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テーマ : 芸能・音楽・舞台

若山牧水賞の永田紅さん 自然な言葉 深い思考

 第28回若山牧水賞に永田紅さんの歌集「いま二センチ」が選ばれ、宮崎市で授賞式が開かれた。父の永田和宏さんは第3回、母の河野裕子さん(2010年死去)は第6回の同賞を受けており、初の親子受賞となった。

歌集「いま二センチ」で第28回若山牧水賞を受賞した永田紅さん=宮崎市
歌集「いま二センチ」で第28回若山牧水賞を受賞した永田紅さん=宮崎市

 受賞歌集の表題歌は「親指と人差し指のあいだにて『いま二センチ』の空気を挟む」。妊娠後のエコー診断で胎児の大きさを告げられた際、このくらいの大きさかと指を広げて感じた歌だ。
 選考委員の伊藤一彦さんは「いま二センチ」の胎児の大きさについて、指の間で「空気を挟む」とは「なかなか歌えない」と称賛。栗木京子さんは若い世代に「難解な言葉を詰め込んだ歌が多い」とした上で「紅さんの余白を生かした歌い方」を評価した。
 授賞式のトークイベントで第19回受賞者の大松達知さんが「永田家は短歌界のサザエさん一家」と述べたように、紅さんはテレビドラマにもなった著名歌人の家の長女。細胞生物学者でもある和宏さんと、現代短歌の第一人者だった河野さんは夫婦で宮中歌会始選者を務め、さらに兄の永田淳さんも歌集「光の鱗」で昨年、佐藤佐太郎短歌賞を受けたばかりだ。
 父と同じ細胞生物学者として京都大特任助教を務める日々や、妊娠、出産、子育てを巡る歌集だが「母の歌の前庭にわれら日を浴びてまだ本当のさびしさを知らず」など母を歌った作品も多い。「伴侶を失った男性は、七年ほどで亡くなることが多いという」との詞書[ことばが]きを付け「七年と言いてその気になりている父嫌いなり庭の葉を掃き」と父のことも歌っている。
 生前、河野さんは「言いたいことを全部言うたらあきません」「ドーナッツみたいに真ん中をあけて作るのがよろし」などの言葉を残しているが、表題歌もドーナツの穴のような「二センチ」の空気を挟む歌。父への愛も「父嫌いなり」との否定形で反転して歌われている。自然で自在な歌の中に、深い思考が貫かれている歌集だ。
 「若い時は一首のきらめきを目指していましたが(近年は)歌集単位の厚みをとても求めるようになった。歌集に対して賞をいただけたのはうれしかった」と紅さん。授賞式には「二センチ」の65倍くらいに成長した長女紅里さんも参加。最近俳句を作り始めているという。

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