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テーマ : 芸能・音楽・舞台

すろー【スロー】 自意識過剰な自分解く 布施安寿香【SPAC俳優 言葉をひらいて⑬】

 舞台の本番や稽古の前に、ルーティンとして太極拳をしています。始めたのは10年くらい前です。その頃、非常にゆっくり動く演劇作品に出演していて、その練習にもなると思い取り入れました。

すろー【スロー】
すろー【スロー】

 スローで動くと、自分の身体に敏感になります。普段は考えなくてもできる身体の動きを、しっかり意識して動かすことになるので、演技のトレーニングとしても役立ちます。面白いのは、意識しすぎると、当たり前にできていたことがふと分からなくなる逆転現象が起きることです。
 今、このコラムをお読みの方も、もしお時間があったら、握り拳をできるだけゆっくり開いてみてください。スムーズに動かそうとしても均等には開かなくて、カクッと動いたりしませんか? たいした動きじゃないのに、案外難しいと感じませんか? 思うように動かない手をじっと見ていると、これは果たして自分の手なのだろうか、とつくづく不思議に思ったりします。
 私は、少し変なのかもしれないけれど、「自分」というものがよく分からない状態になるとうれしくなります。元々、なんというか、「自分」という存在があることを、とても不思議に感じていました。時々、「自分」というものにとらわれすぎてしまい、消えたらいいのになと思うこともありました。
 中学生の時に「胡蝶[こちょう]の夢」という言葉に出合いました。自分が胡蝶の夢を見ているのか、胡蝶が見ている夢が自分なのか、夢と現実が分からなくなるという例えだと知り、紀元前にすでにそんな考え方があったのかと驚きました。
 今でも、その言葉は私の中に生きていて、理想の演技とはそういうものじゃないかと思うことがあります。私が役を動かしているのか、役が私を動かしているのか分からなくなるくらい役が独り歩きしたとき、自意識過剰な「自分」から解放されて自由になれる。スローで動くトレーニングをしていると、その領域にたどり着きやすい気がしています。

 ふせ・あすか 1980年生まれ。2006年よりSPACを中心に国内外で活動。10月から多田淳之介演出のSPAC「伊豆の踊子」に出演、静岡県内各地で上演予定。

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