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ねつ造 袴田さんが指摘【最後の砦 刑事司法と再審/緊急連載 抗告断念㊥】

 1966年にみそ製造会社の専務一家4人が殺害された事件で、重要証拠が捏造(ねつぞう)された可能性を誰よりも早く指摘していたのは、死刑が確定した袴田巌さん(87)自身だ。

獄中の袴田巌さんから田中薫弁護士宛てに届いたはがき
獄中の袴田巌さんから田中薫弁護士宛てに届いたはがき
文中には「ねつ造」の記載が残る
文中には「ねつ造」の記載が残る
獄中の袴田巌さんから田中薫弁護士宛てに届いたはがき
文中には「ねつ造」の記載が残る

 83年1月、東京拘置所から弁護団の田中薫弁護士に宛てたはがきにも〈血染めのズボン等についての私に対するねつ造〉と書いている。
 事件から1年2カ月後、現場近くのみそタンクからシャツやズボンなど「5点の衣類」が見つかる。血痕には赤みが確認できた。一方、袴田さんの再審開始を認めた13日の東京高裁決定は、専門家の化学的知見を踏まえ、1年以上みそに漬かった衣類の血痕に「赤みは残らない」と判断した。
 発見直前に隠された可能性が高まる。当時は裁判が始まり、拘束されていた袴田さんには不可能だった。高裁決定は捜査機関による可能性が「極めて高い」と捏造を示唆した。ズボンの損傷についても「作出の疑い」を突きつけている。
 事件4日後にみそタンクの捜索に関わった元捜査員は、みそを混ぜる櫂(かい)のような棒で底に何かないか探した。「捜索時点では(5点の)衣類はなかった」と証言する一方、みそを全て取り出して見てみたわけではなかったとして「見落とした可能性はあり得る」とつけ加えた。当時の同僚を思い返しても、捏造するような人がいたとは思えないと説明する。
 県警のある現役捜査員は、特別抗告の断念を「悔しいという思いが先にある」と受け止めた。当時の捜査については伝聞だと前置きした上で「捜査員が血眼になって捜査した結果(袴田さんの)逮捕に至ったはず」と信じるが、「ずさんな部分もあったから、こんな形になったのかもしれない」という本音も隠さない。
 検察は衣類が見つかるまで、袴田さんの裁判でパジャマを犯行着衣と主張していた。弁護側がパジャマの血液などについて再鑑定を求めたところ、衣類が発見された。袴田さんは77年の上告趣意書でこの衣類について、捜査員によって〈偽造された部分が明らか〉と訴えた。再鑑定でパジャマに血液の付着がないことが明らかとなれば無罪に至る可能性が出てくるためだ。
 裁判所が捏造の疑いを初めて認めたのが、袴田さんの再審開始を決めて釈放した2014年の静岡地裁決定だった。弁護団の西嶋勝彦団長は「捜査機関が捏造することはない、との神話に裁判所がとらわれてきたのが、これまでの冤罪(えんざい)事件。袴田事件は重要なバイブルになるだろう」と話している。

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