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熱海土石流 各戸回り「とにかく逃げろ」と叫んだ 命守る署員91人の実録、熱海署が文集

 2021年7月3日に熱海市伊豆山で発生し、28人の命を奪った大規模土石流で、住民の避難誘導や行方不明者の捜索、遺体の検視などに奔走した熱海署員が、災害から学んだ教訓や警察官としての使命感、犠牲者への思いをつづった文集を作製した。今春、同署を離任する本間章浩署長は「熱海の安全安心を守るための道しるべ」として、未来の署員にも読み継いでもらいたいとしている。

被災現場で行方不明者の捜索に当たる熱海署員ら=2021年8月、熱海市伊豆山
被災現場で行方不明者の捜索に当たる熱海署員ら=2021年8月、熱海市伊豆山
土石流対応の激務に対応する署員を鼓舞し続けた掲示物。遺族、被災者に寄り添う思いが込められている=2月下旬、熱海署
土石流対応の激務に対応する署員を鼓舞し続けた掲示物。遺族、被災者に寄り添う思いが込められている=2月下旬、熱海署
土石流の現場で闘った熱海署員の文集を読み返す本間章浩署長=3月中旬、熱海署
土石流の現場で闘った熱海署員の文集を読み返す本間章浩署長=3月中旬、熱海署
被災現場で行方不明者の捜索に当たる熱海署員ら=2021年8月、熱海市伊豆山
土石流対応の激務に対応する署員を鼓舞し続けた掲示物。遺族、被災者に寄り添う思いが込められている=2月下旬、熱海署
土石流の現場で闘った熱海署員の文集を読み返す本間章浩署長=3月中旬、熱海署

 「伊豆山」と題した文集には本間署長をはじめ、発災当時に同署に在籍していた91人の思いを収録している。一般向けに公開しておらず、同署の“財産”として残している。
 発災直後を振り返った本間署長は、二次災害の恐れがある現場へ向かう署員に「『自分の命の後ろには、何十人も助けを待っている住民がいることを忘れるな。だから、決して死ぬな』と言って送り出した」と記した。「自分の部下に『死ぬな』と言うなんて、後にも先にもないかもしれない。それだけ命と向き合っていた」。後にそう語っている。
 一方、現場では土石流が発生したことに気づいていない人や、避難を諦め自宅から出ようとしない住民がいた。各戸を回り避難を呼びかけた地域課員は「とにかく逃げろ」と叫んだ。「今になって考えると強く乱暴な言い方だったことを反省するが、(中略)また同じ状況ならば、私は再び強く言うだろう。目の前の命が大事だから」とつづっている。
 心に深い傷を負った遺族の言葉を力に変えた署員もいた。土石流の原因究明や起点の現旧土地所有者、行政の責任追及について、ある遺族は刑事課員に「警察が捜査すれば分かることだから」と告げた。「正直、これほど重い言葉は十数年の警察人生で初めてだった。(中略)犯人を検挙しても心が癒えるわけではないが、せめて何が原因で土石流が起きたのか、誰が悪いのかを明確にし、被災者の無念を少しでも晴らすことができれば」と決意を新たにした。
 他にも、着の身着のまま避難した住民のために運転免許証の即日再交付を行ったり、応援部隊や土木作業員に差し入れを運び続けたり、泥で汚れた住民の思い出の品を丁寧に洗い続けたりと、署員はそれぞれの持ち場で全力を尽くした。悲しみ、いらだち、焦り-。被災者のさまざまな感情とどう向き合うべきか。一人一人が自問しながら、担当の枠を超えて支え合った。
 土石流発生から1年9カ月がたとうとしている。伊豆山は復旧復興に向けて歩み始めている。だが、決してあの悲劇を忘れてはならない。本間署長は「住民に寄り添い、語り継ぐことが私たちの責務。警察官として、人として受け継いでいってほしい」と語った。

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