テーマ : 裁判しずおか

大自在(3月9日)最終ラウンド

 2004年、米国の元黒人ボクサーから1歳年上の日本の元ボクサーに激励の手紙が届いた。差出人は白人3人が殺害された事件で終身刑が宣告された後、無罪を勝ち取ったルービン・カーター氏。現役時代は「ハリケーン」の名で活躍した。
 手紙は現在の静岡市清水区で発生した一家4人殺人事件で死刑判決が確定した後、無実を訴えている袴田巌さんが受け取った。同じ1966年に起きた二つの事件。カーター氏は19年の獄中生活を経て自由の身になっていたが、袴田さんはまだ東京拘置所に収監されていた。
 米国ではカーター氏が身の潔白を叫び始めると、人種差別を象徴する事件として注目を浴び、支援の輪が一気に広がった。米国を代表する歌手のボブ・ディランさんは「ハリケーン」のタイトルで曲を作り、エールを送った。
 日本ではボクサーへの偏見があったと、元世界王者や現役選手が袴田さんの裁判のやり直し(再審)と無罪判決を目指して活動を続ける。事件や裁判への社会の関心は徐々に高まっていった。
 「闘いはまだ終わっていない。まだ数ラウンド残っている」。こんな言葉で袴田さんへの手紙は締めくくられていた。カーター氏は2014年3月に静岡地裁が袴田さんの再審開始と釈放を決定したのを見届けるかのように翌4月に他界した。東京高裁で地裁の決定が覆されるとは思ってもみなかったに違いない。
 袴田さんはあす、87歳。最終ラウンドで逆転勝利を収めることができるか。それは13日に東京高裁が改めて出す再審可否の決定にかかっている。

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