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熱海土石流 静岡県の技術検証結果に疑念 逢初川流域変更、議論不十分 国資料に「切り土」明記

 静岡県議会特別委員会が砂防法などの県所管法令の行政対応を再検証すべきだとした一昨年の熱海土石流を巡り、県による技術面の検証結果にも疑念が生じている。静岡新聞社が入手した国土交通省の資料に、逢初(あいぞめ)川上流域の流域変更がうかがえる「切り土」の断面図などが見つかった。県による技術面の検証では、この切り土の土石流への影響についてはほとんど議論されておらず、複数の専門家は再検証するよう求めている。

熱海土石流の県による検証体制(イメージ図)
熱海土石流の県による検証体制(イメージ図)

 国交省資料は昨年3月、逢初川の新砂防ダムを整備する際の設計資料として、委託を受けた建設コンサルタント会社が作成した。2008年と19年の地形変化を表す上流域の断面図に「切り土」と記載。この切り土によって08年以降に盛り土北側の鳴沢川流域との分水嶺(れい)が変わり、逢初川の流域が広がったことが分かる。土石流起点で崩落した盛り土に流域を越えて流れ込む水量が、想定以上に増加していた可能性がある。

根拠ない報告書
 県は開発業者への規制や指導が妥当だったのか調べる行政対応検証委員会とは別に、技術面から土石流の原因を調べる「発生原因調査検証委員会」も設置して報告書をまとめた。しかし、技術検証委で提示された断面図に「切り土」と分かる記載はなかった。流域変更(表流水の流入)に関しては、報告書は根拠を示さずに「明確な流水痕が視認されなかった」と否定した。
  
「排水不備も」
 県議会特別委に参考人招致された地質専門家の塩坂邦雄氏は、切り土に着目し「開発で尾根を切り土したので表流水の流れが変わった。その影響を十分検証していない」と問題視し、分水嶺付近の排水施設に不備があった可能性にも触れた。県議会特別委や熱海市議会百条委員会で証言した土木設計エンジニアの清水浩氏は「盛り土という『点』だけでなく、幅広く再検証すべきだ」とした。
 技術検証委で事務局を担った県砂防課は「盛り土を対象にした検証だったので、流域変更や切り土は検証委で議論にならなかった」と説明している。

 切り土 山間部や丘陵地で傾斜のある土地を平らにするために地面を削る開発行為。地面に土砂を積み上げる「盛り土」とは対照的。平らな土地を広げるために、切り土で発生した土砂を斜面に盛り土として再利用し、締め固めて使うことも多い。都市計画法や砂防法(県砂防指定地管理条例)、県土採取等規制条例などで規制され、技術基準に沿った対応が求められる。5月に施行される盛り土規制法の対象にもなっている。

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