テーマ : 裁判しずおか

再審法改正の必要性を実感 袴田さん請求審元裁判長 検察の証拠開示法制化を 「国会で議論して」

 袴田事件で死刑判決が確定し、裁判のやり直し(再審)を求めている袴田巌さん(86)の再審開始と死刑・拘置の執行停止を2014年に静岡地裁の裁判長として決めた村山浩昭氏が6日、静岡新聞社の取材に応じた。再審請求審を経験したことで、再審法(刑事訴訟法第4編再審)に規定が乏しいことを実感したという。法改正の必要性を認め「立法機関の国会で、きちっと議論してほしい」と強調した。

村山浩昭元裁判官
村山浩昭元裁判官

 村山氏は21年に定年退官した。報道機関の対面インタビューに応じるのは初めて。袴田さんの再審開始決定に対しては検察官が即時抗告したため、確定していない。東京高裁は同日、再審開始の可否判断を3月13日に示すと弁護団に通知した。
 再審に関する規定は刑訴法に19カ条しかなく、請求審の具体的な進め方は書かれていない。再審請求審は通常審と異なり、裁判官が主導する職権主義を取る。村山氏は「裁判官の裁量で自由にできると思われるかもしれないが、必ずしもそうではない」と説明。請求審を担当すること自体が少ない中で「経験があれば良いが、規定がないということは自分がどこまでできるのか結構不安になる」と裁判官の心境を明かす。
 法制化すべき事項の筆頭として、検察官の証拠開示を挙げた。裁判所に提出されてこなかった無罪方向の「古くて新しい証拠」(村山氏)が開示された結果、再審開始や再審無罪につながった事例は多い。「証拠を出す、出さないの議論ではなく、実質的な審理に時間をかけるべきだ」と説く。
 袴田事件や鹿児島県で起きた「大崎事件」などを念頭に、再審開始決定に対して検察官が不服を申し立てることで再審の可否を巡る審理が長期化する現状にも強い疑問を抱く。検察官が抗告して再審開始の可否を争った後に再審無罪判決に至った例もあり「検察が抗告した分だけ、再審無罪になるのが遅れたと評価できる」と批判。検察官は再審公判で有罪主張ができるため、無辜(むこ)の救済という再審の理念に照らして「検察官の抗告禁止に賛成」と述べた。
 再審を求める人が弁護士の援助を得られるような制度を整えていく重要性も指摘した。

 袴田事件 現在の静岡市清水区で1966年6月30日未明、みそ製造会社の専務方から出火し、ほぼ全焼した。焼け跡から一家4人の他殺体が見つかり、住み込み従業員の袴田巌さんが強盗殺人などの疑いで逮捕された。裁判で無罪を主張したが、80年に死刑が確定。第2次再審請求審で静岡地裁は2014年3月、再審開始を決め、袴田さんは約48年ぶりに釈放された。東京高裁が18年6月に請求を棄却したが、最高裁が20年12月に高裁決定を取り消し、審理を高裁に差し戻した。

 むらやま・ひろあき 1956年、東京都生まれ。83年に判事補任官。静岡地裁の部総括判事を経て盛岡地家裁所長。名古屋、大阪両高裁で部総括判事を務め、2021年に定年退官。22年に弁護士登録。東京地裁時代には、裁判長として秋葉原の無差別殺傷事件の審理も担当した。

裁判しずおかの記事一覧

他の追っかけを読む
地域再生大賞