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証人尋問法廷で公開「公正さ確保、真実発見」 元裁判官、法改正の柱と指摘【最後の砦 刑事司法と再審⑩/第3章・日産サニー事件の先例㊤】

 裁判のやり直しを認めるかどうかを審理する再審請求審。再審法(刑事訴訟法の第4編再審)に審理の公開・非公開についての規定はないが、事実上、非公開とされている。元プロボクサー袴田巌さん(87)の再審開始を認めた静岡地裁、東京高裁の審理も非公開だった。福島県いわき市で1967年に自動車販売会社の宿直員が殺害されて現金が奪われた「日産サニー事件」は、再審請求審で証人尋問が公開された極めてまれな例だ。判断に関わった西理元裁判官(78)が22日までに静岡新聞社の取材に応じ、法改正して請求審の公開を規定することは「非常に重要」と指摘した。

再審請求審で、証人尋問を公開の法廷で行うとした福島地裁いわき支部の決定。審理の公正さを確保するために適切と判断した(画像の一部を加工しています)
再審請求審で、証人尋問を公開の法廷で行うとした福島地裁いわき支部の決定。審理の公正さを確保するために適切と判断した(画像の一部を加工しています)


 西さんは88~92年、福島地裁いわき支部で日産サニー事件の再審請求審を担当した。その後、大分地家裁所長や福岡高裁部総括判事を務め、2009年に定年で退官。日産サニー事件は思い入れの深い事件の一つだったが、審理の公開については記憶が遠ざかっていたという。ただ、取材を受けるに当たり当時の記録を読み直すと、自身で赤線を引いた箇所が所々に残っていた。「恐らく、相当議論したのだろうと思います」
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 審理の公開を求めた弁護人に対し、検察官は〈相当でない〉とする意見書を出した。〈多大の時間を要することになるばかりではなく、関係者の名誉・プライバシーに関する広範な事実の取り調べは抑制せざるを得ないこととなり、十全な事実調べをすることに対する足かせになる〉。請求審の公開は憲法上の要請ではなく、再審法にも規定がないと主張した。一方で〈審理の一部を裁判所の裁量によって公開することはともかく、常に必要的公開制をとるべきだとする提案にはにわかに賛成しがたい〉とする文献も添付していた。
 「せめぎ合いがあって、検察官サイドとしても全面的な公開反対とは貫きがたく、妥協的な態度を打ち出したのではないか。ともあれ、この文献を引用したことで、審理の一部にせよ裁判所の裁量によって公開することを認める結果になったのではないか」。西さんはそう評した上で、関係者のプライバシーを侵害する恐れがあるとする検察官の意見は考え方が逆だと反論する。「そういう恐れが現実にある場合は非公開にすれば良く、この理由で全部を非公開にしなくてはいけない根拠にはなり得ない」
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 再審請求人の母親ときょうだい2人の証人尋問を公開の法廷で行うとした1990年3月2日付の福島地裁いわき支部決定は〈審理を公開するかどうかは、裁判所の合理的な裁量に委ねられている〉と判断。プライバシーを保障する上で支障がなければ、公開の法廷で尋問することこそ〈審理の公正さを確保し、真実発見の要請を満たすためにはより適切〉と結論付けた。
 当時、西さんは右陪席の裁判官で、裁判長は刑事裁判の経験が豊富なベテラン裁判官だった。「決定手続きであろうと、重要な証拠調べは本来公開の法廷でやるべきでしょう、という裁判長のリードがあったと思う」。さらに、今考えても「こんなに重要なことを非公開でいわば“こっそり”しなくてはいけないことだとは思えない」と感じる。
 再審法の改正議論を巡っては、証拠開示の法制化や再審開始決定に対する検察官抗告の禁止が真っ先に挙げられる。西さんは、請求審の公開を含む手続きの整備を加えた「3本柱」が大切だろうと実感を込めた。
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 再審法には再審請求審の進め方について細かな規定がない。多くが担当裁判官の裁量に委ねられているため、その姿勢によって「格差」が生まれているとの指摘がある。積極的な訴訟指揮が見られた「日産サニー事件」の先例を踏まえ、目指すべき方向性を考える。

 〈メモ〉日産サニー事件 1967年に福島県いわき市の日産サニー福島販売いわき営業所で、宿直員=当時(29)=が刺殺され、金庫から現金2100円が奪われた。元電電公社職員の男性が強盗殺人の罪で起訴され、最高裁で無期懲役が確定した。男性は仮釈放後の88年、福島地裁いわき支部に再審を請求した。同支部は92年に再審開始を認める決定を出したが、仙台高裁は95年に一転して再審請求を棄却。最高裁も99年に男性の特別抗告を退けた。

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