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他の審理に広がらず 弁護士辞め不都合実感【最後の砦 刑事司法と再審⑪/第3章・日産サニー事件の先例㊥】

 こんなにも、もどかしいとは想像していなかった。

再審請求手続きを公開する必要性を訴える飯塚事件弁護団の徳田靖之弁護士(右)と岩田務弁護士=5月31日、福岡市内
再審請求手続きを公開する必要性を訴える飯塚事件弁護団の徳田靖之弁護士(右)と岩田務弁護士=5月31日、福岡市内

 裁判のやり直し(再審)が確定した元プロボクサー袴田巌さん(87)を40年以上支えてきた田中薫弁護士は、2014年3月に静岡地裁が再審開始決定を出した直後に弁護士を辞めた。再登録したのは今年3月。この間、差し戻し前後の即時抗告審で法曹三者の協議はもちろん、鑑定人の尋問などに立ち会えなかった。
 「弁護団の会議や合宿には出ていたので、資料を見たり、話は聞いたりしていたけれど、何がどう行われているのか裁判所の中の雰囲気を全く実感できなかった」。弁護士でない一般人の立場となり、再審請求審が非公開で進められていることへの疑問が芽生えた。「自分の目で見て自分の耳で聞くのと、資料を見て他人から聞くのとでは違う」
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 再審請求審で証人尋問が公開されたのは「日産サニー事件」だけと言われる。なぜ、ほかの事件に波及しなかったのか。袴田事件弁護団の西嶋勝彦団長も田中弁護士も「公開を否定する弁護人はいないと思うが、公開すべきだと要求し続けてこなかった」ことに一因があると受け止めている。
 差し戻し後の即時抗告審の焦点となった袴田さんの犯行着衣とされた「5点の衣類」に付着した血痕の色問題にしろ、公開の法廷で調べられていれば、みそタンクに約1年2カ月も漬かっていたにしては赤すぎて不自然だともっと早く認定できたのではないか―。田中弁護士は今、誤判をただす手続きや無実を訴えている人の主張を国民が知るためにも「審理を公開し、多くの人の目にさらすことが必要だ」と思うに至った。
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 「袴田事件もそうだが、3者協議の終了後に弁護人が記者会見して説明する。本来、今日のような尋問も公開されていれば皆さんは証人が言うことを生で聞くことができる。信用できるのかを判断できるのです」
 福岡県飯塚市で1992年に小学1年生の女児2人が誘拐、殺害された「飯塚事件」で、2008年に死刑が執行された久間三千年元死刑囚=執行時(70)=の第2次再審請求審。福岡地裁は5月31日、元死刑囚とは別の男が女児2人を乗せて車を運転していたのを目撃したとする男性の証人尋問を非公開で実施した。終了後の記者会見で弁護団の徳田靖之弁護士は、請求審を公開して「手続きをオープンにしていくことが絶対に必要」と繰り返した。
 証人尋問に先立つ3月、地裁は証拠の目録を開示するよう検察に勧告。ただ、検察はこれを突っぱねた。
 徳田弁護士は請求審が非公開で行われることで、例えば「裁判所が証拠を出すようにと言っても、平然と『必要がない』と居直ることが許されてしまう」と懸念。翻って公開が原則になれば「検察官の態度を制約するとともに、裁判所があるべき姿勢で審理に臨むことにもつながる」と説く。

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