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違反“やり得” 追跡限界 矢面に立つ東部市町【残土の闇 警告・伊豆山㉖/第5章 繰り返す人災③】

 未舗装の細い道を進むと、木立の奥に高さ十数メートルの残土の壁が見える。今月1日、富士山麓の富士市大淵。重機を操作する作業員は、訪れた市職員を「依頼されているだけ。何も分からない」とあしらった。市職員は「捜査権限のない僕らをなめている」と怒りをこらえた。

ドローンを使って残土の山の変化を記録する富士市職員。地道な「証拠集め」が続く=富士市大淵
ドローンを使って残土の山の変化を記録する富士市職員。地道な「証拠集め」が続く=富士市大淵
独自の土砂条例のある市町
独自の土砂条例のある市町
ドローンを使って残土の山の変化を記録する富士市職員。地道な「証拠集め」が続く=富士市大淵
独自の土砂条例のある市町

 首都圏から本県に押し寄せる残土の矢面に立ったのは県東部の市町だった。1997年に小山町が許可制と罰則を盛り込んだ県内初の土砂条例を施行すると、同様の動きは富士山麓に広がった。現在は9市町に条例がある。法制化や県の規制強化が進まない一方、2010年代以降、市町の行政処分だけが急増した。
 主戦場の一つは富士市。11年の条例施行後、市内の許可事業地は60カ所、13年に初めて確認されてから違反事業地は23カ所に上る。市は違反を覚知すると所有者特定や庁内11課を動員した週数回の巡回で監視、指導を続ける。違反を重ねる悪質業者には条例に基づき、中止命令や原状回復命令、氏名公表をしたが、「『市条例で逮捕はされない』と業者は動じなかった」(市職員)。
 20年11月に同市土砂条例違反と森林法違反で業者が摘発され、“やり得”の実態も明らかになった。電波塔に近く「アンテナ」と呼ばれた土捨て場では18年5月に市が樹木伐採を確認した後、みるみるうちに残土が運び込まれた。「午前3時から重機の音が響き、昼夜問わずダンプカーが走った」と住民は振り返る。同年9月には雨で民家敷地や道路に土砂が流出。市は「非常事態」を宣言し、19年12月に刑事告発に踏み切った。
 摘発までの2年半で約3・3ヘクタールが伐採され、ダンプカー1万1千台以上が運んだ土砂は約28万立方メートル。巨大な残土台地は地元が誇る富士山と茶畑の景勝地「大淵笹場」の東約100メートルに迫った。約2億4千万円の売上の一方、経営者らに科されたのは執行猶予付き判決と罰金250万円。残土は今も撤去されず、皮肉にも新所有者の手で評判のキャンプ場になっている。元町内会長(71)は「行政がもたつき拡大を許した。土砂があるうちは不安が続く」と憤る。
 摘発後も盛り土の高さや敷地の広がりなど違反地の変化を記録する富士市職員の「証拠集め」は続く。違反者摘発と熱海土石流災害後は沈静化していた残土搬入は、国の盛り土規制法施行を前に既に4カ所で再開の動きがある。
 排出元を特定しようとダンプ追跡も試みたが、広域的に動く業者にかなわなかった。市土地埋立対策室の増田圭佑主査(40)は「広域で動く違反業者に市単独でできることに限界がある。排出元になる県同士や市町の連携も欠かせない」とし、積極的な関与が見えなかった県や国の法制化後の変化を注視している。
 首都圏の規制と同時期に町条例を作った小山町ではすぐに業者が県内初摘発され、トラブルは激減した。制定に関わった元町職員(66)は「悪徳業者を追い詰める武器を求めたが、県条例より厳しい町条例は無理と県に言われ、訴訟も辞さない覚悟で押し切った」と当時の県との対立を明かす。県土採取等規制条例には、より罰則の厳しい条例のある市町を適用除外とする付則ができた。「あの時、県が除外ではなく条例改正を選んでいたら、熱海の惨劇はなかった」。元町職員はそう悔やむ。
 >2014年大阪の「事件」でも… 「行政の性」宝刀抜けず【残土の闇 警告・伊豆山㉗/第5章 繰り返す人災④】

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