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残土処理、課題なお 熱海土石流教訓の新法「最終処分場確保を」

 熱海市伊豆山で2021年7月に盛り土(残土処分場)が崩落し、28人が死亡した大規模土石流を教訓にした盛り土規制法が26日に施行され、残土の流れの把握を目指す国のストックヤード(中間処分場)登録制度も始まった。遺族や被災者は「一歩前進」と捉えて再発防止の徹底を望む一方、建設業界には最終処分場を確保しなければ根本的な問題解決につながらないとする声が相次いでいる。規制が強化される残土処分業者は「規制されるべきなのは土砂を発生させる元請け業者では」と指摘する。

工事現場の残土が持ち込まれる静岡県内のストックヤード。規制区域内は盛り土規制法などの許可が必要になる
工事現場の残土が持ち込まれる静岡県内のストックヤード。規制区域内は盛り土規制法などの許可が必要になる


 ■「少し報われた」
 熱海土石流の遺族、被災者でつくる「被害者の会」の会長で、母親を亡くした瀬下雄史さん(55)は「再発防止策が一歩前進した。犠牲者の無念が少し報われた」と新法の施行を前向きに捉えた。伊豆山では行政が危険性を認識しながら残土の不適切投棄を食い止められなかった経緯がある。「やりたい放題の悪徳業者に対し、行政は弱腰な対応をしてほしくない。関係機関と連携して毅然(きぜん)と向き合ってほしい」と強く望んだ。
 一方、妻を土石流で亡くした田中公一さん(73)は「(伊豆山の)土石流の前に法律が整備されていれば」と悔やんだ。法整備には一定の評価はするものの「法の網をかいくぐる業者は出てくると思う。伊豆山と同じことが起きてはならない。今も危険な盛り土は全国にたくさんある。そこにも早くメスを入れてほしい」と願った。

 ■〝副作用〟の懸念
 新法に先行した県盛り土規制条例は施行後、県内の処分場で受け入れ制限が相次ぎ、残土処分が困難になる“副作用”が起きた。新法でも排水施設整備など規制区域の処分場に追加負担がかかる。「これまで必要な対応を怠っていただけ」(行政関係者)という見方もあるが、適正な処分先がなければ不法投棄が助長される。
 県建設業協会の杉保聡正専務理事は「悪質な業者が是正される」と新法を歓迎しながらも「最終処分場の確保が必要だ」と残土の受け皿の必要性を語る。

 ■流れに抜け道
 新法の整備とセットで、国が不法投棄の解消に向け創設したのがストックヤード登録制度だ。これまで野放図だった残土の流れに法の網をかけた。ただ、元請け業者の罰則対象は年間売り上げ25億円以上の大手に限定。罰則も軽く、実効性が疑問視されている。
 登録に関して「様子見だ」と明かす県内の残土処分業者は「元請けの責任がわれわれに転嫁された」と受け止め、改良した土砂の利用促進や最終処分場確保を行政に求める。ダンプ労働者でつくる全日本建設交運一般労働組合東海ダンプ支部の高橋立顕書記長は「建設業界は階層構造なので、頂点にある元請けの責任は重大だ。まだ抜け道がある」と強調した。

 ストックヤード(残土中間処分場)登録制度 登録は任意。非登録ヤードは土砂が混ざらないように搬出元別に管理し、搬出元の元請け業者が最後まで土砂の流れを確認する(来年6月に義務化)。登録ヤードは土砂を混ぜられるが、元請け業者ではなくヤード側が最後まで確認する。元請け業者は今月26日以降の受注工事で500立方メートル以上の土砂を搬出する場合、関係法令の許認可を得た処分先に搬出する必要がある。

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