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テーマ : 芸能・音楽・舞台

ふうど【風土】 桜内結う/半径1キロのご近所に学ぶ【SPAC俳優 言葉をひらいて㉘】

 「まぁ、若い人が来てくれてうれしいわ」との言葉に「決して若くはないんですよ」と答えつつ、悪い気はしないので否定もそこそこに、時を忘れて話に花が咲く玄関口。ここは静岡市の安倍川上流の通称「オクシズ」エリア。過疎化の波が押し寄せるこの中山間地域でご近所にあいさつに伺うと、ご年配の方に迎えられることも珍しくありません。

ふうど【風土】
ふうど【風土】

 私は半年前にこの地に移住して来ました。数えてみたら人生13回目の引っ越し。大学進学で郷里を離れ、その後は大阪、東京、名古屋、県内は浜松、静岡、沼津と、夫の勤務地が変わるたびに転々と住まいを移しました。「大変ね」と地元の同級生には気の毒がられますが、いわゆる風来坊の「風」タイプの私は常にアウェー感を抱き暮らすのはむしろ居心地良く、どこでも楽しんで暮らしてきました。
 ですが、今回は意を決しての「移住」。これまではマンションの両隣のお宅に軽くあいさつする程度でしたが、こちらでは半径1キロ程の“ご近所”に伺いました。すると皆さん、新参者の私に「若い」と言ってくれるだけではなく、代々住まう方にとっての土地柄故の知恵のようなものをいろいろ教えてくださいます。
 例えば、季節の移ろいは草木だけでなく野鳥の到来や鹿の鳴き声の違いで知れること、晴れていても風が冷たいのは向こうの山の雪が影響していたり、山の中なのに「島」と呼ばれる地域が多かったり、クリスマスローズがほったらかしでも元気に育つことなど。そして何よりも、自然の中に生き、自然に帰するのが人間らしさだということを言葉ではなくその生きざまから教えてくださいます。
 人も自然も包容力のあるこの地での出会いに感謝しながら、10分のつもりのあいさつが、気づくと1時間近くたっていることも。
 風が運ぶものと土に生きるものが混ざり「風土」が育まれるとしたら、「風」の役割としての私に何ができるのかな、と思いを巡らす今日この頃です。

 さくらうち・ゆう 愛知県出身、静岡県立大卒。舞台俳優としてSPACを中心に活動中。「ふじのくに→←せかい演劇祭2024」では5月3~6日、駿府城公園で上演される「白狐伝」に出演予定。

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