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ひで子さん「法廷で無罪聞かせたい」 検察の有罪立証方針に冷静【最後の砦 刑事司法と再審】

 現在の静岡市清水区で1966年、一家4人を殺害したとして死刑が確定した元プロボクサー袴田巌さん(87)の再審公判を巡り、静岡地検は10日、有罪を立証する方針を表明した。審理の長期化は不可避とみられるが、袴田さんの姉ひで子さん(90)は記者会見で「ここで2、3年長くなったってどうってことないですよ」とひょうひょうと受け止めた。袴田さんには半世紀近い拘束による拘禁反応があり、静岡地裁は公判への出廷を免除する意向を示す。ただ、ひで子さんは判決の主文だけは法廷で聞かせたいと考える。「裁判所で『無罪』と言われれば巌も納得すると思う」。遠くない将来、その日がやって来ることを信じている。

記者会見する袴田巌さんの姉ひで子さん=10日午後、静岡市葵区
記者会見する袴田巌さんの姉ひで子さん=10日午後、静岡市葵区

 会見では、地検の有罪立証方針に「検察庁だからとんでもないことをするだろうとは思っていた」と皮肉を交えながら、再審無罪に向けた決意を新たにした。
 弟の無実を疑ったことは一度もない。それでも、事件から10年ほどは「私も若かったから、そりゃあ悩んだり困ったりしたよ」。酒に頼ることが増えたが、支援者の存在にそれではダメだと一念発起して断酒を決意。荒壁のようだった顔の肌が徐々にきれいになっていった。「変化を肌で感じられたことが大きかった」
 袴田さんが収監されていた東京拘置所へ浜松市の自宅から通い続け、面会を拒まれるようになっても欠かさなかった。「少しでも明るくなるように」と願い、決まって花を差し入れた。
 「来る者拒まず、去る者追わず」が信条。合理的で何事にも動じず、明るく笑い飛ばす。ひで子さんの人柄にひきつけられる人は数知れない。札幌、名古屋、福井…。既に来年1月まで講演の予定が入っている。「まだ裁判は終わっていないが、声がかかれば、(再審開始が確定した)お礼を皆さんにしたくて行くの」
 弟を支えてきた人生を、「運命」と呼ぶ。「運命と思うしかない。運命と思えば、どうってことない」。しかし、袴田さんの再審開始と釈放を知ることなく逝った兄2人の無念さを思うと、悔しさがこみ上げる。
 無罪判決を得ることができたら「(袴田さんと)平凡に暮らしたい」と言う。「何十年も生きるわけじゃない。あと何年だもの」。司法に翻弄(ほんろう)されてきた。だから、弟と同じ屋根の下で過ごせる何げない生活が尊く、幸せだ。
 地検が有罪立証を続けることで速やかな判決は難しいかもしれない。「裁判で最終的に勝つしかない」。ひで子さんは会見でそう思いを語り、もう一踏ん張りだと自らに言い聞かせた。


 

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