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「捜査は違法」賠償命令 大川原化工機 訴訟 都と国に1.6億円

 生物兵器製造に転用可能な装置を無許可で輸出したとする外為法違反罪などに問われ、後に起訴が取り消された横浜市都筑区の「大川原化工機」の大川原正明社長(74)らが東京都と国に損害賠償を求めた訴訟の判決で、東京地裁は27日、双方に計約1億6千万円の支払いを命じた。桃崎剛裁判長は大川原社長ら3人に対する警視庁公安部の逮捕を「根拠が欠如していた」と指摘し、東京地検の起訴も「必要な捜査を尽くさなかった」としていずれも違法とした。

起訴取り消しを巡る訴訟の判決で国と東京都に賠償が命じられ、東京地裁前で笑顔を見せる「大川原化工機」の大川原正明社長(中央)=27日午後
起訴取り消しを巡る訴訟の判決で国と東京都に賠償が命じられ、東京地裁前で笑顔を見せる「大川原化工機」の大川原正明社長(中央)=27日午後
判決骨子
判決骨子
起訴取り消しを巡る訴訟の判決で国と東京都に賠償が命じられ、東京地裁前で笑顔を見せる「大川原化工機」の大川原正明社長(中央)=27日午後
判決骨子

 審理は証人尋問に出廷した公安部員が事件を「捏造(ねつぞう)」と証言する異例の経過をたどった。冤罪(えんざい)に基づいて長期間の身柄拘束を受けた3人のうち1人は被告の立場のまま亡くなっており、捜査の再検証が求められそうだ。
 大川原社長は判決後、「適切な判断をしてくれたと受け止めている。警視庁、検察庁にはしっかり検証して、できることなら謝罪をいただきたい」と報道陣に述べた。
 装置は霧状の液体を熱風で瞬時に粉末化する「噴霧乾燥装置」。外為法の関連規定上、規制対象の「滅菌または殺菌できるもの」に該当するかどうかが争点だった。
 判決は公安部が逮捕前に従業員らへの取り調べで、装置に温度の上がらない部分があり、完全な殺菌はできないなどの説明を受けながら必要な実験をしなかったと指摘。「通常求められる捜査をしていれば、輸出規制の要件を満たさないとの証拠が得られた」とした。同様の報告を受けた東京地検の検事も「有罪立証の上で必要な捜査をせず起訴した」と判断した。
 また、3人のうち1人に対し、公安部の捜査員が要件の解釈をあえて誤解させるような取り調べをした点も違法とした。
 一方で、捜査員による「捏造」発言については判断しなかった。原告側が「殺菌」の規定に関し、生物化学兵器拡散の防止を目的にした国際合意で薬液による消毒に限られるのに、捜査側が独自の解釈をしたと主張した点も、関連法令を所管する経済産業省の通達を前提としており、不合理とはいえないとした。
 賠償額は違法捜査による会社の信用毀損(きそん)や逮捕・勾留、3人のうち同社顧問だった相嶋静夫さん=富士宮市=が起訴取り消し前の2021年2月に体調を崩して死亡した事情などを考慮して算定した。
 大川原社長ら3人は20年3~6月に逮捕、起訴された。大川原社長と元取締役の身柄拘束が約1年に及び、東京地検は初公判直前の21年7月、犯罪に当たるか疑義が生じたとして起訴を取り消した。社長らは同9月に提訴し、計約5億6千万円の賠償を求めた。

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