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証拠捏造の可能性捜査を ​識者分析/西愛礼弁護士(元裁判官)【最後の砦 刑事司法と再審】 

 法律上、再審公判において検察官は有罪立証をすることができる。しかし、袴田事件では、有罪の証拠が捏造された可能性が複数の裁判所によって指摘されている。そうである以上、捜査機関がまず捜査すべきは有罪の可能性ではなく、証拠が捏造された可能性であるはずだ。両方の可能性を捜査し尽くしてなお有罪立証するというのではなく、有罪立証ありきで進んでいるのであれば、真実から目をそらしていると言わざるを得ない。

西愛礼弁護士
西愛礼弁護士

 有罪立証をするのであれば、裁判のやり直しを求める「再審請求審」ではなく、裁判のやり直しである「再審公判」で主に行うべきであるという考えもある。ただし、今回の袴田事件では、既に2度の再審請求が行われ、40年以上も検察官の有罪立証が再審請求審で行われてきた。主張立証は尽くされている。例えば、検察官は再審公判における有罪立証として、血液の化学反応に関する専門家の意見書を提出することなどが考えられる。しかし、再審請求審で取り調べられた捏造を裏付ける複数の実験結果が存在する以上、「論より証拠」ということで、単なる意見書の証明力にはおのずと限界があると思われる。
 検察官が有罪立証をするということは、袴田巌さんに対してもう一度「死刑」を求刑するということだ。袴田さんにとって、それは理不尽以外の何物でもない。過去の冤罪(えんざい)事件においても、警察官が取り調べでうそをついて虚偽自白を導き、さらに警察官が裁判で偽証をした「布川事件」において、検察官が再審公判で有罪立証を行ったことがあった。被告人であった桜井昌司さんは、検察官が起訴状を読み上げたとき、思わず「恥ずかしくないのか」と発言したという。そうであるにもかかわらず、検察官は論告で無期懲役を求刑した。このような事態が袴田事件においても繰り返されようとしている。
 

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