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テーマ : 芸能・音楽・舞台

ピアニスト・小山実稚恵 富士山静岡交響楽団と初共演 愛してやまないベートーベン

 富士山静岡交響楽団の第118回定期演奏会が27日に静岡市清水文化会館マリナート、28日にアクトシティ浜松で開かれる。ソリストに日本を代表するピアニストの小山実稚恵、指揮者にドイツを中心に欧米で活躍するキンボー・イシイを迎え、ベートーベンとブラームスの名曲を奏でる。国内外の主要オーケストラに招かれることも多い小山に演奏曲への思いを語ってもらった。

小山実稚恵
小山実稚恵
東京都交響楽団との共演=2022年10月、東京・サントリーホール(c)池上直哉
東京都交響楽団との共演=2022年10月、東京・サントリーホール(c)池上直哉
小山実稚恵
東京都交響楽団との共演=2022年10月、東京・サントリーホール(c)池上直哉


 音楽はいつも一期一会です。キンボー・イシイさん、富士山静岡交響楽団の双方と初共演となる今回の演奏会は、旅にたとえるなら初めて訪れる街を旅するようで心が躍ります。
 演奏する曲目はベートーベンのピアノ協奏曲第3番ハ短調です。選んだ理由はオケ(楽団)のサイズに合わせたということもありますが、何よりも私がこの曲を愛してやまないからです。
 ベートーベンは、五つあるピアノ協奏曲で、この第3番ぐらいから本格的に、〝協奏曲たる協奏曲〟と呼べる域に足を踏み入れました。また、ハ短調は彼にとって特別な意味を持っています。自分の強い決意や思いを訴えたい時に使う大切な調性で、交響曲第5番「運命」もハ短調です。第5番「皇帝」なども素晴らしいですが、ピアノ協奏曲第3番に込められた不屈の精神が私の胸にぐっと迫ってくるのです。
 時に火の玉のような激しさを見せる第1楽章、後半から第2楽章に入っていく道中の美しさ。続いて軽やかに弾むような旋律の第3楽章は、やがてハ短調からハ長調に転調。そして希望を感じさせる旋律で幕を閉じます。その過程は難聴という試練を乗り越え、自ら希望をつかみ取った人生を象徴するかのようです。
 変化に富んだ調べは、新型コロナウイルス禍を経た私たちの現状にも重なる気がします。ベートーベン生誕250年の節目だった2020年がコロナ禍の真っただ中にあったこともまた、「運命」だったのかもしれません。何があろうと前に進もうとする彼の音楽には受動を能動に変える力があり、聴いていると心の奥に眠っていた力が湧き上がってきます。
 同じベートーベンの序曲「コリオラン」、ブラームス作曲の交響曲第3番ヘ長調を組み合わせたプログラム。楽しんでもらえたらうれしいです。

 こやま・みちえ 仙台市出身。1980年代にチャイコフスキー、ショパンの2大国際コンクールに入賞して以来、国内外の主要オーケストラや演奏会でソリスト指名を受ける。東日本大震災の被災地で演奏会を毎年開催。

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