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社説(6月23日)強制不妊報告書 国は真摯に救済拡充を

 旧優生保護法下で障害者らに不妊手術が強制された問題で、衆参両院議長に国会の調査報告書が提出された。報告書は1400ページにも及び、国が別の手術と偽ることを許容し、都道府県に件数を増やすよう求めるなど、非人道的な国策がもたらした被害の理不尽さと深刻さが改めて浮き彫りになった。
 ただ、報告書は国や国会などの責任の所在は明確にしていない。旧法施行から70年以上経過した2019年に被害者に一律320万円の一時金を支給する救済法が議員立法で成立、施行されたがとても被害に見合う額とは言えず、各地で国に損害賠償を求める訴訟が起こされている。
 被害者は高齢化し、残された時間は限られている。国は旧法を1996年まで存続させ、重大な被害を拡大させた責任に正面から向き合い、真摯[しんし]に救済を拡充すべきだ。
 調査は旧法の立法経緯や被害の実態を把握する目的で、両院の事務局が国や自治体、医療機関、福祉施設に保管されていた手術記録などの資料を分析したほか、被害者へのアンケートも実施した。
 手術は計2万4993件に上り、このうち本人の同意なしが65%を占めた。同意がない場合、都道府県の審査会で適否を判断したが形骸化していた。手術の資料が残る2万2420件の都道府県別内訳を見ると、静岡県は753件で5番目に多い。
 報告書によると、旧法は戦後の食糧難を背景に人口抑制策として48年に成立し、「不良な子孫の出生防止」を目的に掲げていた。手術が福祉施設の入所や結婚の前提条件とされたり、盲腸の手術とだまして受けさせたりした事例が確認された。国策で子どもを産み育てる権利を奪う「戦後最悪の人権侵害」そのものだ。
 2018年1月、仙台地裁に国に損害賠償を求める訴訟が初めて起こされて被害が注目されるようになり、静岡、浜松を含む12地裁・支部に提訴が相次いだ。不法行為から20年で賠償請求権が消滅する「除斥期間」を適用するかどうかが主な争点となっている。これまで国に賠償を命じた判決は地裁で3件、高裁では4件を数え、賠償額は1人1500万円前後。だが国は旧法の違憲性を認めようとせず、除斥期間の適用にこだわって控訴と上告を繰り返している。報告書で凄惨[せいさん]な実態が明かされる中、いつまで争い続けるつもりなのか。
 被害者の尊厳の回復は国や国会の責任だ。一時金の申請は低調で、支給認定は5月末現在で1049人にとどまり、金額の引き上げを求める声も上がっている。「生きているうちに解決を」という被害者の悲痛な訴えに応えるため、手を尽くしてほしい。

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