テーマ : 熱海土石流災害

盛り土規制法 自治体へ指針 代執行手続き簡素化 国交省策定

 熱海市伊豆山で2021年7月に発生した土石流災害を受けて新たに制定された盛り土規制法の運用方法を議論してきた国土交通省の有識者検討会は17日、都内で会合を開き、不法・危険な盛り土に対応する自治体向けの指針を取りまとめた。26日の法施行を前に、造成業者に対して強制的に是正を求める行政処分や業者に代わって是正する行政代執行を躊躇(ちゅうちょ)なく実施できるように通常の手続きを簡素化する方法を盛り込んだ。

盛り土規制法の指針に盛り込まれた迅速な行政代執行の方法
盛り土規制法の指針に盛り込まれた迅速な行政代執行の方法

 熱海土石流では県や市が盛り土(残土処分場)の違法性や危険性を認識して業者を指導した時期もあったが、行政処分をせず、放置された盛り土が崩落して28人が死亡した。自治体が不適切な盛り土を把握しても行政処分などをためらい、放置、崩壊に至る事例は他にも県内で相次いでいる。
 指針では、ためらう理由として、業者から費用を回収できない場合の税金投入を意識することや、一時的に指導に従う姿勢を見せる業者の対応を挙げ、盛り土規制法に関し「人命の擁護を最優先として、躊躇なく迅速に行政代執行ができるように明文化した」と解説。自治体職員の意識改革も求めた。
 行政処分を出した業者などが期限内に対応しなかったり、業者と連絡が取れなかったりする場合に、業者側の反論を聴く「弁明の機会」を省略して危険な盛り土を是正できる「緩和代執行」や、行政処分を出さずに対応できる「略式代執行」「特別緊急代執行」の方法を明記した。行政代執行にかかる費用に関しても、自治体が業者から強制徴収できる方法を例示した。
 同省で開いた17日の会合で、指針の策定を主導した学習院大教授の大橋洋一委員(行政法、静岡市出身)は「自治体に対する行政代執行の資金的な援助も国で考えていいのではないか」と指摘した。

 記者の目 他法令との関係、工夫必要
 熱海土石流を教訓に盛り土規制を包括する盛り土規制法が制定されたが、盛り土を規制する法令は他に砂防法や森林法、都市計画法など多岐にわたる。各法令を担当する自治体の部署は異なり、市町と県で所管が分かれる分野もある。
 本県では盛り土規制条例ができた後、同条例を所管する部署以外の関係法令の担当職員が「自分の所管ではない」「他の担当部署が対応する」と言って責任を回避する事例が見られた。盛り土規制法の運用次第で他法令の担当職員が「他人ごと」になり、市町も含めた行政全体の対応力が弱まる懸念がある。
 国が今回策定した指針は想定ケースごとに対応を網羅し、細かく提示していて画期的だ。しかし、その内容はあくまでも盛り土規制法の枠内で、他法令との関係は「連携」「情報共有」とうたったに過ぎない。
 盛り土規制法は使い勝手がいいが、開発初期段階で森林伐採の兆候をつかめる森林法や、少量の土砂投棄を規制できる砂防法など他法令の強みもある。盛り土規制法だけにとらわれず、他法令の所管部局も巻き込んだ対応も必要になる。熱海土石流の一因になった縦割り行政の弊害を打破するため、行政にはさらなる工夫が求められる。
 (社会部・大橋弘典)

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