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テーマ : 芸能・音楽・舞台

【時評】清水南高に「演劇専攻」 インプット増やし 世界へ(宮城聰/SPAC芸術総監督)

宮城聰氏
宮城聰氏

 いよいよ4月、清水南高芸術科の「演劇専攻」がスタートします。
 静岡が「演劇におけるウィーン」を目指す上では、世界レベルの演劇団体がここにあるというだけでは十分でなく、優れた演劇教育機関が必要だと僕は考えてきました。その道が始まるわけです。
 もちろん、SPACが今日のように世界で知られるようになるまでに25年を要したことから考えても、この演劇専攻が他国から若者を集めるようになるまでには時間がかかるでしょう。しかし、一流の芸術団体が直接指導に関わる高校はめったにありません。清水南高演劇専攻は実技の授業時間が日本一豊富なだけでなく、その多くをSPACの劇場施設で学ぶことができます。
 若いクリエーターにとって大事なのは、アウトプットよりもインプットだと僕は考えています。たくさんインプットすればするほど、遠くまで行けるようになると思うからです。そしてそのインプットの中でも大事なのが、第一線で活動するアーティストとじかに出会うことです。
 日本では、高校生くらいの年代だと「周囲から浮かない」ように気をつけることが日常をうまく生きるために一番有効な手法になっていますから、「“ひとと違う”ことの価値」を実感する機会が乏しいですよね。そういう中で、トップレベルのアーティストとの出会いは、各人の才能の「蓋[ふた]」を取り払うことに直結すると思うのです。
 最近の風潮として、教育の成果をさっさと形にすることが求められ、早く結果が出せる指導者を良い指導者とみなす傾向が日本でも広まっているようです。その観点で「良い芸術家は良い指導者ではない」という説も流れるわけですが、人生で大事なことは、早く結果を出すことよりも遠くまで行くことではないでしょうか。
 そして若者にとってのインプットを考えるときのもう一つの軸が「世界を広げる」ことです。
 僕は先週、フランスのルーアンという古都を訪問しました。ルーアンのコンセルバトワール(芸術学校)と清水南高との交流プログラムを立ち上げるためです。コンセルバトワールに静岡県出身の本多さんという先生がいらっしゃるという幸運があり、今年秋に同校の生徒が静岡まで来てくれることになりました。次には静岡の高校生が「歴史と芸術の街」ルーアンを体験すれば、どれほど多くの刺激を受けるだろう、どれほど世界が広がるだろうと、その日が来るのを心から願っています。
 (SPAC芸術総監督)

 みやぎ・さとし 演出家。1959年、東京都生まれ。東京大で演劇論を学び、90年にク・ナウカ旗揚げ。2007年、SPAC(県舞台芸術センター)芸術総監督就任。代表作に「マハーバーラタ―ナラ王の冒険」「イナバとナバホの白兎」「アンティゴネ」など。19年、仏芸術文化勲章シュバリエ受章。23年6月、グランシップ館長に就任。

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