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社説(5月3日)憲法記念日 幸福度の追求を論点に

 憲法施行から76年目の「憲法記念日」を迎えた。祝日法には「憲法の施行を記念し、国の成長を期する」と趣旨が記されている。国の成長とは経済的に豊かになることだけではない。国民の幸福を追求する権利を尊重する憲法の理念を踏まえれば、国民一人一人の幸福度が増す国になることと言ってもいいだろう。
 昨年来、衆参両院の憲法審査会で憲法9条への自衛隊明記、緊急事態条項の創設など改憲議論が本格化しているが、幸福追求の権利に関わる「環境権」「プライバシー権」など「新しい人権」の明記は、自民党の改憲案の柱に据えられていない。改憲に反対、慎重な政党は新しい人権の創設が改憲の突破口になることを警戒する。どこか置き去りにされている感は否めない。
 誰もが幸福を実感できる社会は現行憲法下で実現できるのかという視点で改憲議論を考えてみたい。
 今国会で法制化が審議されている同性同士の婚姻は、まさに同性カップルの幸福追求の権利を巡るテーマといえる。憲法に関する各種世論調査で、改憲に賛成する人の多くが「憲法が時代に合わなくなっている」を理由に挙げる。同性婚も憲法制定時には想定されていなかったが、改憲するかどうかの議論までに至っているとはいえない。
 同性婚を認めないのは憲法の法の下の平等に反するなどと全国の同性カップルが起こした訴訟は、地裁レベルで憲法判断が分かれている。憲法24条は「婚姻は両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として」などと規定する。「両性」や「夫婦」を男女の区別がない他の言葉に変えれば、憲法解釈で争う必要はなくなるだろう。
 ただ、同性婚の法制化を求めている立憲民主党は、改憲自体に慎重で、9条改正には反対している。同性婚は法整備で対応できるとの立場を取る。一方、改憲を党是とする自民党内には同性婚に反対する声が根強い。これでは同性婚の改憲議論は進まない。
 国際貢献を憲法に明記するかどうかもテーマの一つ。紛争などで苦しむ他国の国民が幸福を追求できるよう積極的に貢献活動すべきという考えに異論を唱える政党はない。ただ、貢献活動に自衛隊派遣が絡むと9条との関係で、議論は平行線をたどる。
 基本的人権や国際貢献については、いったん9条改正や自衛隊と切り離して議論を詰めたらどうか。その上で改憲か、法整備で対応するのか結論を出したらどうだろうか。
 憲法審の議論は、国民が改憲の是非を判断する材料になる。議論を尽くすには、まだまだ時間が必要だ。子どもの権利を守り、子どもの幸福追求を支援する目的で制定された「こども基本法」の理念を憲法に盛り込むべきかどうかという議論も求めたい。
 岸田文雄首相は来年秋の自民党総裁任期までの改憲に意欲を示す。だが、改憲勢力が数の力で押し切ろうという空気は今のところ見られない。だからこそ、衆院憲法審の週1回の開催を「サルのすること」などと議論を軽んじた立民参院議員が党内外から批判されたのは当然だ。
 国連が3月に発表した今年の国別幸福度ランキングで、日本は調査対象となった137の国・地域で47位。調査の指標のうち日本は、「健康寿命」や「1人当たりの国内総生産(GDP)」が高いが、「人生の選択の自由度」は低い。同性婚は、人生選択の自由度の問題とも言える。
 もちろん、幸福かどうかは調査の指標だけでは計れない。幸福度の尺度は一人一人異なる。だが、順位が上がるに越したことはない。国民の間で賛否が分かれる9条改正も角度を変えれば、国民の生命や財産とともに幸福追求の権利をどうしたら守れるかが論点になる。国民それぞれが自分や家族の幸福度アップという観点から改憲の是非を考えることも必要だ。

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