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テーマ : 芸能・音楽・舞台

にこにこ【莞爾莞爾】 劇場全体が楽しくなる/渡辺敬彦【SPAC俳優 言葉をひらいて㉒】

 芝居について、今の僕が思うことを少々。

にこにこ【莞爾莞爾】
にこにこ【莞爾莞爾】

 ニコニコする。もっとニコニコする。そんな芝居。「それって喜劇?」というわけではなく…。観[み]ている時でも、観終わった時でも、それから何日、何カ月、何年かたってからでもニコニコしてしまう芝居。そんな芝居を作りたい。僕は若い頃「芝居は毒気と色気がなければ駄目だ。それが全てだ」と思っていました。刹那的でした。でも今はそれもニコニコのためにあるのだと思うのです。
 朝のニコニコ、素晴らしい。子供たちのニコニコ、愛する人のニコニコ、素晴らしい。嫌いな人のニコニコは少し複雑。ニタニタ、ニヤニヤに感じてしまう。でもこっちがニコニコしていれば、いつの間にか自分も周りも楽しくなる。お客さんがニコニコしていると劇場全体がニコニコする。伝染する。うつるんです。
 小さな女の子が、ある女優さんを大好きで、お芝居が終わった後にお願いしてその女優さんと2人で写真を撮ってもらいました。その時、小さな女の子は小さなおもちゃのハンドバッグから小さなおもちゃの口紅を取り出してつけ始めました。おめかししていました。恥ずかしそうにニコニコしながら…。僕はそれを見てニコニコ。なんでかわからないけど、少し泣けてきてニコニコ…。こんな感じの芝居が良い芝居。うまいのか下手なのかわからない役者が良い役者。「わからないけど、感じるでしょ」が良い芝居。
 芝居は非日常を覗[のぞ]いて日常に戻ってくること。日常を笑顔で過ごすための刺激です。観る前、観ている時、観終わった時、いつか思い出した時に、ニコニコしてしまう。芝居はそういうものだと思う。そんな芝居を作りたい。

 わたなべ・たかひこ 三島市出身。2010年「ペール・ギュント」よりSPACに参加。19年「RITA&RICO」では演出を手がける。多田淳之介演出「伊豆の踊子」は2月、浜松市浜北文化センターと沼津市民文化センターで巡演する。

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