小澤征爾さんを悼む 大切な音楽のギフト(宮田大/チェロ奏者)
小澤征爾先生との初めての出会いは15、16歳でした。2002年9月に開催された桐朋学園音楽部門創立50周年記念オーケストラ・コンサートで、ハイドンのチェロ協奏曲第1番の第2楽章、第3楽章を小澤先生の指揮で演奏しました。
小澤先生との初共演、サントリーホールでの演奏、オーケストラのメンバーが桐朋学園OB・OGの先生方…こんなに緊張したことはないというぐらい固まっていました。
そんな私に小澤先生は「ホールの奥まで音楽が届くように堂々と。どんなに自由に演奏しても、演奏が速くなったり遅くなったりしても、しっかり音楽を共有して一緒に演奏するから、自由に演奏しなさい」。それが最初に私に伝えてくださった言葉でした。
その言葉を胸に本番では思いっ切り演奏し、一期一会で音楽を感じることができました。今でも鮮明にその時の演奏や光景が記憶に残っています。
また別の公演のリハーサル中、チェロ首席として演奏していた私が、皆さんと違うタイミングで勢いよく一人だけ飛び出して弾いてしまったことがありました。「あっ!しまった」と思って小澤先生の顔を見ると、ニコッと笑って「そのくらいの勢いでこれからも演奏しなさい」とおっしゃってくださいました。恐怖心でタイミングをうかがいながら、こわごわと遅く入ってしまうよりは、それぐらい一生懸命に、勢いよく弾いている方が良いということです。
若い頃だからこそ許されたことだとは思いますが、今でもタイミングをしっかり感じながら、勢いある気持ちは失わない演奏を心掛けています。
オペラを学ぶ音楽塾のリハーサルの合間、横浜中華街に連れて行ってくださったこともありました。音楽の話はもちろん、音楽以外の話もたくさんしたのですが、当時高校生の私を一人の音楽家として接してくださった。それがとても印象的でうれしくて、興奮したことを思い出します。
その後も小澤征爾音楽塾や、長野・奥志賀での「国際室内楽アカデミー」に何年にもわたり参加させていただきました。
一年一年、多くのことを経験し、少しずつ前に進もうとする私をいつも気に掛けてくださり、いつも音楽のギフトを親身に伝えてくださいました。
小澤先生から音楽や演奏家としての大切なギフトをたくさん頂きました。
先生の音楽は、これまでも、これからも、世界中の皆さんの音楽の中に生き続けていきます。
(チェロ奏者)
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小澤征爾さんは6日死去。88歳。