したなどと主張した。
 最高裁決定は、弁護側の専門家が検察側の指摘を受け、見解の根幹部分などを変更している点を踏まえ「専門的知見に基づく科学的根拠を有する合理的なものとはいえない」とした高裁判断を支持。捜査段階での自白の信用性を認めた。
 一方、宇賀裁判官は「鑑定には高い信用性が認められる」と指摘。「そもそも有力な物証が乏しい」とし、自白については「取り調べが極めて長時間に及ぶなど、心理的圧迫を受ける状況下だったとうかがわれる」「信用性には多大な疑問が生じている」と判断した。
 確定判決によると、61年3月28日、名張市内の公民館で開かれた懇親会で、毒物が入ったぶどう酒を飲んだ奥西元死刑囚の妻ら女性5人が死亡、12人が中毒症状で入院した。

 反対意見の宇賀裁判官 弁護側鑑定に「信用性」
 名張毒ぶどう酒事件の再審を認めなかった最高裁第3小法廷の決定で、5人の裁判官のうち、行政法学者出身の宇賀克也裁判官だけは「再審を開始すべきだ」として反対意見を付けた。多数意見との最大の違いは、現場にあったぶどう酒の瓶とふたをつなぐ「封かん紙」に関する専門家の鑑定結果の信用性を認めたことだ。
 弁護団が新証拠として提出した鑑定書は「本来のものと違う市販ののり成分が封かん紙から検出された」との内容。宇賀裁判官は、鑑定手法や実験の前提、結果などを吟味し「高い信用性が認められる」と判断した。弁護団の主張通り、真犯人が封かん紙を破って毒物を入れた後、市販ののりで紙を貼り直して閉栓した可能性が浮上したと認定した。
 そのため、事件現場以外で毒物が混入されたこともあり得るとし、「犯行が可能だったのは事件現場で約10分間、1人になる機会があった奥西勝元死刑囚だけだ」とする確定判決の前提が崩れたと指摘。捜査段階での自白にも「多大な疑問がある」とし、確定判決の有罪認定に合理的な疑いが生じたと結論付けた。
 宇賀裁判官はこれまで、国政選挙の「1票の格差」を巡る大法廷判決など、多くの裁判で反対意見を述べている。

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