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旧天竜林高事件 元市長にアリバイの可能性 関係者証言「銀行にデータ」

 旧天竜林高の大学推薦入試を巡る調査書改ざん・贈収賄事件で、2度目の現金授受があったとされる日に元天竜市長(91)=再審請求中=が訪れた銀行の関係者が12日までに、静岡新聞社の取材に応じ、アリバイの可能性を示す記録がデータで保存されていると証言した。
 データは元天竜市長の保険契約金が「12時(午後0時)26分」に入金されたことを示す振込伝票の記録。再審請求審で検察は「12時26分事務処理(元天竜市長退店)」と記載された警察の取り調べメモを開示したが、記述の基となる証拠までは明らかにしていない。振込伝票のデータがこの証拠に当たる可能性があり、証明されれば、午前11時ごろに同校で現金の授受があったとする確定判決の認定に疑義が生じることになる。
 取り調べ記録には、元天竜市長は2007年12月10日午前10時半ごろに銀行で保険契約の話を始めたとの記載が残っている。保存されているというデータが裏付けられれば、元天竜市長が少なくとも午後0時26分までは銀行にいた証拠になる可能性がある。
 銀行関係者は「記録は手続き完了の時間を示している。顧客の退店後に打刻されたとは考えにくい」とし、「記録は銀行のシステムに保存されている」と証言した。元天竜市長の預金通帳にも、同日の保険会社への入金記録がある。
 複数の関係者によると、通常の窓口業務では振込伝票の発行後、顧客に領収書を手渡すという。ただ、紙の伝票は内規上の保存期間の10年を過ぎているため、処分されている。
 元天竜市長と元校長(75)=23年3月に最高裁で再審請求棄却=の2人の弁護人は再審請求審で、「12時26分」の記載がアリバイを裏付けるものとし、検察に対して関係証拠の開示を求めてきたが、検察側はこれに応じず、裁判所も開示命令を下さなかった。今年5月の浜松簡裁による元天竜市長の再審棄却決定は「当該記載がいかなる原証拠のどのような記載に基づくものなのかも明らかでない」として弁護人のアリバイ主張を退けていた。
 元天竜市長の代理人の杉尾健太郎弁護士は「アリバイの検討は不十分な状態が続いていた。新証言が出てきたことで具体性を持って証拠開示を求めることができる」と話す。その上で「不可解な部分が多すぎる事件。新証言によって裁判所も証拠開示に向けて積極的な姿勢を示さざるを得ないはずだ」と強調した。

 ■旧天竜林高調査書改ざん・贈収賄事件 
 大学推薦入試を巡り、2006年に当時の校長だった元校長が生徒2人の調査書改ざんを教諭に指示し、生徒1人の祖父である元天竜市長から謝礼計20万円を受け取ったとされる事件。元校長は捜査段階から一貫して無実を訴えたが、10年12月に最高裁で懲役2年6月、執行猶予4年の有罪判決が確定した。14年4月に静岡地裁浜松支部に再審請求したが、23年3月、最高裁は特別抗告を棄却した。一方、贈賄を認め、08年に罰金70万円の略式命令を受けた元天竜市長は14年4月、「自白は虚偽だった」と贈収賄の事実を否定する証言を公表。20年10月に浜松簡裁に再審請求したが、23年5月に請求は棄却され、東京高裁へ即時抗告した。

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