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特定少年に初の死刑判決 夫婦殺人放火 当時19歳 「更生可能性低い」 甲府地裁

 甲府市で2021年10月、同じ高校に通っていた女性の両親を殺害し、住宅に放火したとして殺人などの罪に問われた、当時19歳の遠藤裕喜被告(21)の裁判員裁判判決公判で、甲府地裁は18日、求刑通り死刑を言い渡した。22年4月施行の改正少年法で実名公表が可能となった「特定少年」への初の死刑判決。

判決骨子
判決骨子

 特定少年は、特例で設けられた18、19歳で、重大事件を起こした場合、大人と同じ刑事裁判を受ける。三上潤裁判長は被告の刑事責任能力を認め、「更生可能性は完全に否定されないが低い」と指摘。年齢について「死刑を回避すべき決定的事情とはいえない」と述べた。
 判決理由で動機について、好意を寄せていた女性からの交際を断るLINE(ライン)などをきっかけに絶望感や怒りを覚え「女性以外の家族全員を殺して、女性に心身ともに大きな傷を与えようと考えた」とし、自己中心的で理不尽だと非難した。
 被害者をなたやナイフで何度も襲い、ガスボンベ9本を置くなどして放火したことについては「女性の一家を崩壊させるもの」で悪質だと指摘。公判を通じて被告が「被害者らへの真摯(しんし)な謝罪や反省の姿勢を示しているとはいえない」として、情状酌量を求めた弁護側の主張を退けた。
 判決によると、21年10月12日未明、男性会社員=当時(55)=宅に侵入し、男性と妻=同(50)=の胸をナイフで刺して失血死させた他、女性の妹にけがを負わせ、住宅に火を付けて全焼させた。女性にけがはなかった。
 判決後、甲府地検の田渕大輔次席検事は「事実認定、量刑ともに検察官が主張した内容が認められた。適正な判決だ」と話した。被告の弁護人は「主張が認められず残念。控訴するかは被告と相談する」と述べた。
公判通じ投げやりな態度 「社会に戻らない」謝罪なく  公判を通じ、遠藤裕喜被告(21)の口から謝罪の言葉は出なかった。裁判長らから理由を問われると「裁判所の心証を悪くしたい」と答え、「社会に戻るつもりがない」とも発言。両親を殺害され、自責の念に苦しむ女性が「被告は目を背けている」と語ったように、法廷では投げやりにも見える態度が目立った。
 初公判で黙秘した被告は、被告人質問の途中から口を開き始めた。家庭環境や、親に就職先を決められたことへの不満を挙げた上で、同じ高校に通っていた女性に交際を断られ「絶望や怒りの感情があった」と述べた。
 犯行方法などをよどみなく説明する一方で、被害者への気持ちは「悪いことをしたが、それだけ。僕としては何もしてあげられることはない」「正直、よく分からない」。罪の重さについては「考えていない」と話し、検察側が死刑求刑した後も「控訴しません。それだけです」と述べるだけだった。
 検察側は女性と妹が事件後、心的外傷後ストレス障害(PTSD)に苦しんでいることを明かした。ビデオ通話で参加した女性は処罰感情について「犯人が怖くて言えない」と述べるなど、今も被告におびえる様子が浮き彫りになった。
 読み上げられた供述調書で、女性はこう訴えた。「全部、事件は私のせい。犯人が外に出るチャンスがあれば、私を殺しに来る。一生、外に出てきてほしくないし、確かな保証が欲しい」

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