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大自在(11月20日) 超高齢化社会

 寝たきり状態になった85歳の妻は介護してくれる81歳の夫に「首を絞めて殺して」と何度も懇願していた。ある日、妻は夫の介助でトイレに行く途中、転倒して気を失う。「これで終わりにしよう」。夫は妻の首にタオルを当て、15分以上絞め続けたという。
 今年7月、千葉県で起きた老老介護の末の承諾殺人。検察は起訴状で「思慮が浅い」と非難し、弁護側は「妻を愛していたゆえの犯行」と情状酌量を求めた。静岡新聞5日付朝刊に載った千葉地裁判決は懲役3年、執行猶予4年だった。
 介護を支えるヘルパーは入っていたが、日常生活の中に過酷な負担があった。判決の言い渡しで裁判官は、社会の中で一生をかけて償い続けるようにと夫を説諭した。介護を受ける人は増えるのに介護の担い手は減っていく。
 介護保険制度は核家族化を背景に、介護を社会で支える仕組みとして創設された。その財源と人材不足は超が付く高齢社会でいま一度、点検する必要がある。老老介護だけでない。国のヤングケアラーの調査で小学6年生の6・5%(約15人に1人)が「世話をしている家族がいる」と答えた。
 「私の目指す老人像はどう終わるかというよりも、どう生きるか」―。静岡新聞読者投稿欄「ひろば」に届いた声。地域でボランティアに携わっているという83歳男性は「超高齢化社会を築く気概で生きていく」と結んだ。勇気をいただいた。
 穏やかな健康長寿は平和で豊かな社会の象徴。その豊かさは、世代間の贈り物でもある。充実した老い、そして介護。全ての世代が思いを致したい。

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